春のプロレスごっこSP04アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.6万円
参加人数 8人
サポート 1人
期間 04/08〜04/10

●本文

 プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、モノマネあり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。

 TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。
「年度の変わり目、特番シーズンなわけだが‥‥」
 いよいよプロレスごっこの特番が組まれるのか? プロレスごっこが市民権を得るのか? スタッフ一同に、期待に満ちた緊張が走る。
「そして、子どもたちは春休みだ。そこで、だ。プロレスごっこ王を、毎朝流しつづける。朝起きたらプロレスごっこ。春休み中このリズムで生活してもらい、世の子どもたちをプロレスごっこで洗脳するのだ!!」
「サー! イエッサー!」
 よく分からないノリだが、早速春のプロレスごっこスペシャル4日目の収録がスタートした。
「4日もぶっつづけで朝っぱらからプロレスごっこだなんて、世も末ですね‥‥」
 誰かがつぶやいたが、皆そう思っている。ただ口にしなかっただけである。

参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。

注意:
・プロレスごっこは安全第一です。怪我はもちろん、ちょっと血が出ただけでもNGです。

過去の通常放送のスケジュール:
・第1回 2月16日 07:00〜 (第64回として放送)
・第2回 2月28日 23:30〜 (第72回として放送)
・第3回 3月10日 18:00〜 (第80回として放送)
・第4回 3月16日 18:30〜
・第5回 3月30日 07:00〜

過去の特番放送のスケジュール:
・春SP01 4月05日 07:00〜
・春SP02 4月06日 07:00〜
・春SP03 4月07日 07:00〜

●今回の参加者

 fa0048 上月 一夜 (23歳・♂・狼)
 fa0339 柊神・祢於(20歳・♂・虎)
 fa0402 横田新子(26歳・♀・狸)
 fa0427 チェダー千田(37歳・♂・リス)
 fa1136 竜之介(26歳・♂・一角獣)
 fa2824 サトル・エンフィールド(12歳・♂・狐)
 fa2850 琥竜(26歳・♂・トカゲ)
 fa3180 マーマレード(21歳・♂・小鳥)

