春のプロレスごっこSP01アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/05〜04/07

●本文

 プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、モノマネあり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。

 TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。
「年度の変わり目、特番シーズンなわけだが‥‥」
 いよいよプロレスごっこの特番が組まれるのか? プロレスごっこが市民権を得るのか? スタッフ一同に、期待に満ちた緊張が走る。
「そして、子どもたちは春休みだ。そこで、だ。プロレスごっこ王を、毎朝流しつづける。朝起きたらプロレスごっこ。春休み中このリズムで生活してもらい、世の子どもたちをプロレスごっこで洗脳するのだ!!」
「サー! イエッサー!」
 よく分からないノリだが、早速春のプロレスごっこスペシャル初日の収録がスタートした。

参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。

注意:
・プロレスごっこは安全第一です。怪我はもちろん、ちょっと血が出ただけでもNGです。

過去の通常放送のスケジュール:
・第1回 2月16日 07:00〜 (第64回として放送)
・第2回 2月28日 23:30〜 (第72回として放送)
・第3回 3月10日 18:00〜 (第80回として放送)
・第4回 3月16日 18:30〜
・第5回 3月30日 07:00〜

●今回の参加者

 fa0361 白鳥沢 優雅(18歳・♂・小鳥)
 fa1385 リネット・ハウンド(25歳・♀・狼)
 fa2132 あずさ&お兄さん(14歳・♂・ハムスター)
 fa2634 霧ヶ峰・まひ流(18歳・♀・ハムスター)
 fa2824 サトル・エンフィールド(12歳・♂・狐)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa3205 桜庭・夢路(21歳・♀・兎)
 fa3307 CIENA.Q(22歳・♀・牛)

