春のプロレスごっこSP11アジア・オセアニア
| 種類 | ショート |
|---|---|
| 担当 | 牛山ひろかず |
| 芸能 | フリー |
| 獣人 | フリー |
| 難度 | やや易 |
| 報酬 | 0.6万円 |
| 参加人数 | 8人 |
| サポート | 0人 |
| 期間 | 04/23〜04/25 |
●本文
プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、モノマネあり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。ＴＯＭＩＴＶのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。春のプロレスごっこSP01〜05をこなし、すでに疲労困憊極まっている。
「春のプロレスごっこSP05の収録で分かっているとは思うが‥‥というわけで、春のプロレスごっこスペシャルはつづくわけだが‥‥」
またかよ、勘弁してくれと、スタッフ一同に早くも厭戦ムードが立ち込める。
「SP05はSPと0と5に分解されて、スペシャル第０章第５回ということは分かっているよな？ でだ。第０章こと序章はこの間終わったわけだが、序章の次は本編の第１章をやらなくちゃならない。分かるよな？」
早くも大ブーイングであるが、一番えらい人がそれを手で制す。
「心配するなー。実は序章に過ぎなかったのだ、と長すぎる序章をやった場合、本章はあっという間に終わるのがお約束だろう？」
「サー！ イエッサー！」
一度突き落としてから軽く持ち上げる方式で、あっさりとスタッフの士気が戻る。
もはやスタッフの判断力が低下したまま、春のプロレスごっこスペシャル第１章の収録がスタートした。
だが、彼らは知らない。一番えらい人がほくそ笑んでいたのを。
「１日で終わりとは言ったが、１回で終わりとは言ってないからな‥‥くっくっく」
参考例：
・軟体レスラーｖｓボストンバッグ：身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。
注意：
・プロレスごっこは安全第一です。怪我はもちろん、ちょっと血が出ただけでもＮＧです。
過去の放送のスケジュール：
・第１回 ２月１６日 ０７：００〜 （第64回として放送）
・第２回 ２月２８日 ２３：３０〜 （第72回として放送）
・第３回 ３月１０日 １８：００〜 （第80回として放送）
・第４回 ３月１６日 １８：３０〜
・第５回 ３月３０日 ０７：００〜
・春SP01 ４月０５日 ０７：００〜
・春SP02 ４月０６日 ０７：００〜
・春SP03 ４月０７日 ０７：００〜
・春SP04 ４月０８日 ０７：００〜
・春SP05 ４月０９日 ０７：００〜
●リプレイ本文
「プロレスごっこ王選手権・春のスペシャル、第１章第１部をお送りします。実況は、半ズボンをはいた天使の毒舌！ ショタ者には堪らな〜い☆ サトル・エンフィールド（fa2824）だッ！」解説席に座った応援特化型バラドル、武越ゆか（fa3306）に実況が紹介されるところから、番組がはじまった。自分よりも若干年上のお姉さまに紹介されてからの実況とあって、サトルはすでにハイテンションである。
『ただいまご紹介に預かりましたサトルです。というわけで、解説には武越ゆかさんが、文字通り応援に駆けつけてくれました。おーっと、応援だけに早くもポンポン作りに取りかかっております。こういうものは事前に作っておくとか、そういう無粋なコトを言ってはいけないーッ！』
ポンポンを作りはじめただけの武越に、サトルの実況は早くも高速回転状態である。
『あーっと、早速ダンボールを取り出した。これは紐を巻いていくのか‥‥巻いたーッ！ やはり巻きました。どんどん巻いていきます、早くも一方的でありますッ！』
ただひたすらに紐を巻き巻きするだけの武越の映像であるが、サトルはヒートアップする一方である。
