プロレスごっこGWSP01アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや易
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報酬 |
0.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/29〜05/01
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●本文
プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、モノマネあり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。
TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。春のプロレスごっこSP11〜13の1日3連発を終えてまだ1週間も経っていないので、すでに死屍累々である。
「春のプロレスごっこSPからの流れで分かっているとは思うが‥‥というわけで、プロレスごっこ・ゴールデンウィークスペシャルがはじまるわけだが‥‥」
何度目だよ、いい加減にしてくれと、スタッフ一同に早くも厭戦ムードが立ち込める。
「子どもをターゲットに、春休みに春のプロレスごっこSPをやった以上、次の大きな休みであるゴールデンウィークにプロレスごっこGWSPをやるのは必然。分かってくれ!」
それでも大ブーイングである。が、一番えらい人がそれを手で制す。
「心配するなー。確かに、今年のゴールデンウィークは最大29(土)〜07(日)の9日間だ。だけど、それも平日に有給を入れたりすればの話。子どもたちに有給はないから、平日にはやらんよ。それに土日も排除して、純粋に祝祭日だけにしかやらん!」
「なんか、前回もこのノリでダマされた気が‥‥」
「もちろん、1日1本だ!」
「サー! イエッサー!」
もはや疑う余地なしと、あっさりとスタッフの士気が戻る。どちらにしろ、過密労働に変わりはないのだが、うまく目先をそらされてしまった形だ。
「あー、そうそう。一応、各日に沿ったテーマを設けるから。29日はみどりの日だから、みどりの日に沿った内容が好ましい。来年からみどりの日は昭和の日になるし、毎月だけど29日は肉の日でもある。そういったものをテーマにするのもアリだ!」
「サー! イエッサー!」
こうして、プロレスごっこ・ゴールデンウィークスペシャル第1弾、みどりの日編の収録がスタートした。
参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。
注意:
・プロレスごっこは安全第一です。怪我はもちろん、ちょっと血が出ただけでもNGです。
過去の放送のスケジュール:
・第1回 2月16日 07:00〜 (第64回として放送)
・第2回 2月28日 23:30〜 (第72回として放送)
・第3回 3月10日 18:00〜 (第80回として放送)
・第4回 3月16日 18:30〜
・第5回 3月30日 07:00〜
・春SP01 4月05日 07:00〜
・春SP02 4月06日 07:00〜
・春SP03 4月07日 07:00〜
・春SP04 4月08日 07:00〜
・春SP05 4月09日 07:00〜
・春SP11 4月23日 07:00〜
・春SP12 4月23日 07:30〜
・春SP13 4月23日 08:00〜
●リプレイ本文
『緊急放送! ブルース・ガロン(fa2123)選手を偲んで‥‥』
いきなり画面上にデカデカと文字が躍る。背景のリング上には、なぜか大量の菊の花が飾られている。そして中央に位置するは、熱湯風呂に蓋をした棺桶。その上には、ブルースの遺影が置いてある。
ここで、悲痛な面持ちのサトル・エンフィールド(fa2824)がリングに上がる。
『えー、悲しいことが現実になってしまいまいした。すでにご存知かとは思いますが、長年プロレスごっこの一員として活躍されてきた、テナー歌手のブルース・ガロン選手が先日、水槽芸の特訓中に亡くなられました。故人への哀悼の意を込め、テンカウントゴングの後、一分間の黙祷をお願いいたします!』
