走れ、人間どもアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
0.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
2人
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期間 |
04/04〜04/06
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●本文
TOMITVのスタッフルーム。その中の、自称スポーツイベント便乗チームに、一人の男が駆け込んできた。
「やりました! ドバイシーマクラシックとゴドルフィンマイルで、日本馬が優勝しましたよ!」
「相変わらず情報が微妙に古いなぁ‥‥」
「それは、どうしてもタイムラグが‥‥ごにょごにょ。それはさておき、馬ががんばっているのなら、人間どもも競馬場を走るべきだと思うんです!」
「意味が分からん‥‥」
「まぁ、ただ芝の上を人間どもが走ってもおもしろくないので、参加者一人ごとに乗る動物やら自転車やら車やらを用意してもらって、それで走るんです。各人用意した8頭、台、人‥‥等々、フルゲート8頭で最後の直線200mを使用して、競うんですよ」
「ふーん‥‥それなら、多少は面白そうじゃない」
「でしょう? さすがに2人3脚vsオフロードカーで200mだと2人3脚に勝ち目はないので、その辺はハンデをつけますが‥‥まあ、あとはその場のノリでなんとかしましょ」
「うむ、そういうアバウトなの最高だよな!」
こうして、いい加減なノリでドバイミーティング便乗企画がスタートした。
使用コース
・芝コース、ゴール前の直線200mを使用。高低差(坂)はない。
・ハンデが長い場合、左回り芝コースを使用。500m地点から200m地点にかけて高低差2.5mの坂あり。
事前に用意される物
・たとえばポニーを持ち込みたいという場合、ポニーを持ち込みたいとすれば番組で用意します。大抵のものは用意できますが、船や飛行機あたりになるとさすがにムリです。
ルール
・優勝賞金10万円。敢闘賞5万円。
・その他細かいルールは、俺がルールブックだ! とスタッフが申しております。
●リプレイ本文
『さあ、さんまのナンでも‥‥おっと危ない、『走れ、人間ども』の時間がやってまいりました』
一二三四(fa0085)が思わずパクリ元を言いそうになりながらの実況で、番組がスタートした。舞台は競馬場、芝コースである。
『早速、枠順に紹介していきましょう! 1枠1番、一二三四号──って、おいらなわけですが──のマウンテンバイク。実況、インタビューをしながらのレースとなるため、ハンデは一番軽く45mとなっています』
レース中に全員にハンディ片手にインタビューしていくとなると、最後の最後で横一線にでもなって、そこから何かのアクシデントが起きるというようなよっぽどの事態が起きない限り勝ちはないので、順にインタビューできるように一番先頭からのスタートとなっている。
なお、インタビューに都合いいからか、単に画的な問題かはわからないが、1枠から外枠に向けて、ハンデが重く、つまり距離が遠くなるように並んでいる。
『5mほど後方の50m地点。2枠2番、影刃(fa1705)号が伊集院まりあ(fa2711)をお姫様だっこ! よせばいいのに、すでにお姫様だっこでのスタンバイ、しかもチャイドルの伊集院では軽すぎると、錘を20kgもつけさせての登場です』
だが、お姫様だっこだと聞かされたばかりの伊集院が、赤面しながら影刃の腕の中であわあわと暴れている。
『‥‥錘の20kgが意味不明ですが?』
そんな中を、平然とインタビュー敢行する一。
「これも、自分を鍛えるためだ。本当は200m走るつもりだったんだが、レースが一方的になると止められたんで渋々従ったんだ。だから、この20kgの錘は譲れないね!」
『意気込みも意味不明ですが、次へいきましょう。一気に50m後方に行きまして、100m地点。まずは3枠3番、朱凰夜魅子(fa2609)号から紹介していきましょう』
見れば大八車があり、その上には石の地蔵が載せられている。
『あの‥‥このお地蔵さんは!?』
「ああ、道端に捨ててあったので、持ってきた。ただそれだけのこと」
『えっ!? それは祀ってあったというのでは? お地蔵さんが、雪の日の夜に復讐に来たりしませんよね?』
「問題ない」
『問題のない根拠は?』
「そんなものもない」
素っ気ない対応の朱凰は、すでに柔軟に余念がない。
『えっと‥‥罰が当たると困るので、あまり絡まないようにしましょう。同距離のお隣、4枠4番は九条運(fa0378)号。人力車に、こちらは安心の生きた人が乗っています! 姉のMAKOTO(fa0295)を乗せて走ります』
