お笑い逆チキンレースアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや易
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報酬 |
0.5万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
02/18〜02/20
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●本文
チキンレースとは、チキン(臆病者)でないことを示すために、たとえば車で崖に向けて疾走し、いかにギリギリのところで踏みとどまれるかを競うものである。つまりは、いかにギリギリで1位をとれるかというものである。
そしてまた、ブービーという言葉がある。本来は最下位を表していたブービーだが、最下位は狙えば獲れてしまうので、最下位よりも狙いづらい下から2番目になったものである。
そして、ある意味この二つを融合させた、逆チキンレースというものがある。そう、いかにギリギリで1位にならないかを競うものである。全員が全員、1位になってはいけないという縛りがあると、ワケの分からない駆け引きが起きて、そこに笑いが生まれるという発想である。
第1回、芸能人クロスカントリー大会。
そう書かれた、参加を呼びかけるFAXが各書に送信された。
ただし、末尾にはでかでかとこう書かれていた。
『優勝賞金は10万円だ。ただ、優勝したら干すからな!』
●リプレイ本文
『晴天に恵まれましたどこかの山奥、第1回となります芸能人クロスカントリー大会を迎えました。現在の気温は氷点下10度、絶好の遭難日和であります』
物騒な実況の中、精鋭8名がスタートラインに並ぶ。
『順に出場者を紹介していきましょう。まずはトール・エル(fa0406)選手』
「わたくしの舞と美しさをご覧なさい。おっほっほ!」
きっちりと口に手の甲を添えて高笑いするトール。
『ダンサーとしての体力が生きるかどうか。しかし、順調に空回りしているようで不安です。つづきまして、志羽翔流(fa0422)選手』
「みんなー、がんばるから応援よろしくー♪」
なぜかダルメシアンの着ぐるみを着用して、ハイテンションな志羽。
『しかし、着ぐるみの防寒効果は侮れないかもしれません。そして、やみくもあんどんの二人です』
「ねえ、ベクサーちゃん」
「なに?」
海風礼二郎(fa2396)とベクサー・マカンダル(fa0824)による小芝居がはじまる。
「僕たちさ、どう考えても勝てないんじゃない?」
「分かってないわね! 考えてもみなさい。これはただのレースじゃなくて、芸人たちのレース。お笑いのクロカン、フェスタなのよ。必ずどこかにトラップ的な物が仕かけられているはずよ」
「そーかな?」
「そうよ。っていうか、すでに私がこっそりとスタッフの目を盗んで、コース上に長い木の枝を見えづらく設置しておいたわ。あの枝に足を取られた人は、蛇に咬まれたと思って腰を抜かすに違いないわ」
「なるほど。やっぱりベクサーちゃんは頭がいいね、学があるね。っていうか、姑息だね、腹黒だね。先に行った人がそのワナに引っかかってる間に、僕たちが悠々とゴールするっていう寸法だね」
『ちなみに彼らが仕かけるまでもなく、他にもトラップは仕かけられております。つづいて、水野ゆうこ(fa1534)選手』
「がんばります」
小さくガッツポーズしてみせた水野は、体操服姿に縄跳びを持っている。
『これは‥‥今となってはレアなブルマ着用。この極寒の地で、生足披露とは恐れ入ります。そして、七瀬・瀬名(fa1609)選手』
「クロスカントリーって雪中行軍でしたっけ?」
こちらは青いジャージと、おとなしく決めている。
「ラブリー瀬名ちゃん♪ フェアリー瀬名ちゃん♪ キュートな瞳にドキドキさ〜♪」
『何やら不気味な騒音が入ってきましたが‥‥これは鬼道幻妖斎(fa2903)選手です』
七瀬に合わせた青いハッピ姿の鬼道が、首からぶら下げたメガホンで叫んでいる。
『そして最後に、HAKASE(fa2600)選手』
なぜかニワトリ型のパペットをカメラにやたらと見せるHAKASE。
『以上8名で競います。さあ、スターターが‥‥おや、これはトール選手ですね。一体どうしたことでしょう?』
『お嬢なので、ハンティングだと思っているのでしょう』
政治軍事評論家の評論家の部分の血が騒いだのか、鬼道がいつの間にか解説席に来ている。
『しかし、水平発射しようとしているように見えるのですが』
『スタートラインに並ぶ参加者を狙っているんでしょうね』
『え!? ハンティングって狐狩りみたいなのじゃなくて、人なんですか?』
『ええ、それが貴族の遊びというものです』
そんな中、トールが号砲一発。無論、実弾が入っているわけではないので危険はない。
『おっと、瀬名ちゃんが行ってしまう‥‥では!』
七瀬がスタートを切ったのを見て、鬼道も慌てて後を追う。
『今、鬼道選手もスタートして、全員スタートと‥‥いや、まだ二人残っています。水野選手が転倒していますが‥‥どうやら、縄跳びでいきなり足を引っかけて転んだようですね』
スタート地点から一歩だけ踏み出したところで、水野が縄に絡まってもがいている。
『もう一人は‥‥HAKASE選手ですかね。スタート前にしきりにカメラに見せていたパペットに何やら細工をしているようですが‥‥あ、走り出しました。ん? 何やら紐のようなものが伸びてますが‥‥』
