番長のロシアンフックアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 普通
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/18〜05/20

●本文

 TOMITVのスタッフルーム。その中の自称スポーツイベント便乗チームで、二人の男がボンヤリと会話をしていた。
「せっかくの交流戦だというのに‥‥番長、結局古巣へのリベンジはなしか‥‥」
「なにを言ってるんですか。まだ、雨で流れた分の試合が残ってるじゃないですか!」
「まー、そうなんだがな‥‥」
 思わずしんみりとしてしまう二人。だが、そのまま終わらせるようなスポーツイベント便乗チームでは、やはりない。
「それよりも、この前の『番長のジャンピングニー』って結構よかった気がするんだよなー」
「賞金で80万も持っていかれたのは痛かったですけど、まあ番長へのご祝儀だと思えばなんてことないですよね。番長本人に渡したわけじゃないですけど」
「だから、今度は○○な番長に賞金10万って感じでどうかな?」
「そうですね。全員だと真剣になれませんものね。やっぱ、番長だけはガチじゃないと、いけませんよね」
「うむ。じゃあ、MVP番長に賞金10万ってことにするか」
「何をもってMVPか分かりませんけど、やっぱ番長はMVP男ですものね」
 こうして、よく分からない賞金条件のまま、番長リスペクト企画の第2弾がスタートした。

『ドキッ! 番長だらけの殺人野球。乱闘もあるよ、というか乱闘しかないよ編』

ルール
・全員が番長に扮して、野球の試合をします。基本はただの野球ですが、一人一乱闘がノルマとして課せられます。
・あくまでもおもしろ番長映像を撮るのであって、乱闘時に必要以上に加害してはいけません。
・MVP番長に、賞金10万円が授与されます。MVPはスタッフが独断と偏見で決めます。
・その他細かいルールは、俺がルールブックだ! とスタッフが申しております。

過去の放送スケジュール
・番長のジャンピングニー 4月30日 7:00〜

●今回の参加者

 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa2029 ウィン・フレシェット(11歳・♂・一角獣)
 fa2529 常盤 躑躅(37歳・♂・パンダ)
 fa2539 マリアーノ・ファリアス(11歳・♂・猿)
 fa2868 矢沢きゃおる(19歳・♀・狸)
 fa3072 草壁 蛍(25歳・♀・狐)
 fa3306 武越ゆか(16歳・♀・兎)
 fa3453 天目一個(26歳・♀・熊)

