芸人プロレスごっこ狂1アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/08〜09/10

●本文

 プロレスごっこ──それだけなら素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。
 基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小モノを使ったボケをベースとする、一人芝居に一発芸、リアクション芸にヨゴレと、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。
 そんな建前はさておき、プロレスどころか本来の意味でのプロレスごっこからも遠くなっているが、それはそれなのである。だって、みんな狂ってるんだから。

 TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ狂選手権のスタッフが集められていた。いつもとは若干違った空気の一同の前に、プロレスごっこの一番えらい人が姿を現す。
 ドーン! 次の瞬間、スタッフの一人が吹き飛んでいた。
「なっ‥‥!?」
 ナニゴトが起きたのか分からず、他のスタッフは微動だにできなかった。ただ、目の前にホームランを打った後のように高々と鉄パイプを放り投げるえらい人が立っているだけであった。
「‥‥ナニをしている? もう戦いははじまっているんだ。そんなコトでは、簡単に殺られてしまうぞ?」
「は‥‥はぁ‥‥!?」
「獣の王で狂。つまり、獣と獣が出会ったら、もう戦いははじまっているんだ。弱肉強食の世界をナメんなよ!」
「‥‥確かに芸能界は弱肉強食の世界ではありますが、えらい人のは文字通りの弱肉強食の自然界なのでは‥‥ぐぼはっ!」
 ようやく事態を飲み込めはじめたスタッフがツッコミを入れるが、第二のホームランボールとなるだけであった。
「だから、何度言わせる! もう戦いははじまっているんだ。つべこべ言わず、かかってこんかい!」
 自分ではベラベラ説明しておきながら、スタッフには少しの質問も許さないえらい人。
 こうして、なぜ戦うかも分からないまま、いよいよ第三期芸人プロレスごっこ王選手権=芸人プロレスごっこ狂選手権がスタートするのであった。

参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。

注意:
・無観客のスタジオにリングを設置し、そこで収録を行います。試合形式とかにこだわることなく、何かおもしろいコトをやったりやらなかったりすればOKです。
・試合にあたり、特にテーマはありません。が、シリーズを通してのテーマとかを提言すると、今後に活かされるかもしれません。
・ポイントはプロレスごっこの一番えらい人の独断と偏見によってのみ与えられます。すばらしい、おもしろい、えろい、えらい人に媚びる、視聴率が取れる等、一切関係ありません。
・ランキングによる2代目プロレスごっこ王が決まるのは、なぜか10月20日ごろと相場が決まっております。
・ポイントを地道に貯めてもあまり意味はありません。最終的には一発逆転のバラエティのノリになるので、そういうのに怒らない人募集なのです。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我の補償は一切行いません。

特別ルール:
・プロレスごっこ王、プロレスごっこ玉、ムチャキング等、王者が2名以上集まった場合、その回のランキング戦は中断となりいきなり王座統一戦となります。
・統一とは言ってますが、全員が王座獲得のチャンスを得ます。そういうものです。
・ナニをもって王座統一、あるいは獲得となるかは、えらい人の気分次第としか言いようがありません。

●今回の参加者

 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa2824 サトル・エンフィールド(12歳・♂・狐)
 fa3092 阿野次 のもじ(15歳・♀・猫)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa3135 古河 甚五郎(27歳・♂・トカゲ)
 fa3577 ヨシュア・ルーン(14歳・♂・小鳥)
 fa4878 ドワーフ太田(30歳・♂・犬)
 fa5367 伊藤達朗(34歳・♂・犬)

