走れ、人間ども2アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
0.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/01〜05/03
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●本文
TOMITVのスタッフルーム。その中の、自称スポーツイベント便乗チームに、一人の男が駆け込んできた。
「聞きましたか!? オーストラリアのセリで、300万豪ドル(240万米ドル)で落札された馬が出たそうですよ。オーストラリアのレコードプライスだそうですよ!」
「別に、よその国ならもっと高い馬いくらでもいるだろ?」
「まーそうなんですが。それなのに、10万円の賞金のために人間が必死になって走る『走れ、人間ども』ってスゴくないですか?」
「いや、別にその人間を買うわけじゃないしな。比較対象がおかしいだろ」
「なんでそう冷静なんですか! ここでリーズナブルな『走れ、人間ども』をやらなくて、いつやるんですか!」
「んー、じゃあ、またやってみっか」
こうして、やる気があるんだかないんだかよく分からないまま、競馬場疾走企画の第2弾がスタートした。
使用コース
・芝コース、ゴール前の直線200mを使用。高低差(坂)はない。
・ハンデが長い場合、左回り芝コースを使用。500m地点から200m地点にかけて高低差2.5mの坂あり。
事前に用意される物
・たとえばポニーを持ち込みたいという場合、ポニーを持ち込みたいとすれば番組で用意します。大抵のものは用意できますが、船や飛行機あたりになるとさすがにムリです。
ルール
・優勝賞金10万円。敢闘賞5万円。
・その他細かいルールは、俺がルールブックだ! とスタッフが申しております。
過去の放送のスケジュール
・第1回 4月4日 22:00〜
●リプレイ本文
『あいにくの天気の中、『走れ、人間ども』の時間がやってまいりました。実況一二三四(fa0085)でお送りします』
横殴りの土砂降りの中、台風中継のように実況をはじめる一。もっとも、そこまで強い風ではないので、過剰演出ではあるのだが。というわけで、シャキと背筋を伸ばすと、耳をすます一。
『おや、何やらアナウンスがあるようです‥‥』
『本日の第一競走は、安全確保のため、ダートコースに変更となります。すでにご購入の勝人投票券は‥‥』
勝人投票券を本当に売っていたら法律違反になるのでシャレであるが、芝コースからダートコースへの変更は本当である。もっとも、水溜りの浮かんだ見事な不良馬場であるが。
『コースが変更となりましたが、ハンデ等はそのままです! では早速、枠順に紹介してまいりましょう! 1枠1番、一二三四号──って、またまたおいらなわけですが──のマウンテンバイク。実況、インタビューをしながらのレースとなるため、ハンデは一番軽く20mとなっています』
なお、1枠から外枠に向けて、距離のハンデが重く──遠くからの発走となるように並んでいる。
『同じくハンデ20m、2枠2番、ラム・セリアディア(fa3004)の三輪車です!』
「はい、どーもー。ラム・セリアディア、ろっくしんがー兼幼な妻よ♪ みなさん、よろしくね〜♪」
そう言ってウインクしたラムは、三輪車に相応しく黄色い帽子に水色のスモッグ風衣装という幼稚園児風味である。これで幼な妻だというのだから、旦那は相当なマニアに違いない。
「んー、幼稚園児コスプレはさすがにイタい気もするけど、ろっくしんがー魂に恥じないようなレースを頑張るわよ☆」
さすがにそのような視線に気づいたのか、言い訳めいたことを言うラム。言い訳にはなってないが。
