鳥になれ!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや難
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報酬 |
0.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/14〜05/16
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●本文
TOMITVのスタッフルーム。その中の、自称スポーツイベント便乗チームはわずかに二人、先輩と後輩だけである。
「あー、鳥になりてーなー」
「は!? いきなり何言ってんですか?」
突然の先輩の壊れた発言に、思わず素で心配する後輩。
「‥‥よし! 商店街の通りを使って、棒高跳びをするぞ!」
「イヤですよ! なんでそんなことしなきゃいけなんですか!?」
「誰も、俺たちがするっていってないだろが。昔、鳥人って呼ばれてた棒高跳びの選手がいたろ?」
「いましたけど‥‥って、先輩が鳥になるわけじゃないんですね?」
「あたりめーだろ。鳥のような画が撮れれば、それだけで満足じゃ!」
「じゃあ、早速出てもらえそうなアスリートに打診を‥‥」
「待て!」
「はい?」
「アスリートがやったら普通に成功しちゃって、ツマンナイじゃん!」
「え!? 失敗が大前提ですか?」
「それに引き換え、芸人ならおもしろリアクションできるだろ?」
「リアクションできる程度で済めばいいんですけどね‥‥」
一抹の不安を覚えつつも、商店街で棒高跳びをするという企画がスタートした。
『商店街を縦横無尽に使って、あらゆる場所でジャンプ!』
ルール
・一番おもしろ映像になった人に賞金10万円。
・その他細かいルールは、俺がルールブックだ! と先輩が申しております。
注意点
・跳躍に際して破壊された器物は、番組が責任をもって修復します。
・安全には細心の注意を払いますが、怪我をするときはします。番組では一切責任を負いませんので、ご了承ください。
●リプレイ本文
このご時勢でありながら、そこそこ賑わっている商店街。エキストラなどではなく、全員普通の買い物客である。もちろん、これから何かが起きるのは知っている。何が起きるのかは知らないが。
だが、確実に何かは起きつつある。その証拠に、なぜかBGMが重苦しくもベートーベンの運命である。番組のBGMではない、商店街に流れるBGMである。EUREKA(fa3661)が生でショルダーキーボードで弾いていたのだから。
『今日は、この一見なんの変哲もない商店街に鳥人が現れるという話を聞き、調査にやってきました』
商店街の入り口には、実況アナのアースハット(fa1881)がマイクを手に立っていた。
その横には、プロレスのレフェリー衣装のパイロ・シルヴァン(fa1772)が立っている。計測係ということでメジャーを手にしているが、走り幅跳びと勘違いしている気がしなくもない。
「鳥も空から落ちて流血しても、これを貼っておけば治る!」
なぜかコイン型チョコレートを取り出し、カメラに見せつけるパイロ。
『そう、鳥のように空を自由に飛びたい──鳥人という人類の夢が、世界の片隅のこんな商店街を舞台に‥‥のわっ!』
いきなりワゴン車に跳ね飛ばされるアースハットとパイロ。そのワゴンのサンルーフから、覆面姿のプロレスラー、タケシ本郷(fa1790)がニョキっと顔を出す。
「あぶないじゃねーか!」
どう考えても車側に勝ち目のない状況であるにも関わらず、収録前から『バカだ、俺はバカになるのだ!』と念じ過ぎるあまり、バカを通り越してただの危険な香りのする男になってしまっていた本郷。もちろん、ハードボイルドな方の意味ではない。
「って、おい、そこのレフェリー! 血ィ出てるぞ!」