●リプレイ本文

 リングの上やその周囲に、葬式のセットが組まれていた。その中心には、とびきりエロい笑顔の佐渡川ススム(fa3134)の巨大写真が飾られ、その下には棺が置かれていた。
 そして、ボリュームの絞られた葬送行進曲が流れる中、画面にデカデカと『緊急放送! 国民的アマチュア芸人、佐渡川ススムさんを偲んで‥‥』と表示される。
 つづいて喪服姿の阿野次のもじ(fa3092)が姿を現すと、いつものはじけっぷりはどこへやら、沈んだ顔で司会をはじめる。
「信じられないことになってしまいました。昨夜23:15ごろ、佐渡川ススムさんが慢性かぶり症候群により、我々の手の届かない世界へ旅立ってしまいました。この時間は『芸人プロレスごっこ狂1』をお送りする予定でしたが、コレを受け急遽番組を変更し、佐渡川氏を悼み哀れむ特別番組『ススムの一歩』を取り行いたいと思います」
 阿野次のあまりに淡々とした進行に、この葬式がただのシチュエーションセットなんかではなく、ホンモノなんだと思わずにはいられなかった。そう、そのセットが古河甚五郎(fa3135)のガムテープ細工であったとしても、だ。
『‥‥‥‥』
「‥‥‥‥」
 実況のサトル・エンフィールド(fa2824)も解説のヨシュア・ルーン(fa3577)もいつもどおりに放送席に座ってはいるものの、受付で香典をせびった悪ガキがしかられてしょげているようにしか見えない。
「申し遅れました。司会は私、阿野次のもじが務めさせていただきます。打たれすぎ仲間‥‥いえ、関係者のみなさまも、続々吸い寄せられて‥‥いえ、集まってきております。着き次第、順次奇人‥‥いえ、故人を悼むご挨拶をお願いできればと思います」
 阿野次の言葉には若干本音が混じっていた気がするものの、そこへ最初の弔問客として湯ノ花ゆくる(fa0640)が訪れたので不問にされる。
「惜しい人を‥‥なくしてしまいました‥‥。でも‥‥すべてが狂っているのなら‥‥ゆくるは‥‥メロンパンを‥‥信じて‥‥戦いつづけるだけです‥‥」
 一応いつもどおりにメロンパンを食べつつの登場であるが、気を利かせて黒いメロンパンをくわえての登場である。これはあくまでも佐渡川への弔意という設定であり、決して火加減を間違えて焦げただけではない。
「姉が以前‥‥『かぶりすぎとは、死に到る病なのじゃ』‥‥と心配していましたが‥‥本当だったんですね‥‥」
「ご焼香を‥‥」
「え? あ‥‥はい‥‥」
 阿野次に促されて、なぜか棺の中を覗き込む湯ノ花。そこには、血色のいい佐渡川が横たわっている。
「えーと‥‥そう‥‥誤コショウでしたね」
 平然と、佐渡川の顔にコショウを振りかける湯ノ花。死んでいる体とはいえ、当然ながら佐渡川はくしゃみが止まらなくなるが、湯ノ花は死んでいる体を貫き通してナニゴトもなかったかのようにメロンパンの皮を供え、そのまま下がっていく。
 だが、着席した湯ノ花に異変が起こった。
「モグモグ‥‥モグ‥‥ガーン‥‥です‥‥さっきお供えした‥‥メロンパン‥‥最後の‥‥1個でした‥‥『メロンパン‥‥カワが無ければ‥‥ただのパン』‥‥ガクッ」
 人の夢の儚さを詠んだ辞世の句を残し、真っ白な灰となって燃え尽きてしまう湯ノ花。
 だが、まるでそれに呼応するかのように、佐渡川が棺桶からむっくりと起き上がる。
「ふう、まさか軽い気持ちではじめた特別ルールがこんなコトになるなんて‥‥はっ!? このセリフ、えらい人にパクられた気がする! って、放送日を考えて、パクッた体で対応しろ! 見てる人が混乱するだろ!!」
 次回の予告を見てない人にはさっぱりのネタをつぎ込みつつも、勢いだけでバットを振り回しはじめる佐渡川。無論、バットといっても鉄パイプのパクリなだけで、自身のバットを振り回しているわけではない。
 だがそれでも、燃え尽きた湯ノ花はさておき、阿野次もサトルもヨシュアも相変わらず沈痛な面持ちをしているのみである。
 そう、あくまでも死体は安置されたままの体である。だから、今荒れ狂っている佐渡川の姿は霊体なのである。そして、フツーの人に霊を見ることはできない。
