プロレスごっこGWSP03アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや易
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報酬 |
0.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/04〜05/06
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●本文
プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、モノマネあり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。
TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。春のプロレスごっこSP11〜13の1日3連発を終えてまだ1週間も経っていないので、すでに死屍累々である。
「春のプロレスごっこSPからの流れで分かっているとは思うが‥‥というわけで、プロレスごっこ・ゴールデンウィークスペシャルがはじまるわけだが‥‥」
何度目だよ、いい加減にしてくれと、スタッフ一同に早くも厭戦ムードが立ち込める。
「子どもをターゲットに、春休みに春のプロレスごっこSPをやった以上、次の大きな休みであるゴールデンウィークにプロレスごっこGWSPをやるのは必然。分かってくれ!」
それでも大ブーイングである。が、一番えらい人がそれを手で制す。
「心配するなー。確かに、今年のゴールデンウィークは最大29(土)〜07(日)の9日間だ。だけど、それも平日に有給を入れたりすればの話。子どもたちに有給はないから、平日にはやらんよ。それに土日も排除して、純粋に祝祭日だけにしかやらん!」
「なんか、前回もこのノリでダマされた気が‥‥」
「もちろん、1日1本だ!」
「サー! イエッサー!」
もはや疑う余地なしと、あっさりとスタッフの士気が戻る。どちらにしろ、過密労働に変わりはないのだが、うまく目先をそらされてしまった形だ。
「あー、そうそう。一応、各日に沿ったテーマを設けるから。4日は国民の休日だから、国民の休日に沿った内容が好ましい。来年からはみどりの日になるし、他にもラムネの日やファミリーの日だったり、あとなんかよく分からないけどどさイベ大阪とかいう日でもあるらしいから、そういったものをテーマにするのもアリだ!」
「サー! イエッサー!」
こうして、プロレスごっこ・ゴールデンウィークスペシャル第3弾、国民の休日編の収録がスタートした。
参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。
注意:
・プロレスごっこは安全第一です。怪我はもちろん、ちょっと血が出ただけでもNGです。
過去の放送のスケジュール:
・第1回 2月16日 07:00〜 (第64回として放送)
・第2回 2月28日 23:30〜 (第72回として放送)
・第3回 3月10日 18:00〜 (第80回として放送)
・第4回 3月16日 18:30〜
・第5回 3月30日 07:00〜
・春SP01 4月05日 07:00〜
・春SP02 4月06日 07:00〜
・春SP03 4月07日 07:00〜
・春SP04 4月08日 07:00〜
・春SP05 4月09日 07:00〜
・春SP11 4月23日 07:00〜
・春SP12 4月23日 07:30〜
・春SP13 4月23日 08:00〜
・GWSP01 4月29日 07:00〜
・GWSP02 5月03日 07:00〜
●リプレイ本文
リング上に、なぜか討論会形式でテーブルとイスが並んでいる。そこには全出場者が座り、中央ではブルース・ガロン(fa2123)が熱弁を振るっている。