●リプレイ本文

『プロレスごっこ王選手権・春のスペシャル、いよいよ4日目を迎えました! 初日につづきまして、サトル・エンフィールド(fa2824)の実況でお送りします‥‥おーっと、早くも入場口辺りが騒がしいが‥‥』
 サトルの実況もそこそこに、何やら姿見を持って竜之介(fa1136)が入場してくる。姿見が縦長で大きいので、うまく持てずにガシャガシャと引きずりながらの登場である。
「はーーっはっはっはっは! 僕の名は竜之介、百年後にも歴史にその名を残す美形俳優さ☆」
『120%ありえないことを言いながらの入場は、竜之介選手だーっと、いきなり転倒だぁッ!』
 鏡の角を引っかけて、見事に転ぶ竜之介。もちろん、鏡はガッシャーンと盛大に音を立てて粉々である。
「この僕の艶姿を映す前に割れてしまうなんて、なんてかわいそうな姿見なんだい‥‥」
 変わり果てた姿になってしまった鏡の破片をつまみながら、涙さえ流してみせる竜之介。
『寝言を起きながらに言える男、それがこの竜之介だーッ! ポジティブすぎて、目まいしかしません!』
「はーーっはっはっはっは! 僕の名は竜之介、千年後にも歴史にその名を残す美形俳優さ☆」
 そして何事もなかったかのように、竜之介が2枚目の姿見を持って入場してくる。だが、リングに上がる前に鏡を覗き込んでしまったのがいけなかった。
「ああ‥‥なんてことだ。奇跡が、ミラコーが今目の前に存在している。完璧な美というものが‥‥」
『リング下、両者一歩も動かなーいッ! まあ、片方だけ動いたらホラーではありますが、そのホラーを可能にしかねないのが、竜之介だぁッ!』
「僕にとって、心の友はキミだけだ。ああ、なのに運命はなんて残酷なんだ。触れ合うこともできないなんて‥‥神よ、なぜこうも完璧な僕たちに対して、このような仕打ちをせねばならないのだ!?」
 鏡面にへばりつきながら、恍惚の表情を浮かべる竜之介、もはやトランス状態である。もっとも、それは普段からだろという気がしないでもない。
『‥‥試合がムダに長くなりそうなので、とりあえずこのままリング下で勝手に試合続行していてもらいましょう! つづいては、ねむねむ妖精との対戦だ。横田新子(fa0402)選手が、寝ずに駆けつけててくれたッ!』
 枕を手にした、牛柄パジャマの横田が入場してくる。竜之介の横を通り過ぎるときに一瞬ビクっとしたものの、睡魔には勝てずにダルダルとリングインである。
「今日こそ買ってやる、ねむねむ妖精!」
『早くも寝ぼけて勝ってと買ってを間違えているッ! しかし、音ベースのセリフ上ではよく分からなーいッ!』
 台本の誤字に、鋭くツッコミを入れるサトル。
『気を取り直して‥‥それは5時間目の授業中、それは夜中の試験勉強中、そいつはやってくる。ゆとり教育の弊害か!? 自分もそれと立ち向かわなくてはならないかと思うと頭が重いが、すべてはゆとり教育の弊害で問題ナシっ!』
「確かに対戦相手は強いですが、しかーし、精一杯がんばりたいと思います‥‥」
 布団を前に力弱く宣言するも、早速布団の中に滑り込んでいく横田。
『あっさりと布団の中に引きずり込まれました!』
「いやいや、寝技だから。眠らない、眠らない‥‥羊が一匹、羊が二匹‥‥」
『明らかにボケた行動をとっております、横田選手! ここからは地味な戦いになりそうなので、先程の竜之介選手同様、勝手に試合続行していてもらいましょう!』
 スタッフが横田の布団をどける中、上月一夜(fa0048)がなにやらかさばる半透明のシートを大量に抱えて入ってくる。
『さあ、神秘の一匹狼こと上月選手、エアキャップ、漢字で書くなら気泡性緩衝材を相手にします‥‥といってもよく分からないでしょうが、要するにプチプチとつぶすアレです。人間誰しも一度は通る道のアレです!』
 上月がドカっとリングに腰を下ろすと、地道にプチプチつぶしはじめる。
『いつ飽きるのか、それが勝負の分かれ目であります! 先にスタッフや視聴者が飽きる気がしてなりませんが、今は注意深く見守りましょう!』
 だが、このままでは埒が明かないのは言うまでもない。
『上月選手、何かを取り出した‥‥なんと爪切りだッ! 長期戦の様相を呈すこの死闘に、見ているこちらがねむねむ妖精と戦わねばなりません。まさに、逆横田選手状態であります! ここからも地味な戦いになりそうなので、先程の竜之介選手、横田選手同様、勝手に試合続行していてもらいましょう!』
 横田とは反対側のコーナーに上月が押しやられる中、チェダー千田(fa0427)が手ぶらで意気揚々と入場してくる。
「このチェダー千田が、お子様に『おとーさんとおかーさんの夜のプロレスごっこ』をバッチリ教えてや‥‥おや? 都合のいいことに、こんなところに新子さんが布団の中でスタンバってますねー」
『先程、羊を数えたのがいけなかったか、狼として登場のチェダー選手‥‥あれ? なにも見えない!? どうやら、よい子には見えない仕様の試合のようです‥‥って、ふざけんなチェダー、ギャラ返せ!!』
 なにやらモザイクがうにょうにょ動いている映像がしばらくつづく。
 ようやくモザイクが解けると、ごっこだというのにボコボコにされたチェダーの顔がアップで映る。性教育上よろしくない映像だったからではなく、暴力描写、残虐描写がよろしくないということでのモザイクだったのである。
『さあ、前フリが終わったところで、チェダー選手の試合へとまいりましょう! 白くてふわふわの鳥の羽根と戦うとのことですが、先程の乱闘で横田選手の対戦相手が惨殺され、無残にも内臓の羽毛を散らばらせております! これが不幸中の幸いというヤツでしょうか、横田さん!? 』
