芸人プロレスごっこ狂2アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/11〜09/13

●本文

 プロレスごっこ──それだけなら素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。
 基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小モノを使ったボケをベースとする、一人芝居に一発芸、リアクション芸にヨゴレと、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。
 そんな建前はさておき、プロレスどころか本来の意味でのプロレスごっこからも遠くなっているが、それはそれなのである。だって、みんな狂ってるんだから。

 TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ狂選手権のスタッフが集められていた。その一同の前に、プロレスごっこの一番えらい人が姿を現す。
「ふう、まさか軽い気持ちではじめた特別ルールがあんなコトになるなんて‥‥」
「‥‥いえ、まだ初回の収録がはじまってもいませんが‥‥ぐぼはっ!」
 遠い目をするえらい人に、いらぬ親切心で口を挟むスタッフだったが、結論は言わずもがなである。
「放送日を考えて、やった体で対応しろ! 見てる人が混乱するだろ!」
「‥‥っていうか、この様子が放映されるんだったらちゃんとしますけど、ただの打ち合わせで‥‥ぐぼはっ!」
 スタッフの正論を、暴力で打ち砕くえらい人。無論、この様子が放映されるわけもないので、スタッフはおいしいとか一切なくただの殴られ損である。
「ええい、いちいち殴ってるのも面倒くせぇ。おまえら全員、まとめてかかってこいや〜!」
 よく分からないテンションで泣きながら、えらい人に飛びかかっては撃退されていくスタッフたち。
 こうして、スタッフがなぜ殴られているのかも分からないまま、第三期芸人プロレスごっこ王選手権の2回目がスタートするのであった。

参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。

注意:
・無観客のスタジオにリングを設置し、そこで収録を行います。
・試合にあたり、特にテーマはありません。試合形式とかにもこだわることなく、何かおもしろいコトをやったりやらなかったりすればOKです。
・ポイントはプロレスごっこの一番えらい人の独断と偏見によってのみ与えられます。すばらしい、おもしろい、えろい、えらい人に媚びる、視聴率が取れる等、一切関係ありません。
・ランキングによる3代目プロレスごっこ王は、なぜか運命の10月20日までに決まることとなっております。
・ポイントを地道に貯めてもあまり意味はありません。最終的には一発逆転のバラエティのノリになるので、そういうのに怒らない人募集なのです。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我は見て見ぬふりです。

特別ルール:
・プロレスごっこ王、プロレスごっこ玉、ムチャキング等、王者が2名以上集まった場合、その回のランキング戦は中断となりいきなり王座統一戦となります。
・統一とは言ってますが、全員が王座獲得のチャンスを得ます。そういうものです。
・ナニをもって王座統一、あるいは獲得となるかは、えらい人の気分次第としか言いようがありません。

●今回の参加者

 fa1032 羽曳野ハツ子(26歳・♀・パンダ)
 fa1683 久遠(27歳・♂・狐)
 fa2824 サトル・エンフィールド(12歳・♂・狐)
 fa3092 阿野次 のもじ(15歳・♀・猫)
 fa3577 ヨシュア・ルーン(14歳・♂・小鳥)
 fa3622 DarkUnicorn(16歳・♀・一角獣)
 fa5367 伊藤達朗(34歳・♂・犬)
 fa5602 樋口 愛(26歳・♂・竜)

