階段の落ち方アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや難
報酬 0.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/27〜04/29

●本文

 階段落ち──その名のとおり、階段を転げ落ちることである。土方歳三役の銀ちゃんの階段落ちはあまりに有名である。
「‥‥いや、それは分かるんですけどね。ただ10mの階段だけ用意して、ただ落ちて這い上がるだけってのはどうかと思うんですが‥‥」
 先輩の出した企画書に、後輩がダメ出しをしている、とある日の会議室。
「‥‥銀ちゃんはちゃんと意味あって階段落ちしましたけど、この企画じゃなんの意味もないじゃないですか!?」
 黙って聞いていた先輩であるが、もちろん先輩たるものが引き下がろうハズもない。
「意味がないのにそこまでやるから、おもしれえんじゃねえか!」
「そ、そういうものですかね?」
「そういうもんだ! 普通のことしても、わざわざテレビで見ようとは思わねーだろが。イカレてるからこそ、わざわざ見ようと思うんだ。リアクション芸、ナメんじゃねえぞ!!」
「リアクション芸って、そういうもんでしたっけ?」
 有言実行、不言実行、とにかく実行、後先考えずに実行。そもそも、後先など考えていたら、こんな企画は通らないのである。
 いかにおもしろく階段落ちをするか、怪我人続出必至の企画が今ここにスタートした。

『階段の落ち方』
 10mの階段をいかにおもしろく落ちるかを競い合います。
 リアル志向なので、ちゃんと生身で落ちなくてはなりません。
 一番おもしろかったと判断された優勝者に、賞金10万円が授与されます。

その他注意点
・流血、怪我OKです。但し、治療費は自己負担です。
・重傷、重体、死亡はNGです。死者がでると、番組がなくなってしまいます。
・敢闘賞や技能賞など、優勝以外で若干の賞金が出るかもしれません。

●今回の参加者

 fa0791 美角やよい(20歳・♀・牛)
 fa0826 雨堂 零慈(20歳・♂・竜)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2609 朱凰 夜魅子(17歳・♀・竜)
 fa2860 静琉(16歳・♂・兎)
 fa2944 モヒカン(55歳・♂・熊)
 fa3135 古河 甚五郎(27歳・♂・トカゲ)
 fa3562 菊人(21歳・♀・アライグマ)

