第7回プロレスごっこ王アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/22〜06/24

●本文

 プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居あり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。

 TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。かつて18回も放送されたこの番組も、短期間に集中して放送されたことによりスタッフの疲弊が著しく、しばしの休息をもらっていたのである。だが、こうして集められたということは、いよいよ眠りから覚めるときが来たということだ。
「諸君、休みは満喫できたかね?」
「休みって‥‥別にプロレスごっこだけ担当してるわけじゃないですし‥‥」
「バカヤロウ!」
 スタッフの一人が感じたままを答えてしまったために、プロレスごっこの一番えらい人がキレて鉄拳制裁である。
「そんな上っ面の話がしたいんじゃねーんだ。魂の叫び、Heart’s Cryを聞かせろよ! しばらくプロレスごっこがなくてツラかったんじゃないか? 心がぽっかり空洞になったんじゃないか? 禁断症状が出ちまったんじゃないか!?」
「いや、さすがにそこまでは‥‥」
「バカヤロウ!」
 それでもなお、スタッフの一人が感じたままを答えてしまったため、一番えらい人はブチギレで鉄拳制裁である。
「なんのために生きてるんだ? プロレスごっこのためだろう!? プロレスごっこのために目覚め、プロレスごっこのために食い、プロレスごっこのために飲み、プロレスごっこのためために走る。そうじゃなかったのか!?」
「そんなわけないじゃないですか! プロレスごっこのためだけに生かされてるなんてヤだ‥‥」
「バカヤロウ!」
 空気の読めないスタッフの一人が反論してしまったため、一番えらい人はマジギレで鉄拳制裁である。
「ただ前に突き進むんだ! 前へ、前へ。決めるのは誰だ? やるのは誰だ? 俺だ! 俺がやると決めたんだ。I’m えらい人ーッ!」
 口から泡を吹きながら、異常な興奮状態の一番えらい人。ドラッグでもキメてるのかというテンションで、もう誰もついていけない。
 スタッフ一同、自分たちがしっかり舵取りしなければ大惨事になると、覚悟を決めて第7回芸人プロレスごっこ王選手権に臨むこととなった。

参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。

注意:
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。

過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・GWSP01 4月29日 07:00〜
・GWSP02 5月03日 07:00〜
・GWSP03 5月04日 07:00〜
・GWSP04 5月05日 07:00〜
・第6回 5月08日 23:30〜

●今回の参加者

 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa0791 美角やよい(20歳・♀・牛)
 fa0892 河辺野・一(20歳・♂・猿)
 fa1136 竜之介(26歳・♂・一角獣)
 fa2132 あずさ&お兄さん(14歳・♂・ハムスター)
 fa2599 若宮久屋(35歳・♂・狸)
 fa2824 サトル・エンフィールド(12歳・♂・狐)
 fa3800 パトリシア(14歳・♀・狼)

