春のプロレスごっこSP13アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/23〜04/25

●本文

 プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、モノマネあり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。

 TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。春のプロレスごっこSP01〜05をこなし、すでに疲労困憊極まっている。
「春のプロレスごっこSP05の収録で分かっているとは思うが‥‥というわけで、春のプロレスごっこスペシャルはつづくわけだが‥‥」
 またかよ、勘弁してくれと、スタッフ一同に早くも厭戦ムードが立ち込める。
「SP05はSPと0と5に分解されて、スペシャル第0章第5回ということは分かっているよな? でだ。第0章こと序章はこの間終わったわけだが、序章の次は本編の第1章をやらなくちゃならない。分かるよな?」
 早くも大ブーイングであるが、一番えらい人がそれを手で制す。
「心配するなー。実は序章に過ぎなかったのだ、と長すぎる序章をやった場合、本章はあっという間に終わるのがお約束だろう?」
「サー! イエッサー!」
 一度突き落としてから軽く持ち上げる方式で、あっさりとスタッフの士気が戻る。
 もはやスタッフの判断力が低下したまま、春のプロレスごっこスペシャル第1章の収録がスタートした。
 だが、彼らは知ってしまった。1日で3本撮りだということを。
「あー! とにかく、これさえ終われば、本当に終わるんだ。うひょー!」
 だが、彼らは知らない。一番えらい人が未だにほくそ笑んでいたのを。
「ゴールデンウィークが控えているのに気づかないもんだねぇ。これで終わりだと思うなよ‥‥くっくっく」

参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。

注意:
・プロレスごっこは安全第一です。怪我はもちろん、ちょっと血が出ただけでもNGです。

過去の放送のスケジュール:
・第1回 2月16日 07:00〜 (第64回として放送)
・第2回 2月28日 23:30〜 (第72回として放送)
・第3回 3月10日 18:00〜 (第80回として放送)
・第4回 3月16日 18:30〜
・第5回 3月30日 07:00〜
・春SP01 4月05日 07:00〜
・春SP02 4月06日 07:00〜
・春SP03 4月07日 07:00〜
・春SP04 4月08日 07:00〜
・春SP05 4月09日 07:00〜

●今回の参加者

 fa0048 上月 一夜 (23歳・♂・狼)
 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa0829 烏丸りん(20歳・♀・鴉)
 fa1881 アースハット(27歳・♂・鷹)
 fa2215 和山 繁人(19歳・♂・ハムスター)
 fa2577 T3(28歳・♂・狼)
 fa3028 小日向 環生(20歳・♀・兎)
 fa3354 藤拓人(11歳・♂・兎)