「出血? 大丈夫、これを貼っておけば治る‥‥わけないだろッ!」
自分で言い出したことだけにコイン型チョコでどうにかしようとするパイロだが、どうにもならずにチョコを地面に叩きつけるしかない。しょうがないので、メジャーで顔をグルグル巻きにして血をカメラに映さないようにする。
気づけば、EUREKAのBGMが明るく楽しく、そして他の出場者の末路をも暗示するかのように葬送行進曲に変わっていた。
「わー、事故だ! 最近の交通戦争はコワいなぁ‥‥」
学校帰りにプロダクションに向かう途中で事故現場に出くわしたという体になっている泉彩佳(fa1890)が、アイスを食べながらぼんやり眺めている。
「ん!?」
だが、レフェリーのパイロとマスクマンの本郷がいることにより、泉の表情が一変する。いきなり走り出してカメラの前に割って入ると、バッと制服を脱ぎ捨ててリングコスチューム姿になる。
「我がSTORMVISITは、華麗な空中技とスピーディーなファイトを重視しているえんたーていめんと系プロレス団体です。だから、こんな流血沙汰は‥‥」
「いや、だから流血してない体で‥‥」
パイロが言いかけるが、泉も本郷もまったく気にも留めていない。突然の闖入者に、本郷はむしろ歓迎の余裕の笑みである。
「若いのは威勢がいいな! だが、自分もまだまだ現役!」
サンルーフを這い出て屋根に上ると、腕を組んで威風堂々と立つ本郷。風かないのにマスクがたなびく。
ここで、EUREKAのBGMが威風堂々に変わる。レスラー的には某総統が出てきそうだが、ここはあくまでも本郷の立ち姿を威風堂々と捉えるのが親心というものである。
「‥‥うおっ!」
だがワゴンが突然走り出して、本郷は無様にアスファルトにキスである。そのまま大の字に倒れて、意識を失う。
パイロが駆け寄って、カウントをはじめる。レフェリー姿の計測係なのに、初仕事がカウントと思いっ切りレフェリングである。
「レスラーは倒れてからがナンボだ! カウントスリーを取られるまで、何度でも不屈の闘志でチャレンジする!」
さすがに心配になった人々が取り囲む中、ムクっと起き上がる本郷。パイロがすでにテンカウントをとってしまって、試合終了のゴングを要請していたが、本郷はダウンのカウントとフォールのカウントは別物であるという独自解釈である。
「‥‥まだまだ‥‥現役‥‥」
今一度本郷がワゴンの屋根に上ると、ポールを上り棒のように上りはじめる。ポールはサンルーフから生えている状態なので、倒れたりはしない。
ここで、EUREKAのBGMがワルキューレの騎行に変わる。レスラー的には酒がスポーツドリンクな人の入場テーマであるが、ここはヘリでの総攻撃がはじまるが如く捉えるのが良心というものである。
そして、ワゴンが突然走り出す。今度はポールにしがみついているので、転落するような無様な真似はしない。ただ、商店街の看板に激突するのみである。
「ぐぼはっ!」
うめき声を上げ、ドシャァと降ってくる本郷。今度こそパイロのカウントの必要なく、速攻で試合が止められる。すぐさま、担架で運び出されていく本郷。EUREKAのBGMはもちろん、本日二度目の葬送行進曲である。
「何を跳ぶ気だったのかな?」
「さあ?」
顔を見合わせる泉とパイロ。そこへ、頭からゴミ箱にをかぶったアースハットが復帰してくる。
『いやー、鳥のように飛ばされちゃったよ!』
ゴミ箱に吹き飛ばされた体のアースハットだが、このタイムラグは明らかにゴミ箱を探して回っていたものであった。
『体操着にハチマキなびかせて、決意の美少女が登場だッ!』
ツッコミの隙を与えず、アースハットが実況をはじめる。
それに合わせ、部活のランニング中という体で阿野次のもじ(fa3092)が登場する。体操着とはいえアスリート仕様のへその出たピチっとしたものであり、確実に商店街の画からは浮いていたが、小さなことを気にしてはいけない。