神妙な面持ちの伊集院帝(fa0376)レフェリーが、厳かにゴングを打ち鳴らす。
カーン、カーンとゴングの音が響く中、一同静かに黙祷である。笑い声が漏れることなど、決してない。
『ありがとうございました。では、このまま熱湯葬に移りたいと思います!』
「ちょ、開か‥‥話が違うぞ! おーい‥‥」
中からドンドンと叩く音が聞こえてくるが、かまわずクレーンで引き上げられる棺桶。棺桶である熱湯風呂の浴槽が透明で、中のもがくブルースの姿が見えるにも関わらず、一切無視である。
『もうあの水槽テク、もとい美声を聞くことはありません。さらば、ブルースよ!』
釘がびっしりと打ちつけられた蓋が開くことはなく、一旦観客席へと運び出される。
『‥‥あらためまして、おはようございます。実況のサトルです。さあ、プロレスごっこ王選手権・ゴールデンウィークスペシャルの一発目、4月29日にちなんだ試合が繰り広げられようとしております!』
ブルースのことは早くもキレイさっぱり忘れて、明るく楽しいプロレスごっこの実況をはじめるサトル。
『そう、今日はなんと言ってもみどりの日であります。草壁蛍(fa3072)選手が、森林伐採上等、焼き畑農業最高! 新緑のこの季節に、あえて常緑樹の黒松と対戦します!』
リング上には、盆栽というにはムリのある、2メートル近い見事な黒松が運び込まれてくる。
一方、入場口からは草壁が小袖を肌もあらわに着崩した、早朝のお子ちゃまには幾分刺激的な姿で入場してくる。腰には長刀を差しているが、それよりも目立つのは徳利というにはあまりに巨大な、一升瓶そのままと言った方がいいような徳利である。
豪快に酒を浴びながらリングインの草壁。だから、観客席に置かれた浴槽棺桶の内側からブルースが助けを求めていても、気づくはずもなかった。
『あーっと、いきなり植木に突っかけていったーッ! 今日はみどりの日だというのに、日本中にケンカを売るつもりでしょうか? でも、僕には分かります。来年からみどりの日は5月4日になってしまいます。だから、4月29日に何をしようと関係ないのです!』
ハサミを手に枝を裁断していく草壁に、勝手にジャイアニズムに解釈して解説するサトル。
「む‥‥むむむ‥‥」
草壁が唸りつつ、全体を眺めながら、少し、また少しと裁断していく。よって、当然長期戦の様相を呈している。
そんな中レフェリーの伊集院が何をしているかといえば、ただただ露出度の高い草壁の身体を凝視していた。というか、そのせいで刀、ハサミといった凶器類も完全スルーである。
『松を動かすことができないので、このまま次の試合にまいりましょう! つづいては、やはりみどりの日ということで、上月一夜(fa0048)選手が薬局の前からパクってきた緑のカエルのマスコットと戦います! 早くも共通点が色だけになってきましたが、気にしてはいけません!』
上月がカエルのセルロイド人形を担いで入場してくる。長年風雨にさらされていたことを証明するかのように、半分緑色ではなくなってしまっているが、それでも構わずみどりの日である。
『テーマ曲のかえるの合唱に乗って、今リングインです! しかも、無意味に輪唱であります!』
ガタガタと揺れている浴槽棺桶の横を通り抜ける上月だが、かえるの合唱にノリノリで気づかない。
『一気呵成にいったぁ! 上月選手、いきなりのラッシュです!』
上月の頭ナデナデ攻撃に、カエルが首を激しくガクガクと揺らす。
『まさに暖簾に腕押し、まったく効かないッ! しかし、上月選手、なおもヘッドバッド! ああ、生きる糧でもない戦いは、かくも悲しいものなのでしょうか!?』
だが当然、カエルの首はボヨンボヨンと揺れるのみ。
「いてて‥‥さすが、薬局の看板を長年張って来ただけのことはある‥‥」
逆に、上月が額をさする始末である。しかし、これをよしとしない人物が一人。
「なんだ、そのヘッドバッドは。腰が入ってないぞ!」
次の試合だったグリード(fa0757)が、クマの着ぐるみ姿のディッキーとして乱入してくる。本職のプロレスラーとして、ついつい黙っていられなかったのだ。
