春のプロレスごっこSP12アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや易
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報酬 |
0.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/23〜04/25
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●本文
プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、モノマネあり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。
TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。春のプロレスごっこSP01〜05をこなし、すでに疲労困憊極まっている。
「春のプロレスごっこSP05の収録で分かっているとは思うが‥‥というわけで、春のプロレスごっこスペシャルはつづくわけだが‥‥」
またかよ、勘弁してくれと、スタッフ一同に早くも厭戦ムードが立ち込める。
「SP05はSPと0と5に分解されて、スペシャル第0章第5回ということは分かっているよな? でだ。第0章こと序章はこの間終わったわけだが、序章の次は本編の第1章をやらなくちゃならない。分かるよな?」
早くも大ブーイングであるが、一番えらい人がそれを手で制す。
「心配するなー。実は序章に過ぎなかったのだ、と長すぎる序章をやった場合、本章はあっという間に終わるのがお約束だろう?」
「サー! イエッサー!」
一度突き落としてから軽く持ち上げる方式で、あっさりとスタッフの士気が戻る。
もはやスタッフの判断力が低下したまま、春のプロレスごっこスペシャル第1章の収録がスタートした。
だが、彼らは知ってしまった。放映上は1日であっという間に終わるものの、収録は複数本に及ぶということを。
「くそ、だまされた。1日で終わりとはいえ、一気に3本撮りなんてありえねぇ‥‥」
参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。
注意:
・プロレスごっこは安全第一です。怪我はもちろん、ちょっと血が出ただけでもNGです。
過去の放送のスケジュール:
・第1回 2月16日 07:00〜 (第64回として放送)
・第2回 2月28日 23:30〜 (第72回として放送)
・第3回 3月10日 18:00〜 (第80回として放送)
・第4回 3月16日 18:30〜
・第5回 3月30日 07:00〜
・春SP01 4月05日 07:00〜
・春SP02 4月06日 07:00〜
・春SP03 4月07日 07:00〜
・春SP04 4月08日 07:00〜
・春SP05 4月09日 07:00〜
●リプレイ本文
『プロレスごっこ王選手権・春のスペシャル、第1章第2部、実況はこの葉月竜緒(fa1679)におまかせや! 解説は容姿抜群の大道寺イザベラ(fa0330)、今日もまた大道寺様としての登場や!』
「みなさん、おはようございまーす! イザベラでーす!」
実況の葉月に紹介された大道寺、容姿抜群も何も、解説者なのに赤いボンデージ衣装、腰には愛用の鞭という姿である。対する葉月も、片手にマイク片手にメガホンという、よく分からない実況スタイルであるが。
『レフェリーは、明日を夢見るお笑いスター、やのうてアクションスター、パイロ・シルヴァン(fa1772)!』
リング上では、ちびっ子悪徳レフェリーも板についてきたパイロが、マイクを手に堂々と今回の賄賂の説明をはじめていた。