パペットの口から伸びている紐には大量の旗が延々と付いていた。通常ならば万国旗なのだろうが、芸が細かく卵がニワトリになるまでのパラパラ漫画になっていた。
『折角ですから、画面右下のワイプでしばらくご覧いただきましょう。気を取り直して、先頭から見てみましょう。見晴らしのよい平坦コースを、スターターだったはずのトール選手がぐんぐん飛ばしております。競馬の世界では、少しでもテレビに映ろうと玉砕的大逃げを打つテレビ馬というものが‥‥』
「さぁ、わたくしの踊りを堪能なさい」
十分にカメラを引き付けたところで、突然踊りはじめるトール。そして、踊り切るとスタートダッシュの疲労も相まって、その場にへたり込んでしまう。
『そんな間にも志羽選手が追いついてきました』
しかし、志羽はトールにカメラが当たっていると見るや、無意味にそこを走り回りだした。
「目指すは一等賞〜! 10万え〜ん!」
カメラに向かって指を一本立てて見せたりもするが、進む気配はまるで見られない。
『どうやらこの二人、テレビ馬よりもタチが悪かったようです。その隙に、押し出される形でやみくもあんどんの二人がトップに立ちました。そのまま林の中へと入っていきます』
『やや遅れて、七瀬選手。これにぴったりと鬼道選手が併走しております。鬼道選手はハンディを持ってますが、番組撮影用のものではありません!』
『さあ、先頭に戻りましょう。木々に囲まれた中、トップを走りますはやみくもあん‥‥』
「わっ!」
突然、海風が悲鳴を上げる。長い木の枝に、足を引っかけてしまったようだ。
「毒蛇に咬まれた〜」
半べそで、そのまま倒れこむ海風。
「私の努力を無にするなぁ!」
『トップ通過ゆえに、自分たちのワナにしっかりとかかった模様です。完全に歩みが止まってしまいました。これは大きなロスです』
そんな間にも、カメラはついにゴール前に切り替わる。
『さあ、間もなく林を抜けます。林を抜けたら、すぐそこはもうゴールです。しかし、ゴール直前なのに、給水所が控えております。まさに、小道具を受け取れと言わんばかりです!』
給水所には、明らかに水分補給と関係ないものが多数混じっていた。
『あーっと、トップが見えてきました。どこでどう入れ替わったのか、志羽選手です!』
志羽は給水所に近づくと、ガッツばりにバナナを一房丸ごと手に取った。そして、食べるたびに皮が無造作に捨てられていく。
そして再び走り出すが、案の定バナナの皮に滑ってしまう。
『大方の予想どおり、志羽選手転倒! しかし、ただ悶絶するのみで、リアクションがとれてない! これは‥‥おっと、運悪くその部分の地面だけがアイスバーン化していて、リアクションがとれないほど痛かった模様です』
『つづいて現れたのは、七瀬選手と鬼道選手です。あーっと、しかし、林を抜けた開放感からか、七瀬選手、突然雪ダルマを作りはじめたーっ!』
「いいよ、瀬名ちゃん。ソレいい感じ〜」
ハンディを構えた鬼道が、我が子を録る親バカ状態でつきまとっているので、七瀬もノッてしまって完全に走りが止まった。
『おや? 七瀬選手の雪ダルマの横を、もっと大きな雪ダルマのが通過したように見えましたが‥‥あーっ! 志羽選手が雪玉になって転がっている! 悶絶するうちに雪玉になって、ここまで巨大化していたーッ!』
一直線にゴールに向かって突き進む志羽雪玉。
『このまま決まってしまうのか? いや、消えた、消えたーッ! 突如として、志羽選手が消えたーッ!』
今まさにゴールテープを切ろうとしていた志羽雪玉だったが、ふっと消滅してしまった。よく見てみると、ゴールの前には巨大な穴が開いていた。
『落とし穴だ〜! 志羽選手、転落〜! さあ、後はこの大きく口を開けた落とし穴を最初に飛び越えた選手が優勝となります』
『ついで現れたのは、水野選手だ!』
水野が律儀に縄跳びをしたまま、ついにここまでやって来た。
「きゃっ!」
が、ゴール目前にして縄に引っかかって転倒、勢い余って落とし穴に落ちてしまう。
『水野選手も落下ーッ! もはや、誰が勝つか分からないーっ! さあ、HAKASE来た!』
だが、これまたゴール目前にして、不自然にメガネを落としてしまう。
「メガネ、メガネ‥‥あーっ!」
メガネを手探りで探しているうちに、HAKASEも落とし穴に落ちてしまう。
『手元の資料によりますと、度の入っていないメガネとのことですが‥‥とにかく、HAKASE選手も落下!』
「わたくしの様な高貴な者には、クロスカントリーはきついですわ」
トールが何やらボヤいているが、ここに来てまさかまさかのトップである。
「えっと、これを飛び越えればいいのかしら?」
「落とし穴を飛び越える前に言っておくッ! あ‥‥ありのまま、今起こった事を話すゼ! 『俺はバナナの皮に滑ったと思ったら、いつの間にか落とし穴に落ちていた』 な‥‥何を言っているの分からねーと思うが‥‥」
落とし穴の中から志羽が何やら言っているが完全にスルーして、その頭上を飛び越えていった。
『ゴーールッ! トール選手優勝!』
「わたくしなのですから、当然ですわよ。おっほっほぁ〜っ!」
そう言って、表彰台に向かうトールの足下で、さらなる落とし穴がぽっかりと口を開ける。
『あ〜! また落ちた〜!』
「優勝、おめでとう!」
そんなトールに、追いついてきたベクサーと海風が手を差し伸べる。
『あーっと、落ちました。ベクサー、海風両選手も転落! いや〜、ベタです。キレイに落ちたところで、どこぞの山奥からお別れの時間がやって参りました。ごきげんよう、さようなら!』