馬のようにハミを噛ませられて、すでにしゃべることができない九条。変わりに手綱を持ったMAKOTOが受け答えをする。
「僕をバラストにするとか生意気なコトを言ってたから、キッチリ手綱は握らせてもらうことにしたよ」
そう言って、まだ走り出してもいないのに、MAKOTOはすでに鞭を振るいまくりである。見れば、九条の背中はすでに鞭の痕だらけである。
『人力車というよりは、人間馬車の様相を呈していますが‥‥次へいきましょう。50m後方、150m地点は5枠5番、ベス(fa0877)号とダチョウのコースケ君!』
「一番目指してがんばりまーす♪ みんなー、応援してねっ☆」
ベスが昔ながらの体操服姿で、手を振ってみせる。一方、ダチョウのコースケ君は、その周りを飄々と歩き回っている。
「ダチョウとだって、理解り合えちゃいまーす☆」
『さあ、さらに50m後方の200m地点。いわゆる本来のハンデなしの地点ですが、まずは6枠6番、湯ノ花ゆくる(fa0640)号から紹介していきましょう』
「‥‥ゆくるは‥‥お馬さんを‥‥背に‥‥乗せて‥‥走ります‥‥とは言っても‥‥本物の‥‥お馬さんですと‥‥重くて‥‥走れないですから‥‥小さな‥‥手乗り馬を‥‥乗せるつもりです‥‥♪」
独特の間と言い回しで分かりづらいが、手乗り馬とはポニーのことらしい。その上、ポニーに乗るのではなく、ポニーを担いで走るのが湯ノ花だという。
『‥‥えっと、それだとハンデの200mはキツすぎませんか?』
「ええ‥‥ですから‥‥そんなゆくるには‥‥コレです‥‥」
そう言って、触角のように飛び出した髪一房、通称アホ毛に突き刺したメロンパンを指し示す湯ノ花。いわゆる、馬の鼻先に吊るしたニンジンであると言いたいらしい。
『‥‥そ、そうですか。がんばってください』
対応に困り、早々に次の枠へと移る一。
『同じく200m地点、7枠7番の上月一夜(fa0048)号と自転車!』
通称ママチャリこと、ごくごく普通の自転車である。同じ200mの湯ノ花に対するセックスアロウワンスというわけではないだろうが、自転車の後ろにはウェディングカーの如く大量の空き缶が結ばれている。
『‥‥はあはあ。そして一気に200m後方、400m地点には大外8枠8番、若宮久屋(fa2599)号とオフロードバイクです!』
「最大8倍以上のハンデ差って‥‥自転車の2倍+坂って、ハンデ重過ぎませんか?」
『私がマッチメイクしたわけではないですし‥‥マシンの宿命というヤツではないでしょうか?』
「うーん‥‥ま、がんばりますよ!」
ファンファーレが鳴り響き、いよいよレーススタートである。
まずは若宮のバイクのエンジンが唸りを上げる。だが、ゴール前の200m地点までは上り坂になっており、そこからが平坦である。若宮はただ一人坂を上ることになるので、バイクとはいえなかなかスピードに乗れない。
だが、その若宮も快調なスタートを切ったと言わねばなるまい。ベスの乗るダチョウのコースケ君は見事なまでに逆走をはじめ、湯ノ花は紐でぐるぐる巻きにしてポニーを担いでいたが、重いのと暴れ馬なのとでなかなか進めない。メロンパンの神通力も、まったく効いていない。
一方の先頭の一はまったく走り出すことなく、隣の影刃を待ち受けている。
『早くも審議の青ランプが灯っています! が、まずは影刃さんにインタビューしてみましょう‥‥どうですか、調子は?』
「絶好調だね!」
影刃はそう答えるものの、カメラを向けられて照れて暴れる伊集院をお姫様だっこしながら走るのは見るからにツラそうで、すでに腕がプルプルいっている。
「そんなに暴れちゃダメだぞ☆」
「きゃ!」
落ち着かせようと伊集院のほっぺに軽くキスした影刃だったが、逆に驚かせてしまい、伊集院は影刃を思わず突き飛ばしてしまう。
咄嗟に伊集院をかばいながら倒れた影刃だったが、今度は起き上がろうにも、腕がガクガク言ってしまって、うまく立ち上がることができない。その姿は、生まれたての仔馬のようである。
「いや、まだまだ修練が足りんということがよく分かった。弟も見てるはずだが面目が立たないよ。まのあちゃんにも急に手伝ってもらったのに悪いコトしたよ‥‥」
『終わったかのように言わないでくださいよ‥‥』
だが、諦めなかったらゲームセットでないとはいえ、影刃は倒れたままである。
『この間にも、一気に朱凰さんの大八車と、九条さんの人力車が迫ってきました!』
MAKOTOにいいように鞭を振るわれて快調に飛ばす九条に対し、朱凰のペースが急激に落ちる。
『ひょっとして、地蔵が重くなっているのでしょうか、オカルト現象でしょうかっ!?』