●リプレイ本文

「天に二日なく、地に二王なし!」
 ムチャと書かれた謎のマスクを着けたムチャキングの羽曳野ハツ子(fa1032)がムダに高いテンションで名乗りを上げると、呼応するように二代目プロレスごっこ王ことプロレスごっこ玉のDarkUnicorn(fa3622)が出てくる。が、こちらは打って変わってテンションが低めである。
「ごっこ玉になっての初試合というのに、いきなり王座統一戦とはの。まだ王としての富貴を満喫してはおらぬし、負けるわけにはいかんのじゃ。番組の金でマツタケやらを堪能するまでは、誰にも玉座は渡さぬのじゃ‥‥ハッ!? マツタケの根元の玉がなくなっておるのじゃ!?」
 急にうろたえるDarkUnicornに目もくれず、懐から巻物を取り出す羽曳野。共に王者と呼ばれるだけあって、俺流を貫き通している。
「ここは当然、5対5の勝ち抜き戦よね? こんなこともあろうかと、あらかじめチームメンバー表を用意しておいて助かったわ。出でよ、5人の下僕どもよ!」
 羽曳野が高らかに宣言するが、誰も出てこない。事前に誰も何も言われてないのだから、勢いに負けてついつい名乗り出たりする者が現れない限り、誰も出てくるハズがないのである。
「読み上げろって? みんな、大仰に出たがるのねぇ‥‥えーと、先鋒の大部屋マン、早くなさい!」
 座るために用意しておいたパイプ椅子を思わずブン投げつつも、しっかりと読み上げる羽曳野。とはいえ、誰のコトだかさっぱり分からない。いや、一応簡単な連想でたどり着くことはできるのだが‥‥。
「‥‥わいでっしゃろか?」
 仕方なく、尋ねる伊藤達朗(fa5367)。というのも、伊藤はレフェリーとして、すでにリングに立ってしまっているのだ。
「今回は王座統一戦やから、レフェリーをもむりくり入れてええとしよ。せやけど、5対5なんて人数、どうやってもそろわんのや!」
 伊藤の正論も馬耳東風で、羽曳野はただ筆で巻物の伊藤の名を削除するのみである。
「しょうがないわね、新導入の秘密兵器は秘密のままお蔵入りの法則にのっとるはずだったのに‥‥次鋒の女形マン、お行きなさい!」
「えーと、どう考えても私のことよね?」
 どっからどう見ても女性ビジネスマンのような久遠(fa1683)が、おずおずと手を挙げる。様子をうかがっていた久遠だが、アゴでリングに上がれと指図する羽曳野に気圧されて、従うしかない。
 だが、リング上でスポットライトに照らされると、そんな久遠のスイッチが入ってしまった。どこからともなく扇を取り出すと、日本舞踊を披露する。
 どこが5vs5だ? という話だが、別に5vs5と言っているのは羽曳野の勝手なので、DarkUnicorn側が用意した5人と戦うわけではない。あくまでも、敵は己自身という哲学的な世界なのである。
「まだまだなってない‥‥のわーっ!」
 そこへ突然ツカツカと乱入してきた老婆が伊藤に止められるよりも早く、これまた突然吹き飛ばされていく。突然何かに気づいたらしいDarkUnicornが、久遠に突進してきたからだ。
 老婆の正体は久遠の実家の婆様だったのだが、そんな久遠に人の心配をしている余裕はなかった。リングという戦場に老若男女は関係ないこともあるが、それ以上に久遠が大変なことになっていたからである。
「こんなところに! こんなところに玉を隠しておったのか!」
「ちょ、やめ‥‥あっ!」
 プロレスごっこ玉ゆえに玉に執着していたDarkUnicornが久遠の股ぐらに手を滑り込ませ、2個の球体を発見していたのである。
「どこにあるのかと思いきや、こんなところにあったとはの。あやうく、見た目にダマされるトコじゃったわ! これこそ、プロレスごっこ玉の証の玉じゃ! 全部で10個あったハズなのじゃが、残りの4人‥‥もとい、8個はどこにあるのじゃろうな?」
 ハンターの目で、周囲をギロリと見回すDarkUnicorn。反射的に、思わず前かがみに手で押さえてしまう男性陣。すなわち、レフェリーの伊藤に放送席のヨシュア・ルーン(fa3577)、そしてまだ見ぬ樋口愛(fa5602)である。だが、サトル・エンフィールド(fa2824)だけはまったく気にする気配がない。