●リプレイ本文

 5月某日、関西にあるドーム球場に番長だけが勢ぞろい。試合前の練習すらはじまっていないにもかかわらず、観客席は番長で大入りの満員である。たとえ片手で数えられようとも、番長さえいればその存在感で実数発表でも大入りの超満員なのである。
「押忍! 大日本学生連合総番長、矢沢きゃおる(fa2868)とは自分のことじゃぁあ!!」
 一塁側スタンド席では、きゃおるが金太郎だか銀次だかばりの怒声を上げていた。今どきあり得ない裾の擦り切れたボロ布の長ラン、それでも裏地は手縫いの刺繍。かぶるは当然破れた学帽、そして腰手拭に高下駄である。くわえた葉っぱが、クソボールしか打てなさそうな雰囲気を醸し出している。
 その後ろには、同じくボロボロの長ラン、もちろんその下は胸に巻かれたサラシというMAKOTO(fa0295)がドカっと座っていた。やはり高下駄に、肩当て留めのマント、そして手にはどぶろくの入った壷である。
「宿敵番長のー、健闘をー祈ってー! ここにー、番長からー番長にー、エールをー、送るー! フレーフレー、番長ーッ!!」
 エールの交換をはじめるきゃおる。もちろん、三塁側スタンド席では、学ラン姿の武越ゆか(fa3306)がじっときゃおるのエールを聞いている。
 そしてやはり、武越の後ろには天目一個(fa3453)がドカっと座っている。もはや、学ランに学帽、胸にサラシはデフォルトである。
 天目の周囲には、日本酒、洋酒を問わず様々な酒瓶が転がっている。中身が入っているものもあれば、とっくに空のものもある。とにかく、応援団番長と酔っ払い番長は対の関係にあるらしい。
「ビールいかがですか〜? よーく冷えたビールはいかがですか〜?」
 そんな中、一塁側スタンド席の合間を縫って、ビール売り番長の草壁蛍(fa3072)が歩いていく。バドガールスタイルから狐耳と狐の尻尾を出し、ハイヒールというはじめて男くさくない番長である。
 とはいえ所詮番長は番長なので、ビールを売りもしないで自分で飲んでいるのは言うまでもない。見れば、飲み干した紙コップが放り捨てられていて、どう歩いてきたかが一目瞭然である。
 一方、三塁側スタンドでも繁盛番長と化したマリアーノ・ファリアス(fa2539)が、ビールのみならずあらゆる酒を売って回っている。こちらは繁盛番長なので、自分では飲まずにしっかり売っている。もっとも、マリアーノは未成年なので飲むわけにはいかなかったが。番長だから気にしないと行きたいところだが、さすがにそういうわけにもいかない。
「おーい! こっち、こっち!」
 天目に呼ばれて、マリアーノが向かう。天目の回りにあれだけあった酒瓶の数々も、さっきの今なのにほとんどが空である。すでにザル番長である。
「そうそう、これが‥‥ぶふーっ!」
「うぎゃー! アルコールの毒霧はシャレになんないって!」
 飲みかけた酒を吹き出す天目。その霧がマリアーノの目に入り、悶絶番長である。
「こんなものは、番長の飲むものではなーい! 番長に許されるのは、90度以上の酒のみよ!」
 そう言いながら、ロシアンフックの番組名に恥じずウォッカに手を伸ばす天目。一方、マリアーノは七変化番長の一発目なので、早々に捌けていく。
 そしてきゃおるからのエールが終わると、今度は武越からの番である。武越がバッと学ランを放り投げると、チアガール番長に早変わりである。
 そんな中、試合に先立って何やらテーブルやらモニターボードやら、色々と運び込まれてくる。そう、ドラフト会議セットである。ドラフト会議は球場でやるものではないが、番長に過去の慣例など通用しない。
「球界の盟主球団、第一回選択希望選手。番長、番長学園高等学校、内野手」
 いつの間にかパンチョ番長となっていたマリアーノが、おなじみの名口調で読み上げる。パンチョ番長なので、自由獲得枠や希望選手枠といったものは存在しない。そして、プリンスな球団に指名されたりもしない。
 だが、そんなドリームな時間も一瞬のこと。すぐさま撤去されると、すぐに試合の準備がはじめられる。審判番長のウィン・フレシェット(fa2029)が出てくると、試合開始を宣言する。
 ウィンがプロテクターの類は一切装着していないのも、番長だから‥‥ではなく、単に自分の美しい顔が隠れるのがイヤだというだけだった。とはいえ見方を変えれば、番長らしいこだわりへの執念といえたかもしれない。