「‥‥5月4日は国民の休日。なのに、なぜ俺たちは休まず働いている!? 勤労感謝の日なら、勤労に感謝する日だからいつも以上に勤労するというのは分かるが‥‥」
それに応えるように、ウィーン、ガガガ‥‥と轟音が聞こえる。
「‥‥はい? あ、イスのネジが緩んでいたので、直しておきましたよ!」
RASEN(fa0932)が、イスを高々と掲げてブルースに見せる。ドリルアイドルを自称するだけあって、電動ドリルの使いどころがあればわき目も振らず一直線である。なので、ブルースの言葉は一切耳に入っていなかった。
「あ、ありがとう‥‥じゃなくて! 俺はもう全身ガタガタだから次の出演はできんと‥‥」
イスを叩きつけるブルース。ドリルの音のときはスルーだったが、その音には鋭くクレームが。
「もう、さっきからうるさいですよ!」
「まったくだ。あんた、試合前のコンセントレーションがどれほど大切か分からないわけではあるまい」
組になって柔軟やらをしていた本職レスラーの二人、リネット・ハウンド(fa1385)と黒崎幸次郎(fa2964)に文句を言われ、黙るしかないブルース。
リネットと黒崎は、アップですでに汗だくである。二人が直接戦うわけではないが、レスラーが語るは肉体言語のみということのようだ。
「補習常連勤労受験生には、休日なんて関係ねぇんだよ‥‥おっと! まあまあ、ここはラムネでも飲んで落ち着いてくださいよ」
森里時雨(fa2002)にラムネを差し出され、ブルースはつい手にとって飲みはじめる。
「ぷはーっ! そうそう、この炭酸が喉をしゅわーってなでるのが、落ち着きを‥‥って、飲んでる場合かっ!」
ラムネ瓶を叩き付けるブルース。おかげで、瓶は粉々である。
「あ、ビー玉!」
「拾うな!」
森里とブルースでラムネ瓶のビー玉を巡る争いが起きているころ、そのマットをモップがけするSARA(fa3586)。
「そうですね、今日は国民の休日ですよね。休日と言えば行楽、行楽と言えば‥‥そう、残念ながら‥‥ゴミのポイ捨てですね。そこで、今日の私の対戦相手はこの会場のゴミと汚れです! さあ、隅から隅までキレイにしますよ!」
そのまま、ブルースを拭き取ってゴミ袋に投げ捨てようとするSARA。
「そうそう、このガラスまみれのモップで顔をなでられる感触が忘れられなくて‥‥って、俺はゴミでもヨゴレでもねえ!」
モップを払いのけながら、キレるブルース。
「瓶のポイ捨てなんて、割れるし最低ですよ! 人間のゴミですよ!」
「そうだな、俺って人間のゴミだよな‥‥って、番組上の演出で、なんでゴミ扱いされねばならないんだよ!?」
そこへ、レフェリーのパイロ・シルヴァン(fa1772)がマイクを持って登場する。
「国民の休日だって!? あぁ? そんなものは関係ない、なぜなら俺たちは芸能人だからだ!!」
なぜだか、ズギューンという効果音で打ちのめされているブルース。パイロは、なおも言葉をつづける。
「そして、芸能界は金だ! プロレスごっこの反則なんぞ、金貨、銀貨でいくらでも買い取れるわ! お前ら、金の切れ目が勝負の切れ目と思え!」
そう言って、金紙、銀紙に包まれたメダル型チョコレートを取り出すパイロ。
「次にお前は『金メダル1枚売ってくれ──』と言う」
「言わねーよ!」
ここに来て、一切乗らずに否定するブルース。とはいえ、言おうが言わなかろうが、これはパイロによる押し売りなので、言うまで動かないのである。
結局、休むどころかチョコを買わされて、すごすご引っ込むしかないブルースであった。
『ムダに長い寸劇が入りましたが‥‥あらためまして、おはようございます! プロレスごっこ王選手権・ゴールデンウィークスペシャルもいよいよ3日目。今日は5月4日にちなんだ試合が繰り広げられます! 実況、賈仁鋒(fa2836)でお送りしたいと思います』
実況席の賈の横の解説席では、ブルースがメダル型チョコの金紙を剥がして食べはじめてしまっている。