「大変だよ、サトルくん。僕たちもターゲットみたいだよう?」
『うるさい! 今、それどころじゃないんだよ!』
 ヨシュアがサトルの身体を揺するが、邪険に扱うサトル。どうも、玉のピンチすらも気にならないほど、何やら原稿を書くのに忙しいようだ。
「しょうがないので、僕が実況しましょう。えーっと、久遠選手‥‥じゃない、女形マンはといいますと‥‥」
「しくしく‥‥」
 一方の久遠は、スーツを半分ひん剥かれた半泣きの女性という深夜向けの画になっていたが、どうせ中身は男だからと朝っぱらでも気にせず流される。
「くっ、大部屋マンにつづき女形マンまで‥‥」
 何も戦ってないじゃんというツッコミはさておき、羽曳野は気にせず次の戦力を注ぎ込む。
「だが、奴らはしょせん一番の小物。ならば出でよ、スタントマン!」
「玉騒動の真っ只中に、残る唯一の男である俺をぶつけるとは‥‥やるな!」
 あっさり自分のことだと理解した樋口が、悠然と登場する。
「まさかあんなコトになるなんて‥‥っつーのが、毎回特別番組のコトだとはな! おかげで、今回もポイントがつかないじゃないか」
 早くもDarkUnicornが向かってきているが、樋口にまったく気にする様子はない。
「ならばッ! 『ポイント』はつかないけれど『ボイン』はつくよ☆ となるのが道理ッ! そう! 玉ではなく、むしろ棹の方を‥‥ぐぼはっ!」
「ひぃぃ‥‥直撃弾です‥‥」
 勝手な妄想世界に旅立っていた樋口の股間に、DarkUnicornの怒りの膝蹴りがマトモに入ってしまっていた。
「しまったのじゃ! 証である玉を割ってしまったら、大変なコトになってしまうのじゃ!」
「双丘‥‥双球‥‥そうか、そういうことだったのか‥‥ガクッ」
 慌てるDarkUnicornの目の前で、意味不明の言葉を残して崩れ落ちる樋口。
「どういうことなのじゃ!? いかん、瞳孔が開いておる‥‥」
 なおも樋口の身体を揺するDarkUnicornに、同じ痛覚を共有する者として見ていられなくなった伊藤が、たまらず割って入る。
「ムム、スタントマンまで‥‥こうなったら、のもじマンの出番しかない!」
 やっぱり樋口も使い捨てで、阿野次のもじ(fa3092)が呼び出される。っつーか、段々芸がなくなって、そのまんま名前じゃんという名前で。
「ドーン!」
 いきなり飛び出てくると、羽曳野のマスクをひん剥いて叩きつけてしまう阿野次。無論、顔から光が出たりはしないし、それ以前に羽曳野が気にする様子もない。
「王位戦といえばコレでしょ☆」
 なぜか火がくべられた上に、4枚の紙切れが吊るされたセットが運び込まれてくる。それぞれの紙には、『のもじ』『ハツ子』『DarkUnicorn』『久遠』と書かれていた。
「こっ、これは!? 正気か、のもじマン!」
「というかですね、なぜ私の名前が‥‥」
 ようやく服を整えた久遠がやって来るが、羽曳野は驚愕で声が出ない。
「そう、あれが燃えてしまうと存在が消えてしまうという‥‥あっ!」
 阿野次が説明をはじめた途端、いきなり紙切れが落ちてしまう。
「一枚残しで、みんな落ちたようやな‥‥どれどれ?」
 何のことだか分からないがとりあえずレフェリングをという伊藤が、火の中をのぞき込む。
「『ハツ子』って書かれているのは残ってるようやな。で、これがなんなん?」
 伊藤が確認をするが、今度は阿野次が顔面蒼白だった。そして、なぜかDarkUnicornまで。久遠は伊藤と顔を見合わせ、首を傾げるしかない。
「ああ‥‥私の胸の存在が消失してしまった。だから、ヒノちゃんと久遠さんのまで‥‥」
 貧乳をすべてそのせいにする阿野次。DarkUnicornもその横でうんうんうなずいている。
「いや、私は‥‥ぐぼはっ!」
 久遠が女形だしと言い切る前に、阿野次のパンチが久遠のボディに突き刺さっていた。
「そう、おそるべきは圧倒的質量の460万パワー。ヒノちゃん、あのボンキュバンぶりこそが我々の理想郷。でも、僭窃されたスタイルなのよ!」
 そして、ナニゴトもなかったかのようにDarkUnicornに話しかける阿野次だったが、ついに羽曳野が動いた。