●リプレイ本文

 10メートルもの階段を、見上げるようにカメラがなめる。その上には、階段落ちを今か今かと待ち受ける、腕組みして立つ8人の命知らずたち。
 普段どおりのラフな格好の者もあれば、特撮の怪人風あり、全身板金鎧あり。確実に全員、頭のネジが緩んでいる猛者どもである。
 だが、頭のネジが緩んでいるレベルを超越した者が一人。なぜか階段を落ちる前から重傷を負っているモヒカン(fa2944)であるが、別にリハで負ったわけではない。以前から負っているものである。それなのに階段落ちに挑もうというのだから、打たれすぎのパンチドランカー状態である。
 ここで全員が一旦引っ込み、改めて古河甚五郎(fa3135)が出てくる。といっても、いきなり飛び降りるわけではない。ガムテープ職人の名に恥じず、バミっているところである。
 入れ替わり、菊人(fa3562)が入ってくる。いよいよ、大怪我上等企画のスタートである。古河のバミりに合わせて布団、目覚まし時計とセッティングしていく。そして、さすがにパジャマではなくライダースーツを着て、布団に入ってスタートである。
 こんな場所でわざわざ寝るバカはいないのだが、そんなことを言っては企画が成立しない。そんな間にも、目覚ましが鳴る。
 布団の中から、菊人の手が伸びる。だが手をすべらせ、目覚ましが鳴ったまま階段の方へと転がっていってしまう。
「あーっ! 先祖伝来の粗品の目覚まし時計が!?」
 大切なのかよく分からないが、ビーチフラッグのようにすばやく起き上がる菊人。階段へと向かって突進すると、時計よりも早く階段前に回り込めた。
「やばっ!」
 極めて当然のことながら、時計をキャッチした瞬間に菊人の勢いが死ぬものでもない。前傾姿勢でつかんだので、そのまま階段を転がりはじめる。
 だが何を思ったのか、そのまま時計を抱えていればいいものを、転がりながら投げてしまう菊人。追い込まれすぎてワケが分からなくなったのかと思いきや、自分で投げた時計を自分でキャッチしている。
 それを繰り返しながら、ついには10メートルを転がり落ち切ってしまった。
「いやー、時計が身体と階段に挟まれて壊れるとマズいと思いまして‥‥ガクッ」
 よく分からない理由を述べているが、気が動転してそのような理由になったのではなく、素でそれが一番いいと思っていたようだ。とはいえ、時計は無事である。本人はあまり無事ではなく気絶してしまったが、大きな外傷はない。
「あー、やっぱり滑りすぎですかね‥‥」
 上から覗き込んでいた古河が、幅広ウレタンシートの巨大ロールを持って現れる。
「これを敷けば、階段の角に頭をぶつけても大丈‥‥うわっ!」
 大丈夫になる前に、古河が足を滑らせてロールもろとも転落である。慌ててロールに乗っかって難を逃れようとするが、円柱状の形がかえって勢いを増してしまっている。
「どひーっ!」
 ロール上を必死で走ろうとするが、高低差10メートルの階段を走りきれたら神の領域を軽々突破である。あっさりとロールと一体化すると、そのまま転落である。
 ドスンと壁に激突してようやく止まる。ギャグマンガならばぺたんこになって済まされるところであるが、そんなに甘くないのが生身を使ったこの企画である。
「これは、確かに危険ですねー」
 頭から赤いものを噴き出しながら、平然と古河が立ち上がる。血がダラダラ出ているわけだが、そこはモザイク処理で問題なし。唯一の問題は、古河にずっとモザイクがかかっていて、誰だか分からなくなってしまうことくらいか。
 結局、階段には何の対処もされないまま、サングラスに黒いスーツとマフィア風に決め込んでいる雨堂零慈(fa0826)が階段上に現れる。
 一方、階段下には美角やよい(fa0791)が全身タイツのような特撮チックな怪人スーツを着用しての登場である。悪党2名の対決である。
「とうっ!」
 階段を上りはじめようとした美角に対し、雨堂がおもむろにバック転をはじめる。が、手をすべらせ、いきなりの落下である。
 だが、普通に落ちるわけではない。強靭な腕力で中間地点まで宙を舞うと、あとはドカドカと転がっていく。
 そのまま美角に迫っていく雨堂。だが、美角がさっくりかわす。当然、雨堂はそのままの勢いで転がりつづけ、壁に激突である。
 だが、美角も後ろを振り返ってばかりもいられない。早くも階段上には、ラフに着物を着崩した静琉(fa2860)がいたのだから。
「It’s show time!」