「地獄の沙汰も金次第‥‥ということで、いざというときにこのメダルさえ渡してくれればOKだ。金なら1枚、銀なら5枚‥‥」
前回は贈賄アイテムに千円札を使用したものの、生々しいということでメダルに変更である。そのメダルも、金紙、銀紙に包まれたメダル型チョコレートだ。
一方リングサイドでは、ブルース・ガロン(fa2123)が番組の一番えらい人に何やら頼み込んでいた。
「俺は水槽のかませ犬じゃない。だから、今回は、今回こそはトップバッターで‥‥」
ついには土下座をしてまで、頼み込むブルース。だが、一番えらい人が首を縦に振ることはない。それよりも、その様子を解説の大道寺が豚を見るような目で冷ややかに見ていた。
「崇高なるリングの脇で、卑屈にも土下座とは‥‥おしおきが必要ね」
大道寺がたまらず放送席を離れると、土下座しているブルースの頭をハイヒールで踏みつけである。
「ぬう、この突き刺さるような快感は何だ!?」
ブルースが何かに目覚めつつあるその隙に、一番えらい人がマリエッテ・ジーノ(fa3341)のところへ行くと、何やら耳打ちしている。
『その愛くるしい笑顔は、このむさ苦しい場の一種の清涼剤! オペラニスト、マリエッテ・ジーノがオペラの一節を歌いながらの登場やッ!』
神秘的な澄んだ声を披露しながら、マリエッテがクマのぬいぐるみを背負って入場してくる。一方、リング脇に突っ伏していたブルースが頭を抱えている。もちろん、大道寺の責めの余韻を味わっているわけではない。一番えらい人のいじりによって、ネタをかぶせてこられただけである。
リング中央に対戦相手のクマを置き、自らは青コーナーに下がるマリエッテ。
「ファイッ!」
パイロレフェリーの合図で試合がはじまるが、マリエッテはその回りを様子をうかがうようにぐるぐる回るだけである。
「ファイッ!!」
「‥‥クマさん、勝負です!」
焦れたパイロが促したからではないだろうが、何かを感じたのか散々クマの回りをうろうろしていただけのマリエッテが、突然突っ込んでいく。そしてクマの短い足をとると、ぶんぶんと振り回す。
『これは大技、ジャイアントスイングっ! 回転数をカウントしていく、観客と一体になれる瞬間やーッ!』
だが無論、数える観客などいない。それより、当のマリエッテに数えている余裕などない。
「はうぅ、もうだめです〜」
ベタな展開だが、早くも三半規管が悲鳴を上げているマリエッテ。もちろん、一方のクマが目を回すことなど永久にない。
「あうー、次は負けないですよ〜」
ふらふらになりながら、捨てゼリフを残して去っていくマリエッテ。
一方、次の試合のはずのハディアック・ノウル(fa0491)が、入場口付近でマネージャーと揉めていた。
「こんな仕事だなんて、聞いてないですよ!」
「いいから、いいから。とにかく、大砲と組み合いをして、投げ飛ばした方の勝ち。もちろん、吹っ飛ばされるのが誰だかは分かっているな? なーに、心配するな。落下ポイントにはちゃんと何かを敷いておくから」
「勘弁してくださいよ‥‥」
『こわそうな外見とは裏腹に子ども好き、さすらいのトランペッター、ハディアック・ノウル!』
泣き言を言っていたハディアックであるが、葉月に紹介されてしまってはもう出て行くしかない。マリエッテに対抗してか、トランペットを吹きながらの登場である。ただ、どこか悲しい曲調なのは気のせいであろうか。
「大砲と組み合いって‥‥この中に入れってこと!?」
リング上に置かれた大砲を観察しながら、その中へと結局は入っていくハディアック。その大砲の導火線に、パイロがうれしそうに火をつける。
「スリー、ツー、ワン‥‥See ya!」
パイロがレフェリーとしてのカウントとはちょっと違うカウントを取り、ついに人間大砲ハディアック号の発射である。
ピンと背筋の伸びた弾丸ハディアックが、キレイな放物線を描く。その落下点には、マネージャーが敷き物としてブルースの対戦相手の水槽を用意していた。
