番長のジャンピングニーアジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
牛山ひろかず
|
芸能 |
フリー
|
獣人 |
フリー
|
難度 |
普通
|
報酬 |
0.7万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
04/30〜05/02
|
●本文
TOMITVのスタッフルーム。その中の、自称スポーツイベント便乗チームに、一人の男が駆け込んできた。
「またやっちゃいましたよ!」
「ん? 誰が何をしたって?」
「番長ですよ、番長。またデッドボールで戦線離脱じゃないですか!」
「ああ、番長か‥‥番長といえば、未だにあのジャンボばりのジャンピングニーが忘れられないなぁ。あれから、もう17年にもなるのか‥‥」
「まあ、気づけばいつ引退してもおかしくない大ベテランですものねえ‥‥」
思わずしんみりとしてしまう二人。だが、そのまま終わらせるようなスポーツイベント便乗チームではない。
「何周年とか全然区切りはよくないけど、やってみるか? 最近はムチャキングシリーズでスピードボールを受けさせたりとか被害側ばっかりだけどさ、たまにはその逆のパターン、加害側ってヤツをさ!」
「えーと、逆上してピッチャーをボコるのをやらせるわけですか? おもしろい画になりますかねー、結構微妙な気が‥‥」
「そこはホレ、芸人どもの腕の見せ所ってヤツさ」
「相変わらず、芸人の才能だけにおんぶにだっこですね」
「放任で鍛えてると言わんか! 物は言いようなんだぞ!」
こうして、相変わらずノリだけで番長リスペクト企画がスタートした。
『デッドボールを食らってブチギレたバッターを演じ、おもしろ映像を作れ!』
ルール
・あくまでもおもしろ映像を撮るのであって、必要以上に加害してはいけません。
・一番おもしろかった人に、優勝賞金10万円が授与されます。
・その他細かいルールは、俺がルールブックだ! とスタッフが申しております。
●リプレイ本文
4月某日、関西にあるドーム球場に番長だけが勢ぞろい。そう、いよいよ『番長のジャンピングニー』のプレイボールである。
ホーム側一塁ベンチでは、番長の冬織(fa2993)が監督として腕組みをして立っていた。そしていよいよ、スタジャンを脱ぐときがくる。出てきた背番号は5‥‥ではなく、栄光の3である。かつてつけていた番号、かつかの監督の番号というわけである。だが本当に肝心なのは、ユニフォームがチャイナドレスであり、スパイクが女王様のごときハイヒールだったことである。
「日本球界の監督といえば、彼の御仁じゃろう。その女版とも言うべきわしは‥‥さよう、女王じゃ!」
だが、それに異を唱える番長がいた。エディ・マカンダル(fa0016)である。
「一つ勘違いしているゼ! 監督の上には、シニアディレクターやオーナーをやめておきながら会長と、まだまだ控えているんだ! そして、やはり最後に控えるは‥‥」
「番長だ!」
「番長じゃ!」
冬織とエディの言葉が見事に重なる。二人とも番長だけに、息もぴったりである。
一方マウンド上では、金髪サングラスの番長、モヒカン(fa2944)が投球練習をしていた。風船ガムを膨らませながらの余裕の投球も、なぜか重傷を負っている。もっとも、怪我や故障も番長の勲章でしかないのだが。
また投球の組み立て自体も、番長なのでキャッチャーのサインは一切無視。どちらにしろすべて直球勝負、もちろんビーンボールなので、サインの意味などないといえたが。
ここで、ウグイス番長の富士川千春(fa0847)が、スターティングメンバーの発表を行う。
『お待たせいたしました。金貸しチーム対金貸しチームのラインナップ、ならびにアンパイアをお知らせいたします。先攻の金貸しチーム‥‥』
『4番、指名打者、番長、背番号5』×9
実際に打順が何番だろうと番長なので4番、守備位置はファーストもありなのだが、最近は怪我がちなのでDH、そして名前は本当の名前がなんであろうと番長固定、背番号は何番をつけていようと5なのである。打順まで固定の分、浜省野球よりもタチが悪いのである。
『‥‥もうイヤだ! 試合開始まで今しばらくお待ちくださいませ‥‥プツッ』
富士川がスイッチを切ると、『うぉ〜!』とため息のような、苦痛から解放された悲鳴の様な、吠え声のような、まあ要するに番長の雄叫びを上げる。
番長なのでそれですっきりした富士川が、再びスイッチを入れる。
『後攻の金貸しチーム‥‥』
『4番、指名打者、番長、背番号5』×9
この中には、もちろんピッチャー役を務めるモヒカンが含まれている。だが、マウンドで投げていようとも、番長はDHなのである。投手の代わりに打席に立つのがDHなのだが、それでもDHなのである。
『1回の表、金貸しチームの攻撃。4番、指名打者、番長』