『大豆ではダメですか‥‥』
 布団を奪われた横田が解説席に来ていたが、すでに授業中の生徒の如く眠ってしまっている。ご丁寧にも、寝言のおまけ付きである。
「くぬぉッ、ちょこまかとぉッ!?」
 そんな放送席はよそに、チェダーは早くも戦いはじめている。だが、ひらりひらりと舞う羽根相手に、ただでさえ失われていたスタミナがどんどん減っていく。
「俺が苦しいときは相手も苦しい‥‥今こそ勝機ッ!」
 だが、チェダーが苦しいのは羽根とは関係なく、先程の横田とのやりとりのせいである。
『何を思ったか、チェダー選手がコーナーポスト最上段に上ったーッ! いや、やっぱり落ちたーッ! その衝撃で、一気に羽根が飛び交います。もはや、どの羽根と戦っていたのか、分からなーいッ!!』
 結局、どうにもならないので無効試合となる。あえて敗者を探すならば、掃除が大変でスタッフに怒られまくりのチェダーだろうか。上月は相変わらずプチプチしているし、竜之介と鏡の中の竜之介の絆は、羽根乱舞程度では崩れない。むしろ、僕たちは天使だったんだねくらいの勢いである。
『‥‥さあ、琥竜(fa2850)選手、釣りのエサのワームの着ぐるみでの登場だぁ! 対するは、デカァァイッ! 説明不要ッ! 鯉のぼりファミリーから、水色のお父さん鯉が来てくれたッ!』
「そう簡単にゃぁ、食われないゼ! 来やがれ!」
『まさに、おそるべきスケールの戦いッ! まさしく、食うモノと食われるモノッ! だが、今日は食われるモノが強いぞッ!』
 寝て待ち受けている鯉のぼりに対し、一方的に蹴る投げるの琥竜。
『あーっと、琥竜選手がコーナーポスト最上段に向かう。しかし、今日の最上段は鬼門だぞ、大丈夫かっ!?』
 案の定、飛んだ琥竜は開いた鯉のぼり口の中へ急降下である。
「やっぱりエサの運命かよっ!」
『琥竜選手もがく、もがく! だが、飲まれていく! 段々姿が‥‥あー、ここで完全に見えなくなりました。鯉のぼり、大逆転勝利であります! セコンドの、お父さん以外の鯉のぼりも大喜び!』
 と突然、会場が暗くなる。そこへ、ブロロロローンと爆音が響き渡る。スモークが焚かれ、スポットライトでシルエットが映し出される。
『おおっと、この大排気量の重低音はバイクだ! 柊神祢於(fa0339)、バイクに乗っての入場だぁッ! これはお子様の教育上よくないか‥‥さあ、今降り立ちました!』
 なかなかの凝った演出であるが、柊神が自前でわざわざ演出・脚本に構成作家の藍晶紫蘭(fa0308)を連れてきてしまうくらい、力を入れていたからである。
 すでにリング上には、対戦相手の学ランを着せたサンドバックが運び込まれている。
「何見てんだ、オイコラテメェコラァ!」
 長ランに先の割れた学帽という絶滅危惧種の格好で、サンドバックに突っかかっていく柊神。胸ぐらをつかむと、セリフを言い終わるよりも早くグーパンチである。
『まさに起上り小法師の如く‥‥いや、戻ってこない! 某前党首に配られた起上り小法師の如く、まったく戻ってこなーいッ!』
 本来ならば、戻ってきた反動でやり合うはずだったのだが、サンドバックは倒れたままである。
「ヤんのか、オイコラテメェゴルァ!」
 仕方なく倒れたサンドバックに勢いに任せてサッカーボールキックを叩き込みながら、藍晶の方に救いを求める視線を送る。
「ちょっと待ったぁ! そんなへなちょこパンチじゃ、俺は倒せないゼ!」
『おーっと、ちょっと待ったコールは上月選手だッ! いつの間にか、エアキャップでグルグル巻きになっていたぁ!』
 柊神が見れば、藍晶は行けと合図を送っている。
「っしゃー!」
 何を思ったのか、がら空きの上月の顔面にパンチを叩き込む柊神。
「顔はやめときな。ボディにしな、バディに‥‥」
 そう言いながら、崩れ落ちる上月。二度目のボディの発音が妙によかったが、意味は分からない。
「ちょいと待ちな!」
『さらにさらに、ちょっと待ったコールだーッ! 今度は琥竜選手だーッ!』
「中から乗っ取るのには、中々苦労したゼ!」
『言ってることはカッコいいが、ただの鯉のぼりを着ている人だーッ!』
 柊神が見れば、藍晶はこうなったらトコトン行けと合図を送っている。
「っしゃー!」
 今度こそ、ボディにパンチを見舞う柊神。だが、琥竜のボディは所詮布一枚である。
「ぐふっ‥‥所詮、エサにはエサの人生かよ‥‥」
 あっさりとくの字に身体を折って崩れ落ちる琥竜。
 今度こそどうしたものかと柊神が見れば、リング下で番組冒頭から鏡と向き合っている竜之介を無責任に指差す藍晶。
「もうよく分からないけど‥‥っしゃー!」
「ぐふっ‥‥ああっ、どうして倒れているんだい? 鏡の中の僕‥‥」
 突然のことに、倒されたことを理解できない竜之介。それでもなお鏡の中の自分を見つづける様は、美しいのかどうか理解不能である。
『さあ、あれだけいた人が全部倒されてしまったーッ! リング上は、一体どうなるんだーッ!』
「テメェ、覚えてやがれ!!」
 捨てゼリフを残せる立場ではないのだが、柊神がバイクにまたがり、問答無用で颯爽と帰っていく。
『なんと投げっぱなしだーッ! これはどういうことでしょう、解説の横田さん!?』
『‥‥もう大豆は食べられないよ‥‥』
 サトルも投げっぱなしで横田にフッてみる中、ベタな寝言で返す横田。
『それでは、明日最終回でお会いしましょう、さようなら!』