「あ！ ちょっと斜めっちゃった‥‥けど、気にしない！」
『そう、気にしてはいけません。ここは慌てず落ち着いてダンボールをへし折るッ！ ああ、僕がへし折られたい！ さあ、引き抜かれた紐の真ん中を縛るッ！ ああ、僕が縛ってあげたい、むしろ縛られたいッ！』
ＴＶの前の男の子たちがフェミニストに目覚めてしまうような実況を志していたサトルだが、早くも暴走気味でフェミニスト団体に怒られてしまいそうな実況である。
『そしてハサミで切り‥‥さあ、後はひたすら紐を裂きまくるだけだ‥‥っと、名残惜しいですが、愛瀬りな（fa0244）選手の第一試合の実況に移らなければならない時間がやって来てしまいました！』
そう言って、サトルが入場口に現れた愛瀬へと目を移す。見れば、愛瀬がタライを小脇に抱えての登場である。
『タライを持っているからといって、海女さんの衣装ではないッ！ 紺一色のワンピース水着──いわゆるスク水であります。胸元に貼られた『愛瀬』の文字が‥‥え？ スク水じゃない？ リングコスチュームだ？ 分かりました。愛瀬選手がそう言うのであれば、リングコスチューム以外に考えられません！ 紺のリングコスチュームで今リングインであります！』
変に実況でツッコミ入れすぎて着替えということになったら元の木阿弥とばかりに、訂正を全面的に受け入れるサトル。もちろん、万が一生着替えになればうれしいが、そこは下手に冒険はしない。
一方のリング上では、愛瀬がタライに水を張っている。
『さあ、今スタッフの手によってウナギが投入されました！ 試合開始であります！』
「はじめまして、愛瀬りなと申します。プロレスはもちろん、プロレスごっこはさらに初めてのふつつか者ではありますが、どうかよろしくお願いいたします」
たらいに向き合って正座すると、ウナギ相手に丁重に挨拶をする愛瀬。
「えっと、まずはウナギさんを弱らせて‥‥」
『あーっと、まずはプロレスっぽくチョップを叩き込んでいきます！ ただ水面をパシャパシャやっているだけの気がしないでもありませんが、重要なのはそこではありません。早くも水着‥‥じゃない、コスチュームが濡れてきたことですッ！』
独特のぬるぬるでうまくつかめず、すぐにタライの中に戻ってしまうウナギ。延々それが繰り返されるので、サトルのイライラも爆発寸前である。
『空気読まんか、このウナギがーッ！ 素肌と水着の隙間に潜り込むのがオマエの仕事だろッ！』
水着ではなくコスチュームと言うのも忘れ、ついつい声を荒げてしまうサトル。
その魂の叫びが届いたのか、次の試合のあずさ＆お兄さん（fa2132）が乱入してくる。
「それだったら、お兄さんにお任せだよっ！」
あずさがどこから用意したのかもう１匹のウナギを取り出すと、お兄さん人形の中にウナギが注入されていく。
『ふざけんな、僕たちがみたいのはそんなんじゃない！ りなさんやあずささんのが見たいんだッ！』
よほどのマニアじゃないと反応できない画に、サトルはまたもブチ切れモードである。
その魂の叫びが届いたのか、さらにその次の試合のやみくもあんどんの二人、ベクサー・マカンダル（fa0824）が海風礼二郎（fa2396）に手を引かれて入ってくる。
「ベクちゃん、こっち、こっち」
「試合順、まだだよ？」
状況のよく分かっていないベクサーをリングに無理矢理上げると、その服の中にこれまたどこから用意したのか数匹のドジョウをいきなり放り込む海風。
「うひゃ‥‥何すんのよっ！」
海風をバコっと思いっきり殴るベクサー。その拍子に、服の隙間からドジョウがにゅるんにゅるんと飛び出してくる。
『今日は男を実況する気分ではなかったのですが、あえてここは実況しましょう！ 海風、グッジョブと！』
サトルはようやく満足したものの、ベクサーは静かに怒り心頭である。
「こんなヨゴレ芸がやりたくて芸人になったんじゃない！」
「ベクちゃん、ガチで殴りすぎだよ！ ごっこなんだからさ‥‥」
今一度バコっと殴られ気絶した海風を引きずりながら、ベクサーが退場していく。