●リプレイ本文

 いきなり観客席が映し出される。今まで一人たりとも観客のいなかったこのプロレスごっこ王選手権であるが、通算13回目にしてついに超満員という謎の画である。
 通算13回目だからか縁起のいい数字だからか、実に130脚ものパイプイスが並んでいる。そこに座るは、人間大の藁人形。頭にはなぜか桜餅とヤジロベーが乗せられていて、シュールの限界を軽く突破している。僕たちはこんな観客が欲しかったんじゃない! の典型である。
「疲れた‥‥です。そんな‥‥ときには‥‥コレで‥‥回復‥‥です‥‥」
 それらをセッティングした湯ノ花ゆくる(fa0640)が、やり遂げた気持ちのいい汗をぬぐいながら、メロンパンを食べはじめる。
『‥‥異様な光景からはじまりましたが、プロレスごっこ王選手権・春のスペシャルもいよいよ最終回! 気にせずにまいりましょう! 実況、解説は藤拓人(fa3354)でお送りします』
 藤の実況の中、車が入ってくる。
『さあ、全面シャドウグラスの高級車が入ってきましたが‥‥レフェリーの和山繁人(fa2215)です! レフェリーでありながら、選手以上の派手な入場です!』
 和山が富豪というキャラ作りでの登場である。どちらかといえば、一代で財を成したというよりはぱにょんとした御曹司風味であるが、それもキャラ作りのなせる業かどうかは分からない。
『さあ、今度こそ選手の登場です。烏丸りん(fa0829)選手が、無謀にも体重計に挑むわけですが‥‥ずいぶんとごちゃごちゃしたドレスを着込んでいます。予防線を張っているのでしょうか?』
 すでに、リング上には体重計が控えている。しかも、大画面モニタにリアルタイムで体重を表示する男前な仕様である。
 早速、烏丸がその体重計の上に乗る。
「え? ああ、カウントですね‥‥えーと、80、90‥‥」
 和山がレフェリーであることを思い出したかのようにカウントをはじめるが、明らかに数字がおかしい。
「いくらなんでも、そんなに重いわけないでしょ!」
 和山がモニタの方を見ずに体重計に乗っかり、烏丸の股の下から顔を出して目盛りを見ているのだから、和山の体重も加わって重くなるのは当然である。それよりも、堂々と股の間に潜り込んでいることを突っ込めというところだが、天然ボケな行動は気づかずにスルーされがちなものである。
「そうですかねー? 案外‥‥ぐぼっ!」
 だが、和山がそう言って烏丸の方を見上げたとあっては、スカートの中身が丸見えになるので、さすがに烏丸も気づかないわけにはいかない。烏丸のハイヒールが、和山の顔面にメリっとめり込む。
『さりげないセクハラ攻撃も、やはり体重の前では大事の前の小事でしょうか? 烏丸選手、和山レフェリーにめり込んだままのハイヒールを脱ぎ捨てると、アクセサリー類も片っ端から外していきます』
 それでも目標体重から遠かったのか、烏丸は思わずよろめいてしまう。
『烏丸選手、目がうつろです。ふらついているが、ショックのあまりか、あるいは無理なダイエットの反動か‥‥しているのかどうかは知りませんが。しかし大切なのは、体脂肪率の方といいますか、内臓脂肪の方なのですけども‥‥まあ、乙女心ということにしておきましょう』
 藤は11歳とは思えない、達観した物の言い様である。一方の烏丸は、25歳という年齢が逆に達観を許さない。
『ついに下着をも外しはじめました。カメラに映らないところを、なるべく映らないように外しているのですが‥‥逆にいやらしく見えてしまうのは、気のせいでしょうか?』
 だがそれでも、目標体重の40キロを切ることができない。すでに烏丸は半泣き状態である。
『現在40.5キロ、あとわずかではありますが、すでに下着をはずしていて、これ以上服を脱いで落とすわけにはいきません。あーっと、烏丸選手、会場内を走りはじめました。ボクサーの検量の様相を呈しています。長期戦になりそうですので、その間に次の試合へとまいりましょう!』
 和山がめり込んでいたハイヒールをパコっと外して、ようやくレフェリー復帰である。
『第二試合は上月一夜(fa0048)選手、対するは起上り小法師のパンチングボールであります!』
 体重計をどかして起上り小法師をセットすると、早速ボクシングの構えである。
「君が倒れるまで、殴るのを止めない!」