なお、リング上の試合に物申しに参上なので、道端の石のような浴槽棺桶など最初から眼中にない。
『あーっと、ディッキーの乱入です! ヤクルトのピッチャーとは関係なく、ましてや某ネズミとはなんら関係のない、クマのディッキーの乱入です! しかも、いきなりの設定無視での乱入です! ディッキーは基本的に人語は喋らないと台本に明記してあるのですが‥‥』
「基本的にって書いてあるだろ! ディッキーは人間の言葉は分からないけど、子どもたちとはテレパシーで話せるんだよ!」
なぜか都合よくマイクを持っていた伊集院からマイクを奪うと、サトルに食ってかかるグリード。
『だから、ディッキーはしゃべらないでくださいよ! よい子のみんなの夢を壊す気ですかっ!?』
「っつーか、この着ぐるみ重‥‥」
突然ダラけてみせるグリード。子どもたちの夢を壊す気満々である。
『ディッキーは着ぐるみなんかじゃありませんし、中の人などいません! 不思議の国の王子様です!』
「あーーっっ!!」
大きな叫び声に、突然リング上のもう一つの戦いに引き戻されるグリードにサトル、上月。
見れば、伊集院が倒れている横で、抜刀した草壁が立っていた。
「大きな声出すから、変なトコ切っちゃったじゃない!」
と言っても、伊集院を斬ったと言っているわけではない。芸術作品に仕上がりつつあった松を、大声の会話にかき乱されて
『いつの間にか、草壁選手の戦いが終わっていたーッ! 激昂した草壁選手、そのまま伊集院レフェリーをなで斬りだーッ!』
だからまあ、結果として伊集院を斬ってしまったことには変わりないのではあるが、草壁は収まりがつかない。
「ええい! 料理長を呼べッ!」
植木職人ではなく料理長が呼ばれてしまったので、仕方なしに食べ物つながりで三条院棟篤(fa2333)とエミリオ・カルマ(fa3066)が連れてこられる。
「ええい! おまえらでは話にならんわっ!」
「ええっ!」
一瞬の出番で、三条院とエミリオがバサバサっと倒される。
「多分峰打ちだ、心配するな‥‥ふむ、料理長はこの中だな!?」
草壁が誰にも無視されつづけてきた浴槽棺桶の前まで来ると、上段の構えをとる。
気合い一閃、浴槽は真っ二つ。だが、ブルースまで真っ二つとはなっていない。まさにイリュージョンだが、種も仕掛けもないのでもう一度やれと言われてもできない。むしろミラクルである。
そこから、ミイラ男のように全身包帯でぐるぐる巻きのブルースが飛び出してくる。一応包帯が緑色で、そこがみどりの日のようだ。
「ふぅ、やっと出れ‥‥あちッ!」
開いた瞬間から、スタッフがすばやく熱湯を注ぎ込む。浴槽に熱湯が入っていなければ熱湯風呂ではない。たとえ真っ二つであろうとも、それはアイデンティティの問題である。
『これはブルース選手、お湯を入れられ、不死鳥というよりインスタントラーメンの如く復活です!』
「む、一体どうなっていたのだ!?」
ブルースを取り囲むように、刀を持った草壁に着ぐるみのグリード、頭にコブを作った上月が立っている。かと思えば、リング上では、伊集院に三条院、エミリオが倒れている。
「‥‥分かった。こういうときは、これで勝負を決するのがプロレスごっこでのたしなみ」
何も分かってはいなかったが、こんなこともあろうかと用意しておいたスペアの熱湯風呂を運び込ませるブルース。
「できるかっ!」
グリードに激しくツッコミを入れられて、ブルースが吹き飛んでしまう。もちろん、吹っ飛んだ先が熱湯の中であることは言うまでもない。
「ぬう、まだ『押すなよ』と振ってもいないのに‥‥これだから熱湯風呂は未だに分からん。奥が深すぎる‥‥って、あちっ! 包帯が熱湯を吸って‥‥ギャース!」
ブルースが床の上をのたうちながら、入場口に消えていく。
『早くも言い出しっぺのブルース選手、脱落であります!』
ついで、上月とグリードが目を合わせる。といっても、火花が散るでなく、こんなことやる必要ねーだろという確認の目配せである。
「お待ちなさい。みどりの日なら、みどりにちなんだものにしないとね!」
だが、それは草壁によってもろくも崩れ去った。問答無用で、松の葉で満たされた浴槽が運び込まれてくる。