 静琉が合掌したかと思うと、くるりと背を向け、バック宙である。しかも、雨堂に対抗心を燃やしてか、ひねりまで加えている。
 これまた中間地点まで宙を舞うと、あとはドカドカと転がっていく。だがやはり、美角がさっくりかわす。当然、静琉はそのままの勢いで転がりつづけ、壁に激突である。
 しかし、壁のところには先程の雨堂がいなくなっていた。見上げれば、またも雨堂が階段上にいるではないか。若干、スーツがボロボロになってはいるものの。
「まだまだっ!」
 今度は雨堂もバック宙である。しかも、ご丁寧に二回ひねりだ。
 しかし、どんなに高度な技だろうと、最終的には転げ落ちるだけである。そして、美角も自分の見せ場を前に巻き込まれるわけにはいかないので、さっくりよけるのみである。
 雨堂がまたも壁に激突するが、そこにはやはり静琉の姿はない。階段の上である。
 見れば、静琉がなぜか菊人の目覚まし時計を持っている。
「朝だよーっ!」
 叫びざま、目覚ましを階段へ放り投げる静琉。
「もっとやさしく起こしてくださーい!」
 そこへいつの間にか蘇生した菊人が、時計を守らんとダイビングである。さらには、そこへ無意味に大量のひねりを加えて、静琉が飛び込んでいく。
「わっ! おっと!」
 いつの間にか、降り注ぐ雨堂に静琉、菊人をかわしながら美角が階段を上るゲームになってしまっている。
 それでも、なんとか階段を上り切ろうかというころ、突然月見里神楽(fa2122)がショルダーキーボードで『運命』を弾きながら登場である。
「悪は滅びる運命なのよ!」
 月見里がショルダーキーボードから仕込み銃を抜くと、美角を撃ち抜く。
「我が偉大なる組織に栄光あれー!!」
 美角が怪人キャラで断末魔の叫びを上げる。今までの成り行きでクレイジーなクライマーと思い込みはじめていたが、元は怪人役なのである。
 豪快にもんどり打ちながら、落ちていく美角。しかも、仕込んでおいた火薬を爆発させながらである。爆発でスーツが微妙に破れ、怪人というよりはむしろ女幹部のエロスであるが。
 それに対抗してというわけではないだろうが、月見里もミニスカなブレザー制服で階段の上に立っていた。こちらは、見えそうでまったく見えない。
 と、突然スカートをたくし上げて、パンツを見せる月見里。
「残念、見えパンで対策済みなんだよね!」
 そう言ってにぱっと笑う月見里であるが、見られて問題ないパンツであろうとなかろうと、TVの前の男子諸君にはあまり違いが分からないのはいうまでもない。
 そして今度は、月見里が『葬送行進曲』を弾きはじめる。縁起でもないとはいえ、番組自体がロクでもないのでツッコミ無用である。
「‥‥いやいや、本当には死んでないよ‥‥ガクッ」
 悪は倒れるものだという美学を貫いて倒れたままだった美角だったが、どうしてもツッコミを入れずにはいられなかった。そして、今一度ガックリと倒れる。
 そんなこんなで、月見里の曲が『トランペット吹きの休日』に変わる。いよいよ階段落ちというわけである。
 だが、そんな月見里の背後に雨堂と静琉がやって来ていた。そして突然、小芝居をはじめる。
「貴殿の活躍で、怪人は倒された。どうだ、これを機にウチのファミリーに来てみては?」
 サングラスは割れ、スーツもすっかり破れ果ててしまった雨堂だが、マフィアキャラは継続中である。
「確かに、ダンサーとしてはこれ以上階段落ちをしている場合じゃない。意味もなく階段落ちをしては、ただのダンサー芸人になってしまう‥‥」
「そうか、では‥‥」
「だが断る!」
 そう言って、突然階段に向かって走り出す静琉。
「この静琉、階段さえ落ちれればよかろうなのだァア!」
「ちょ、きゃ!」
 きっちり月見里を巻き込んで、階段を転落していく。だがそれでも、月見里が『受難』に切り替えているあたりは芸が細かい。
 そして、階段上にはモヒカンが現れる。外回りのサラリーマンの格好をしているが、明らかにヅラである。
「ぬお!? 私の尊厳を護る城塞が風に!」
 吹くはずのない風に吹かれ、ヅラが飛ばされてしまう。慌てて取りに走ると、なぜか足下には怪談の本が置いてあり、ずるっと滑ってしまう。
「おっとっと‥‥ふう。危ない、危な‥‥ぁぁっ!!」
 なんとか体勢を立て直そうとするモヒカンだったが、結局は転落である。
「アクセルアクセルアクセルゥゥ!!」
 しかも、頭のネジが飛んでいるので、ブレーキというものは存在しない。どこまでもアクセルベタ踏みである。
