春のプロレスごっこSP03アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/07〜04/09

●本文

 プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、モノマネあり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。

 TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。
「年度の変わり目、特番シーズンなわけだが‥‥」
 いよいよプロレスごっこの特番が組まれるのか? プロレスごっこが市民権を得るのか? スタッフ一同に、期待に満ちた緊張が走る。
「そして、子どもたちは春休みだ。そこで、だ。プロレスごっこ王を、毎朝流しつづける。朝起きたらプロレスごっこ。春休み中このリズムで生活してもらい、世の子どもたちをプロレスごっこで洗脳するのだ!!」
「サー! イエッサー!」
 よく分からないノリだが、早速春のプロレスごっこスペシャル3日目の収録がスタートした。
「どうでもいいですけど、毎日こなせるだけ芸人集まるんですかね?」
 誰かがつぶやいたが、皆聞かなかったことにした。

参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。

注意:
・プロレスごっこは安全第一です。怪我はもちろん、ちょっと血が出ただけでもNGです。

過去の通常放送のスケジュール:
・第1回 2月16日 07:00〜 (第64回として放送)
・第2回 2月28日 23:30〜 (第72回として放送)
・第3回 3月10日 18:00〜 (第80回として放送)
・第4回 3月16日 18:30〜
・第5回 3月30日 07:00〜

過去の特番放送のスケジュール:
・春SP01 4月05日 07:00〜
・春SP02 4月06日 07:00〜

●今回の参加者

 fa0016 エディ・マカンダル(28歳・♂・蝙蝠)
 fa1587 choco(12歳・♀・ハムスター)
 fa1985 名賀井・稔則(27歳・♂・鴉)
 fa2123 ブルース・ガロン(28歳・♂・蝙蝠)
 fa2333 三条院・棟篤(18歳・♂・ハムスター)
 fa3184 美朱(20歳・♀・小鳥)
 fa3196 雪野 孝(48歳・♂・猿)
 fa3354 藤拓人(11歳・♂・兎)