 もちろん、パンチ一発ごとに倒れるので止めてもいいのだろうが、その度に起き上がってくるので、どうやら倒れっぱなしのKOになったときが試合終了のようだ。
「こっち見んな!」
 起上り小法師の顔に向かってそんなことを叫んでいるが、一向に終わる気配を見せないのは言うまでもない。
『えー、この試合も長期戦になりそうですので、その間に次の試合へとまいりましょう!』
 上月がさっくりとリング下に回されて、そこで延々と起上り小法師と戦っている。走り回っている烏丸にこそいい運動のような気がしないでもないが、もはや上月を止めることはできない。
『つづいては、湯ノ花ゆくる選手なのですが‥‥何やら様子がおかしい!』
「ゆくるの‥‥対戦相手は‥‥コレれす‥‥」
 一升瓶を片手に、すでに呂律の回っていない湯ノ花。一升瓶の中には、ハブ酒にハブが入っているように、メロンパンがぷかぷか浮かんでいる。
 急遽、『未成年者の飲酒は法律で禁じられています。湯ノ花ゆくる選手は訓練された未成年者なので問題ありませんが、よい子も悪い子もマネしないでね☆』のテロップが流れる。
 もちろん、訓練されていようがいまいが大問題なので、湯ノ花には内緒でノンアルコールのものに変えられている。ならば、なぜ湯ノ花が酔っているのか? メロンパンエキスで酔える女だからである。ポーションで悪酔いするようなものである。
「酒は‥‥飲んれも‥‥飲まれるな‥‥れす‥‥」
『確実に飲まれている気がしますが‥‥あーっと今、スタッフに運び出されていきました。よい子のみんなは、こんな大人にならないように気をつけましょう!』
 運び出される湯ノ花から会場内に目をやれば、烏丸が起上り小法師にバランスボールのように乗って減量中である。一方の上月はといえば、湯ノ花の忘れ形見の藁人形と戦っている。藁人形は130体もあるので、いつの間にか百人組手以上の荒行になってしまっている。
『まともな大人はいないのでしょうか? つづいては、T3(fa2577)選手がリモコンと戦い‥‥おや? アースハット(fa1881)選手が乱入してきましたが、これは一体‥‥!?』
 リングに運び込まれたテレビを前に、リモコンをガチャガチャいじるT3。もちろんチャンネルはTOMITV以外ありえないわけだが、それでもチャンネルをガチャガチャ変えている。
「おいおい、今日は『激☆男戦艦プリプリマリリン』第7話の日じゃないか! 主人公のスイトピー笠原の、新宿系のオカマを見ると足がすくんでしまうという謎のトラウマの真相が明らかになる大事な回じゃないか! そんな回なのに、なぜチャンネルを変える必要がある!」
 リモコンを奪い、チャンネルを『激☆男戦艦プリプリマリリン』をやっている謎の局へと変えるアースハット。
「そんな番組、ありましたっけ?」
 和山が冷静にツッコミを入れるが、アースハットは落ち着いたものである。
「こういう番組は、小さいときのタイムラグ5歳が大きく効いてくるんだよ!」
「え? 今放送している番組のチャンネル争いなんじゃ?」
 よく分からない理屈で和山を退け、T3と対峙するアースハット。特に見たい番組があったわけではないとはいえ、対戦相手のリモコンを奪われたとあっては、T3も黙ってはいられない。
「回転レシーブ‥‥ならぬ、回転奪取ッ!」
「なんの! 俺の男超時空撃滅砲が火を噴くゼ〜!」
 理解不能な技が飛び交い、リモコンの奪い合いは熾烈を極めた。
『よい子のみんなは、間違ってもこんな大人にならないように‥‥おーっと、T3選手がDVDプレイヤーを取り出しました!』
 藤が冷ややかな目で実況する中、T3がアースハットにDVDプレイヤーを差し出す。リモコンを奪い返すのをあきらめ、アースハットにリモコンを差し出させる戦略に切り替えたようだ。
「これがあれば、好きな時に何度でも見られるぞ」
「‥‥旦那ぁ、最初からそう言ってくださいよー」
 急にもみ手になり、ヘコヘコしだすアースハット。
「ぷっ‥‥」
 思わず吹き出してしまう和山。DVDプレイヤーごときで急に卑屈になるなんて、と富豪キャラ健在である。
『プレイヤーであってレコーダーではないので、パッケージ版が出るまで待たなければなりませんが‥‥』
 そんな中、冷静にというよりは冷ややかに分析してみせる藤。だが、アースハットはスイトピー笠原のトラウマの謎をさっくりとあきらめ、ホクホク顔である。