『‥‥そ、そうですか‥‥つづきまして20m後方、倍の距離になります40m地点。3枠3番、チェダー千田(fa0427)号です!』
チェダーが、足ヒレをつけ、それだだとサビシイというただそれだけの理由で、カッパの着ぐるみを着て控えていた。芸人が顔を見せなければ意味がないと頭部こそ装着していないものの、すでに雨を吸って相当に重くなっている。
しかも、足ヒレに用意されたのがスキューバ用の片足ずつ履くフィンではなく、スタッフの嫌がらせかフィンスイミング用のモノフィンである。カッパというよりは、唐傘おばけである。
「クァエップ!」
チェダーがカメラに向かって一言叫ぶと、動きづらい着ぐるみでありながら柔軟に余念がない。
『ここから10m後方になります50m地点。4枠4番は仁和環(fa0597)号とお婆ちゃんです』
背負子を背負った仁和に、ハンデの重しであるお婆ちゃんが背中合わせの格好で座っている。
「お婆ちゃんにナビゲートしてもらうので、後ろ向きに走っちゃうよ!」
お婆ちゃんは熟練の謡方ということで、何の意味があるのか分からないが三味線を奏じながらの登場である。
「何故後ろ向きで走るかって!? そいつはいい質問だーッ! それは、俺が『前向きに後ろ向きな人生』を送っているからだ‥‥フハハハハ!」
『そうですか‥‥』
聞かれてもいないことを勝手に答えて高笑いを上げる仁和に一切にツッコミを入れることなく、次の枠へと移る一。
『またまた一気に倍になります。100m地点からの発走は5枠5番、月見里神楽(fa2122)号!』
キックボードでの参戦なる月見里だが、このぬかるんだ砂にむしろ普通に走ったほうが速そうな様相である。だが、本人はまったく気にも留めていない。
「うんとね、神楽が紙飛行機飛ばして、飛んだ距離分進むの。同じだけ進んだら、また紙飛行機を飛ばしてね、その繰り返しだよ。おもいっきり風まかせだけどね」
雨に紙は相性が悪い気がしてならないが、本人はまったく気にも留めていない。
「紙飛行機だけでいいじゃない、キックボードの意味がないって? 気にしたら負けです♪」
根本的な疑問を口にするが、本人はまったく気にも留めていない。どこまでもポジティブである。
『さらに50m後方の150m地点。めがねっ娘は雨で視界が悪くなろうともメガネは外さない、6枠6番は菊人(fa3562)号です!』
菊人が、雨を嫌がるダチョウを必死に御している。
『前回ダチョウに乗られた方は、逆走やら何やらでダチョウに翻弄されてましたが、大丈夫でしょうか?』
「大丈夫です。そのへんは抜かりしかありません」
まったく大丈夫ではないが、菊人もまたポジティブ過ぎであった、
『さらに50m後方の200m地点。ついに電気仕かけのモンスターが登場! 7枠7番は如鳳(fa2722)号です!』
「裏方一筋50年。じゃが、一度は大統領や総理も乗ったというセグウェイに乗ってみたかったのじゃよ!」
ただ乗ってみたいという理由だけで、セグウェイを選んだ如鳳。最悪のセグウェイ日和であるが、乗れるなら小さなことにはごだわらない。
『さらに50m後方、250m地点には大外8枠8番、アルケミスト(fa0318)とゆかいな仲間たちです!』
金髪幼女アルケミストと、ゆかいな仲間たちことロリペドスタッフどもが紹介される。
なぜスタッフたちがそのようなそしりを受けねばならぬのか? それは、収録前にさかのぼる。
「あの‥‥ね‥‥アルミ‥‥お願いが‥‥ある‥‥の?」
スタッフの前に現れたアルケミストは、潤んだ瞳での上目遣いに加え妹口調であった。
「お兄ちゃんに‥‥おんぶ‥‥してもらい‥‥たいの‥‥ダメ?」
そう言って小首をかしげるアルケミストに、一体何人のスタッフが陥落したことであろうか。そう、この毒牙にかかったスタッフども数名が、今やアルケミストの担ぎ手として控えているからである。
