リフォームで廃墟の逆襲アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
0.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/01〜04/03
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●本文
リフォームで廃墟の逆襲
TOMITVのディレクターに昇進したばかりの男は、最近マイホームを建てたばかりだった。しかし、上司の提案によって番組でメチャクチャなリフォームをされてしまう。先日、リフォームのリフォームがようやく終わったところである。
だが無論、それだけでディレクターの気が収まるハズもない。そこでその上司に、ある番組の提案に向かった。
「リフォームで廃墟って番組をやりましたよね。おかげさまで、パンク魂というものを学ばせていただきました」
「ああ、あれか。なかなかおもしろい仕上がりになってたじゃないか」
「ですよね? そこで、続編をと考えたのですが」
「おお、いいんじゃないか? しかし、アレだな。また自分の家をリフォームしようだなんて、おまえもパンク魂っつーモンが分かってきたようだな!」
「いえ、あなたの家をですよ!」
「なにぃ!」
そこで、上司のさらに上司の許可をもらった企画書を見せるディレクター。
「ムムム‥‥」
「確か、代々つづく名家とかで、バカデカい屋敷に住んでらっしゃいますよね? これはリフォームのし甲斐がありそうだ! ちなみに、テーマはワビサビですんで、期待していてください」
「いや、ちょっと待て。冷静に話し合いをだな‥‥」
「そこを待たないのが、パンク魂じゃあ!」
こうして、ディレクターの上司の屋敷のリフォーム番組が作られることとなった。
企画内容:
8名までの精鋭が一室ずつ割り振られ、各自思い思いにディレクターの上司がワビサビを感じられると考えるリフォームを施します。リフォーム作業に費やせるのは丸一日(24時間)です。
なお、ワビサビをどのようにとらえようとも、個人の勝手であります。
リフォーム個所は、次の中から一つ選びます。
和風建築の屋敷
・玄関
・台所
・勝手口
・寝室
・便所
・浴室
・蔵
・日本庭園
・その他和風の屋敷にありそうな部屋色々(具体的に明記すること)
過去の放送スケジュール:
・リフォームで廃墟 3月4日 07:00〜
ディレクターの上司に一番殺意を抱かせることができた人が優勝、賞金10万円とディレクターの上司の殺意がプレゼントされます。
あくまでも殺意を抱かせるまでで、住人が死んでしまうような危険なリフォームはやめましょう。
●リプレイ本文
ディレクターの復讐の策略により、自分の屋敷がリフォームされようとしているその上司。頭には神風と書かれたハチマキ、手には銃刀法もなんのそのの日本刀が握られている。もちろん真剣、すでに抜き身である。いくら自宅前とはいえ、そのまま放置しておくと問題があるので、今は格子と金網つきのマイクロバスに隔離されており、逆サファリパーク状態である。
そして肝心のディレクターはといえば、恐れをなしてすでに逃げてしまっている。そんな中を、各人思い思いまこと勝手にリフォームに取りかかっている。
まずは真っ先に紹介される屋敷の出入り口、玄関に守久龍樹(fa1730)がいた。
「玄関のリフォームか‥‥どうする? ワビサビの効いた玄関かぁ‥‥」
腕を組んでしばし考え込んだ後、何やら閃く守久。
「よし、これだぁぁぁぁ!!」
一方、客間ではキャラメルポップコーンの白鳥沢優雅(fa0361)とあずさ&お兄さん(fa2132)が、共同で作業に当たっていた。
「小隊長殿! ワビサビと言ったらこれでありますか?」
白鳥沢が、バラの生け花を抱えて走ってくる。年下のあずさに絶対服従を誓っている白鳥沢は、なぜか口調が軍人風味である。
「‥‥未だに、ワビサビの意味がよく分かんないんだよね‥‥」
だが、あずさはお兄さんを手に、悩みまくりである。
「ちょっと蔵に押し入ってみて、何かインスピレーションを受ける物がないか見てこようか?」
「了解であります、小隊長殿!」
そして寝室では、やみくもあんどんの二人、ベクサー・マカンダル(fa0824)と海風礼二郎(fa2396)が作業に当たっていた。だが、こちらは意見が衝突していた。
「ベクちゃん、やっぱり楽しくて万人に愛されるファンシーな雰囲気がいいよぉ」
「ダメダメ。家は落ち着いて休むことのできる、シンプルで暗めの雰囲気がいいんだよ」
果たして24時間以内に議論の決着は着くのであろうか?
