走れ、マシンたちアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
0.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/25〜05/27
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●本文
TOMITVのスタッフルーム。その中の、自称スポーツイベント便乗チームに、一人の男が駆け込んできた。
「やりました! シンガポール航空国際Cで、またまた日本馬が優勝しましたよ! しかも、初の地方馬ですよ!」
「めでたい、確かにめでたい‥‥だが、問題なのはその後の検疫に引っかかってしまったことだろ!?」
「そうなんですよね‥‥そこで、陰性であることを祈願して、例の『走れ』シリーズをやるべきだと思うんです!」
「関連性が分からん‥‥」
「そこで今回は、『走れ、マシンたち』というのをやるんです! マシンなら病気になったりしませんから、祈願にはちょうどいいと思うんです!」
「まあ、確かにマシンなら病気にならんが‥‥壊れはするぞ?」
「縁起でもないこと、言わないでください! とにかく、今回はマシンに乗ってやりますよ!」
「お、おう‥‥」
最後は部下の勢いに押し切られる形で、走れシリーズ第3弾がスタートした。
使用コース
・芝コース、ゴール前の直線200mを使用。高低差(坂)はない。
・ハンデが長い場合、左回り芝コースを使用。500m地点から200m地点にかけて高低差2.5mの坂あり。
・要するに、府中にある某競馬場です。
・雨天時、ダートコースに変更の場合あり。
事前に用意される物
・たとえばセグウェイに乗りたい場合、セグウェイに乗るとすれば番組で用意します。大抵のものは用意できますが、船や飛行機あたりになるとさすがにムリです。
・自転車、自動車等、自分での持ち込みでも、もちろん構いません
ルール
・マシンの定義は、生き物や自分の足で走らないものとします。ダンボールのキャタピラの中に入るでも、ここではマシンとします。
・優勝賞金10万円。敢闘賞5万円。
・その他細かいルールは、俺がルールブックだ! とスタッフが申しております。
過去の放送のスケジュール
・第1回 4月4日 22:00〜
・第2回 5月1日 07:00〜
●リプレイ本文
初夏の風が芝をなでるここは競馬場。天気は晴れ、芝ダート共に良馬場での発走だ。
といっても、競走馬が走るわけではない。『走れ、人間ども』の特別版、マシン限定の『走れ、マシンたち』の番組が撮られるのである。当然、マシンが疾走するわけだ。なお、人間がどもでマシンがたちなのを気にしてはいけない。
そんなことよりも、すでにコース上には出走各人がマシンと共にスタンバっている。順に紹介していこう。
まずはゴール前100m地点に、1枠1番のティタネス(fa3251)である。
「せっかくだし、妙な乗り物に乗ってみたい。でもって、できれば体力もアピールできる人力の乗り物を‥‥って考えた結果がコレだっ!」
ティタネスがそう言って紹介したのは、水陸両用ボートだった。水陸両用と聞いただけで一瞬カッコイイと思ってしまいがちであるが、なんのことはない、よくある手漕ぎボートの下に車輪を4つ取り付けただけのものである。
とはいえ、ティタネスの耐久性を中心とした細かい注文にすべて応えた、スタッフ渾身の作品でもある。オールも頑丈な鉄の棒である。
力を伝えるのがこのオールだけとあって、ハンデは一番短い100mである。なお、1枠から外枠に向けて、距離のハンデが重く──遠くからの発走となるように並んでいる。ゴール前の直線には3人しか見受けられないが、それはおいおい紹介していこう。
つづく2枠2番はそこから30m後方の130m地点、雨宮慶(fa3658)の3輪自転車によるヴェロタクシー。
環境にやさしいヴェロタクシーとはいえ、雨宮にとってはどうか? ベニヤ板にプラスチックと軽い素材でデコレーションを施してはいるものの、素の自転車よりは重みがあるし、自転車のタイヤと砂地の相性は決してよくなく、もちろん電動アシストなどといった気の利いたものは載せてないので、回送状態とはいえ雨宮にはまったくやさしくない。
「ただひたすらに、がんばります!」
小柄な雨宮にはキツそうとはいえ、できることはただ一つ。ティタネスがオールを力の限り漕ぐのであれば、雨宮はペダルを力の限り漕ぐのみである。
人力マシンはここまで。200m地点には、3枠3番のタケシ本郷(fa1790)とトラクターである。農業用でスピードは期待できないとはいえ、逆にダートコースでは安定した走りを期待できそうである。
「俺は自分の命をレイズするッ!」
トラクターに積み込んだ、大量の工業用ダイナマイトを披露する本郷。ベットもしていないのにレイズも何もない気がするが、そもそも出走する人間が賭けるなという話なので、気にしてはいけない。