 最初でありながら四番バッターとして、番長そっくりの着ぐるみを着た常盤躑躅(fa2529)が入ってくる。そう、番長着ぐるみ番長としての登場である。
 一方、マウンド上にはピッチングマシンが運び込まれる。今回のピッチングマシンは、『ケツの穴小さいわ。チンポコついとんのか』発言でおなじみ、JFKバージョンのFモードである。
 とはいえ、投げてくるのはフォークではなく、ビーンボール一本槍である。避けることを知らない番長に硬球が突き刺さると、なぜか金属的な音を立ててはじかれる。
 着ぐるみには、鉄板が仕込まれていた。番長なので、仕込み鉄板は基本である。カバンに鉄板を仕込むようなものなのである。ということで、スルー。
 だが、番長の気が収まるはずもない。常盤が仁王立ちでマウンドを睨む。着ぐるみゆえに本当に睨んでいるのかよく分からないし、着ぐるみゆえに仁王立ち以外のポーズがとりにくいだけだが、番長といえばとにかく仁王立ちである。
「な、何ごとじゃあーーッ!!」
 観客席で見守っていたきゃおるがいきり立つ。
「虎になんか負けんなっ!」
 同じく武越もいきり立つ。
 一塁側、三塁側、どちら側の番長が攻撃しているのか分からなかったが、とにかくどちらの応援団番長もブチギレである。
 一方の酔っ払い番長たちは、いい酒のつまみが出てきたくらいのものである。
「いっちゃえー!」
「キャハハハハ!」
 MAKOTOは無意味に煽るし、天目は異常にハイテンションで高笑いを上げるだけである。
「プレイ!」
 ウィンが審判番長らしく、冷酷なまでに淡々とプレーの続行を言い渡す。
 だが、番長にとっては『プレイ!』とは乱闘の合図、戦いのゴングでしかない。
「うぉーっ!」
 常盤がピッチングマシンFに突っ込んでいく。ベンチからは、今度は普通の番長としてマリアーノも飛び出していく。
「番長たる者、弱きを助け、強きをくじくっス!」
 観客席からは、きゃおるが飛び出していく。となれば、武越だって黙ってはいられない。
「マジメに応援に応えない番長は、このチア番長が許しませんッ!」
 常盤の鉄板仕込のボディプレスで、早々にピッチングマシンFは壊れてしまっていたが、なぜかもみくちゃにされつづけるウィン。団長なみに破れやすい服にしていたので、すでにブリーフ番長である。
「俺みたいないたいけな美少年番長に何をするんだ!?」
「拳の会話に理屈は無用!」
 きゃおるに肉体言語で語られては、ウィンに返す言葉はない。そこへ、武越がチアガール番長ゆえに大量に用意していたポンポンを、おひねりのようにパンツにはさむ。
「美少年番長は、こんなモジャモジャじゃないッ!」
「番長がッ! 泣くまで! ポンポンアフロにするのをやめないッ!」
 そんなウィンの悲痛な叫びは無視して、武越はなおも全員の頭にポンポンを乗せて回る。
「これは番長の分だッ! これも番長の分ッ! 次も番長の‥‥」
 一方、その様子を見守る一塁側観客席では、天目がMAKOTOに絡んでいた。
「私のビールが飲めないって言うの!?」
「飲んでんじゃん!」
 すでに持ち運ぶ分では足りず、売店からホースで引っ張ってきて、ビールかけ状態である。気づけば、いつの間にか天目が三塁側からやって来ていた。これで、三人寄れば番長飲みである。
 そこへ突然、ピタっと乱闘が終わる。何きっかけかはさっぱり不明だが、番長は引き際を心得ているのである。
 とはいえ、ピッチングマシンFは番長たちの手によって亡き者にされてしまっている。
「俺が投げル!」
 マリアーノがユニフォームを脱ぎ捨てると、別のデザインのユニフォームが出てくる。さらにポンポンアフロをどけてリーゼントのヅラに装着し直すと‥‥ついにハマの番長の登場である。
 ウィンがブリーフ一枚の姿でアンパイアに戻り、武越もアフロがリーゼントになってがっかりしてはいたもののスタンドに戻る。
 そして、常盤はマスコット番長に早変わりである。番長の着ぐるみでかわいげがないという説が一般には有力であるが、全員番長なのでそのバットを振り回す仕草などいとおしくて仕方がない程だ。
「昨日の自分は今日の敵。拳を交えたといえど、情け容赦なく打ち砕いて賞金10万はいただきっス! ガハハ!」
 一方のきゃおるはビールまみれのスタンドには戻らず、バッターボックスで打ち気満々である。
