エスカレーターの落ち方アジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
牛山ひろかず
|
芸能 |
フリー
|
獣人 |
フリー
|
難度 |
やや難
|
報酬 |
0.8万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
05/31〜06/02
|
●本文
階段落ち──その名のとおり、階段を転げ落ちることである。土方歳三役の銀ちゃんの階段落ちはあまりに有名である。
エスカレーター落ち──その名のとおり、エスカレーターを転げ落ちることである。より金属的に鋭角なエスカレーターは、階段落ちの危険度の比ではない。
「‥‥いや、それは分かるんですけどね。ただ10mのエスカレーター用意するって、結構な額がかかる気がするんですけど‥‥」
先輩の出した企画書に、後輩がダメ出しをしている、とある日の会議室。
「‥‥大体、意味もなく階段落ちするってのもワケ分かんなかったのに、エスカレーター落ちにグレードアップする意味が分かりませんよ!?」
黙って聞いていた先輩であるが、もちろん先輩たるものが引き下がろうハズもない。
「意味がないのにやり過ぎる。だから、おもしれえんじゃねえか!」
「そ、そういうものですかね?」
「そういうもんだ! 普通のことしても、わざわざテレビで見ようとは思わねーだろが。イカレてるからこそ、わざわざ見ようと思うんだ。リアクション芸、ナメんじゃねえぞ!!」
「リアクション芸って、そういうもんでしたっけ? まー、やりますけども。でも‥‥」
「でもなんだ?」
「‥‥でも、エレベーター落ちはやめておきましょうね。確実に死者出ますよ」
「考えておこう‥‥」
早くも次の続編案が出る中、とにかくいかにおもしろくエスカレーター落ちをするか、怪我人続出必至の企画がスタートした。
『エスカレーターの落ち方』
10mのエスカレーターをいかにおもしろく落ちるかを競い合います。
リアル志向なので、ちゃんと生身で落ちなくてはなりません。
一番おもしろかったと判断された優勝者に、賞金10万円が授与されます。
その他注意点
・流血、怪我OKです。但し、治療費は自己負担です。
・重傷、重体、死亡はNGです。死者がでると、番組がなくなってしまいます。
・敢闘賞や技能賞など、優勝以外で若干の賞金が出るかもしれません。
過去の放送スケジュール:
・階段の落ち方 4月27日 02:00〜
●リプレイ本文
「TOMITVの科学力がご用意いたしました、10m超級エスカレーター! その一撃よくクマをも倒すという破壊力を、私ADの矢沢きゃおる(fa2868)がダミー人形代わりに身をもって皆様にお伝えしいたします!」
ただこの企画のためだけにスタジオに組まれたエスカレーターの全長は、実に10m。大井町駅の44mに比べれば遥かに小さいものの、スタジオ内のセットとしては限界ギリギリの世界である。
そのエスカレーターを見上げる形で、きゃおるがアイスホッケーのゴーリー用防具一式を身にまとい、スピードスケートのスタートのような構えで今にも走り出さんとしている。
パーン! なぜか古河甚五郎(fa3135)が膨らませた風船の表面にガムテープを貼り、そこにアイスピックを刺しても割れないというマジックをやっていたのだが、あっさり割れてしまう。
だが、それがきゃおるの号砲となってしまう。猛然と下りのエスカレーターを駆け上っていく。
「ご覧下さい、この凶悪な長さと高さを‥‥って、のわっ!?」
だが、頂上に到達しようかというところまで来て、足を滑らせて頭から真っ逆さまに転落していく。
「‥‥体重×スピード×ネタ力=破壊力ぅッ!」
グシャーッ! イヤな音を立てて、きゃおるが床に叩きつけられる。着込んだプロテクターなど、鋼の塊の前では役に立っていない。海の男がライフジャケットを着けないのはこういうワケか、などと薄れいく意識の中で思っていたとか、いなかったとか。
だが、これはまだダミー人形としての試技に過ぎない。残る命知らずの7人が、この程度で怯えたりはしない。
「ケガがコワくて、スタントマンがやれますか〜ッ!?」
最初の挑戦者として、宮間映(fa0082)が倒れているきゃおるの脇にやって来る。若干膝が笑っているが、あくまでも武者震いである。
なので、きゃおる同様下りエスカレーターを駆け上ろうというわけだ。といっても、きゃおると違って防具の類は一切まとっていない。シャツにジーンズというラフな格好である。
「行っきますよーっ!」
ラフな格好だけに動きやすく、快調に上っていく宮間。なんの波乱もなく上りきってしまいそうである。
「はっはっは。だよなー?」
だが、上ではエディ・マカンダル(fa0016)が一人で会話をする危険な香りのする男を演じながら、バナナを食べていた。バナナとなると、もはやイヤな予感しかしない。