「ふっ、燃える男は赤いトラクターに乗っているモノだゼ!」
導火線の長さは、カップ麺にちなんで3分で爆発するように調整してある。そう、本郷にとっては、馬の鼻面にぶら下げられたニンジンのようなものである。とはいえ、一応1分強を目安にハンデがつけられているので、普通にゴールすれば問題ないのだが。
「あっ!」
だが、普通に済まさないのが燃える男なのか、まだ出走人紹介の段階だというのに、本郷が先走って導火線に火をつけてしまう。すぐさま、まだレースがはじまりそうにないことに気づくが、一度つけたものは消さないのが侠気である。
「ふっ、燃える男は一度やったことを取り消したりはしない!」
文字通り燃える男にならないか内心心配だったものの、燃える男は常にどっしり構えているものなのだ。風林火山なのである。
本郷の命運はさておき、以上が500mの直線で事足りる人々である。ここから一気に、距離が膨れ上がる。
向こう正面の1,200m地点には、4枠4番の深森風音(fa3736)のホバークラフトである。
「普段、乗れそうにないものに乗る。貧乏人根性丸出しっぽいけど、楽しそうならそれでいーじゃない」
スタッフがいらぬ気遣いでフェリーに使われているものを持ってこようかと思ったのだが、当たり前のようにここまでどう運ぶかが問題となり、結局は個人向けのレース用のものである。それでも、普通は乗る機会に恵まれるようなものでないことに変わりはない。
以上が、ダートコース内でなんとかなった人々である。ダートコースは1周約1,900mであり、競走馬によるレースの際には1周+直線500mの2,400mまでしか用意されていない。
そこでダート1,600m地点からスタートし、もう1周余計に走ればいいのではないかという案も出たのだが、暴走マシンに二度も追い越されることになると内枠の他の競走人たちが危険だということになり、結局ダートコースの外側にある芝コースを使用することとなった。
使用するは、もちろん芝コース最長の3,400メートル地点、ちょうど深森の真横辺りに位置する向こう正面中央である。といっても、そこから1周半することになるのだが。
まずは5枠5番、九条運(fa0378)のバイク、スズキGSX−1300R HAYABUSAである。といっても、普通のバイクではない。最高時速はリミッター解除の300キロ超、1,300ccのモンスター。もっとも、オフロード仕様なのでそこまでのスピードは出ないが、ターボにニトロを搭載の正気の沙汰とは思えない仕様である。
「語るべきは何もない! ただただマシンを走らせるだけだッ!!」
すでにエンジンをブオンブオン吹かし、気合い十分の九条。アクション俳優の域を出て命懸けスタントマンの域に達しているが、すでにアドレナリン出まくりでピリオドの向こう側しか見えていない。
そして同じ距離の大外6枠6番は、雨堂零慈(fa0826)のポルシェ911C4である。最高時速は300キロにこそ及ばないものの、3,600ccの4WDは破壊力十分である。
「極限まで軽量化したボディ‥‥限界まで排気量を上げたEg‥‥」
恍惚の表情で運転席に座る雨堂。優勝したら賞金代わりにこの911C4をくれと交渉し、額が額だけにあっさり断られていたが、まったく気落ちなどしていない。ひょっとしたら、スクラップになっても構わないや感が強まっただけなのかもしれないが。
全枠の紹介が終わり、生演奏によるファンファーレが鳴り響く。本郷にしたらいいから早く発走しろというところだが、公正競人のために段取りはきちんとこなしていく。
そして、いよいよレースがスタートした!
「行くゼ! 無限大の彼方へ!」
「行け! 今、すべてを終わらせるために!」
いきなりアクセル全開の九条と雨堂。芝がギャリギャリと大量に吹き飛ぶが、馬場造園課の人たちが泣くだけなので気にしない。いや、すぐにコーナーが待ち構えていることすら気にしていないのだから、コースの芝のことなど些細すぎることだ。
深森のホバーが浮き上がった隣のコースを、あっという間に九条と雨堂の2台が抜き去っていき、そのままコーナーに突入する。
内に九条、外に雨堂の並走状態のまま、厳しくコーナーを攻める2台。雨堂の911C4のドリフトで、テールが外埒をガンガン破壊していく。
そして、最初の正面直線に入るやいなや、一気にスピードを上げていき、ダートコースでもがく3人を一瞬で後方に置き去りにする。といっても、ハンデである周回遅れがなくなったに過ぎない。
一方、モンスターマシン軍団に追い抜かれた直線からのスタート組であるが、最内ティタネスはスタートダッシュがつかずに苦戦していた。オールで必死に押すのだが、砂地に埋まり気味のタイヤがなかなか転がっていかない。スピードに乗ってさえしまえば多少は楽なのであろうが、やはり動き出すまでが難関である。