アルケミストはお兄ちゃんことスタッフの一人におぶさり、さらにバケツリレーのようにスタッフが並んで控えている。人海戦術ゆえの、トップハンデである。
一が1枠のスタート地点に戻ると、ムダに豪華に生演奏によるファンファーレが鳴り響く。いよいよ、レーススタートである。
『各人一斉にスタート! 出遅れのない、揃った‥‥おーっと、何を思ったかチェダーさんが逆走しています! ちょっと聞きに行ってみましょう』
そういう一も逆走して、チェダーの隣まで行く。
「ふっ、なぜなら直線一気の追い込みが一番カッコいいからだ。我に策あり! 今はそのための下ごしらえに過ぎん!」
モノフィンゆえにピョンピョンと飛び跳ねながら、ただ一人逆走という道を突き進むチェダーは、勘違いさえすれば間違いなく光っていた。
チェダーの逆走は例外中の例外としても、全員が全員順調にゴールに向かえているわけではない。
「懐かしいわねー、いつ以来? って感じかしら」
悠長なことを言っているラムであるが、成人男子が漕ぐよりは楽とはいえ、それでも幼児向けに作られている三輪車が漕ぎやすいはずもない。ましてや、このぬかるんだ馬場のせいで、ただでさえ進まないところへ、スリップしてしまっていつも以上に進まない。もっともハンデが一番少ないゆえに、まだまだ余裕があったが。
「うー、雨で全然飛ばないよう‥‥」
一方、月見里は当然の結果に悩んでいた。降りしきる雨の中、紙飛行機がキレイに飛ぶはずもない。
だが、泥だらけになって丸まってしまった紙飛行機が、ボールのようになってよく飛ぶことについに気づいた。もはや飛ばすというよりは、投げるになっていたが。
そして、一番の大誤算は如鳳である。そこへ、またまた大逆走して一がインタビューにやって来る。
『どうですか?』
「時速16キロしかでないのに、なんでこんなにハンデをつけてしまったのかのう‥‥」
自分でやったことながらも、重しにつけた1キロのダンベルを10個を恨めしく見つめる如鳳。スタート地点からわずかに進んだのみで、今は轍でスリップを繰り返すのみである。
『如鳳さんのセグウェイはp133です! オフロード仕様のXTならなんとかなったかもしれませんが、この天気に加えてダートコースに変更と、運の悪いことばかりがつづいております!』
それに対し、順調なのはアルケミストである。
「いけいけ‥‥ごぉ‥‥ごぉ‥‥」
目の前に吊るされたニンジンに本当に食らいつきそうな勢いで走る、愉快な仲間。如鳳をかわし、新たな愉快な仲間におぶさり直して、さらに突進していく。
「あー! もーやってらんなーいー!」
ここで突然、ラムがブチギレる。三輪車を立ち乗りで、一気のスピードアップ、一気のゴールである。
ぶっちぎりで1位入線であるが、当然のことながら審議の青ランプが灯る。
「ふう‥‥乗る練習しておいてよかったです‥‥」
ここまでは順調に来ていた菊人だったが──といっても、ダチョウの首にしがみついているだけだが──ついにアクシデントが。ダチョウがぬかるみに足をとられてバランスを崩した拍子に、メガネが外れてしまった。
マスクマンが覆面の下を見せてはいけないように、めがねっ娘はメガネの下の素顔をさらしてはいけない‥‥かどうかは定かではないが、ともかく菊人は慌ててメガネの落ちたドロドロの地面に飛びつく。
「メガネ‥‥メガネ‥‥」
ベタな探し方をする菊人だが、その間にもダチョウは進んでいってしまう。
一方、あれからピクリとも動かない如鳳のセグウェイだったが、ついに煙を上げて止まってしまう。
「これって高いんじゃよな‥‥大丈夫なんじゃろか?」
レースのことよりも、違うことが心配になってしまう如鳳。
2名ほど脱落し、1名が疑惑のゴール。だが、残る4名の戦いは熾烈を極めた。