スタッフが密かに地蔵を増やしつづけていたのだが、前だけ向いてひたすらゴールを目指す朱凰は気づかない。
「ふみさん、と〜め〜て〜!」
そこへ猛然と追い上げてきたのは、逆走していたはずのベスの乗るダチョウのコースケ君であった。
『そんなことを言われましても‥‥』
しかしまた突然後ろに行ったりと、スピードには乗っているものの、まったく距離が稼げていない。ベスはただ、コースケ君の首にしがみついて振り回されるばかりである。
だが、湯ノ花の隣まで逆走すると、意外なことにあっさりと止まった。
『緑色が葉っぱを連想させたのでしょうか!? ダチョウのコースケ君がメロンパンをついばんでおります!』
「お手柔らかに‥‥お願い‥‥します‥‥ね」
のん気に手を差し出す湯ノ花に、やっと止まった安堵からかベスも握手してしまう。レース中にも関わらず、スポーツマンシップを確認しあう二人。その横を、上月のウェディングママチャリがキコキコ、カランカランと追い抜いていく。
「ヒヒーン!」
追い抜かれたことで火がついたのか、湯ノ花のポニーが四本の脚で立って、前脚を一掻きする。紐でぐるぐる巻きにしてた関係上、湯ノ花はポニーの背中で身動きが取れなくなってしまう。
「グワワッ!」
「ぴえぇぇぇ〜!?」
それに触発されたのか、コースケ君も猛然と走り出す。ベスもしがみつくだけの人生に逆戻りである。
野生に目覚めた2頭が、猛然とゴールを目指す。人力の上月は、あっさりと抜き返されてしまう。
そのころ、先頭で倒れていた影刃が、ようやくレースに復帰する。片や最後方の若宮は、ようやく坂を上りきったところだった。
「おい、この愚弟! 抜かれちゃうよ!」
後ろからの気配を察知したMAKOTOが、こんなこともあろうかと棘付きの鞭を取り出す。
「〜ッッ!!」
ハミのせいで声は漏れないが、九条が明らかに声にならない悲鳴を上げているのが分かる。だが、そのおかげで一気にペースが上がる。対して、朱凰は重くなりすぎた地蔵に手を焼いていた。
『影刃さん先頭! 影刃さん先頭! 九条さんも来た! 九条さん来た! その外から湯ノ花さんのポニーですッ! あーっと、コースケ君はまた逆走! これで、3人に絞られたのでしょうか!?』
いよいよゴール目前。だが、ついに機械仕掛けのニクいヤツがカッ飛んできた。
『大外から一気に若宮さんのバイク! これが文明の利器、マシーンの切れ味です! しかし、ここで先頭は湯ノ花さんのポニー。ポニー逃げる! ポニー逃げる! 九条さんはむしろ鞭のダメージが大きいようです! 影刃さんもがんばるが、走るだけでは抜かれる一方です。上月さんのママチャリも地道に追い上げてますが、これは届かないでしょうか? 朱凰さんは完全に罰が当たった状態です!』
ついに先頭でゴールを切ったのは、湯ノ花のポニーだった。大外一気のマクリをみせた若宮がわずかの差で2位、ついで鞭打たれつづけた九条が3位、なんとか立て直した影刃が4位、缶が余計だったか特に見せ場の作れなかった上月が5位、逆走さえなければのベスが急遽前を向いて6位に滑り込み、スタッフの悪ノリ地蔵地獄にハマって朱凰が7位、そして最後にそれらを見届けた一が8位で入線した。
だが、まだこの通りに確定したわけではない。審議の青ランプが、レース開始とほぼ同時に点いていたのである。
『ただいまの競走は、スタート直後に5番ベス号が逆走した件、2番影刃号が転倒した件、ならびに最後の直線走路で3番朱凰夜魅子号の斤量が増えた件、6番湯ノ花ゆくる号が鞍上と入れ替わった件、5番ベス号が逆走した件、4番九条運号が虐待された件について、併せて審議致します。お手持ちの勝人投票券は‥‥』
勝馬投票券ならぬ勝人投票券などとアナウンスしているが、賭博は法を犯すことになるので、もちろんシャレである。それにしても、半数以上が審議対象とは、実際の競馬ではなかなかお目にかかれない珍現象である。
『‥‥あ! 今、確定の赤ランプが灯りました。全着順をご紹介しましょう』
1着 8 若宮久屋
2着 4 九条運
3着 2 影刃
4着 7 上月一夜
5着 5 ベス
6着 3 朱凰夜魅子
7着 1 一二三四
失格 6 湯ノ花ゆくる(1位入線)
『以上のように確定しました。湯ノ花さんは、最終的にポニーが走ってしまったということで失格になりましたが、その他は入線順位のとおり確定しました。優勝の若宮さんには、賞金10万円が贈られます』
「よほどのことがない限りはいい勝負になると思ってたけど、なんとか届いたね。ありがとうございます!」
賞金を手に、ガッツポーズの若宮。
『鞭で叩かれながらも必死に走りつづけた九条さんに、敢闘賞5万円が贈られますが‥‥』
「‥‥‥‥」
そこには、死力を尽くした九条の、ボロボロになった抜け殻があった。