「フフフ‥‥ついにパンダマンの出番が来たようね。ちなみに、460万パワーなんかじゃなくて1億パワーよ!」
「くっ、2倍のジャンプに3倍の回転を加えても到底追いつかない!」
 羽曳野がたじろぐ。それにしても先程から使われているこのパワー、どういう単位なのかさっぱりだ。
「ついに真打登場です‥‥よかった、実況と解説はメンバーから除外されてたみたいだよ、サトルくん!」
『うるさい! だから今、それどころじゃないんだよ!』
 喜ぶヨシュアの横では、相変わらずサトルが仏頂面だ。この場の実況も放棄してまで、やはり何かの原稿を書くのに忙しいようだ。
「圧倒的パワーの前に蹂躙されるしかないのか‥‥おーっと、DarkUnicorn選手の様子がおかしい!?」
「拘束制御術式、第5号久遠、第4号樋口、第3号伊藤、第2号ヨシュア、第1号サトル開放! 状況AA『ウォッシュボード』発動による承認認識。目前の胸の完全消去までの間、能力使用限定解除開始! では、本当の貧乳の闘争というものを教育してやるニャ♪」
 プロレスごっこ玉だけに、玉の力による限定解除で猫のタマになってしまったというわけだ。ただの変態ネコミミ少女にしか見えないのは気のせいである。
「久遠はええとして、樋口のは割れたん違いますの? 3〜1号は、そもそも取られてないんちゃいますか?」
 伊藤のレフェリングは一切無視し、戦いは非情につづいていく‥‥かに思えたが、ここに来てサトルまでもが動き出したのだ。
『希望を胸に、すべてを終わらせる時ッ!』
「え? ちょ、サトルくん? まだ時間ある‥‥ぐぼはっ!」
 ヨシュアを拳で黙らせ、試合も盛り上がってきたところでサトルのナレーションベースの処理に移る。そう、今まで書き溜めていた原稿が完成したのだ。
『羽曳野は二度とムチャキングへは戻れなかった‥‥。ムチャキングとプロレスごっこ玉の中間のムチャキング玉となり、永遠にTOMITVをさまようのだ。そして、玉をとりたいと思ってもとれないので、羽曳野は考えるのをやめた』
「サトルくん、どこかで聞いたコトが‥‥ぐぼはっ!」
 再びヨシュアを拳で黙らせると、なおもつづけていく。そう、ここからこそが、先程からずっと練っていた原稿の本題である。
『だが、DarkUnicornは考えるのをやめなかった。ムチャキング玉の『玉』をとるのではなく、とるべきは『グ』の方ではないか? と。己の玉いじりのためにも、キング玉から『グ』が抜けてこそではないか? と。そこで、DarkUnicornは『グ』ではじまるグラビア芸人に戻ることにした。それが、ムチャキング玉から『グ』が抜けることにならないと知ってはいたが‥‥』
「ハッ、いつの間に!?」
「ホントに職業が変わっておるのじゃ!」
 気づけば、羽曳野はムチャキング玉、DarkUnicornはグラビア芸人になっていた。だが、それでもサトルのナレーションはつづく。
『阿野次は不用意に『ふっ、王様になるならギター語りでなればいい。私は新世代プロレスごっこの神になる』とか言ってしまったものだから、プロレスごっこ神になっていた。伊藤は全員失格の裁定を下し、レフェリーなのに自ら暫定統一プロレスごっこ王と名乗ってしまっていた』
「怪しいノート片手に王座でふんぞり返る姿が想像できるね☆」
「ぬっ、長すぎて『暫定統一プロご王』って省略されてるやないけ!」
 悲喜こもごもの阿野次と伊藤だったが、やはりそれでもサトルのナレーションはつづく。
『そして樋口は玉を割られただけ、久遠は婆様にこっぴどく叱られるだけだった。え? 何? ヨシュア? 言っている意味が分からない。そんなことよりもサトルだ。サトルの勇気だけが世界を救うと信じて‥‥長い間のご視聴、ありがとうございました!』
 強引にシメにかかるサトル。だが、ヨシュアが自分の扱いがぞんざいなのをこの際あきらめて、必死にフォローに回る。
「いや、それでもちょっとだけつづくのじゃよなのがプロレスごっこだし‥‥」
 というわけで、王座が統一されたのかどうか今一微妙であればポイントも全員0のまま、第2回の幕は閉じるのであった。