口先魔球王アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 普通
報酬 0.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/27〜03/01

●本文

 TOMITVの給湯室での一コマ。そこでの上司と部下のたわいのない会話が発端だった。
「消える魔球って知ってるか?」
「野球盤のヤツですか?」
「バカヤロウ!」
 いきなり上司の鉄拳制裁。アツい二人である。
「本物の野球での話だよ。本当に消える球を投げるんだよ」
「そんなの、ムリに決まってるじゃないですか」
「なんで決め付けるんだ、バカヤロウ!」
 再び上司の鉄拳制裁。ムダにアツい二人である。
 そして、上司はしばらく考え込んだ後、口を開いた。
「うん、そうだな‥‥バラエティトーク番組全盛のこの時代、やはり芸人たるもの口が立たないといけないと思うわけよ」
「それはそうですが‥‥消える魔球と何の関係が?」
「話は最後まで聞け、バカヤロウ!」
 三たび上司の鉄拳制裁。アツ苦しい二人である。
「いいか、口がうまければ、白い物を黒いと言って黒と思わせることができる。そこで、普通に野球のボールを芸人に投げさせて、それがいかにスゴい魔球だったかを後付けで説明させるんだ。で、お客さんが本当にスゴい魔球だったと思えたら、スゲーじゃねーか。よし、おまえこれで一本番組撮ってみろ」
「えっ、そんな簡単に決めちゃっていいんですか?」
「バカヤロウ! 鉄は熱いうちに打て、だ!」
 またまた上司の鉄拳制裁。まさに部下はアツ苦しく殴れである。

 お客さんに、普通の投球を魔球を投げたかのように、口先だけで思わせてください。
 一番多くお客さんの賛同を得られた方に、賞金10万円が送られます。

●今回の参加者

 fa0360 五条和尚(34歳・♂・亀)
 fa0928 舞腹 旨井蔵(33歳・♂・豚)
 fa1769 新月ルイ(29歳・♂・トカゲ)
 fa1772 パイロ・シルヴァン(11歳・♂・竜)
 fa2868 矢沢きゃおる(19歳・♀・狸)
 fa2939 橘 来夢(11歳・♀・ハムスター)
 fa3037 綾部・結花(18歳・♀・狼)
 fa3039 安楽屋家吉(40歳・♂・狸)