●リプレイ本文

『ついに104回目、3桁の大台に‥‥と思いきや、仕切り直しの第1回目を迎えました、プロレスごっこ王選手権・春のスペシャル! 聞いてください、ちびっ子たちのこの声援の渦を! もう感動で涙が出ていません!!』
 もはやお約束のサトル・エンフィールド(fa2824)のネタ実況ではじまるプロレスごっこ王選手権。毎度のコトながら、スタジオ収録で無観客であるのは言うまでもない。
『実況はおなじみサトル・エンフィールド。そして解説はこの人、なぜかミイラ男状態で登場の佐渡川ススム(fa3134)さんです!』
 そう言って紹介された佐渡川は、身体中包帯でぐるぐる巻きである。本当に怪我を負っているのは、抜群に秘密だ。
『完璧と書いて、自称パーフェクトと読む。完璧芸人の佐渡川ススムだ! 今日はよい子のみんなをプロレスごっこで洗脳‥‥もとい、よいこのみんなにぷろれすごっこのすばらしさをつたえるため、かいせつとしてさんじょうしたぜ!』
 後半はわざとらしく棒読みで、胡散臭さを演出する佐渡川。
『よろしくお願いします。なお、スペシャルだからかどうかは分かりませんが、特別レフェリーには本職の女子レスラー、リネット・ハウンド(fa1385)さんにお越しいただいております!』
 リング上で、白と黒のおなじみのレフェリー衣装に身をまとったリネットが、ぺこりと一礼する。
『5連発の初日、その栄えある第一試合だけあって、なんとも大がかり! キャラメルポップコーンから3人組での登場だぁ!』
 だが、出てきたのはCIENA.Q(fa3307)ただ一人である。
 それもそのハズ、サトルが登場順を勝手にシャッフルし、提出された台本だけを頼りに実況しているからだ。シュールな画作りのための実験的実況というわけだが、果たして噛み合うのか?
 そんな実験体にされているとは露知らず、CIENAはリング上にサンドバックを設置する。
『さあ、キッチンセットが運び込まれたぁ! 何をどう料理するのか、白鳥沢優雅(fa0361)選手に至ってはニンジンとまな板としゃもじだけで何をする気なのか、まったく先が読めません!』
 ある意味、先にネタバラシをして、トリに登場のキャラメルポップコーンの3人のハードルを上げているだけといえなくもない。
『むぅ‥‥代わりに叩かれてみたいですなぁ!』
 そして、解説の佐渡川といえばリング上を見つめて勝手にハアハアしているだけなので、もはや混沌と書いてカオスと読んでケイオスと発音するである。
『あーっと、あずさ&お兄さん(fa2132)のお兄さんが煮込まれているぅ!』
 そんなサトルの実況とは関係なしに、一方的にサンドバックを殴る蹴るしまくるCIENA。さすがに佐渡川に叩かれてみたいといわれるだけあって、ハードである。
 だが、別に普段からサンドバックを叩いたりしているわけではないので、すでにハアハアと息も絶え絶えである。
 関係ない台本で実況しつづけるサトルと、そんな実況に関係なくサンドバックを叩いてハアハアと肩で息をするCIENAと、それを見て違う意味でハアハアする佐渡川と。確かにシュールな画ではあるが、前衛的を通り越してただのピンポイントマニア向けの変態ビデオになりつつある。
『あずさはお兄さんの状況に気づいていない! というかファイヤー! 油が引火だぁッ! まさに地獄絵図ッ!!』
「くらえ〜〜!」
 ちょっと休んだ後、渾身の力を込めてサンドバックに体当たりするCIENA。サンドバックが吹き飛ぶのを見て、思わずガッツポーズである。
「勝ったぞ〜! やったぞ〜!」
 CIENAが必要以上に喜んでいる隙に、当たり前のようにサンドバックが戻ってくる。そして当然のことながら、吹き飛ばされる。
『霧ヶ峰まひ流(fa2634)選手、ようやくお兄さんを煮込んでしまっていることに気づいたぁッ! だが、もう手遅れか‥‥人形に手遅れもクソもねえがな!』
 サトルの実況上はまだ戦っているようであるが、リング上ではCIENAが失神KOである。だが、その顔はお約束をやり遂げたタレントのものであったという。そして、放送席には違った意味でヤリ遂げてしまった佐渡川の顔があったが、それは気にしなくてよい。
「今日はこれくらいで許してやっかんな〜〜!」
 リネットに抱き起こされて意識を取り戻したCIENAが、捨てゼリフを残してふらふらになりながら去っていく。
『‥‥それでは第2試合にまいります。桜庭夢路(fa3205)選手によります、野球少女vsバットの一戦をお送りします』
 正しい順番どおりに、マジメに実況するサトル。サトルが頭に巨大なコブを作っているが、これが影響していることに間違いない。スタッフのとてもエラい人に殴られたわけだ。たとえ12歳相手であろうとも、鉄拳制裁である。なお、とてもエロい人なら隣に解説で座っていたが、なんの関係もない。
 先程のCIENAの去り際同様、千鳥足で入場してくる桜庭。バット片手に野球のユニフォーム姿ということから分かるように、グルグルバットをしてから入場してきたのである。
『リング中央にバットを置いて‥‥試合開始であります! さあ、桜庭選手、どのような戦いをみせるのか!?』
「キミ、間違ってるヨ!」
「甲子園、行きたくないカ!?」
 バットに向かって、突然罵詈雑言を浴びせる桜庭。なぜか日本語がカタコトだが、別に三半規管に異常をきたしているわけではない。
『これはスポ魂バリの先制攻撃だぁっ‥‥おや、解説の佐渡川さん、どうしましたか?』
 見れば、佐渡川がプルプル震えていた。
「もー、辛抱たまらんっ!!」
 女子の試合がつづいたことで、佐渡川の興奮が抑えられないところにまで来てしまったようだ。突然猿のマスクを取り出すと、おもむろにかぶってリングに走り出す。
「俺も仲間にいれちくり〜〜」
 本気の印か包帯を破り捨てながら、トップロープ越しに桜庭目がけてダイブである。
『佐渡川、飛んだーッ! だが都合のいいことに、桜庭はちょうどバットを手にしたところだーッ!』
「夢路ちゅわぁ〜ん‥‥おごをっ!?」