●リプレイ本文

『我々は帰ってきました。この草も木もないジャングルに‥‥聞こえます、聞こえます! 我々を迎えるお客さんのあの大歓声が! プロレスごっこよ、私は帰ってきたーッ!!』
 久々の放送ゆえの興奮のあまり、実況そっちのけで観客席に向けて両手を掲げるサトル・エンフィールド(fa2824)。もちろん、プロレスごっこの伝統にのっとり観客席は無人であるが、見えないものが見え、聞こえないものが聞こえてしまう、そんなパンチドランカーな状態に常に身を置くのがプロレスごっこ魂というものである。
『‥‥すみません、はしゃぎすぎました。でもでも、最近はプロレスごっこの実況だけで食いつないでいる始末でしたので‥‥』
 最近の食生活を思い出し、思わず涙するサトル。サトルの年齢からして児童虐待ではないかという話もあるが、弱肉強食のジャングルに扶養などという言葉は無意味なのである。
 そしてサトルの横の解説席では、そんな食生活をあざ笑うがごとく、河辺野一(fa0892)が食べ終わったどんぶりをうずたかく積み上げている。
「プロレスごっこが復活したとなれば、こちらにも復活して欲しいところ。そんなわけで、すでにわたくしは牛丼との激しい戦いを繰り広げております! サトルくんがプロレスごっこの実況で食いつないでいるというなら、わたくしは牛丼一筋で食いつないでいるのです!」
 河辺野が挑むは、大盛り、特盛り、玉子、豚汁、サラダ等一切禁止の、牛丼ワンコインデスマッチである。
 とはいえこのご時勢、使用されているのは国産ブランド牛肉である。だから、ワンコインで済むハズもないのだが、そこはツッコミどころではない。本来は高いものを安い体で、しかも実際はタダで食べられるなんて、なんてプロレスごっこはすばらしいんだ! というほど甘くもない。ブランド牛ともなると脂が乗っているために、束になってかかって来られると、ボディブローのように地味に効いてくるのだ。
『さあ、今回から出血なしから控え目にという様に密かに指示が変わりましたが、地獄に挑むチャレンジャーたちにとってこれが吉と出るか、凶と出るか? まー、チキン揃いだから関係ないんでしょうけどね! というわけで、控え室を呼んでみましょう。控え室の竜之介(fa1136)さーん?』
「はーっはっはっは! プロレスごっこよ、おかえりなさい。そして皆様お待ちかね、美しく気高き一輪の薔薇、この竜之介も帰ってきたよ☆」
 移動式の浴槽に気持ちよさそうに浸かりながら、高笑いを上げる竜之介。赤のブーメランパンツ着用で、耳に手を当てて『おかえりなさい』コールを待っている。
「パンツがジャマ? 全裸が見たいだって? はーっはっはっは! それはできない相談さ☆ 僕が全裸をさらすのは、あまりの美しさにどの出版社も手を引いてしまったという、伝説の写真集だけだからね!」
 当然の如く『おかえりなさい』コールは一切なかったが、パンチドランカーの中でも特にパンチの効いている竜之介には、しっかり何かが聞こえたらしい。
 それはさておき、竜之介の浸かっている浴槽に張られているのは、熱湯でも適温のお湯でもなく、水である。とはいえ、今回はなぜか控え室が比喩表現ではなく本当にサウナなので、それでちょうどいいのであるが。
 なぜサウナなのか? その答えは、湯ノ花ゆくる(fa0640)にあった。今回のカキ氷戦に備えて、特別に控え室をサウナにしてもらったのである。
「過去の‥‥戦績は‥‥0勝2敗。これ以上‥‥敗北を重ねないためにも‥‥万全を‥‥期します‥‥」
 湯ノ花はメロンパンで作られたサウナスーツも着込み、汗のしょっぱさよりも甘さが勝ってしまっているドロドロ状態である。
 控え室はここだけなので、他の出場選手は大迷惑である。バカンス気分の竜之介はさておき、美角やよい(fa0791)は対戦相手のあやとりの紐がぐっしょりと湿ってしまって気持ちが悪い。
 そしてなにより若宮久屋(fa2599)は、大量搬入した対戦相手のコーヒーゼリー納豆サンドの納豆の部分の発酵が進んでしまっている始末である。確実に納豆菌以外も繁殖しまくりの気がしてならないが、コワいので気にしないことにする若宮。
 そんな控え室の惨状はさておき、プロレスごっこの主戦場はリング上である。試合に先立って、レフェリーのパトリシア(fa3800)がリングに上がっていた。
 ひらひらの魔法少女服を着て、先端が星の魔法ステッキを持ったパトリシア。しかし、頭にはグリーンベレー、右目には黒のアイパッチ、そして足下は軍用ブーツである。試合を裁く前にオマエが裁かれろというレフェリー姿だ。
「轟く銃声! 発射寸前のミサイル! 黒煙を上げる油田基地!! 軍靴を鳴らし、ステッキ片手に魔法少女は無事に国際調停をできるのか!? 最後の3カウントが今はじまる‥‥魔法少女★マジカルレフェリー♪ ご覧の放送局で、毎週日曜の朝5時、好評放送予定です。よい子は紛争地域に行ってマネしないでね」
 リング上で一人なのをいいことに、何やらポーズをキメてみせるパトリシア。
 なお、番組表を見れば分かるとおり、5時からの枠など存在しない。パトリシアは、TV画面の砂嵐の向こうに、本当の砂塵を見てしまったのであろうか? とはいえ、余人の知るところではない。いや、知りたくもない、といったところであろうか。
 とはいえ、プロレスごっこのレフェリングスタイルにアレコレ言うのも、ヤボというものである。