アンパイアの番長の合図で、試合がはじまる。最初に打席に入ったのは、ちびっ子番長の橘来夢(fa2939)だった。ちょうちんブルマにヘルメットに穴を開けてのうさ耳と、まるで前の球団に未練があるかのような格好である。
モヒカンが、バッターボックス上を通過するように剛速球を立てつづけに4球投げる。
「ぴぇ〜」
「きゃっ」
「や〜ん」
「ぴょ〜」
だが、橘はそのことごとくを避けてしまう。当然のことながらすべてボールなので、これでフォアボールである。
「わ〜ぃ、ふぉあぼ〜る〜、ていくわんべ〜す〜☆」
橘が大喜びで一塁に行こうとするところで、ベンチから番長監督の冬織が出てくる。番長に言葉はいらぬ、肉体言語の鉄拳さえあればよい。
「いった〜い、ライムをいぢめた〜」
だが、橘は肉体言語を理解できないでいた。
「いった〜い、番長をいぢめた〜」
「うーむ、まあ今はそれでよしとするかの‥‥」
しばし肉体言語の一方的な会話がつづいた後、これで手を打つこととなった。
先程の4球は番長特権によりなかったことになり、今一度モヒカンがビーンボールを投じる。だが、またも反射的に避けてしまう橘。しかも、振ったバットが見事にすっぽ抜けてモヒカンを直撃していた。
だが、番長であるモヒカンはこれしきのことでは動じない。そのバットを拾うと、自分の頭に叩きつけてへし折ってみせた。血がピューっと噴き出すが、番長は動じない。但し、番長でも流血はモザイクでの放送となるが。
そして、何事もなかったかのようにモヒカンがビーンボールを投じる。今度こそ、しっかりボールを頭部に食らう橘。ついにマウンドに向かって走るかと思いきや、橘は膝から崩れ落ちてしまう。
結局、橘は失神KOで、そのまま担架で運び出されてしまった。
「ふぅ‥‥最近の若いもんは軟弱じゃのう」
冬織といえば、番長は敗者には見向きもせぬとばかり、まったりと梅昆布茶をすすっていた。
『4番、指名打者、番長』
つづいて登場したのは、白いユニフォームに黒いヘルメットという、やはり前の球団に未練があるかのようないでたちのエディ番長である。
もちろん、モヒカンは危険球しか投げない。吸い込まれるように、エディのヘルメットに直撃し、黒い塗装が弾け飛ぶ。
「当たってる。メチャクチャ当たってる!」
立ち上がると、ピッチャーへと歩み寄っていくエディ。
「あのさ、すごい当たってたよ、キミ。ここがアメリカだったらさ、俺、裁判で訴えてるよ。そして勝ってるよ。マジで気をつけて!」
頭を指さしながらも、あくまで紳士的に話し合いで解決しようとするエディ。球界の紳士たれという、前の球団を思い起こしているのであろうか。
だが、対するモヒカンも番長である。エディの顔の前でガムを膨らませ、破裂させてみせる。
しかしどんな話し合いがあろうと、ビーンボール以外投げることを許されていない。再びヘルメットに直撃し、もんどりうって倒れてるエディ。
「キミとはやってられまへんわ」
そう言いながらヨロヨロと立ち上がるエディに、さらにビーンボール。完璧なまでに顔面命中である。
仰向けに倒れると、両足を大きく広げながら倒れ、ズッコケポーズをしてみせるエディ。そのまま固まるかと思いきや、そのままうつ伏せになって今度はシャチホコである。なぜかドラキチで締めくくって、やはり担架で運ばれていくエディ。
『4番、指名打者、番長』
マジシャン番長ことZebra(fa3503)が、上下ユニフォームながらシルクハットにエナメル靴という格好で登場する。
観客や実況席への投げキスをしながら、バッターボックスに入る。審判には生キスをとも考えたのだが、番長同士のキスとなればゲイ界が黙っていないので、さすがにそれは自重する。
例によってモヒカンがビーンボールを投げる。Zebraが当たりながらも空振りし、その拍子に仕込みバットの先からポンと花を咲かせる。それに合わせて、場内に番長のオリジナルテーマ曲が流れる。
「え!? いてて‥‥」
Zebraは『オリーブの首飾り』を流してくれとウグイス番長の富士川に伝えていたのだが、番長にふさわしくないので、番長のオリジナルテーマ曲に強制変更である。しかも、スイングしてしまったのでストライクである。
だが、番長にはそんな理屈は通用しない。もんどりうって痛がっている間に、なぜかマウンドにマジック用の巨大な箱と模造剣、布が搬入されてくる。
そして、Zebraがムクっと起き上がったかと思うと、華麗なステップでピッチャーに詰め寄る。気づけば、モヒカンがすでに箱の中に入っている。
Zebraがそこへ剣を突き刺していく。だが、番長は避けないので、しっかり刺さっている。もちろん模造なのでグサっと刺さったりはしないが、痛いことは痛い。
結局一本も貫通させることができないまま、針山のような状態になった箱を開けることとなった。すると、モヒカンが三戦立ちで耐えていたではないか。番長たるもの、マジックも力技なのである。