「人はなぜ頂きを目指すのか? 本質を忘れてはいけない。そう、それはそこに常に見えないハードルがあるからだ!」
ハードルなのにポールを持っていること、部活の校外ランニング中なのにポールを持っていることを気にしてはいけない。
「飛べないトラはただのエキストラだ! でも、もらうギャラはおんなじ〜」
担架で運ばれるまでして同じギャラでは割に合わない気がしないでもないが、やはり気にしてはいけない。
「早売りジャーンプ!」
『お〜っと、さすがに言うだけはある! 鳥人が飛んだぁッ!』
ポールを突き立てると、本屋の週刊誌コーナーに突っ込んでいく阿野次。なぜか一緒にアースハットまで飛び込んでいるが、気にしてはいけない。
週刊誌をぶちまけて着地する阿野次。一方のアースハットはガラスの自動ドアに突っ込んでしまったので、破片まみれである。
パイロが慌ててメジャーでグルグル巻きの応急処置に入る中、阿野次は跳ぶのをやめない。薬局のマスコット人形やらのオブジェに、次々と突っ込んでいく。何かを跳び越えるのではなく、確実に突撃である。
『さあ、早くも最後の試技となりました!』
パイロにつづいてアースハットもメジャーミイラ男になって実況に復帰したところで、阿野次が花屋に突っ込んでいく。もちろん、アースハットも一緒に跳んでしまったのは言うまでもない。
『鳥葬ならぬ花葬かーッ!?』
アースハットが花びらを撒き散らす中、阿野次はスタっと着地すると、そのまま花屋の中に入っていく。
「育ててくれた人に、感謝を」
やがて、カーネションの花束を買って出てきた阿野次。
『そう、今日は母の日ッ! どんなときも母への感謝を忘れない! すばらし過ぎるッ!』
このときばかりはEUREKAの奏でるBGMではなく、感動の涙がBGMである。今までの破壊工作を忘れて、周囲から拍手が巻き起こる。
その中には、仕事帰りのOLという体の桜庭夢路(fa3205)もいたが、スーツ姿に髪を上げ、メガネをかけたキャリアウーマンの目にも涙である。
が、そのキャリアウーマンのメガネが、傍らの公園の異変に気づかずにはいられなかった。見れば、木に登ったものの降りられなくなった子猫がいるではないか。しかもその木の下には、都合のいいことにトランポリンが設置してある。
次の瞬間、桜庭は駆け出していた。トランポリンへ疾走、そしてジャンプ! 棒高跳びではまったくないが、気にしてはいけない。
「ほら、もう大丈夫ですよ‥‥」
木の枝に飛び乗ると、子猫を抱き上げる桜庭。感動巨編の連続である。先程まで阿野次に惜しみのない拍手を送っていた群衆が、今度は桜庭に拍手を送る。
「それはそうと‥‥どうやってここから降りましょう?」
その中を、桜庭が苦笑しながら枝の上に腰をかける。
「これは大変! 今、助けにいくからねっ!」
再び制服姿に戻っていた泉が駆けつけてくる。
「よいしょ‥‥っと、さっき食べていたアイスの棒を使って跳んで、助けに行くよ!」
『どう考えてもアイスの棒では棒高跳びはできないが‥‥デカーイッ!』
そんなアースハットの実況をよそに、5mほどのアイスの棒を取り出す泉。どう考えても、さっきまで食べていたアイスの大きさではない。
それを使って跳ぶ泉。だが、再現性が高く薄いので、ボキっと折れてしまう。頭から転落していく泉。本郷の仲間入り寸前であったが、なんとか体を入れ直し事なきを得る。
「ふぅ‥‥やっぱり普通のポールでいきます!」
そして、今度こそ入り口のアーチに飛び乗る泉。入り口のアーチ? なぜ直接木にいかずに、アーチを経由するのか? このままでは、バカとプロレスラーは高いところが好きと思われてしまいそうな勢いである。
「じゃあ、今度はそっちに飛び移るよー!」
「えっ! え!?」
桜庭を指差す泉。しかし、どう考えても枝が耐えられそうにもなく、桜庭は怯えるしかない。