『あの‥‥解説のブルースさん、メダルはそういう使い方をするもんじゃないのでは?』
「これが、俺に唯一残された人権、自由なんだよ!」
『なぜかチョコレートがしょっぱい味のするブルースさんは置いておきまして‥‥第一試合、SARA選手の入場です‥‥って、すでに先程から冒頭のセットの撤収作業を行っていますね〜』
メイド服改造型コスチュームに身を包み、ゴミ袋を手にリング上をせわしく動き回るSARA。
『ブルースさん! ブルースさんが汚したマット上を、SARA選手がああやってキレイにしてくれているんですよ! 感謝の言葉を述べた方がいいんじゃないですか?』
「俺は子どもか!? でもまあ‥‥ありがとう‥‥」
そう言いながらも、グッと耐えて感謝の言葉を述べるブルース。それに気づいたSARAが、リング上から手を振る。
「あ! さっきの人間のゴミの人ですね! ちゃんと行楽のマナーは守ってくださいね〜」
なんでそこまで言われねばならんのだと思いつつも、チョコで血糖値が上がったので、なんとかグッと耐えるブルース。
『よく言えたでちゅね〜。おーっと、SARA選手。リング上だけでは飽き足らず、観客席のモップがけまではじめました! ほら、ブルースちゃん、ありがとうはどうしたでちゅか?』
「なんで観客席の掃除まで俺が‥‥ありがとう‥‥」
どんどん子ども扱いしてくる賈にも、ここでキレたら余計子どもっぽいとグッと耐えるブルースであった。
『第一試合は長い場外戦となりましたので、このまま第二試合にまいりましょう! なんとタッグマッチ! リネット・黒崎組vsマネキン・ラジコン飛行機組の一戦をお送りします!』
まずは、炎の柄の入った黒いロングタイツを穿いた黒崎が、ラジコンを抱えながら花道を駆けてくる。そしてトップロープを宙返りしながら飛び越え、颯爽とリングインである。
やや遅れて、リネットが自らコーディネートしたマネキンを担いで、悠然と入場してくる。
パイロにメダルを渡して、マイクを受け取る黒崎。
「今日はGWというわけで、はじめてこのリングに上がるんだけど、けっこう緊張してるんだ」
別にマイクくらいならメダルを渡す必要はないのだが、いつもと勝手の違うリングにこれがこのリングの作法なのだと思ってしまっている。
「ファイッ!」
『さあ、戦いのゴングがなりました。まず先発は、リネット選手。対するはマネキンであります!』
黒崎は試合に参戦する云々以前に、コーナーでラジコンの操縦に忙しい。墜落させずに飛ばしつづけるのは、中々にむずかしいことなのだ。
そんな中、リネットがマネキンに向けてオーソドックスに技を仕かけていく。
『リネット選手、マネキンをリング外に蹴り飛ばしたーっ! あーっと、入れ替わってラジコンが突っ込んでくる! リネット選手、ここで黒崎選手にタッチだ!』
入れ替わり、黒崎が入ってくる。ロープやコーナーポストから蹴りを見舞おうとするが、操縦しながらではそう簡単にできるものではない。それでも、墜落させないままピョンピョン飛び回っているのはさすがではあるのだが。
『あーっと、これは!?』
いつの間にか復帰していたマネキンを、パワーボムでマットに叩きつけるリネット。さらにそれを踏み台にして、黒崎の足をとって上へと放り投げる。宙に高々と舞った黒崎は、オーバーヘッドキックでラジコンを叩き落す。
黒崎はさらにくるりと回転し、無意味にひねりまで加えてみたりする。それをリネットがお姫様抱っこで受け止める。そして、二人で肩を合わせて立ち上がると、勝利のVサインである。
『これは‥‥もはや、ごっこではなーいッ!』
一方、撃墜されたラジコンはといえば、解説席のブルースの顔面に墜落しており、プスプスと煙を上げている。
「痛っ! 熱っ!」
リネットと黒崎は勝利の余韻で悶絶するブルースにはまったく気づかず、賈もすばらしい光景を実況するのに忙しく気づかず。ブルースは、ただのやられ損である。