「こんなチクチクしたもの、入ってられないって!」
上月が文句を言う横で、着ぐるみで守られたグリードは余裕綽々である。
「心配無用、松の葉は表面だけで、あとは熱湯だけよ!」
「余計心配だっつーの‥‥えいっ!」
草壁と言い合ってたかと思いきや、なんの脈略もなしにグリードを押す上月。グリードの鍛えられた足腰ならばその程度の押しにはびくともしないのが常なのだが、着ぐるみの死角から押されて不意を突かれ、松の熱湯風呂に落ちてしまう。
「うぎゃーっ! 着ぐるみに熱湯は、シャレにならないって!」
『だから、ディッキーは着ぐるみなんかじゃないと何度言えば‥‥』
サトルの実況も、もはやグリードの耳に入っていない。熱湯のたっぷり染み込んだ着ぐるみに大悶絶だ。これで2人脱落である。
「ならば、私が行っちゃうわね‥‥」
草壁が着物を脱いで、水着姿になる。着崩した着物ゆえに万が一ポロリにならないように下に着込んでおいた水着が、違う意味で役に立つ時がきてしまった。
「痛っ! 熱っ!」
だが、着物が熱湯を吸うことはなくなったが、松の葉が容赦なく柔肌に突き立ってくる。あっさりとガマンできずに出てきてしまう。
「黒松の木と戦っていたはずなのに、なんで松の湯と戦っているんだろ‥‥」
あまりの熱さに、急に冷静になってしまう草壁。一方、まだ冷静になれていない上月は、その様子をふんと鼻で笑ってみせる。
「俺は一人では入らん。戦友と一緒だ!」
そう言って、先程までリング上で戦っていたカエル人形を取り出す上月。戦いで友情が芽生えるのは、バトルものの王道である。
「行くゼ!」
だが、あまりの熱さにやはり冷静になってしまう上月。草壁以上の早さで、一瞬で出てきてしまう。そして、松の葉の熱湯風呂には、カエルのセルロイド人形がぷかぷか浮かんだままでった。
『カエル、激勝ッ! 一気の4人抜き達成であります!』
カエルの勝利を受けて、リング上では何事もなかったかのように三条院とエミリオ、そして伊集院がすくっと立ち上がる。
『またまた食欲覆面X登場! 覆面をしているので、三条院さんが正体だなんてさっぱり分からなーい! 今回はみどりの日にちなんだ料理と対戦とのこと。さあ、メニューは一体何だ!?』
そして、やはり何事もなかったかのようなサトルの実況。三条院の前に、何杯ものボウルに押し込められたグリーンサラダが運び込まれてくる。
『そして、リングネーム・アサードも登場! フェイスペイントをしているので、エミリオさんが正体だなんてやっぱり分からなーい! 今回の戦いの相手は肉とのこと。そう、毎月29日は肉の日ッ!』
一方のエミリオのテーブルには、調理前の巨大肉塊が運び込まれてくる。だが、脊髄等の危険部位は外してあるので安心だ。
「どりゃ!」
凶悪な顔を作って、エミリオが肉塊にフォークを激しく突き立てる。
『ダメです、エミリオさん! 殺意の波動に囚われては──駄目です! ああ、見るに耐えません。ここまで残虐な殺戮を十代の少年が行うことに、我々はもっと注意を払うべきなのです!』
勝手なこと言いたい放題のサトルだが、ただ筋切りしていただけなのは言うまでもない。それよりも、まずはレフェリーによる凶器チェックはどうなったのかという話であるが、伊集院が他の作業に忙しかったのでスルーである。
「うー、僕も肉のほうが好きやのに〜」
エミリオの肉を恨めしそうに見つめながらも、下ごしらえ段階のエミリオに対して三条院は快調に飛ばしていた。同じ味に飽きつつあったが、そこはドレッシングやマヨネーズといったものでカバーである。
「はい、お待ち!」
だが、伊集院の出したボウルによって状況は一変する。伊集院が今まで何をしていたかといえば、いやがらせのように熱湯風呂に使った松の葉を詰めていたのだ。
「うぎゃー!」
三条院がピタリと止まった横では、エミリオがスパイスのコショウに、一人目潰しで勝手に悶絶している。
「くしょん、くしゅん‥‥」
しかも、悶絶する間もコショウの瓶を離さないものだから、状況は悪化する一方である。というか、三条院に伊集院まで巻き込まれてしまって、放送に耐えない画である。
『最後はやはり阿鼻叫喚の地獄絵図でのシメがお約束なのか‥‥それでは、次回5月3日にお会いしましょう!』