●リプレイ本文

『さあ、間もなくはじまります口先魔球王、野球自慢の芸能人が終結しております。夕闇迫るどこぞの市民球場のグラウンド内では、早くも思い思いに肩を作っています』
 球場のスタジオを映したカメラには、各自投球練習やキャッチボールを行う芸能人どもが映っている。
 そんな中、新月ルイ(fa1769)、橘来夢(fa2939)、綾部結花(fa3037)の3人が、輪になってキャッチボールをしている。といっても、橘は某ジャイアンツのマスコットのパチモンのような着ぐるみ着用なため、実質見ているだけなので華麗にスルーしておくとして。
 綾部は甲子園を勝手に夢見た少女というだけあって、キレのあるボールを小気味よく投げていく。一方の新月ルイは、逆にバラバラのフォームだが、力ずくで剛速球を投げている。
『新月選手はああまでもフォームが崩れていると、バッターとしてはタイミングが取りづらくて打ちにくそうで、ある意味魔球っぽいですが‥‥まだはじまっていないので残念ながら無効です!』
 その中でただ一人、猛然と素振りをこなす矢沢きゃおる(fa2868)。『空気読め!』とのカンペが出ていたが、
「この矢沢きゃおるが、白球を消し去ってみせるっス! そう、遥かスタンドの彼方まで‥‥」
 確実に空気を読み違え、ホームラン予告のように場外をバットで指し示している。
『なぜかバッターがいるように見えるのですが‥‥とにかくはじめてみましょう! 最初の挑戦者は、魔球タキオンの五条和尚(fa0360)選手です!』
 五条が登場すると、ボールを手に解説をはじめる。
『ご存知のように、タキオンとは超光速の粒子で‥‥』
 五条がそこまで言いかけたところで、一気に早回しになる。数秒の後、先程まで点いていなかった球場の照明が、突然煌々と点いていることを気にしてはいけない。
『口先魔球王でありながら『口先』の部分が初っ端からごっそりカットされたところで、いよいよ投球に入ります』
 渾身の力を込めてボールを握り締める五条。バッターボックスでは、もちろん矢沢が構えている。
『光速の遺伝子と呼ばれた名馬もいましたが、その名のとおり超光速粒子のような剛速球となるのでしょうか? さあ、大きく振りかぶって投げた! あーっと、これはとんでもないスローボールだ! 矢沢選手、じっくり引き付けてフルスイング!』
 だが、ボールはキャッチャーミットに収まった。空気を読んで空振りしたわけでは、無論ない。
「ズルっ! 本当に魔球を投げてるっス!」
「ただのチェンジアップでしょうが‥‥あっ!」
 食ってかかる矢沢に、思わずチェンジアップだと反論してしまう五条。
『五条選手、自滅しました! やはり、タキオンは実在しないのか!? 気を取り直しまして、つづいて舞腹旨井蔵(fa0928)選手です!』
「投捕間は18.44メートルに定められている。これが何を意味するか、分かるかな?」
「御託はいいっス。バッチコーイ!」
 ある意味番組を否定する返しをする矢沢だったが、さらにそれを否定する舞腹。
「それはムリだね。こんな距離、この魅惑の運動不足バディとぶっとい指にかかれば、余裕で届かないんだよねー。だがしかし!」
 マウンド上で、儀式か何かのように踊りはじめる舞腹。
『二段モーションなんか目じゃない、明らかなボークですが、魔球の世界に反則投球を持ち込むなどヤボというもの!』
 舞腹のウマイさんダンスがはじまったところで、一気に早回しになる。数秒の後、辺りが完全に夜の闇に包まれていることや、舞腹が汗でびしょ濡れになっていることを気にしてはいけない。
「ぬおぉー、サンダーボールっ!」
 そう言うや、ボールを全力で地面に叩きつける。
「はぁはぁ、これぞ魔球サンダーボール! 稲妻のようにジグザグに飛んでいく球に、はぁはぁ、打者はキリキリ舞いだぜ! はぁはぁ」
『明らかにバウンドしているだけだが、深く追求してはいけないっ! しかし、これは‥‥』
 ボールは、辛抱強く待ちつづけた矢沢のところまで届くことはなかった。普通に投げても届かないものを、バウンドさせて届くはずもない。
『あーっと、ここで舞腹選手が担架で運ばれていきます。踊り疲れて限界に達した模様、続投不可能です!』
 運ばれる舞腹と入れ替わりに、何やらセットが運び込まれる。
『えー、次のパイロ・シルヴァン(fa1772)選手は大フライボール1号とのことですが‥‥通天閣投法のようなものでしょうか?』