『まだ試合を控えているのに大丈夫でしょうか？ まー、ベクサー選手が無事なので、当方まったく気にも留めておりませんが‥‥』
その一連の様子を見守っていた雪野孝（fa3196）とラム・セリアディア（fa3004）も、さらにかぶせていくべきなのかと、入場口付近で悩んでいた。
「‥‥イカンイカン。そんなコトをさせるわけにはいかーん！」
「もう、ダーリンたら独占欲が強いんだから！」
『なんだよ、ラムさん相手いるのかよ。途端に興味が失せた‥‥唯一残っているのは、その年齢差による殺意だけ‥‥』
孝ラム夫妻のやりとりに、再びサトルがイラつきはじめる。
そんな騒ぎをよそに、愛瀬は律儀に試合をつづけていた。もはやリング上は水浸しであるが、一向に勝負がつく気配はない。
『せっかくリングに上がってしまったことですし、このままあずさ選手の試合をはじめましょう。愛瀬選手が残っていても、画面が華やかな分にはなんの問題もありません！』
「不死身の兄を携えて、今日もあずさがやって来たぁ！ お兄さんはあずさのものだ！ プロレスごっこのものだ！ だけど今日はウナギのものだッ！」
ここで突然、武越の解説が入る。無論、ポンポン作りが終わっているはずもない。
『くしや剣山を使えというツッコミもありますが、時間なんか気にしてはいけなーいっ！ 僕たちは、その指さばきが見たいんだーッ‥‥さて、あずさ選手が挑みますは、カカオたっぷりの板チョコレート御三家であります！』
一しきり武越でヒートアップしたところで、落ち着いてあずさの実況に戻るサトル。
リング上では、お兄さんがウナギに串刺しにされたまま、水溜りに沈んでいる。が、あずさは早くも対戦相手のチョコレートに集中してしまっていて、ウナギを突っ込むという残虐行為の結果は忘却の彼方である。
「ちょ、こんなに大きいの！？」
『画面を考えて、勝手に超巨大板チョコを用意してあげるスタッフのやさしさ。ありがた迷惑を身をもって教えてあげる、厳しさの中のやさしさ。ポリフェノールたっぷり、カロリーもたっぷり。忍び寄るは、糖尿病の魔の手かーッ！』
「ちょっと苦い‥‥」
まずは、カカオ比率５０％を完食するあずさ。
「喉に絡みつくよぅ‥‥」
苦しみながらも、つづいて７５％も完食。
『２枚目も完食だーッ！ しかし、画面を見ずにセリフだけ聞いていると、ちょっといやらしい気がするのは気のせいかーッ！？』
サトルが余計な妄想をする中、いよいよ９９％に挑むあずさ。だがしかし、血糖値は急上昇中。しかも、口の中がもさもさして、少し飲み込むだけでも一苦労である。
「飲みます？」
愛瀬が気を利かせてドリンクを差し出すが、あずさの自分ルールでは水分摂取はギブアップなので断るしかない。
苦しいときの兄頼みとばかりに、ふとお兄さんのことを思い出すあずさ。もちろん、お兄さんはあずさの手によってウナギに串刺しにされたままであるが、そんなことは一切気にせず、ウナギがつかえたままの口に残りのチョコを問答無用で押し込む。
『まさかのツープラトン攻撃だーッ！』
チョコが溶け、ウナギも暴れだし、よく分からないぐちゃぐちゃの状態になり、しかもチョコレートの色が変態チックな演出をしている。ここで『この後、チョコレートもウナギもお兄さんも、スタッフでおいしくいただきました』と大嘘のテロップが入り、試合は強制終了である。
『‥‥お見苦しい点があったことをお詫び申し上げます。さあ、次の試合にまいりましょう。愛瀬選手の試合がつづく中、ベクサー選手の入場です！』
同じ衣装に着替え直したベクサーが、まずは入ってくる。そしてイスに座ると、絵本を読みはじめる。
やや遅れて、顔の変形した海風も入ってくる。
『コンビのイニシアティブを賭けての戦いとのことですが‥‥勝負は試合前に決してしまっているような気がします‥‥』
ボロボロになりつつも、この機会を逃してなるものかと、海風は気合い十分である。だが、ベクサーはそれを軽く手で制すだけだった。
「まあ、聞きなさい‥‥泣いた黒鬼。あるプロレス団体に、黒鬼と呼ばれるしょっぱい試合ばかりするレスラーと、赤鬼という魅力的なスタイルバツグン二枚目レスラーが‥‥』