「‥‥って、俺の水槽じゃん! だが、マトリョーシカの如く、幾重にも重なった水槽をナメるなッ!」
あっさり自分のネタバラシをしていることには気づかないブルース。
果たして、ガシャーンというガラスの割れる音というよりは、ドカーンという爆発音を上げて、水槽は木っ端微塵である。マトリョーシカ状になっていようとも、水槽が人間大砲にかなうわけがない。
「うぎゃー! だからできないって言ったでしょう!?」
ハディアックがガラスの破片で悶絶しているが、それは無視して変わり果てた水槽の破片を拾い集めるブルース。
「ぬぉーっ! だが、こんなこともあろうかと、もう1セット用意してあるのだよ!」
ブルースが、新たに水槽を取り出す。そこへ、なぜか大砲の発射音が聞こえてくる。見上げれば、クマのぬいぐるみが降ってくるではないか。慌てて水槽をその場において逃げると、見事に命中。水槽は木っ端微塵である。
「今度は勝ったよ〜!」
リング上では、大砲の横でマリエッテが飛び跳ねて喜んでいる。有言実行、次は本当に負けなかったのである。
「ぬぉーっ! だが、こんなこともあろうかと、さらにもう1セット用意してあるのだよ!」
リング上を見れば、マリエッテの横でなぜか一番えらい人から金のメダルを受け取っているパイロ。パイロがリングを下りてブルースのところへ行くと、水槽にハンマーを一振りである。もちろん、水槽は木っ端微塵である。
「ぬぉーっ! だが、こんなこともあろうかと‥‥って、もう熱湯風呂の浴槽しか残ってねーよ‥‥」
ガックリと崩れ落ちるブルース。
『なんかよう分からんけど‥‥ただひたすらに人に見せ人を魅せる事を追求する芸人、琥竜(fa2850)の入場やッ!』
「見事な放置プレイっぷりね、ふふ」
そんなブルースは完全放置で、葉月が次の試合の琥竜を呼び込む。
その琥竜は、青緑色の芋虫風味の着ぐるみでの登場である。
「おいらは帰ってきたぜー! おい、おいらを付け狙うツバメ! お前らに言いたいことがある‥‥が、その前にみんなに言っておく! ツバメと言っても、おばちゃんと一緒にいる若いお兄ちゃんのことじゃねーぜ。おいらがはべらせちゃ、ウホッてなっちゃうからな!」
『そんなん、言わんでも分かっとるわー!』
メガホンできっちりツッコミを入れる葉月。
「ご声援、ありがとー! でだ、ツバメよ、よーく聞きやがれ。一寸の虫にも命があるんだ。反撃だってしちゃうゼ! はっ! やるぞー、いいかー?」
長い前口上とは裏腹に、巨大ツバメが現れると、あっさりとくわえられる琥竜芋虫。
「あうあー。やっぱり、おいらには餌の運命しかないのかよ!?」
だが、ツバメがポロリと琥竜芋虫を落としてしまう。その先には、ブルース最後の切り札、熱湯風呂の浴槽があった。
「いたた! あちち!」
予想どおり、琥竜はその中へ転落する。痛がった瞬間、今度は熱がる琥竜。もちろん、浴槽はその衝撃で真っ二つである。
「俺に一体どうしろと‥‥」
対戦相手をことごとく消されて、ブルースは突っ伏したままである。
『新天地を求め、流れ流され行き着いた先はお笑いの戦場だった、流しのテナー歌手ブルース・ガロン!』
だが、冷酷なまでに平然と、次の試合をアナウンスする葉月。その横では、大道寺が満足そうにうなずいている。ブルースは、勝ち目のない最前線に送り込まれた気分である。
『オペラを歌いながらの登場や! はじめてテナー歌手が役立った瞬間‥‥と言いたいとこやが、すでに二番煎じ!』
気を取り直して、オペラの一節を歌い上げながら登場してくるブルースだが、一番えらい人の策略で、すでにマリエッテにやられてしまっている。
「何しょっぱい試合やってるのよ!」
「しょっぱいも何も、試合ができてないん‥‥ぐはっ!」
いても立ってもいられなくなった大道寺が、リングに乱入してくる。一応ブルースが言い訳をするが、問答無用で鞭の制裁である。
「万が一、クセになったらどうする‥‥ぐはっ!」