「モグモグ‥‥でさー」
ひょいっと食べ終わったバナナの皮を、無造作に投げ捨てるエディ。会話に夢中で、そこに宮間が向かっていることなど気づいてもいない。
「うおっと!」
案の定、せっかく上りきったのにバナナの皮に足を滑らせてしまう宮間。だが、宙でなんとか体勢を立て直し、手すりのベルトの上に飛び乗ってみせた。
「ふう‥‥うわっ!」
だが、一息つく間もなくバランス崩し、今度こそ豪快にエスカレーターを転げ落ちていく宮間。
しかし、下ではきゃおるが待ち構えていた。
「‥‥ま、まだまだぁーッ!」
きゃおるは死なず。あの程度で折れてしまうような心は、持ち合わせていなかった。不屈の闘志で立ち上がると、ゴールと見立てた壁を背に構えるきゃおる。
一体何から何を守るというのだろう? という根本的な疑問は、先程脳が揺らされているので思いつきもしない。ただゴールを死守する、ゴーリーという競技者としての本能だけで立っていたのである。
ならばすることはただ一つ、飛んでくる宮間をキャッチし、ゴールを許さないことである。
「このきゃおるがゴールを守るからには、一点も入れさせないっス‥‥ぎゃっ!」
ゴールこそ死守したものの、宮間に弾き飛ばされ、またもダウンするきゃおる。たった今3ノックダウン制であることが明らかになり、あと1回できゃおるのTKO負けが決まってしまうことになる。
一方の宮間は、きゃおるがクッションになったことには気づかず、
「人生は下りのエスカレーター。苦労して上ってもすぐ転げ落ちる。でも、落ちたらまた上がればいいんですよ♪」
なにやら教訓めいたことを言ったかと思えば、また駆け上りはじめていた。
「うわっ、と!?」
だが上では、エディが危険な香りのする男キャラを継続中であった。エディにしか見えない友人に押されたのか、前のめりになり、すんでのところで踏みとどまるエディ。
「ちょ、おま、危ないだろ!?」
エディにしか見えない友人に食ってかかるが、逆に今度こそ突き飛ばされてしまう。
「えっ!?」
一気に転げ落ちるエディに、本日2度目の全力疾走の宮間の反応が遅れた。見事なまでに巻き込まれて、二人してコロコロとキレイに転がっていく。
そして転げ落ちても、勢いはまったく止まるところを知らない。さっきまでそんなことなかったのに、ワックスが撒かれていたのだ。回転こそ止まったものの、ツーッと滑って壁に激突である。
「エスカレーターの出入り口は、ガムテープで封鎖しておいたハズなのですが‥‥」
古河が清掃ということで、ワックスを撒いた直後だったのだ。そして、封鎖用のガムテープなど、転げ降りる人間の前では無力である。わずかに、その残骸がエディと宮間の身体に貼り付いているのみである。
「‥‥よい子のみんな、危ないからエスカレーターで人を押しちゃいけないぞ!」
宮間は目を回していたが、エディは無事であった。そのエディがカメラ目線で教訓めいたことを言ったところで、頭上からタライが落ちてくる。
それでシメとなるはずが、なぜか頭に貼りついたままとれないタライ。
「うお、俺のドレッドが!?」
見れば、タライの底には両面ガムテープがビッシリと貼り付けてあった。
「あー、小道具が動かないようにと、タライの底にガムテがついたままでしたね」
何食わぬ顔で言うと、そのまま清掃作業に戻っていく古河。今一度、出入り口をガムテープで封鎖し、エスカレーター本体の掃除にかかる。
「エスカレーター式はお受験が大変ですが、エスカレーターのお掃除も大変ですね。でも、そんなお掃除もこれ一つで解決です。そう、ガムテープです!」
すべてがガムテープで完結する男、それがガムテープの芸術家古河である。なので、掃除はすべてガムテープ頼りである。
エスカレーター上りに設定し直すと、ステップに乗って側面のガラスにガムテープを当てて拭いていく古河。ガムテープなのでやや引っかかりながらとはなるが、ガムテープの粘着力を知り尽くした男、その程度でバランスを崩して落ちるような下手は打たない。
上に到着し、もう反対側を拭こうと、今度は下りに設定しようとしたときだった。腰に吊るしていたガムテープの一つが、ドンドンとエスカレーターに巻き込まれていく。
「ふんっ! ふんっ!」
必死に引っ張る古河。切って止めればいいのだが、突然のことでそこまで頭が回らない。今できることは、とにかく力任せに引っ張ることだけだった。
だが、いくら丈夫なガムテープとはいえ、そこまで頑丈なわけではない。ましてや、巻き込み口でシュレッダーのように細く裁断されてしまっているのである。あっさりとプツッといき、その反動で古河は勢いよく反り返る。
無論、そのままブリッジで耐えるという都合のいい展開にはならない。ただ転げ落ちるのみである。
階下に目を回した人間が増えたところで、今度は上にグレッグ(fa3449)登場である。