●リプレイ本文

『ちびっ子のみんなー、おっはよう! 今日も目覚めて最初に見るTVは何かな〜?』
 実況であるハズの名賀井稔則(fa1985)が、体操のお兄さんというには若干派手な色使いの衣装での登場である。
『‥‥そうだね、プロレスごっこだね! 3日目、はっじまっるぞー!!』
 そう言って、拳を突き上げる名賀井。その横でこのスペシャルのターゲット層のよい子たちと年齢のかぶる藤拓人(fa3354)が解説として来ていたが、すでに名賀井のテンションにすっかり気圧されてしまっている。
『コワイよう‥‥えっぐ‥‥』
『さあ、本日の第一試合! ファンキー教師がやって来た! エディ・マカンダル(fa0016)の説教部屋だぁッ!』
 半泣きの藤を一切無視して、ハイテンションのまま実況を開始する名賀井。
 リング上では、エディがイスに座り、対面のイスには1mくらいのリーゼント不良学生風人形を座らせている。
「なぁ、先生に話してみろよ。お前、やってないんだろ? 前田が正直にあったままのことを言わないと、みんなお前が犯人だと思ったままじゃないか。なぁ、先生に話してみろよ。田中の給食費を盗ったのは、本当はお前じゃないんだろ?」
『エディの一人小芝居がはじまったぁ! しかし、どっからどう見ても、グラサンの悪徳新任教師にしか見えないッ!』
『大人なのに人形と話しててコワいよう‥‥えぐえぐ‥‥』
「ちょ、おま‥‥そんなこと関係ないだろ!」
 一見、藤へのツッコミのようだが、前田人形に対してである。一度戦いはじめたら、外野の声は抜きにして戦い切る、それがごっこ戦士たる者である。
「このままじゃさ‥‥クラスのみんなの心が、前田犯人説で一つになっちゃうよ」
『早くも膠着状態に陥ってしまいました! エディ先生、これをどう打破するのかッ!?』
「よし、みんな目をつぶれ! 田中の給食費を盗った者は、素直に手を挙げるんだ。先生、絶対に怒らないから!」
『それで怒られなかったためしなし! というか、エディ先生まで目をつぶってしまった! 一体、どうする気だーッ!』
 その隙に、次の試合のchoco(fa1587)が乱入してくる。スラムを闊歩するが如くラジカセを斜に構えて担いでいるものの、その格好は赤いランドセルに黄色い帽子をかぶっている。ヘルメットでこそなかったが、どこからどう見ても小学生のそれである。
「よーし、手を挙げたのは誰だ‥‥うぉっ!」
 目を開けると目の前にchocoがいて、エディが思わずたじろいでしまう。
「くっ! この俺よりもファンキーな小学生がいたとは‥‥前田、おい前田。あいつをなんとかしてくれれば、給食費は俺がなんとかしてやる。だから、あいつをなんとかしてくれ!」
 前田人形の陰に隠れながら、ガクガクブルブルのエディ。
『悪徳新任教師を越えて、最悪のへたれ教師になってしまったーッ!』
 そんなエディと前田人形を黙って手で制すと、chocoは買ってきたばかりのCDを取り出す。
「くっ‥‥このままでは、俺の音楽性が否定されちまう! 前田、おい前田なぁ‥‥」
 エディが情けない声を出す中、chocoも悪戦苦闘していた。CDの包装を、思うように剥がすことができない。
「もう、いつもいつも、あなたはなぜすぐに剥けないのよ!?」
 chocoが悪態をつきながら爪でこすったり、くるくる回して取っかかりを探してみたりしているが、まったく歯が立たない。
『あー、このまま食物連鎖のピラミッドは、CDになってしまうのかっ!? どうでしょう、解説の藤さん?』
『‥‥ええっ!? そういうコトは、お兄さんの方が詳しいのでは?』
 今の今になって突然フラれて、パニックに陥る藤。せっかく泣き止んだのに、またえぐえぐと泣きはじめてしまった。
『おーっと、ここで白いドレスの女性がさらに乱入だぁッ! そう、魂の演奏家美朱(fa3184)、満を持しての登場だぁッ!』
「お困りのようね‥‥だったら、僕のバイオリンをお聴きなさい」
 そう言う美朱だったが、肝心のバイオリンがない。見れば、リング下にバイオリンが置いてある。
「エディ先生、取ってもらえるかしら?」
「はいっ!」
 ビクビクと様子をうかがっていたエディが、鋭くバイオリンを取りに行く。そして、素早く美朱に差し出す。
 が、なぜか咄嗟に手を引っ込めてしまう美朱。当然、バイオリンはマットに叩きつけられる。
「あ‥‥あの、何か気に障るようなことでも‥‥?」
「ふん、なんでもないわよ。演奏家なのに楽器が苦手で、バイオリンを弾いたことがなくて、コワくて手を引っ込めてしまったんじゃないわよ!」
『一体、何しに出てきたんだ、美朱ーッ!?』
『みんな頭のネジが緩んで落ちてるような人たちばかりで、コワいよう!』
「別にバイオリンくらい弾けるんだからね! そこで聴いてなさいよ!」
 本当に弾き方が分からないので、一瞬固まってしまう美朱。だが、それも一瞬のことchocoにエディ、そして前田人形の視線を一身に集めては、固まりつづけてはいられない。ゴホンと軽く咳払いをすると、意を決して弓を引いてみる。
 ブツッ!
『あーっと、まったく無音のうちに弦が切れてしまったーッ! それとも、あえて切りにいったか!? だが、真相は闇の中だーッ!』
「しょうがないわね。これじゃ弾けないから、僕の負けね‥‥」
 思わず、安堵の表情を浮かべてしまう美朱。だが、強気を助け弱きを挫く教師の鑑キャラに突入しているエディが、それを見逃すはずもなかった。
「いや、大丈夫だ。弦はまだ3本残っている。真の演奏家なら、それで乗り切れるハズだ!」
「ちょ、ちょっと何言ってるのよ! エディ先生のせいで、演奏する気が失せたわ。帰る‥‥」
「え!? 俺のせい? 俺のせいなのか?」
 狼狽するエディを残して、プンプンと引き上げていってしまう美朱。
「俺が悪いのか? 俺が給食費を盗ったのか? なあ、なんとか答えてくれよ、前田ぁ〜」
 前田人形を揺するが、何も答えない。その横で、今なおCDの包装と格闘しているchocoも、もちろん何も答えない。
「‥‥やっぱダメだ。エディ先生、後はよろしくね〜」