 よって、佐渡川が阿野次と湯ノ花のおっぱいを触って、洗濯板のサイズ比べとかしてしまっても、怒られることもない。ただし、無反応すぎて面白みに欠ける点は否めなかったが。
「これはいけません。佐渡川さんがマゾ皮さんへと悪霊化しようとしています。ええ、見えるのです、このガムテスコープには!」
 だが、ただ一人霊体を可視できる男がいた。古河である。
「ガムテ職人は神の領域に!? ついに霊体をも貼りつけましたよ、ガムテで!」
 古河が手の届かない世界にまで到達してしまったかのようだが、単に佐渡川をガムテでグルグル巻きにしただけである。が、それでも悪霊化した佐渡川は止まらない。
「ガムテはイヤっ! 荒縄にしてっ!」
 なにやらわめいているが、まったく聞く耳を持たない古河。古河は霊を見ることができても、その声までは聞こえないという設定なので、そのまま放置なのである。そのわりには、ガムテープで口をふさいでしまっていたが。
『‥‥はっ! なにやら佐渡川選手の遺体に動きがあったようです。行ってみましょう』
「葬式の主役でも選手なんだね‥‥ま、僕も行くけど」
 閑古鳥の鳴く受付状態から一転、実況と解説の本分を思い出して突撃リポを敢行するサトルとヨシュア。だが、一足早く到着していたのはドワーフ太田(fa4878)だった。
「葬式はここじゃそうじゃな? そうさ。しかし、かぶり被り芸人に会うのは七日ぶりじゃな。そうなのか?」
 一人で会話をするキケンな香りのする男、それが太田であった。
 とはいえ、問題なのはそこではない。番組を間違えたのかというくらい散りばめられたダジャレの数々の方こそ問題なのである。
「何を言っておる! これはダジャレではない、オヤジギャグなのじゃからな!」
 空気を察したのか、カメラ目線でよく分からないフォローを入れる太田。
「なんじゃ、このお通夜のような空気は? まあ、これはこれでなかなか乙や!」
 しかも、察した空気にまでオヤジギャグを挿し込む気合いの入りようである。そう、今回の太田の対戦相手はこの空気であるからして。
「サトルくん、これは一体?」
『ああ、特殊なタイプの言葉責めだね。自分で言ったオヤジギャグの寒さが心を突き刺すのを楽しんでいるんだ。ヨシュアみたいに肉体に響く痛みを悦ぶタイプとは真逆だね』
「なるほど‥‥そんなことよりも‥‥」
 サトルの説明に、あっさり納得してしまうヨシュア。どうも、幼くしてMっ気の自覚症状はあるらしい。
「そんなことよりも、遺体の実況解説をしなきゃ‥‥って、うわぁ! 遺体がガムテのミイラ状態だよ、うらやましい‥‥」
 なので、ガムテの緊縛状態に軽い嫉妬のヨシュア。そこへ、まったく脈絡なくサトルが祈り出す。
『えらい人、どうかぼくに強い心をください‥‥』
「えっ?」
『ということで、我がTOMITVの科学力は世界イチィィィィー! できぬコトなどナイィィィィ! はい、ということで、佐渡川選手の遺体にブローパイプを突き刺し、サイボーグとして復活させます』
「ええっ! 挿すってどこに!?」
 ヨシュアの疑問に答えるまでもなく、想像通りのキケンな場所にブローパイプを突き刺すサトル。
「これってどういうこと? ヨシュア、全然分かんないよ!」
『いいからヨシュアは黙って見てなよ!』
 佐渡川がのた打ち回りだす。無論、苦しんでもがいているだけだが、サトルにはサイボーグ起動中にしか見えない。もっとも、ヨシュアには悦んで悶絶しているように見えていたが。
『だって、今のぼくは天使な心境ですから。天使の奇跡くらい起こせるのさ☆』
「やっぱり違うよ。悪霊がもがいているんだよ。ここはきちんと東欧のルールに従い‥‥」
 ヨシュアが佐渡川の口のガムテを引っぺがすと、なぜか甘い吐息が漏れる。もっとも、すぐにニンニクに塞がれてしまったが。
「口の中にはニンニクを詰め込み、首には鎌を渡してね。まかり間違って黄泉帰りしても、起き上がった瞬間に首が真っ二つという寸法です。スラヴの人たちはうまいコトを考えたものですね☆」
「ちょうど腹が減ったろう? 葬式にはソーキそばじゃな!」
 そこへ、お盆を持った太田が入ってくる。
『わーい☆』