「お婆ちゃん、周囲の実況とかの謡はいらないんで、ゴールまでのナビ謡に専念して貰えません?」
「はぁ? 何か言いましたか〜?」
ゴール済みのラムを除いて現在トップに立っている仁和が、お婆ちゃんに声をかける。だが、話が通じる気配はない。
「‥‥むむ。とにかく、倒れるときは前のめりで‥‥いや、後ろ向きで走ってるんだから、前は後ろで、後ろが前で‥‥のわっ!」
考え事をしたせいか、思いっ切り後ろ向きに転がってしまう仁和。ということは、お婆ちゃんはまともに顔からダイブである。
「はぁ? 何か言いましたか〜?」
だが、お婆ちゃんはまったく動じない。仁和もこれ幸いとばかりに、再び走り出す。
転倒のその隙に月見里がいよいよ仁和に迫りかけたころ、今までただひたすらに逆送していたチェダーが、ついにクルリと前を向いた。
「逃げているな、シャイボーイに恥ずかしがり屋の子猫ちゃんたちめ☆」
モノフィンがビリっと二つに破れると、脚の筋肉が急激に盛り上がる。
「あははー、待て待て〜☆」
泥を耕運機のように巻き上げながら、おそろしい勢いで追い込みに入るチェダー。お花畑にいるようなステキな笑顔がホラーである。
その勢いに、アルケミストが最終兵器を発動させた。
「お兄‥‥ちゃ‥‥ん」
もちろん狸寝入りでの寝言であるが、これで萌えなければロリペドの名がすたる。
「大丈夫だ。お兄ちゃんたちに任せろ!」
「おう、いくぞ兄弟!」
今日という日。それは、アルケミストが人間大砲のように空を飛んだ日。愉快な仲間たち全員で、アルケミストを思いっ切り放り投げたのだ。
だが、人間大砲の着地点にはネットがあるが、このレースにそんな気の効いたものはない。
ゴールラインを超えて、頭から砂地の地面に突き刺さる。幸いだったのは、この豪雨で地面がヘドロ状になっていたことであろうか。
ついで仁和がゴールインし、わずかにお婆ちゃんの分だけ遅れてチェダーが入る。やや遅れて月見里。そして一の順であった。
だが、まだこの通りに確定したわけではない。審議の青ランプが灯っている。
『ただいまの競走は、スタート直後に3番チェダー号が逆走した件、5番月見里号の紙飛行機がボールになった件、ならびに最後の直線走路で2番ラム号が立ち乗りした件、4番仁和号が老人虐待した件、3番チェダー号の脚が分離した件、8番アルケミスト号が空を飛んだ件、また6番菊人号、ならびに7番如鳳が競走を中止した件について、併せて審議致します。お手持ちの勝人投票券は‥‥』
当たり前だが、相変わらず審議が異常に多いレースである。実況で特別待遇の1番一号は除くとして、他の全員が審議の対象である。
『‥‥あ! 今、確定の赤ランプが灯りました。全着順をご紹介しましょう』
1着 8 アルケミスト
2着 4 仁和環
3着 3 チェダー千田
4着 5 月見里神楽
5着 1 一二三四
中止 6 菊人
中止 7 如鳳
失格 2 ラム・セリアディア(1位入線)
『以上のように確定しました。ラムさんはキレて三輪車を立ち乗りしてしまったということで、当然の如く失格となりました。同じく審議対象となったアルケミストさんが空を飛んだ件についてですが、こちらはディープインパクトが飛ぶが如く走っても失格になってないということを受けて、失格とはなりません! 優勝です!』
飛ぶのと飛ぶが如くは大違いな気もするが、確定してしまったものは仕方がない。
『優勝のアルケミストさんには、賞金10万円が贈られます』
「カメラが‥‥止まったら‥‥滅‥‥殺‥‥」
顔中泥だらけにしながらも無表情に物騒なことを言っているが、とにかく優勝のアルケミストによる喜び? の声である。
『そして、仁和さんのおばあちゃんに、敢闘賞5万円が送られます。もちろん、仁和さん本人には賞金などありません!』
「えーっ!」
と文句を言いつつも、それも当然かと思ってしまう仁和であった。