同じく別の寝室では、真神薫夜(fa0047)が作業に当たっていた。
「大仕事は、専門の人の話も聞かないとダメね♪」
ということで、事前に大工の棟梁に一日入門し、知識は十分と思い込んでいる。だが、手に持っている巨大ハンマーが何を意味するのか、それは明日を待たねば分からない。
「ワビサビとは、足りることを知ること」
台所では、MICHAEL(fa2073)が禅問答のようなことを言っていた。但し、きっちりギター持参でである。
「つまり‥‥」
そこで、ギターを一鳴らしして間を作る。その間に、カメラは別の場所に移る。
そして見事な日本庭園では、パンクな和服に身を包んだ緑川メグミ(fa1718)が、早くも土木作業ともいうべき大改造をはじめていた。
「ふふ、今回のイメージは‥‥」
そんな感じの煽るだけ煽った導入ダイジェストが流れた後、翌日になってリフォームの済んだ屋敷の前である。立派な門の前で、匠たちが上司の登場を待ち構えている。
そしていよいよ、主役である上司の檻が解き放たれる。怒りのあまり一睡もすることなく充血した目は、まさに赤鬼のそれである。
「じゃあ早速、俺のプロデュースした玄関を見てもらおっか!」
スタッフ一同に緊張が走る中、その場の空気を一切無視して、明るく上司を玄関へと誘う守久。
「じゃ、入ってくれ」
「うおっ!?」
入ろうとした上司が一歩足を踏み入れた途端、突然転ぶ。見れば、入ってすぐのところに穴が掘ってあった。
「えっと、この本によると足払いといって‥‥」
忍術の本を手に、守久が解説をはじめる。
「中途半端な深さが地味に骨折などを招き、永遠に帰れない身体にするのではなく、危険な家であることを伝える役目を担ってもらうという‥‥おっと!」
解説をすべて言い終わらせることなく、上司は日本刀一閃である。だが、守久は軽々とよけると、切っ先が鼻先を通過していく様を悠々と見送る。
「はじめは脅し程度からはじまり、やがては‥‥」
平然と解説をつづける守久。その後、地味にムカつくトラップを何個も経て、ようやく次の客間に到着である。
「本来はお客様をもてなす客間だけど、今日は特別に上司さんをもてなしちゃいます!」
あずさがそう言って襖を開けると、そこにはカオスがあった。ツッコミどころが散ってしまって、上司は微妙な顔で苦虫をつぶすしかない。
「お客様にはいろんなものを見てもらいましょうということで、蔵に死蔵されていた美術品やらなにやらを、これでもかとディスプレイ!」
「だけど掛け軸は、僕直筆の一日一優雅!」
語呂の悪さに、一人悦に入っている白鳥沢。それはさらりとスルーして、あずさが解説をつづける。
「和風より洋風の方が好きなお客さんもいるハズということで、和洋折衷にコーディネート。服に例えるなら、ややシックな和ロリ!」
「そして、それらをブチ壊す輝きのミラーボール! このキラキラがたまらない!」
ミラーボールをまぶしそうに見つめる白鳥沢。それはさらりとスルーして、あずさが解説をつづける。
「天然物のワサビを植え、さらにはクサビも打ち込み、そのクサビもアカサビやアオサビだらけ。さらにはムササビの放し飼い!」
「折角のサビつながりも、脈絡のない門松とクリスマスツリーであっさり寸断!」
それを見ながら、クリスマスソングの定番のサビを口ずさむ白鳥沢。それはさらりとスルーして、あずさがシメにかかる。
「なんとなーく、ワビしくてサビしい気持ちになってきたでしょっ!?」
「さすがは小隊長殿! これぞ、まさにワビサビでありますな!」
再び軍人口調に戻った白鳥沢が、しきりにあずさを持ち上げる。おかげで、ワビしくてサビしい気持ちで、上司は日本刀を振るう元気すらなくなっている。
そんな無気力プレーの上司を引き連れて、つづいてはMICHAELの台所である。
「ワビサビとは、足りることを知ること。つまり、極限まで削ぎ落とされた世界から無限を感じる美意識、ってコトよ!」
MICHAELの言葉通り、そこには何もかもが削ぎ落とされた世界があった。まず、フローリングだった床からしてない。いきなり一面の土間である。
「文明の利器は極力排除!」
土間といえばかまどである。火元に焚き火コーナーを作ってあるが、換気扇も文明の利器ということで排除されて、すでに煙がもうもうとたち込めている。もちろん、煙などに関する消防法的なことは、一切考慮外である。
「そしてなんと、狩猟な食事場をご用意〜♪」
さらには、その土間が深く掘られ、池が作られている。そこには魚が泳いでおり、脇には銛も置いてある。
「というわけで、なんか毎日ワクワクしそうじゃない? あたしはイヤだけど〜」
そう言って笑うMICHAEL。もちろん、上司がつられて笑うことなどない。