 ヘッドスライディングの要領で、凄まじい勢いで滑降するモヒカン。そのまま壁に激突するが、何事もなかったかのようにすぐ立ち上がる。
「HAHAHA〜! どんな絶叫マシンよりもスリリングだぜ、もう1回だ!」
 さらに打たれ過ぎて頭のネジも完全に吹き飛んだか、階段落ちも絶叫マシン呼ばわりである。だが、そのおかげか階段落ち自体では無傷である。もっとも、こういうのは怪我の功名とは言わないのだろうが。
 モヒカンが絶叫マシンをもう1回堪能すべく階段を上りはじめたころ、階段の上には超重装備の朱凰夜魅子(fa2609)が登場していた。
 フルプレートアーマーに、フルフェイスのヘルムを着用。もちろん、盾はタワーシールド、腰に挿すは鉄塊のような段平である。まさに、階段を破壊するためだけに生まれてきたモンスターである。
 ヘルムのせいで朱凰の視界は狭く、下でモヒカンが上っていることなどまったく気づいていない。
「行くぞ!」
 なのでなんの躊躇いもなく、ガチャガチャと助走をして一気に飛び降りる朱凰。もちろん、バランスなど取れたものではないから、弾むように転がり落ちるのみである。
 鎧をベコベコにへこませながら、転落していく朱凰。鎧が無傷でも、中が無事ではないというよくあるパターンになってしまうのではないかと、逆に心配になってしまう。
 だが、本当に心配なのはその先に待ち受けるモヒカンである。鋼鉄の塊が降って来ているにも関わらず、よける気配すら見せない。
「HAHAHA〜! KEWL過ぎるアトラクションだぜ〜!」
 ああこれでお蔵入りかと誰もが思った瞬間、階段の方が耐え切れず先に破壊されてしまった。
「あーーっ!」
 落下する朱凰。だが、タワーシールドだけは無事に滑降をつづけ、モヒカンを跳ね飛ばす。その勢いたるや、もはや完全に交通事故である。そのまま壁に激突し、壁に巨大なクレーターを穿つ。
 やっぱりお蔵入りかと誰もが思う中、階段を突き破って落下した朱凰がまずは立ち上がった。
「我が生涯に‥‥悔いなし!」
 段平を抜いて掲げると、結局豪快に後ろに倒れてしまう。
「GREATォォ!! おもしろすぎるゥ!」
 一方のモヒカンも、平然と叫びながら起き上がった。ただ朱凰と違ったのは、そのまま階段を上りはじめたことである。
「これはいけません!」
 それに気づいた古河が、空いた穴をガムテで修繕すべく、慌てて階段を下りていく。なお、治療が済んでモザイクはすでに外れている。
 だが、慌てるあまり足を滑らせてしまった。仕方なく、ガムテープを投げる古河。すると、紙テープのようにシュルシュルシュルーとカッコよく伸びていき、手すりの一つにピタッとくっつく。思わず、月見里が『奇蹟』を弾きはじめる。
「ふぅ‥‥うわっ!」
 だが、それで落下が止まるわけもない。ガムテープ1本の粘着力でどうこうなるほど甘い階段落ちではないのだ。なので、月見里の曲も『悲しみ』に変わる。自分の『受難』から合わせてハイドンでまとめてみたりと、小技も冴え渡る。
 とはいえ、古河が落ちていくことには代わりはない。朱凰の空けた穴のところで、なんとか身体を突っ張らせて耐えるのが精一杯である。
 だが、モヒカンは確実に上って来ている。そしてついに、古河の背中の上にモヒカンの足がかかる。
 ただでさえ不自然な格好なのに、モヒカンの2メートルの巨体に乗られて耐え切れるはずもない。となれば、古河には落下しかない。未だ仰向けに倒れたままの朱凰の上に落下。そして、上からはモヒカンのサンドイッチである。
「WOOHOO〜! JESUS!」
 モヒカンは、もはや確実に脳内麻薬に蝕まれていた。歓喜の叫びを上げると、ついに昇天してしまう。
 一方、安否の気づかわれる古河であるが、平然と起き上がってしまった。そこへ、懐から潰れたガムテープが出てくる。
「そう‥‥守ってくれたんですね‥‥ガクッ」
 だが、ガムテープだけでどうこうなるはずもなく、モヒカンにつづいて倒れてしまう古河。
 こうして、全員の階段落ちが終わった。階段の下には、階段落ちを成し遂げた、腕組みして立つ6人の命知らずたちの姿があった。モヒカンと古河の2人が減っているが、あくまで気のせいである。
 そして、何度も階段を改善しようとしては失敗した古河敢闘賞5万円が、どんな状況であろうとその時に合った曲を演奏しつづけた月見里に技能賞5万円が送られた。
 また、最初から最後まで頭のネジが吹っ飛びっぱなしだったモヒカンが優勝となり、賞金10万円が送られた。