「では、行くかのう‥‥」
そこにマットがあるかのように前転をはじめると、そのまま階段に突入していくグレッグ。
「ひょっひょっひょっ!」
だが、打たれすぎておかしくなった人のように、平然と笑い声まで上げている。とはいっても、本当におかしくなったわけではない。
最後の一段で突然身体を後ろ側に丸めると、ブリッジで着地である。
今までで一番回転数が激しかったが、その程度のことで目を回したりはしない。なぜなら、これからがグレッグにとってのメインエベントだからである。
グレッグの視線の先、エスカレーターの一番上には、女性陣二人組がやって来ていた。豊満な妹分の安部彩乃(fa1244)とスレンダーな姉貴分の空野澄音(fa0789)である。
「お姉さまと一緒なのです〜、嬉しいのですっ。でもでも、立っている場所が違う気がするのです〜。これは装置人の仕事じゃないですよっ!?」
安部は舞台装置職人なのだから、本来ならこのエスカレーターをいじっている側にいるはずなのである。それが、エスカレーターにいじられる側として立っているのはなぜなのだろうか? とはいえ、お姉さまである空野と一緒にできるわけだから、完全に嫌がるわけにもいかない。
「あっ! あそこを転んで落ちるですねー? ちょっと見てくるのです♪」
ここはお姉さまらしく、物おじすることなくエレベーターを覗き込みに行く空野。
「‥‥‥‥」
だが、先程までのお気楽さはどこへやら、空野の表情が急に一変する。
高さが怖い。そして、一瞬でも高さに恐怖を感じてしまったら、ブリッジしたグレッグがエクソシストのごとく見えるのも無理からぬことである。たとえ本当はそれが、スカートの中を覗き込んでニヤけているグレッグだったとしてもである。
「‥‥先生! 帰っていいですかっ!?」
エスカレーターにくるりと背を向けると、よたよたと安部の胸の中に倒れこむ空野。
「ちょ、お姉さまっ! 何を弱気に〜?」
「‥‥み、見に行かなければよかったかもです」
ガクガクブルブルと震え出す空野。
「お姉さまっ、一気にいくです〜。思い切りが肝心なのですっ」
ここは妹分の私が支えねばと安部が急に強気になると、空野を抱きかかえてそのままエスカレータに突っ込んでいく。
「えっ!? あっ、こっ、心の準備が‥‥っひょわあぁぁー!?」
「お姉さま、私が一緒ですっ‥‥はわわわっ‥‥」
気づけば、グレッグが顔面で安部と空野を受け止めていた。二人の臀部を顔面で受け止め、昇天寸前のグレッグ。
とはいっても、文字通りの方の昇天寸前である。激突の衝撃で、ロビンのタワーブリッジも真っ青なほど、くの字どころが、お腹と背中ならぬ背中と背中がくっつくほどグレッグのブリッジが曲がっている。
が、安部と空野はそれどころではない。
「お姉さま〜、やりましたよっ!」
「え? え!? 彩乃君!!」
勝利の抱擁を交わす安部と空野。その隙に、古河がグレッグの身体をガムテープで固定して、無理矢理真っ直ぐにしている。
明暗がはっきりしたところで、最後に三間坂響介(fa1454)が颯爽と上に現れる。黒のタンクトップにジーパンという、肌を露にした無謀スタイル。というよりは、引っ掻き傷を防ぐくらいなら、筋肉を見せていたいだけともいえるが。
いきなり駆け出すと、無言でダイブする三間坂。掛け声も呻き声も出さず、淡々と受け身を取って転げ落ちてくる。
さすがに軽装なので無傷とはいかず上半身擦過傷だらけであるが、まったく気にした様子もなく、相変わらず無言のまま今度はエスカレーターを駆け上がりはじめる。
息を乱すこともなく、元いた場所に戻る三間坂。そして、またまた無言でダイブである。
今度は、最後をややアクロバティックに決めにかかると、スタっと着地を決める三間坂。
「‥‥これくらい、俺には造作もないことだ」
三間坂がぼそりと呟く。
誰もが決まったと思った瞬間だが、ついに三度甦ったきゃおるが三間坂を受け止めてしまっていた。
「快速WTBと呼ばれたこのきゃおるの華麗なステップ、止められるものなら止めてみんかーいっ!」
いつしか防具は一切脱ぎ捨て、ラグビーのジャージ姿となっているきゃおる。ボールとは、もちろん三間坂である。
「どりゃぁーっス!」
三間坂を担いだまま、一気にエスカレーターを駆け上るきゃおる。
「ワントラーイ! 勝利はもらったーっス!」
そして、トライとばかりに床に三間坂を叩きつける。
「くっ! せっかく渋くキメてたのによッ!?」
三間坂が文句を言うが、もはやノーサイド。これにて敵味方はないのである。
こうして、逆転トライを上げたきゃおるがそのまま優勝し、賞金10万円を獲得した。
また、エロエロブリッジ男を素で演じきったグレッグに、敢闘賞として5万円が送られた。
「えー!? 今度は巨大ジャングルジムから落ちるんですかー?」
表彰式の横では、いつの間にか蘇生した宮間が、勝手に次のお題を決めてしまっていた。