春のプロレスごっこSP02アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや易
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報酬 |
0.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/06〜04/08
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●本文
プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、モノマネあり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。
TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。
「年度の変わり目、特番シーズンなわけだが‥‥」
いよいよプロレスごっこの特番が組まれるのか? プロレスごっこが市民権を得るのか? スタッフ一同に、期待に満ちた緊張が走る。
「そして、子どもたちは春休みだ。そこで、だ。プロレスごっこ王を、毎朝流しつづける。朝起きたらプロレスごっこ。春休み中このリズムで生活してもらい、世の子どもたちをプロレスごっこで洗脳するのだ!!」
「サー! イエッサー!」
よく分からないノリだが、早速春のプロレスごっこスペシャル2日目の収録がスタートした。
参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。
注意:
・プロレスごっこは安全第一です。怪我はもちろん、ちょっと血が出ただけでもNGです。
過去の通常放送のスケジュール:
・第1回 2月16日 07:00〜 (第64回として放送)
・第2回 2月28日 23:30〜 (第72回として放送)
・第3回 3月10日 18:00〜 (第80回として放送)
・第4回 3月16日 18:30〜
・第5回 3月30日 07:00〜
過去の特番放送のスケジュール:
・春SP01 4月05日 07:00〜
●リプレイ本文
『本日で2日目となります、プロレスごっこ王選手権・春のスペシャル! この度実況を務めることになりましたアースハット(fa1881)で、早速お送りしていきたいと思います』
すでにリング上では、妙なキャラクター作りをしたパイロ・シルヴァン(fa1772)が、いもしない観客のブーイングに悪態をついている。
『お子ちゃま悪徳レフェリーパイロ、早くも全開だぁッ!』
パイロが札を扇形にして扇いでいる。中学生になりたてなので、全部千円札で精一杯なのは言うまでもない。
『解説席には、本日試合を控えている中、アルケミスト(fa0318)選手に先にお越しいただきました!』
「毎日‥‥ぷろれすごっこを‥‥つづければ‥‥私の体格でも‥‥大人を泣かせ‥‥られます‥‥サー‥‥イエス‥‥サー」
ハイルな感じでプロレスごっこを崇め奉るアルケミスト。まさに、洗脳されてしまったよい子の急先鋒である。
『よく見れば、額に┼┼┼┼な傷の縫い痕が書いてあるーッ! それは洗脳を通り越し過ぎだーッ!』
「サー‥‥イエス‥‥サー」
邪悪な笑みを薄っすらと浮かべながら、うわ言のように繰り返すアルケミスト。もはやホラーな感じすら漂わせる。
『さあ、第一試合に参りましょう。先陣を切って登場の礼花(fa3043)選手、布団との対決であります。早くも眠そうに布団を引きずっての入場。これは圧勝劇が期待されます‥‥あーっと、試合開始の合図を待たずに布団が突っかけていった〜! 早くも固め技だーッ!』
リングに上がった礼花が、鋭く布団に潜り込む。
『あーっと、早くもピクリともしません、礼花選手! これは決まってしまったか!?』
鋭くカウントを取りに入るパイロ。
「ワン、ツー、スリー!」
『秒殺! 礼花選手、秒殺だぁッ! のび太くん並みの秒殺であります!』
あっさりスリーカウントが入ってしまう。悪徳レフェリーに賄賂がなかったため、パイロは規則正しくカウントを取るのみであった。それ以前に、引っ張る意味はないのだが。
『早くも、次の試合のティタネス(fa3251)選手が入ってきたーッ! どうやら、このまま試合を始めるようですが、それもそのはず。ティタネス選手の対戦相手は目覚まし時計軍団です! かつて、目覚まし時計と戦った選手がいましたが、その目覚まし時計がいつの間にか軍団を作っていたぁ!』