『贈賄だろうと収賄だろうと、よい子は賄賂をマネしちゃダメですよ。ああいう、社会不適応者になりますから──』
 リング下に降り、観客席に陣取ったアースハットは、なぜかティッシュの箱を手にしている。つなぐテレビも見るソフトもないが、脳内ではステキ映像が駆け巡っていることだろう。あとは、男超時空撃滅砲が発射されないことを祈るしかない。
 さらにその横では、体重計を前にガックリと肩を落とす烏丸と、組手に敗れ去って仰向けに倒れる上月の姿がある。負け組勢ぞろいの様相である。
 一方、リング上に残ったT3は、今度こそリモコンと戦いはじめている。最初は普通に操作していたくせに、エルボーを落としたりと豪快な操作になっている。
『先程のリモコン争奪戦の際に、乾電池が外れたことに気づいてないようです。強く押せばなんとかなると思っているようで‥‥よい子のみんなはこんな大人に‥‥』
 バキっ! 藤が言い終わるよりも早く、プラスチックの砕ける音が響く。見れば、リモコンが粉砕されてしまっている。
「あ、すいません。見てなかったです。どうしましたか?」
 だが、和山レフェリーはしっかり見ていなかった。リモコン殺傷によるT3の反則負けのはずが、試合続行である。
「う‥‥ムリだ。試合を止めてくれ!」
「ファイッ!」
 だが、和山が冷酷に試合を続行させる。助けを求めて辺りを見回すT3。するといたではないか、魔法少女が。
「愛とメロンパンの魔法少女メロットゆくるん‥‥参上です、ひっく‥‥」
 強制退場させられたはずの湯ノ花が、しっかり魔法少女の衣装に着替えての登場である。
「‥‥試合終了ですね」
「だろ?」
 和山とT3の意見が急遽一致する。確実におかしいままの湯ノ花を抱えて、今一度強制退場である。
『これまで反面教師しか登場していませんが‥‥早くも大トリとなりました。小日向環生(fa3028)選手の入場です‥‥おや、一番えらい人の息子さんのカケル君を伴っての入場のハズですが‥‥見当たりませんね』
 女家庭教師に扮する小日向が、一人で入ってくる。本当は教え子として、一番えらい人の子どもを拉致ってくるはずだったのだが、家庭教師をつけるような年はとうに過ぎていたのである。
「カケル君、カケル君じゃない!」
 なぜか笑顔で藤のもとへ走ってくる小日向。
『な、何を!? 僕は拓人‥‥ぐはっ!』
 にこやかに鉄拳で黙らせる小日向。試合を成立させるために、多少の無理は通らせる方針のようだ。多少どころではすまない気もするが。
『はい‥‥カケル君です‥‥』
「よろしい」
「おい、カケルじゃないか! 何でこんなところにいるんだ!?」
 リングサイドから、一番えらい人も悪ノリしている。もはや、藤の周りには悪い大人しかいない。
「では、昨日までの復習ができているか、英語の小テストからはじめましょう」
『はい‥‥しくしく‥‥』
「カケル! 今日は父さんが授業参観で見守っているぞ!」
 小学生ながらに、本当に英語の小テストを受けさせられる藤。ガチで英語教育のカリキュラムの先取りである。
「5分経過〜」
 いつの間にか戻ってきていた和山が、事情がよく分かってないながらに淡々と時間をカウントする。
 観客席には、こちらもいつの間にかアースハットの隣にT3も座っていて、一緒に別世界に旅立っている。そして和山が戻ってきたということは、暴走機関車湯ノ花号の拘束が解かれたことを意味する。
「祝‥‥全弾点火‥‥なのです‥‥」
 見れば、湯ノ花が導火線に火をつけている。その先を見てみれば、藁人形につながっている。そう、すべての藁人形に花火が仕かけてあったのだ。
 フィナーレを飾るべく壮大に爆発する藁人形群。組手のせいで藁人形の中に倒れていた上月が巻き込まれるが、何事にも尊い犠牲はつきものである。おかげでアースハットとT3は別世界から帰還し、烏丸の体重はうやむやになったのだから。
 だが、藤を囲む小日向、和山、一番えらい人のトライアングルだけは強固であった。周囲の喧騒をよそに、小テストを続行中である。
「終〜了〜」
「ちょっとカケル君、この点数は何!?」
「カケル、家庭教師をつけてやったのに、その点数はないだろ?」
『よい子のみんなは、こんな汚れた大人になっちゃダメですよ! しくしく‥‥』
 藤の泣き顔がアップになる。よい子のみんなに向けて作られた一連のプロレスごっこ王選手権・春のスペシャルは、実によい子向けなまま幕を閉じた。