 そうこうしている間に、chocoも引き上げていってしまう。
「先生、どこで間違っちゃったのかなぁ‥‥」
 前田人形の肩に手をやり、呆然と立ちすくむしかないエディ。
『ここで試合終了のゴングだ! エディ選手、一気に3試合分も負けてしまったーッ!』
『勝敗なんてどうでもいいじゃない。大事なコトは、戦うコトじゃなくて愛し合うコトだよ。躊躇わないコトだよ!」』
 泣き止んだ藤がよく分からない解説を入れて、とにかく決着をみた三戦であった。
『‥‥さあ、次の試合にまいりましょう! 武士道対現代機器、時代を超えたこの鍔迫り合いを制するのは一体どっちかー!? 雪野孝(fa3196)選手と携帯電話の一戦だぁッ!』
 侍姿をピシっと決めての登場は雪野である。その手には、対戦相手の携帯が握られている。が、頭の上にはハテナマークが浮かん見えそうなくらいの不思議な顔で、携帯をじっと見つめている。
『やはり、お侍さんに現代機器は理解不能か? 織田信長にガスコンロは理解できても、雪野クラスに携帯は厳しかったかっ!?』
 と突然、大音量で音楽が鳴り響く。当然、飛び上がって驚く雪野。
『‥‥いや、着メロではない! 先程のラジカセだぁ! どうやら、やっとCDを開けられた様子です!』
 見れば、リングサイドでchocoがラジカセを担いで踊っている。もはや、忍耐の勝利のダンスである。
「ふう、脅かしおって‥‥うぉっ!」
 またまた飛び上がる雪野。今度こその着メロである。
「ぬぅ、面妖な‥‥ポチっとな」
 だが、あっさりとボタンを押して、電話に出る雪野。一応、適当に押したら通話になってしまったという体であるが、なんの躊躇いもなく耳に当てている。
「しゃ、しゃべった!?」
 『もしもーし』という声が聞こえてきたところで、三度驚く雪野。そして、『ちょっとー、聞こえてるのー?』のところで覚悟は完了した。
「このあやかしめっ!」
 懐に差していた木刀で撲殺である。バラバラになった携帯を残し、高笑いで去っていく雪野。
『雪野侍、激勝ーッ! いよいよ残すは2試合。まずは未だ無冠の食欲覆面Xの登場だぁ! 今回こそは、見事勝利を味わうことができるのかーっ!?」』
 手馴れたもので、颯爽と登場してくる三条院棟篤(fa2333)。だが、なぜか何もないところでつまづいてしまう。
「おっと‥‥うわ、うわちゃー!」
『食欲覆面X、そのまま水の中に転落ッ! そう、ブルース・ガロン(fa2123)選手の巨大水槽だぁ!』
 だが、水槽にしては三条院がやたらと熱がっている。
「え? いや、俺は中のよく見えない覆面レスラー仕様の水槽を発注したんだが‥‥これは大き目の水槽っていうよりも‥‥」
『そうです、昨日も使用された熱湯風呂の浴槽です。ご覧のとおり、経費削減で行っております!』
『ムダなところに金かけるわりに、嫌がらせのようなところでだけ経費削減なんだネ!』
「っつーか、それはいいとしても、なんで中身まで熱湯なんだよ! 仕込んでいたタコが、茹でダコになっちまうだろうが!」
『それはこちらでなんとかしておきます‥‥さあ、そんなことよりも食欲覆面Xの一戦です!』
『お兄さん、ぶった切りでヒドいや!』
 ブルースを完全に無視して、収録はつづく。すっかりびしょ濡れの三条院が、ようやくリングに上がった。リング上には、すでに巨大な桜餅がスタンバイしている。
『普通の桜餅にはその名のとおり塩漬けのサクラの葉が巻かれているわけですが、この巨大な桜餅には何の葉っぱが使われているのかッ!?』
『熱帯雨林系みたいだけど‥‥毒素を含んでいるとおもしろいことになりそうだよネ』
 段々と、藤の毒舌がヒートアップしていく。
『さあ、食欲覆面Xが噛みついていったーッ! これはいいペースだ。お茶で口を湿らせながら‥‥おや、食欲覆面Xが鬼の形相で立ち上がった!
『スゴイや、お兄さん。覆面越しなのに分かるんだネ!』
「ええい、料理長を呼べ!」
 なにやら、ドカドカと効果音を上げてキレまくる三条院。
「こんなぬるいの、飲めるかっ! さっきの熱湯風呂のお湯の方が熱かったやんけ!」
『あーっと、食欲覆面Xがリングを下りていきます‥‥残念なことに、無効試合となってしまいました! しかし、まだ1試合残っています。気を取り直していきましょう! 帰ってきた不運のファイター、ブルース・ガロン! 今回もすでに不運に見舞われているが、そんな小さなことを気にする男ではなーいッ!』
 だが、ブルースは用意していた覆面を手にしたまま、リングサイドで真っ白な灰になっていた。
「タコが‥‥俺のタコが‥‥my devilfishが‥‥」
『心配無用‥‥ヤツは生まれ変わって帰ってきた。たこ焼きの登場だーッ!』
 名賀井の掛け声と共に、先程とは打って変わって満面の笑みの三条院が、たこ焼きの載った大皿を両手に入場してくる。
「巨大桜餅だけでは役不足だと思っていたところだ。たこ焼きも桜餅も、まとめてかかってこいやーッ! ブルース、行くぞっ!」
 首根っこを引っ掴んで、ブルースを無理矢理リングに上げる三条院。
「え!? いや、そんなゲテモノ桜餅にかかわり合いにはなりたくないというか‥‥」
 だが無常にも、先程の食べかけ巨大桜餅も運び込まれてくる。
「同じ水槽の仲じゃないか。さあ、最強タッグを見せつけてやろうゼ!」
 先程の熱湯風呂の復讐も微妙に兼ねているらしい。
『‥‥試合の途中だけど、なぜかお便りが到着したので紹介だ! 『兄ちゃんに質問です。ええ歳こいてそないな格好して、恥ずかしないん?』という、さんじょういんむねあつ君18歳からのお便りだ。ありがとう‥‥で済むと思っとんのか、ボケェ!』
 ヒートアップした名賀井が、三条院のいるリングに突進していく。だが、ブルースと三条院の二人がかりで、多勢に無勢で無理矢理桜餅との戦いに引きずり込まれてしまう。
『‥‥やっぱり、みなさんは社会不適合者というコトでファイナルアンサーですね!』
 藤にもはや涙はない。毒舌キャラとして独り立ちする時が来たようだった。それは、さながら叩き鍛え上げられた刀身であるかのようだった。