パジャマ姿のティタネスがリングに上がると、礼花の隣に布団を引きはじめる。さらにその横では、パイロがせっせと目覚ましを置いて回っている。悪徳レフェリーというよりは、ただのいい人である。
『またも、布団が突っかけていった〜! しかし、今度の本当の敵は布団ではなく、目覚まし時計! さあ、いつ仕かけてくるのか!』
ジリリリ‥‥早速、目覚ましの一つが鳴る。
「‥‥んっ!」
ティタネスが面倒くさそうに手を伸ばすと、ガツンと一叩き、いきなりの粉砕決着である。
『やはり、冬の朝は布団から出たくない! いや、春のって銘打ってる気がしてなりませんが、深く考えてはいけなーいッ! しかし、ここからが本当の戦いだ。なにせ、相手は軍団であります!』
その後も順調に破壊活動で停止していくティタネスであったが、目覚まし時計軍団もヤツは一番の小物とばかりに、段々と頑丈な作りの、高機能なものが次々と登場してくる。
「‥‥ぬぅ」
寝ぼけながらも目覚まし時計をむんずとつかむと、観客席に向けて放り投げるティタネス。観客席に雨あられと目覚まし時計が降り注ぐが、観客席に観客などいないので心配無用である。
だが、ついにそのうちの一個が放送せき目がけて、アースハットの頭をかすめて飛んでいく。無論、その横のアルケミストは洗脳済みなので、微動だにしなかったが。
『〜ッ! 今、明らかに放送席を確認してから投げた気がしましたが‥‥しかし、まさにこの瞬間です! この今ある危機の共有によって、実況である私とお客さんの心が一つになったのです!』
もちろん、観客などいない。実況とは常に選手・観客とは一線を画す孤高な仕事なのだと、気づかずにはいられない瞬間であった。
「起きた? 起きたよね!?」
だがさすがに、振りかぶって投げたとなるとレフェリーのチェックも入る。
「起きてないってば‥‥ほら」
そう言いながら、財布から千円札を取り出し、パイロに手渡すティタネス。
「まったく起きてません‥‥試合続行!」
パイロの悪徳レフェリーのキャラ作りは、まだまだ継続中である。
『さあ、軍団も大将の登場だぁッ! 巨大なハリボテ目覚まし時計! もはや時計として機能してない気がしてなりませんが、気のせいです!』
寝ぼけたままボディスラムで転がすと、トップロープに上るティタネス。何度でも言うが、これも寝ぼけての行動である。
『ダイビングボディプレスだーッ! ついに決着ーッ!』
勝利を確信して手を高々と突き上げるティタネス。だが、レフェリーのパイロは首を振っている。
『これはどういうことだ? 遅刻、遅刻だーッ! 本当の敵は時間にあったーッ! なんということだ! 勝者なき戦いになってしまったーッ!』
ティタネスがとぼとぼと引き上げていく。この間、礼花がまったく目覚めないのは言うまでもない。
『さあ、つづいては雷光(fa3022)選手が皿と戦います。そう、俗に言う皿回しであります!』
「‥‥やるか‥‥」
けだるそうに登場した雷光が、前の2試合につられてか眠そうに皿を構える。もっとも、顔に出ないタイプなだけで、内なる闘志は燃えたぎっていたのだが。
『順調に皿を回していきます、雷光選手‥‥しかし、どこまで回しつづければ勝ちになるのか、待っているのは無間地獄だけなのかッ!?』
「違う‥‥」
アルケミストが、解説らしいことをようやく一言ボソリと呟く。
『え!? あ、手元の台本によりますと、皿は割れると皿の負けということですが‥‥どうあっても皿が負けるような気がしてなりませんが、これもやはり気のせいなのでしょう!』
だが、突然orzとガックリうなだれる雷光。どうやら、自分的一定時間回しつづけたら負けだったようだ。
そして、回す人がいなくなった皿の回転が弱まり、ガッシャンガッシャン音を立てて割れていく。それでも、礼花がまったく目覚めないのは言うまでもない。
「では‥‥行って‥‥きます‥‥サー‥‥イエス‥‥サー」
『さあ、アルケミスト選手の出陣です! 入れ替わり雷光選手に、これからアルケミスト選手と戦う焔(fa0374)選手の妹さんということで、特別に解説席にお越しいただきました!』
「やってやるゼ!」
騒がしくファイティングポーズを構える焔に対し、アルケミストはじっと氷の瞳で見上げるのみである。
「ファイッ!」
パイロの合図で、鋭いパンチを宙に繰り出しまくる焔。
『見事なシャドウボクシングだ! しかしこれが何の役に立つのか、まったくもって不明であります!』