『この勢いのまま、次の試合にまいりましょう! 森里選手とラムネの戦いだぁッ!』
リング上には、駄菓子屋セットと冷蔵庫が運び込まれてくる。
「熱いなぁ‥‥寮生共用冷蔵庫から、勝手にラムネでも飲んじゃおっか!?」
見事な説明ゼリフで、冷蔵庫からラムネを取り出し、プシュっと栓を開ける森里。
と、ラムネが物凄い勢いで噴き出してくる。思わず慌ててさらに振ってみたりなんかして、結局全部噴き出してしまう。
カチンと来て、思わず瓶を放り投げる森里。その瓶がやはりブルースの顔面に突き刺さる。気づいてもらえるまで突き刺さったラジコンをとるものかと思っていたブルースだが、そのオブジェにラムネ瓶が加わったのみである。しかも、未だに気づいてもらえない。
「うお! もうラムネがない。しょうがない、駄菓子屋に買いに行くか‥‥」
だがしかし、国民の休日だけあって駄菓子屋は休みである。
「こうなったら、ラムネを自作して隠滅工作するしか‥‥って、瓶がない!」
一本はブルースが叩き割り、もう一本は今ブルースに突き刺さっている。
「これというのも、冒頭でブルースにラムネを飲ましちまったからだ。ふざけんな、ブルース、ラムネ返せ!」
放送席に向かって怒鳴る森崎。解説席ではブルースが無言で刺さったラムネの瓶を指差しているが、森崎は気づかない。
「あれ? ブルースがいないな‥‥こうなったら仕方がない。逃げるゼ!」
『あーっと、森崎選手逃亡です! しかし、これは一体誰が勝者なのでしょう? ね、ブルースさん? あれ、いないですね‥‥では、次の試合にまいりましょう! RASEN選手が電動ドリルを手に、日曜大工に挑みます!』
「国民の休日‥‥休日といったら日曜大工、となれば電動ドリルでしょ!」
大量の木材を引きずりながら、RASENがツナギに軍手と完全装備で入場してくる。
ここで、『職人の方の指導の上で、安全に配慮して正しく使用しております』というテロップが流れる。もっともそんなテロップとは関係なしに、RASENは熟練工の域であるが。
メダルを渡されたパイロが、しっかりと木材を押さえている。
「目標をセンターに入れてスイッチ、目標をセンターに入れてスイッチ‥‥」
ただひたすらに、電動ドリルで木材に穴を開けていくRASEN。何を作りたいのか、なぜ穴を開けるのか、目的はさっぱり不明である。あえて言うならば、そこにドリルがあるから穴を開ける──もはや、完全にドリル脳である。
「目標をセンターに入れてスイッチ‥‥あれ?」
一体、どれだけの穴を穿ったころであろうか。ようやく、電動ドリルのバッテリーが切れる。
「‥‥ってことは?」
「勝者、RASEN!」
RASENの手を高々と挙げると同時に、なぜか姿を消すパイロ。
そんなことは気にせず、意気揚々と引き上げていくRASEN。木屑にまみれたツナギが汗で身体に張りついて、ちょっとだけ色っぽいと言えなくもない。
『これで全試合を‥‥って、まだ第一試合のSARA選手が残っていました!』
「あ、こんなところにもゴミが! でも、これで最後ですね」
これまでずっと観客席の掃除をしていたSARAが、ついに放送席の掃除をもってすべて完了というところまで来ていたのだ。
顔にラジコンとラムネ瓶を突き刺したブルースが、ゴミ袋に詰められていく。冒頭の人間のゴミから、今やただのゴミ扱いである。ランクアップなのかダウンなのかは、よく分からないが。
「‥‥ふぅ。これで明日のプロレスごっこも気持ちよく楽しめると思います! ご協力、感謝いたします!」
そう言って深々とお辞儀をするSARA。そのまま、ゴミ袋に入ったブルースを引きずって、退場していく。
「やれやれだぜ」
その様子を見届けていたパイロが、ひょっこり顔を出す。そう、悪徳レフェリーぶりをゴミ認定されないよう、隠れていたのである。もっとも、ブルースがいたので杞憂に終わったが。
『では、明日5月5日の最終日でお会いしましょう! さようなら!』