『ジャストミートーッ! 佐渡川選手の脳天を直撃だぁ!』
「こ、この感触は‥‥!?」
 コブを作って大の字の佐渡川をよそに、桜庭は神妙な顔つきでバットをしげしげと眺めている。
『桜庭選手、今ので何かをつかんだか!? 先程までいがみ合っていたのも忘れ、バットと固い握手を交わしたままだーッ!』
 バットと分かり合えてしまったため、引き分けで試合終了である。が、今度は分かり合えたバットとどうしても共闘したくてたまらなくなってしまった。
「ヘイ、リネットさん! あなたはプロの女子レスラーなのに、マットをぱんぱん叩いてレフェリーしてハイ終わり、っていうのはないんじゃない? 一試合くらいやらなきゃ、ギャラもらえないよ!」
 バットを振りかぶりながら、レフェリーのリネットを挑発する桜庭。
 カチーンと来たリネットが、熱湯風呂前に海パンをはき込んでおく芸人よろしく、さっとレフェリーの服を脱ぎ捨ててリングコスチューム姿になる。事前打ち合わせ済みなのは言うまでもない。そして、佐渡川が大の字に倒れたまま、堪能していたのも言うまでもない。
『桜庭選手、バットを振り回す! しかしリネット選手動ぜず、黙って蹴りの構えだーッ!』
 バットと脛がぶつかり合い、豪快な音を立てて折角桜庭と分かり合えたバットが真っ二つである。まあ、蹴り折られるために生まれてきた仕込みバットではあるのだが。
 さらにリネットは桜庭がまだ持っている柄の部分をトラースキックで吹き飛ばし、桜庭を持ち上げるとトップロープ越しにリング外に投げ捨てる。
『傍若無人! まさに、スーパーひとしくんバリのレフェリングだぁッ!』
 もちろん事前打ち合わせは綿密に行っているので、桜庭の身体はセコンド陣が受け止めている。100回の腕立てよりも1回の打ち合わせ、安全第一、そのプロレスごっこの理念を忠実に守った一戦であった。
『さあ、今度こそキャラメルポップコーンから3人組+1、あずさ選手&お兄さん、白鳥沢選手、霧ヶ峰選手の登場です!』
 キッチンセットが運び込まれる中、解説席では佐渡川が息絶えていた。
『ち、ちびっ子は真似すんなよ‥‥ガクッ』
 佐渡川が頭に巨大な二段コブを作って気絶している。下段は先程の桜庭のバッティングによって、そして上段は今しがたスタッフのとてもエラい人に殴られたのである。スペシャルの大本番をナメてはいけないのである。
『さあ、キッチンセットが運び込まれたぁ! 何をどう料理するのか、白鳥沢選手に至ってはニンジンとまな板としゃもじだけで何をする気なのか、まったく先が読めません!』
 先程とまったく同じセリフで、堂々と実況するサトル。だが今度こそ、リング上には白鳥沢がいて、確かにニンジンとまな板としゃもじだけを前にしていた。
『ちなみに、料理の腕は霧ヶ峰選手が人並み、あずさ選手が中の下、白鳥沢選手がいろんな意味で論外とのことでありますが‥‥さあ、試合開始であります』
 あずさと白鳥沢が料理をはじめる中、なぜか赤コーナー外でタッチを待つ霧ヶ峰。
『早速意味不明の行動に出ております、霧ヶ峰選手! 6人タッグだとでもいいたいのでしょうか? それでも、リング上にはすでにあずさ選手と白鳥沢選手の2人がいるのですが‥‥あ、今白鳥沢選手にタッチされてリングインです。しかし、白鳥沢選手もそのままリングに残ります‥‥まったく意味がなーいっ!』
 霧ヶ峰がようやく料理をはじめる中、あずさは順調によく分からないモノを作っている。それを順調と言っていいのかはさておき。
『なお、この試合は5分一本勝負で行われますが、早くも大分ムダにしてしまいました! が、さすがにこの中では一番上の腕前、手さばきがいい! まずは豆腐をパックから取り出して‥‥そのまま冷奴だぁッ! これで人並みとはふざけんな、金返せでありますッ!』
 そして、残る白鳥沢はといえば、どうやってかしゃもじでニンジンを見事にスライスしている。これまた、何を作ろうとしているのかは謎であるものの。
『一方、白鳥沢選手は優雅さをアピール中ッ! 一見するとスゴいが、実はなんの役にも立っていないの典型だぁ!』
「ふふ‥‥君たちも運がないね‥‥仮にもレスラーを相手にしたコトのあるこの僕と戦うことになろうとはね?」
 そう言いながらニンジンを切る白鳥沢だが、本物のレスラーがレフェリーで横にいることを気にしてはいけない。
『さあ、そろそろお兄さんが茹でられる時間だと思うのですが‥‥揚がっている! お兄さんが揚がっているーッ! すっかりキツネ色だぁッ!』
 先にネタバラシされたからかムチャに走ったのか、単に素でボケボケなのか、霧ヶ峰が菜箸でお兄さんをひっくり返したりまでしている。
『あーっと、5分経ってしまいました。勝負は判定に持ち越されました‥‥って、なぜか料理を放送席に運び込んでいますが‥‥我々は、いつの間にかジャッジにもなっていたのでしょうか?』
 我々と複数形で言ったところで、同じく放送席にいる解説の佐渡川は気絶を決め込んでしまっているので、もはや実況のサトルしか残っていない。
「はい、あーん♪」
 あずさが調子に乗って、サトルに食べさせてあげようとする。
『なにやら不気味な物体が運ばれて‥‥ぶふぅ‥‥ガクッ』
「え? え!? なんでー!?」
 傍目にも原因は明らかであるが、あずさ本人だけは分かっていないようである。
「ねー、起きてよう。勝敗が決まらないよう」
 あずさが揺するが、もはやサトルはぴくりともしない。
『‥‥‥‥』
 サトルが返事のないしかばねになったところで、それまでレフェリーとしておとなしくしていたリネットが、倒れてもなお離さないマイクをひょいと取り上げる。
「今日は最後まで試合を見てくれて、ありがとうございます。プロレスごっこスペシャルは今日が1回目で明日からも毎日つづきますが、どうか最終日までおつき合いをよろしくお願いします!」
 丁寧な口調でありながら、なぜか最後は乱暴にマイクを叩きつけて、意気揚々と引き上げていくリネット。
 そして、サトルと佐渡川が突っ伏したままの放送席が引きになっていく中、『明日も見てね』の文字が出て、強引に締めくくられた。