「‥‥はあはあ。小娘‥‥俺を怒らせたらどうなるか‥‥分かっているのだろうな‥‥?」
『あーっと、今度は謎の威嚇ポーズだぁッ! しかし、アルケミストは‥‥これはマニアにはタマらない、無表情系幼女の冷たい視線だぁッ!』
だが、焔にそんな属性はないので、しょげるしかない。とはいえ、もはや引き下がることなどできない危険領域にまで来てしまっている。
そこで突然、汗だくでやり遂げた男のいい顔をして、大の字に倒れて荒い呼吸をする焔の画に切り替わる。その横の布団では礼花が布団で寝ているが、今は関係ない。
実際には、焔は腕立て100回、背筋100回、腹筋100回を3セットこなしていたのだが、当然の如くさっくりカットである。
『放送には乗らないとはいえ、大分テープがムダになってしまいましたが‥‥おっと、アルケミスト選手、ついに口を開きました!』
「ここで‥‥立てないようじゃ‥‥この先‥‥ずっと‥‥這いつくばって‥‥生きてくのが‥‥貴方には‥‥お似合い‥‥」
『焔選手、起き上がった‥‥あーっと、びええええーんと泣いているッ! 泣き叫んでいるぅッ!』
アースハットの横では、いたたまれなくなった雷光が頭を抱えている。
『焔選手、ついに逃げ出した! リング下に転げるように逃げていきます!』
「覚えておけよーっ、うわーん!」
「負け犬なら‥‥まだ‥‥マシよ‥‥死んじゃったら‥‥遠吠えも‥‥できない‥‥」
焔の背中に、なおも追い打ちをかけるが、追い打ちをかけたのはアルケミストの言葉責めだけではない。雷光がタッタッタッと走っていくと、兄の背中に飛び蹴りを放つ雷光。
「失礼しました‥‥なんだか、急に飛び蹴りがしたくなっちゃって」
ここまでで一番の笑顔を作って、雷光が解説席に戻ってくる。
『‥‥最後の試合になりました。名物レフェリーが、今回は選手として登場! 伊集院帝(fa0376)選手の入場だぁッ!』
伊集院と共に、透明な浴槽が運び込まれる。もちろん、湯船の中は熱湯である。
『これは伝統の一戦と呼んでもいいでしょう。すべり知らずの熱湯風呂に対して、伊集院選手がどのような戦いを仕かけるのか!?』
「ファイッ!」
パイロの合図で、早速スーツを脱ぎ捨てて海パン姿になる伊集院。
「押すなよ、押すなよ」
熱湯風呂への階段を上りながら、パイロを警戒する伊集院。ここまではお約束どおりの展開である。
「絶対に押すなよ!」
それを合図とするように、パイロが伊集院の背中を押す。当然、伊集院の身体は真っ逆さまに熱湯の中である。
「うわっちゃー! あち、あち! ‥‥殺す気かーっ!?」
一しきり熱湯の中で暴れたあと、飛び出して氷水をかぶる伊集院。だが、パイロは不満顔だ。
「えー? 押すなよのときは押しちゃいけなくて、絶対にを付けたら押せというフリだって、聞いたことあるよ!」
「自分はそこまで極め切った熱湯風呂芸人じゃないんだよ‥‥」
そう言って海パンの中から財布を取り出すと、アツく湿った千円札を取り出す伊集院。もちろん、パイロは快く受け取る。
「押すなよ、押すなよ、絶対に押すなよ!」
今度はパイロも押したりしない。伊集院は平行棒のように身体を浮かせながら、ゆっくりと熱湯に浸かっていく。
「うお‥‥ムム‥‥ぬぉ‥‥」
『さあ、なんともいえない声を上げている伊集院選手ですが‥‥これは何をもって勝敗が決するのでしょうか!?』
アースハットがそう言った矢先、パイロが伊集院を押さえにかかる。
『なんと、レフェリーがフォールにいったーッ! だが、そのせいでカウントする人がいない!』
子どもの身体だから、伊集院も吹き飛ばそうと思えば吹き飛ばせるのだが、そこは暴れてガマンするのが熱湯風呂芸人というものである。
と、そこへ未だに寝ていた礼花が寝返りを打って、そのとき伸びた腕がたまたまマットを叩いてしまう。
『‥‥今のでカウントワンですか? となると、カウントツーは次の寝返りを待たなくてはなりません!』
「そんなに待てるかーッ!」
さすがの伊集院も、すでにありえない時間熱湯の中にいたので、ガバーっと立ち上がる。そして、真っ赤になった身体に、必死に氷水をかける。その隙に、押さえつけていたパイロが熱湯に転落しているのもお約束である。
『やっはり強いッ、熱湯風呂! 横綱相撲で伊集院選手はおろか、パイロレフェリーまで粉砕しましたッ! それでは、また明日もプロレスごっこ王選手権・春のスペシャルでお会いしましょう! さようなら!』
それでも、もはや水浸しとなった布団でありながら、何事もなかったかのように眠りつづける礼花。明日のSP03のときも平然といないか心配である。