 そんな中、ホームベース上にガスコンロ等のセットが組まれた。
『おーっと、フライといっても揚げ物の方のフライだったようです! FryとFlyですが、日本人には区別がつかない、盲点です!』
 早速キッチンセットで、平然とボールを小麦粉、溶き卵、パン粉とまぶすパイロ。そして、おもむろに高温の油煮えたぎる中華鍋に放り込む。
「いつ爆発するか分からない、謎の魔球の完成さっ!」
 そう言いながら、さっさと自分は避難してしまうパイロ。
「相手にとって、不足ないっス!」
 一方、矢沢はネクストサークルで素振りを繰り返し、タイミングを計っている。
『‥‥弾けたッ! さあ矢沢、猛然と突っ込んでくる〜。が、空振り〜ッ! あーっと、悶絶しております。熱い油も一緒に飛び散ってましたからねー。これは効きます!』
 両手を挙げて喜ぶパイロの画に、『大フライボール1号は、この後スタッフで美味しく頂きました』という大嘘のテロップが流れる。
『今のところ、パイロ選手が一歩リードか!? つづきましては新月ルイ選手なのですが‥‥ゴールデンボールとのことで、この時点で何やらイヤな予感がしますが‥‥』
「皆さん、よろしくねん☆」
 カマキャラの新月がウインクしてみせる。
「イクわよ〜ん」
 だが、構わず打ち砕く矢沢。
『打ったーっ! 始球式のボールを打ち返すがごとし、上等な料理に蜂蜜ををぶちまけるがごときだーッ!』
 一応、空気を読んでの仕込みバットなので、バットは粉々に砕けてしまう。が、ボールはふらふらと上がった。
 かと思ったら、ボールも空中で球が砕けてしまう。
「いやぁん、あたしの玉砕かれちゃった。ウフ、これであたしも正真正銘の女よ」
 見れば、砕けたボールの破片は金色に彩色されている。
『あーっと、予想通りの展開だーっ! お見苦しい点、お聞き苦しい点があったことをお詫びします』
『そして、野球大好きっ娘の武術家女子高生、綾部結花選手の登場です』
 キレイなフォームから、鋭い直球を放り込む綾部。ど真ん中だったが、矢沢は空振りする。
『ただのストレートに見えましたが‥‥?』
「えっと、今のは重力と距離が緻密に計算されたからこそ、ストライクが入ったんだって!」
 そう言って、高校の数学の教科書やノートを取り出してみせる綾部。具体的にどのような計算があったのかはよく分からないが、とにかくノートにはよく分からない計算がたくさん書かれている。
『これが、俗に言うゆとり教育の弊害ってヤツですかねー?』
 が、実況に一蹴されて終わりだった。
『最後になりました、橘来夢選手です。今まで着ぐるみでずっと待たせるあたり、児童虐待の恐れもありますが、深く考えないことにしましょう!』
「え〜と‥‥あの‥‥よろしくです〜」
 正しくは着ぐるみではなく、耳付きの帽子に半獣化した上からのちょうちんブルマで、ぱっと見着ぐるみっぽいだけで、実況のように着ぐるみの中でずっと待機していたわけではないのだが、これも深く考えないことにされた。
「ほぇっ‥‥あんなとこまで‥‥投げるんですか?」
 マウンドに立つ橘。矢沢がバットを振り回して待ち構えているものだから、138センチの身体が余計に小さく見える。
「えいっ!」
 すでに半泣き状態の一投は、キャッチャーに届くことなく止まった。同じく届かなかった先程の舞腹よりも手前だった。
「うりゅ〜」
 ボールのところに駆け寄ると、拾い上げてもう一度投げる橘。
『あーっと、これが『れいんぼーぼーる』のようです。山なりの球の軌跡を、虹の弧に見立てたなんとも涙ぐましい‥‥』
「秘打、鉄は熱いうちに打つべし、打つべし!」
 実況アナウンサーがもらい泣きしているところに、矢沢の声が響く。
『打ったーっ! 子ども相手にも容赦なしッ!』
 橘の投球を打った打球は、スタンドに飛び込んだ。ホームラン、である。
「ふぇ〜ん! 大きなお友だちがイジメるよぅ〜」
「賞金10万円、イタダキっス!」
 グラウンドにへたり込んでベソをかく橘を尻目に、平然と大はしゃぎでダイヤモンドを回る矢沢。
『土壇場に来て、最強ヒール誕生かッ!』
 五条もパイロも新月も綾部も、担架で運ばれたっきりの舞腹を除いた全出場者が橘に駆け寄る中、悠然とホームインする矢沢。
『これが、これが野球という競技の光と陰かっ!? 何か違う気もしますが、ともあれ口先秘打王をお送りしました。さようなら!』
 こうして、ついには番組名を変えてしまった矢沢に、賞金10万円が送られた。