『あーっ! 本当に行ったーッ!』
なぜかひねりを加えて、シューティングスタープレスに行く泉。しかも桜庭の木とはあさっての方向の、道路脇で寝かされていた本郷の上になぜかダイブである。
「ぐぼはっ!」
いい夢一転、悪夢の出来事に巻き込まれる本郷。しかし、高さが高さだったので、泉もダウン、ダブルノックアウトである。パイロの両手が交差され、試合が止められる。
「あんたらのリアクション芸‥‥確かに見させてもらったよ‥‥」
金よりも大切な心意気を見せつけられて、パイロの目にはキラリと光るものがあったという。もっとも、笑いをこらえた涙説が有力であったが。そしてやはり、EUREKAのBGMは本日三度目の葬送行進曲である。
気づけば周囲の群集はいなくなっていた。今まで拍手を送っていた主婦たちも、近くのスーパーのタイムサービスに興味が移っていたのだ。いつの世も、その辺はシビアである。
そんな中、ずっと演奏に徹していたEUREKAが、満を持して準備体操をはじめていた。なぜか燕尾服なのはさておき。
「いやいや、これは『鳥になれ!』ってことで、燕っぽく燕尾服なのよ!」
『何も聞いてないけど‥‥』
アースハットの言葉は一切無視して、なおもEUREKAはしゃべりつづける。
「外側の形から入るのもアリかなー、と‥‥はっ!? そしたら、着ぐるみの方が良かったかも? 今からでもペンギンの着ぐるみをお願いします!」
『そんなムチャな‥‥』
だが、どういうわけか用意のよすぎるスタッフが、本当にペンギンの着ぐるみを持ってくる。
「飛べない鳥が飛ぶ! これが浪漫よね!」
ポールとしてほうきを持ったEUREKAが、狙いをタイムサービスに群がる主婦たちに定める。
『これはほうきにしては高い! 見事な飛行だぁッ!』
例によって一緒に跳ぶアースハット。しかし、しょせんはほうきのポールである。
「やっぱり、ペンギンは飛べない鳥なの!?」
そういう問題ではないが、とにかく主婦たちにペンギンキックの形で突っ込んでいくEUREKA。
しかし、訓練された主婦をナメてはいけない。全員がさっと避けると、卵パックの山への道が見事に出来上がる。
案の定、卵まみれになるEUREKAとアースハット。とはいえ、EUREKAにただで転ぶ気はない。
「飛べない鳥が、なんだか黄色の飛べる鳥に!? って、ヒヨコでやっぱり飛べないっていうオチ?」
確実に食べていないと思われるが、『これらの卵は、収録後においしくいただきました』のスーパーが入る。
『‥‥以上で、すべての試技を終了しました。感動巨編シリーズのお二人、阿野次のもじさんと桜庭夢路さんの同点優勝です!』
いつ採点していたのかという疑問はさておき、阿野次と桜庭夢路に賞金10万円が送られる。
地上にいる阿野次がまず受け取ると、未だに木の上の桜庭と猫をバックに、歌を歌いはじめめてしまう。
「みんなの応援のおかげで、優勝できたよ! だから聞いてください、今日のために作りました、はばたいて☆垂直落下」
『ちょっ、何勝手にシメようと‥‥』
アースハットを無視して、EUREKAがもらいたての楽譜で演奏をはじめてしまう。
「 どんな困難だって 打ち破れる
そうさ打ち壊せ 破壊せよ デストローーーーーーーーイ 」
ヤケになったアースハットが、トランポリンに突っ込んで噴水にダイブである。
「 ふわふわふわふわ (ふわふわ! ニャー!)
ぱやぱやぱやぱや (ぱやぱや! ニャー!) 」
気づけば、バックコーラスに桜庭と子猫まで加わっている。
「ぐぼはっ!」
一方、ダウンしていた泉と本郷であるが、泉だけは甦生していた。ぼやける頭に飛び込んできた『はばたいて☆垂直落下』という曲名だけから、本郷に垂直落下式ブレーンバスターをかけてしまう泉。
歌はつづく中、パイロのスリーカウントで番組も終了した。