2枠雨宮も、同様の状況に苦しんでいた。必死に漕いでいるのだが、砂のせいでタイヤが空回り気味である。こちらも一旦スピードに乗ってさえしまえばなんとかなるのだろうが、やはり動き出すまでが中々にキツい。
それに引き換え3枠の本郷は、実に順調に進んでいた。だが、砂地を耕しながらでは、出るスピードもたかが知れている。ダートコースでも一定したスピードが強みのトラクターだが、ダイナマイトを積んでいる身では逆にそのあまりに正確に刻むラップが息苦しくて仕方がない。
「いやいや、これは‥‥なかなかおもしろいねー」
その後ろの3角では、ホバーの深森が文字通り滑りながらのコーナーリングを楽しんでいる。
「よし、勢いがついてきましたよ!」
砂地に苦戦していた雨宮のヴェロタクシーが、ようやくスピードに乗ってくる。あっという間に、先頭のティタネスとの差を詰めていく。
「くっ、なんの!」
一瞬焦ったティタネスだが、こちらもなんとかスピードに乗る。雨宮との差は縮まりつつあるが、それでもゴールまでの距離も縮めていく。
「しあわせを知らない男が、トラクターに揺られていくよ〜♪」
その後ろでは、一向に差が縮まらない本郷がヤケになって歌っていた。
軽ハンデ組のゴールが見えてきたころ、ついにモンスターマシン2台が最終コーナーに差しかかっていた。
「さっきはコーナーの立ち上がりでちょっと膨れすぎたか。ここは‥‥ジャックナイフターン!」
そして、果敢にインを攻める九条。一方、雨堂はドリフトで滑りながらもスピードを殺さず、大外に持ち出す構えだ。
「ここで‥‥ニトロだッ!」
九条がついに切り札を使う。デコボコした芝コースを二輪でそんな超絶スピードを出すなど自殺行為にも等しいのだが、頭のネジが完全に飛んでしまっているのでお構いなしである。片や雨堂も、後はアクセルベタ踏みしかない。
ゴール目前のダートコース勢の外から、轟音を上げて九条と雨堂がかっ飛んでくる。とはいえ、最初からハンデの少なかったティタネスと雨宮はゴール目前である。
「ええっ!」
だが、ここに来てティタネスにアクシデントが起きてしまう。なんとか先頭をキープしていたものの、いきなりの脱輪である。後一押し、というところであるにも関わらずだ。耐久性を中心とした細かい注文にすべて応えたボートだったのではないのか!?
そこへ、雨宮のヴェロタクシーがかわしてゴールに飛び込む。さらに大きく離れた芝コースでも、ほぼ同時に九条と雨堂がゴールしていた。
すぐには着順が上がらず、1着〜3着までが写真判定と表示される。
その後は、最後に無理矢理押し込んだティタネスのボートの先端がかろうじて届き4位入線、5位入線で深森のホバーが悠然と入り、やや遅れてマイペースに本郷のトラクターが最下位の6位に入る。
ターフビジョンには、先程のゴールのスローモーションが映し出される。わずかに雨宮のタイヤが先頭で入り、つづいて九条のタイヤの先端が入ったかのように見える。その後、大外の雨堂の車体がゴールを覆い隠す形だ。
徐々に減速しているとはいえ、すでに九条と雨堂のマシンははるか先に行ってしまっているが、ゆるゆるとペダルを漕ぎながら雨宮が両手を突き上げる。とはいえ、特に審議はないようであるが、確定するまで勝負は分からない。
「ああ、風が心地いい‥‥もうちょっとだけ乗っていようかな‥‥」
その横を、深森が気持ちよさそうに風を浴びて、ホバークラフトで追い抜いていく。
「じゃあ折角だから、自分ももう少し風と一緒になってみるかな‥‥」
その様子を見ていた本郷が、そんな悠長なことを言っている。最下位とはいえ、完走した満足感で気が大きくなっているようだ。おかげで、何か重要なことを忘れている。
ボカーン! 轟音一閃、ついにタイムリミットである。ダイナマイトがトラクターを吹き飛ばす。本郷の安否が気づかわれるが、無事宙を舞っているようなので問題なしである。黒ヒゲならぬ、ただの黒コゲ危機一髪なのだから。
そんな打ち上げ花火をバックに、アナウンスが流れる。
1着 2 雨宮慶
2着 5 九条運
3着 6 雨堂零慈
4着 1 ティタネス
5着 4 深森風音
6着 3 タケシ本郷
『‥‥以上のように、到達順位の通り確定しました』
「ありがとうございます!」
優勝した雨宮に、賞金10万円が送られた。
と、そこへちょうど本郷が降ってくる。随分滞空時間が長かった気がしないでもないが、無傷での生還である。コントのように黒コゲアフロになってはいたものの。
「ん? なんかよく分からんが‥‥ありがたく頂戴しておく‥‥」
そして、爆発でお星様になったということで、本郷に敢闘賞5万円が送られた。
その後ろでは、乗れるうちに乗っておくとばかりに、九条、雨堂、深森の三人が各自のマシンを乗り回しつづけていた。
一方、ティタネスはボートを水陸両用に改造したスタッフを、自分の足で追い回していた。