 そこへ、マリアーノが今はなき二段モーションで投げ込む。が、何段だろうと死球に変わりはない。きゃおるの振り回したバットがすっぽ抜け、応援のダンスを踊っていた常盤に直撃してしまう。
 ぶつける気がなかったのにぶつけてしまった場合は、とりあえずジャンピングニーをかましてごまかしておくのが番長のたしなみであるが、常盤は鉄板番長なのでびくともしない。
「‥‥‥‥」
 妙な間ができて、三すくみとなってしまうきゃおる、常盤にマリアーノ。
「その程度で乱闘が止まってしまうなんて、片腹痛いわ。本当の乱闘をみせてあげる!」
 手にしていたウォッカに火をつけると、それを放り投げて突進していく天目。
 果たして火炎瓶となり、人工芝の焼けるイヤな臭いがドームに立ち込めるが、テロリスト番長は小さなことには気にしない。テロリストなので、テーマ曲はワルキューレの騎行。そしてこの瞬間、酒はただのスポーツドリンク呼ばわりである。
「神聖なるグラウンドを燃やすとは、許せないよ!」
 先程まで隣に座っていた天目の暴挙に、MAKOTOも後を追いかけていく。さらには、草壁もホースを延長しながらその後につづく。
 一方、三塁側からその様子を見ていた武越も、ただ黙ってみていたわけではない。ロケット風船で火炎瓶を撃墜しようと試みたものの、当然ムリだった。なので、こうなったら自分でグラウンドに下りていくしかない。
「プレイ!」
 全員がマウンド周辺に集まるそんな空気でも平然と、ウィンがプレーの続行を言い渡すが、相変わらず戦いのゴングでしかない。
 マリアーノがリーゼントを外してユニフォームを脱ぐと、今度はKの番長のバトルサイボーグに変身である。一方、天目は身体を左右に激しく振り、デンプシーロールの準備に入る。
 MAKOTOは常盤のボディプレスを受け止めると、そのままフロントスープレックス。そこへ、応援旗を振りながら武越が突っ込んでくる。
 さらには、草壁がマリアーノにビールを勧めている。
「えっと、未成年なんだけど‥‥」
「麦茶だよ。駆けつけホース全開。いいから飲め!」
 草壁が強引に口移しで飲まそうとホースに口をつけるが、思った以上に勢いが強く、吹き出してしまう。
「うぎゃー! だから、アルコールの毒霧はシャレになんないって!」
 またも悶絶番長のマリアーノ。草壁が悶絶するマリアーノに興奮してしまい、思わずハイヒールで踏みつけ女王様番長である。
 その様子を、ブリーフ一枚で遠い目で眺めているウィン。
「俺はこいつらを生け贄にして──魔法カード、プロデューサーのルーリングを発動する。つまり、グラウンド内の全番長がMVP番長となる!」
 だが、なぜか急にデュエリスト番長になると、一方的に宣言する。とはいえ、さすがにプロデューサーが黙っていない。
「ふざけんな! プロデューサー番長をナメるなよ! その瞬間、トラップカード発‥‥ぐぼはっ!」
 プロデューサーまでもが番長になったところで、天目のパンチが炸裂する。番長になってしまったため、プロデューサーも天目のデンプシーロールの標的に含まれてしまったのだ。
 さらにとどめのガゼルパンチまできれいに決まり、プロデューサーは失神KOである。
「MVP番長は、当然番長でーす!」
 番長番長と言っているが、全員が番長である。全員MVPで10万円獲得、総額80万円を強奪である。いや、ついでにプロデューサー番長まで含まれて、総額90万円だ。
「一番長、二番長‥‥」
 とそこへ、いつの間にか草壁の魔の手から逃れて番長皿屋敷となったマリアーノが、カメラの前にヌッと現れる。
「一番長足りなイ〜‥‥ぐぼはっ!」
「バカヤロウ!」
 突然、MAKOTOに殴られるマリアーノ。
「番長に許されるのは四番のみ! よって、四番長、四番長‥‥と数えるのが正しいんだよ!」
 無理矢理な説教をはじめるMAKOTO。
「昨日の敵は今日の戦友──と書いて『とも』と読む。拳を交えた貴様とは、今日からマブダチじゃい! でも、賞金10万はもらってくっスけどね! ガハハ!」
 きゃおるがプロデューサーを抱き起こして高笑いすると、なぜだかバックが夕日になり、これまたなぜだか全員の手が止まって、夕日を見つめて大号泣番長である。
 ただ一つ言えるのは、プロデューサー番長の涙の質だけ違うということであった。