 佐渡川にもう飽きてきた子どもたちは、そのままの状態でソーキそばをすすりはじめる。
「佐渡川はん‥‥ホンマ、惜しい人を‥‥番組タイトルにふさわしく狂っておかしい人を、なくしてしまったもんや‥‥」
 そして、今度は横たわるというか打ち捨てられた佐渡川の前に、空々しく涙を浮かべた伊藤達朗(fa5367)が立っていた。今回の対戦相手は既成概念というが‥‥?
「おかげで、初回から特別番組の上、最終回とはの‥‥」
 そう、破壊なくして再生なしというわけで、番組初回という概念を打ち破ろうというのである。
「ドーン!」
「ぬわっ!」
 だが、打ち倒されたのは伊藤の方であった。いきなり阿野次に蹴り飛ばされたのだ。見れば、阿野次がチッチと指を振っている。
「ノンノン、初回の中に最終回があって、もう一回初回があるのよ! 『冠婚葬祭GOKKO』の葬は最終回を迎えたけど、婚の結婚式がはじまるよ!」
「あー、冠の元服と祭の祖先の祭りはいずこへ‥‥ぐはっ!」
 余計なツッコミを入れた伊藤が、今度は太田に踏みつけられる。
「『冠婚葬祭』の冠と祭って、なんやねん? もちろん関西弁や! というネタが潰されたのじゃ! が、関西弁使いの伊藤に潰されるのなら本望かのう?」
 太田の勝手な言い分だったが、伊藤がボコられるのを合図とするかのように、古河が忙しく動き回り出した。
「あー、まだ動作テストがまだだったのですが‥‥ぶっつけでやるしかありません、ガムテで!」
 佐渡川を抱え上げると、再び棺桶に戻す古河。きっちり、ヨシュアの鎌も上に乗せるのを忘れない。
「では、ポチっとな‥‥ガムテではなく、ダーツで!」
「むーっ!」
 古河がここに来て急にガムテを捨て、なぜかダーツを佐渡川の股間目がけて投げつける。
「ああっ! 亀のような頭というか、鈴のようなお口に、ダーツがっ!?」
 だが、果たしてダーツは佐渡川からは外れた。佐渡川の股の間に、ボタンが設置されていたという紛らわしいギミックなだけである。
 そして、一瞬で結婚式セットに早変わりである。仕組みは解明されていないというか、具体的に説明を求められると困ってしまうが、とにかく白いガムテと黒いガムテを駆使した古河渾身のセットなのである。
「それではケーキ入刀です! 早く、ナイフをちょうだいよ!
 いつの間にか花嫁姿になっていた阿野次が伊藤にナイフをせがむが、その伊藤の様子がおかしい。
「ん? これチェーンソーなんやけど、ええの? ええんか‥‥」
 ケーキ入刀にはナイフという伊藤の既成概念が破壊されつつも、阿野次にチェーンソーを手渡す伊藤。
「ちょ、女の子にいじられるのは好きだけど、それはシャレにならないって!」
 ようやくニンニクを吐き出し終えることに成功した佐渡川が非難の声を上げる。それもそのはず、ケーキというのが佐渡川の入った棺桶だったからである。
 だが、ここだけは都合よく葬式の霊体の体をつづける阿野次たち。どっちにしろ、チェーンソーの爆音で佐渡川の声など聞こえていないが。
「佐渡川はん‥‥ホンマ、狂っておかしい人を、なくしてしまったんやなぁ‥‥」
 逆に自分の既成概念を打ち砕かれてしまった伊藤が遠い目をしていたが、そんなBGMは佐渡川の絶叫である。
「はー、ごちそうさまでした☆ ところで、今回のランキング発表のえらい人は?」
 そんな文字通りの地獄絵図はさておき、フツーにソーキそばを食べ終えたヨシュアがサトルに尋ねていた。
『ん? 今回は特別番組に差し替えという形式のため、ランキングのためのポイントは発生しないんだってさ』
「なるほど、そーきたか‥‥ぐはっ!」
 ヨシュアは何気なく言っただけだったが、太田のいきなりの鉄拳制裁である。
「オヤジギャグは、冠婚葬祭の冠を迎えてからじゃッ! 逆にな!」
 早速覚えた冠の意味を利用して、シメのオヤジギャグ返しである。
 とはいえ、子どもを殴るような画を流していいのかという話であるが、佐渡川に比べたら残虐度が激低なので問題はない。
 なお、翌日の佐渡川がピンピンしているからといって、よい子はケーキ入刀をマネをしてはいけない。冗談抜きに、これはプロの芸人の技なのだから。アマチュア芸人だけど。