「自分のイヤなコトを、他人に強いるな!」
上司が日本刀を振り回すが、近くにあった銛ですぐさま応戦するMICHAEL。
「ああ! このサバイバーなカンジがたまらない!」
日本刀を振り回す上司すら、逆手にとってしまうMICHAEL。もはや手がつけられない。
「もう疲れた。寝る‥‥」
上司のボヤキを受けて、やみくもあんどんのベクサー、海風の寝室へと進む。
寝室に着くと、いきなり戸が黒ペンキで塗りつぶされていた。そこへピンクのペンキで『おかえりなさい』という文字が書かれ、ウサギかもしれない謎の物体も描かれている。もちろん、ペンキは垂れ放題である。
二人の意見がぶつかり合い、妥協の産物として『かわいくて落ち着ける』がテーマになったのだが、なかなか一般人には理解しづらい感性の持ち主だったようだ。
「〜っ! まあいい‥‥」
なんとかギリギリのところで耐えた上司が戸を開けると、中は薄暗かった。だが目を凝らすと、不気味な物体が色々と並べられている。
まずは、市松人形や剥製のようなクマのぬいぐるみである。かわいい人形を飾ろうとした海風だったが、リアリティー志向のベクサーの意見によって、こうなってしまったのである。
そして、ポエットというよりポエマーな詩集が所狭しと並べられている。眠れない夜のために哲学書を置こうとしたベクサーだが、ムズかし過ぎる本ではベッドにたどり着く前に寝てしまうからよくないとの海風の主張によって、こうなってしまったのである。
妥協による産物は、見事に悪しきスパイラルに突入していた。
「〜っ! まあいい‥‥」
それでも耐えた上司が、ベッドに横たわる。と、見れば天井に蛍光インクで曼荼羅のポスターが貼りまくってあった。さらにはお経が流れてくる。
さすがの上司もむっくりと起き上がり、日本刀に手をかけたところで、緑川が割って入った。
「外の空気でも吸いましょう。まずは、これに着替えてください」
上司が緑川に差し出された衣装に言われるがままに着替えている間に、庭へと先回りする一同。
と、いきなり寝室にスタッフが乱入したかと思うと、上司が庭へと連れて行かれ、無理矢理正座させられる。
「一同の者、面を上げい!」
声がかかって上司が顔を上げると、落ち着いた日本庭園は見る影もなく、すっかり奉行所の白州と化していた。その上、浪人やら何やらを蝋人形で再現した、蝋人形の館でもある。
「ふふ、今回のイメージはTHEお白州!! そう、TOMITVでもおなじみ、時代劇の名場面の‥‥」
だが、緑川の説明も終わらぬうちに、肌身離さず持っていた日本刀を抜刀で大暴れ、蝋人形どもを一刀両断である。
「狼藉者よ! ひっ捕らえなさい!」
そうは言っても、真剣を振り回す上司を止められる者などいない。結局、上司が疲れるのを待つしかない。
「はあはあ‥‥」
刀を杖代わりに荒い息で膝をつく上司の肩を、緑川がポンポンと叩く。
「粋の心も見せないとね。本来、粋とは見えないところにこそ、細工をこしらえるなどしておくことよ。その細工とは‥‥蝋人形の中に隠しカメラを設置。全部破壊されちゃったけど、おかげで迫力の映像が撮れたわ。これで人気者確定ね♪」
「‥‥もう疲れ果てた。寝る‥‥今度こそ寝る‥‥」
上司のボヤキを受けて、今度は真神の寝室へと向かう。
だが、入った寝室はやたらと広々としていた。物が撤去されているとかそういうレベルじゃない、明らかに寝室にはありえない広さ。
「ここと、あそこと、その向こうと、えーと‥‥あとそこの壁を撤去して、伸び伸びとした空間を演出してみました」
冒頭のハンマーの説明が、ようやく着いた。が、必要以上に壁を撤去し、天井がギシギシきしんでいる気がしないでもない。
「あと思ったんだけど、ワビサビ、ワビサビって繰り返しているうちに、ワサビに似ていることに気づいて」
おかげで、残った壁は一面ワサビの緑色である。一応、アクセントとしてカーテンがワサビの葉っぱ模様、布団にシーツも同様の柄であるが、焼け石に水である。いや、むしろ火に油か。
「‥‥‥‥」
番組最初は元気だった上司も、もう気力が尽きたのか、何も答えない。
「‥‥ああ、そうそう。おいなりさんを作ってきたの。これを食べて、元気を出して!」
それに気を遣ってか、手作りのいなり寿司を差し出す真神。力なく手を伸ばし、口に運ぶ上司。
だが、突然上司の身体が力強く痙攣をはじめる。
「え、え!? もう、テレビマンたるもの、体調管理くらいしっかりしてよね!」
自分のいなり寿司の味を疑うことなく、ぷんぷんと怒り出す真神。一方、残りのいなり寿司に念のため手を伸ばす出演者一同。
「ぶふぅー!」
全員が同時に吹き出す。上司をノックアウトしたいなり寿司を作った真神が、リフォームとはまったく関係ないところで優勝を決めた瞬間だった。