シルクハットを取って一礼をし、ベンチに下がっていくZebra。ベンチの冬織に対し親指の伸びりマジックを見せたりしているあたり、こちらもまだまだ余裕である。
『4番、指名打者、番長』
つづいての登場は、レスラー番長のタケシ本郷(fa1790)である。なぜか大工道具箱を持参して、バッターボックスに入る。
そして、本郷のバットは反発力最重視の反則、コルクバットである。とはいえ、死球に反発力も何もない。
「HEY、HEY! そんなボールじゃ、アメリカンドリームは掴めねーぜ!」
「KILL! YOU! BUSTER!!」
ガムを噛みながら挑発する本郷に対し、やはりガムを噛みながら必殺の雄叫びを上げるモヒカン。なぜか急にアメリカンな感じである。
結果は当然のことながらデッドボールであるが、本郷はまったく動じることはない。ただ黙って道具箱を開けると、大量の五寸釘を取り出し、その場で釘バットの製作に取りかかるだけである。
「レスラーは避けぬ、ただ受け切るのみ!」
釘バットを作っている最中も、無論ボールはピュンピュン飛んでくる。当然硬球であるが、そこはプロレスラーのタフネスでカバー、というかガマンである。
「番長魂、見せたる。往生せいや! オラー!」
ようやく釘バットが完成すると、マウンドに向かって振り回しながら突進する本郷。対するモヒカンも、不敵にニヤリと笑っている。これは大勝負になりそうだという予感が球場全体を包み込む。
だが、なぜか冬織が出てくると、本郷を木刀で組み伏せてしまう。
「ええい、『避けきれず、申し訳ありませんでした』と言わんか!」
「避けぬ! 退かぬ! 顧みぬ! 番長の道は前進のみ!」
「ふむ。人間、叩かれ、殴られ、蹴られて逞しくなるものじゃでの‥‥行くがよい!」
とはいえ、気勢をそがれてしまったのも事実である。が、中指を突き立てているモヒカンを見るや釘バットを投げ捨て、肉体言語で語る決意を固める。本郷がホーガンばりのアックスボンバーで突っ込んでいくと、いつの間にかしていた左腕のサポーターをたくし上げて、ハンセンばりのラリアットで迎え撃つモヒカン。
番長大戦の結果は、両者KOであった。モヒカンが担架で運ばれていく中、本郷が意地で自分の足でベンチに引き上げていく。
『4番、指名打者、番長』
「泥水をも飲む覚悟で、精一杯プレイしたい」
いよいよ最後のバッターとして、アナウンサー番長の河辺野一(fa0892)が名ゼリフと共に入ってくる。
肝心のピッチャーがいなくなってしまったが、そこは心配無用。特別にピッチングマシンが運び込まれる。そう、平成の怪物バージョン危険球仕様である。
「故意であろうとなかろうと、今度そういうことがあれば、命を懸けてマウンドに走って行き、そいつを倒したい‥‥とはいえ、もちろんフルパワーで戦う気はありませんからご心配なく」
故意も何も最初から危険球仕様なのだが、ここは名ゼリフを堪能するところである。
番長の迫力に押されてか、なぜか一球ストライクが入ってしまい、ボールカウントはワンスリーである。だが、ついに河辺野がデッドボールを食らう。
「‥‥それにしても、あと一息のところでフルカウントが死球になってしまうとは‥‥。そちらの監督さんには残念でしょうが、わたくしにはもっとでしょうか‥‥。はじめてですよ‥‥この番長をここまでコケにしたおバカさんたちは‥‥まさか、こんな結果になろうとは思いませんでした‥‥」
アナウンサー番長だけあって、ムダに口上が長い。
「ゆ、許さん! 絶対に許さんぞ、虫ケラども! じわじわとなぶり殺しにしてくれる! 一人たりとも逃がさんぞ、覚悟しろ!」
が、ついにマウンドに向かって突進する河辺野。対するは、唯一番長ではない平成の怪物ピッチングマシンである。
「何しろ力があり余っているんだ。ちょっとやりすぎてしまうかもしれん。くっくっくっ‥‥打率にしたら3割4厘以上は確実か‥‥」
「毎回番長番長で、気が狂いそうですよ!」
そこへ、延々同じアナウンスばかりさせられて発狂寸前だった富士川が飛び出してくる。負けじと、ベンチで休息していた本郷も飛び出してくる。
そう、全員が番長ということは、全員が死球を食らった番長ということなので、乱闘には番長全員参加である。もっとも、Zebraは鏡の前でのポージングに忙しかったが。
そして冬織はといえば、
「監督の必殺技、『千本ノック』を見舞うてくれる!」
乱闘の最中へ向けて、だれかれ構わずノックの乱れ打ちである。
これだけ番長がそろうとなると、平成の怪物そっちのけで誰にも止められない地獄絵図である。
と、いつの間にか放送室に戻っていた富士川が、番長仕切りで表彰式をはじめてしまう。
『優勝は‥‥番長です!』
全員が番長なので、全員優勝で10万円、総額80万円を強奪である。まさに、お祭り男の面目躍如であった。