「視聴者は、もっと被虐に怯える顔を見たいのよ。それで性癖がどうなろうと、知ったこっちゃないわよ!」
鞭を雨あられと降らせる中、大道寺はライトの電源ケーブルをむしりとると、ブルースを縛りはじめる。もちろん、芸術的な亀甲縛り狙いであることは言うまでもない。
「おーっと、危ない!」
そこへ熱湯風呂を破壊してしまった琥竜が、なぜか指し湯の熱湯をぶちまける。指し湯の熱湯なので、温度は浴槽のそれの比ではない。
「熱っ!」
「んーっ!」
大道寺は熱がって悶絶することができるが、縛られているブルースは小さくうめくことしかできない。逆にもがくほどケーブルが食い込んで、新たな何かに目覚めてしまいそうである。
そんな様子を、のほほんとお茶をすすりながら見ている葉月。
『たまには、こんなのもええなぁ‥‥さて。格闘から音楽、芝居まで、その多彩さからすっかりここの常連に‥‥マルチタレントの若宮久屋(fa2599)やッ!」
阿鼻叫喚のリング上を一切無視して、最後の試合である若宮を呼び込む葉月。リング上のブルースと琥竜は大道寺によってリング下に蹴りだされ、縛りが継続中である。
そんな中、若宮の対戦相手である味噌煮込みうどんがリング上に運び込まれる。
「味噌煮込みうどん‥‥食べ慣れない者が食べると、『これ煮えてないよ〜』というのが多い。だが、中が半煮えなくらいが丁度いいのだ、これはっ! あと、卵を先に食べるか後で食べるかでケンカすることも多い‥‥自分は後で食べる派だが、それは今回関係ない」
試合に先立ちうんちくを語る若宮だったが、葉月が何かに気づいた。
『‥‥ん? 過去の対戦相手が、味噌おでんと手羽先。で、今回が味噌煮込みうどんって、名古屋モンばっかやないか。っつーことは、ドラキチか? こちとらトラキチじゃー! 仙一はうちらのもんじゃー!』
辛抱たまらなくなった葉月が、リングに上がってくる。パイロにメダル型チョコを渡すことは、きっちり忘れない。となれば、阻むものは誰もいない。これで、放送席は完全にがら空きである。
『メン類で勝負っつーことなら、焼きそば定食じゃあ! 焼きそばに白いゴハンは必要不可欠や!』
一方的に宣戦布告する葉月。
「いや、こっちはアツアツなんだし‥‥ズルいよ!」
若宮が何やら反論するが、無論勝負の方法は謎に包まれたままである。
一方、リング下では大道寺の縛りによる、鬼六先生バリの芸術作品が完成していた。
「うおー、虫から虫けら以下の存在にーッ!」
「んーっ!」
琥竜が何やらわめいているが、ブルースに至っては口も拘束されていてうめき声がわずかに漏れるのみである。
「まだ甘いかしら‥‥ね?」
「な、わたくしもですかっ!?」
だがそれでも、大道寺はまだまだ創作意欲の収まりがつかないらしい。ちょうど水槽のケガの治療の終わったハディアックが、目をつけられる。
「視聴者は、もっと被虐に怯える顔を見たいのよ!」
「それ、さっき聞きました! 明らかに、大道寺様の趣味だけじゃないですか!」
「ふふ‥‥口答えしたわね!」
ハディアックも緊縛の虜になったころ、リング上ではパイロが電気ジャーを持ち込んでいた。アツアツの味噌煮込みうどんに苦戦する若宮に対し、快調に飛ばす葉月。そこへ一番えらい人からメダルをもらったパイロの、ゴハンおかわり自由による徹底した炭水化物攻撃の横槍である。
『む、おかずの焼きそばが‥‥』
「だから、おかずが焼きそばってありえないから!」
『なんやとー!』
思わずメガホンでパコっと一殴りする葉月。だが、すでにメダルをもらっているパイロは見て見ぬふりである。
「‥‥そういうわけで、宴もたけなわではございますが、お時間になりました」
気づけば、実況席にマリエッテが座っていた。解説席には、人間大砲の衝撃で内臓の綿の飛び出たクマのぬいぐるみが置かれている。
「ひきつづき、第3部をお楽しみください! 以上、マリエッテがお送りしました〜」