『長くなるのでナレーションベースでお伝えしますが‥‥要するに泣いた赤鬼のプロレスラーアレンジバージョンです！』
一言で片付けられてしまったが、リング上では海風が号泣している。
「自分の地位名誉のために戦うことがいかに愚かなことか、分かったでしょ？」
「うん、分かったよ！」
「これからは他人を思いやる心を持つのよ」
「うん、分かったよ！」
「ドジョウを入れたりのヨゴレ仕事は、全部あんたがやるのよ」
「うん、分かったよ！」
「この仕事が終わったら、私にアンパンと牛乳を差し入れるのよ」
「うん、分かったよ！」
「エコロジーも大切よ。省エネを心がけて。あと、ドラッグもダメ。絶対！」
「うん、分かったよ！」
もはや、何を言われても『うん、分かったよ！』しか言えないほどに号泣しまくりの海風。そのままベクサーに促されて、リングを後にする。やはり、イニシアティブは動かなかった。
「ハイドーモー！ アメリカからキました、らむ・せりあでぃあデース！ ゲイ人ジャないデスヨー！ コレデモろっくしんがーナノヨー！！」
入れ替わり、謎の外人キャラ作りのラムが入場してくる。
「幼きろっくしんがー、大絶唱！ この色気はツッコミ禁止の禁断の魔力ねっ！」
ここでも突然、武越の解説が入る。やっぱりポンポン作りは終わっていない。
『魔力の源はセーラー服か！？ ラム選手、今リングインであります！』
「‥‥って、別に変な役作りしなくてもいっか！」
『あーっと、もうキャラ作りはヤメてしまったようです！ 飽きっぽい中学生役を好演しております！』
リングに、コンビニのセットが運び込まれる。無論、その一角では未だに愛瀬がウナギと戦いつづけているのは言うまでもない。
そんなシュールなコンビニの画の中で、平然と雑誌の立ち読みをはじめるラム。そこに、雪野扮する店長が入ってくる。
「強面紳士の素敵なオジサマ☆ やっぱり男はスーツよね！ うっとり〜」
『‥‥‥‥』
武越のコメントには一切同意することなく、無言を貫き通すサトル。
雪野がリングインすると同時に、店から出て行こうとするラム。その腕をガッとつかむ雪野。
「きゃっ！ 何すんですかっ！？」
「カバンの中の盗った物、出して！」
「何も盗ってない！ 離してっ！」
「じゃあなんだ、このウナギは！？」
「違うのっ！ お菓子が勝手に鞄に落ちてきたの‥‥って、えっ！？」
お菓子を握っていなくてはならない雪野だったが、よく見ればウナギである。
「あ、すいません。ウナギが手につかなくてどこか行っちゃったと思ったら‥‥そこにいたんですね！」
「あ、いえ‥‥」
愛瀬にそう言われると、ちょっと照れながらウナギを渡す雪野。
「あ、勝っちゃった‥‥台本と違うことやってしまったので、罰ゲームとして拭き掃除しまーす！」
罰ゲームと称し、雑巾でびしょ濡れのリング上を拭きはじめる愛瀬。
「えーっと、そうだ！ じゃあなんだ、この雑誌は！？」
「明らかに今、入れたじゃん！」
愛瀬とのやりとりにちょっとカチンときていたラムが、厳しく突っ込む。
「くっ、明らかに風向きが悪い‥‥このままじゃ、子供たちに『万引きはよくない』という崇高なメッセージが‥‥」
「‥‥すいません。私が盗りました」
夫婦ゲンカ勝率９割５分以上を誇るラムが、たまには折れねばと思い直す。というか、そうしないとこの試合の収拾がつかない。
「ええっ！？」
とはいえ、あまりに唐突でも収拾がつかないことに変わりはない。
「というわけで、よい子のみんな！ 万引きすると補導されちゃうから、絶対にしちゃダメだぞ！」
雪野が無理矢理締めくくり、逃げるようにリングを後にする。
何はともあれ、これで全試合終了かと思いきや、武越がまだポンポンを作っている。
『あの‥‥細さはある程度のところで妥協しないと、キリがないのでは？』
「妥協してあきらめたら、そこでゲームセットです！」
『あきらめなくても、時間が来たらゲームセットです。残念ながらここまで。ひきつづき第２部をお楽しみください！』