『復帰初戦はやはりこの人たちです! あずさ&お兄さん(fa2132)が梅雨に挑みます!』
 なので、その辺は一切スルーで試合がはじまる。とはいえ、試合の方も梅雨とはいえ今日も晴れていてと、ツッコミどころ満載である。
『今日は晴れていますが‥‥あずさ選手一人で入ってきたが、これはどういうことでしょうか‥‥雨乞いだ。雨乞いの舞ですッ!』
 リングインするやいなや、ナゾの踊りをはじめるあずさ。その横では、パトリシアがつられて踊ってしまっている。
『これは不思議な踊りですね。果たして、すぐに雨は降るのでしょうか?』
「牛丼3つ、早くねぇちゃん!」
 別に牛丼作りの舞ではないのだが、すでに脂地獄でドランカー状態の河辺野だからしょうがない。
『‥‥降りませんねぇ‥‥』
 早くもサトルが飽きはじめてきたが、そんな一瞬で降らせることができたら、それこそ魔女狩りの対象になりかねない。
「こうなったら、奥の手を出すしかないね!」
 あずさの合図と共に、何やら吊るされた人形が運び込まれてくる。
『おっ、お兄さんが死んでるーッ!? これは自虐を超えてる、まさに公開自殺だぁーッ! お兄さんの、命を賭した雨乞いですッ!』
 お兄さんは首を吊るされ、しかも逆さ吊りである。いわゆる、逆さてるてる坊主だ。
『しかし、急に雨が降り出すハズもなーいッ! というわけで、このまま次の試合にまいりましょう! 美角選手が、あやとりに挑戦だーッ!』
 サウナ控え室ですっかり汗だくになった美角が、同じくすっかりぐっしょりとなった紐を手に入場してくる。
『ちなみに美角選手によると、一説にはレスリング発祥の地でもある古代ギリシャの医学書にあやとりらしきものの記述があるらしく‥‥って、ねえよ!』
 無理矢理プロレスごっこに結び付けようという美角の努力を、瞬殺してみせるサトル。とはいえ、試合自体はすでにはじまってしまっている。
「はっ‥‥よっ‥‥二段ばしご! 三段ばしご!」
 ムダに長くとった紐にただでさえ苦戦気味なのに、湿っていてさらに大苦戦である。だが、そんな中でもなんとか技を決めていく美角。
「‥‥そして大技、東京タワー!」
 だが、ムダに長い紐だけあって、ちょっと手を滑らせた瞬間に、あっという間に紐にこんがらがってしまう美角。
『あーっと、紐の締め技だーッ! 美角、苦しい。 決まってしまうか? どうした、お前らのSOUL’S CRYはそんなものか!?』
 だが、魂が震えたのは美角ではなく、パトリシアの方だった。辛抱たまらず乱入すると、こんがらがった紐を見事な亀甲縛りに変えていく。
 若年の身でありながら、一体どこでこれほどまでの縛りテクをと思わずにはいられないが、それがマジカルレフェリーの神秘というヤツなので、仕方がない。
 とそこへ、竜之介がものすごい勢いで駆け込んでくる。
「はーっはっはっは! この竜之介、全裸はNGでも、縛りはOKなのだよ!」
 TV的にはどっちもNGな気がしてならないが、竜之介にそんな理屈は存在しない。
 とはいえ、赤パン一丁のナルシスト男がハァハァと迫ってきては、パトリシアもすっかり戦意喪失である。古雑誌をまとめるノリで竜之介をいい加減に縛ると、ゴミに出すが如く熱湯風呂へと放り投げる。
「はーっはっはっは! 熱いよ! 熱すぎるよ!」
 高笑いを上げながらも、悶絶する竜之介。熱湯風呂と言いながら42度という、江戸っ子が聞いたらヌルいと憤慨しそうな温度なのだが、竜之介は悶絶である。
「はーっはっはっは! だって、僕は低温でゆっくりつかる派なんだよ!? 42度なんて熱湯じゃないか! 半身浴は美容にもいいんだよ‥‥ブクブク」
 半身浴どころか顔まで沈められているが、あくまでも熱さの方に苦しむ竜之介。だが、やがてもがきも止み、ぷかーっと浮かび上がってくる。
『りゅ、竜之介が死んでるーッ!? これは自虐を超えてる、まさに公開自殺だぁーッ! 竜之介の、命を賭した雨乞いですッ!』
 竜之介は別に雨乞いをしていたわけではないが、とりあえずそういうことにして運び出されていってしまう。
「のび‥‥紐のくせに生意気だぞ!」
 そして、捨てゼリフを残して、美角も亀甲縛りのまま去っていく。
『さすがはチキンども、一気に二名も脱落だぁ! しかし、試合はまだまだつづく! 湯ノ花選手の入場だぁッ!』
 サウナで程よく汗をかいた湯ノ花が、メロンパン製着ぐるみを脱ぎ捨て、メイド服になっての登場である。しかし、せっかく着替えたメイド服も、水の張られたビニールプールに浸かって涼みながら運び込まれてくるから、びしょ濡れ透けで意味がない。
 なお、ビニールプールにはいつの間にか竜之介も浮かんでいたが、ここは一切放置である。
 そして、湯ノ花の対戦相手のカキ氷が運び込まれてくる。メロンパンから抽出の特製シロップがかけられ、メロンパンがこれでもかとトッピングしてある。
『デカーイ! まさにカキ氷の遊園地だーッ!』
 メロンパンが散りばめられている時点でおかしいのだが、カップが異常にデカいのである。湯ノ花が『コーヒーカップは普通サイズです。間違っても遊園地でクルクル回っている、あの大きなコーヒーカップではありません。間違えて準備しないで下さい』と強く言っておいたのだが、しっかり巨大コーヒーカップの方が用意されていたのだ。
 熱湯風呂を前にして『押すな』というのは『押せ』ということのように、お笑い班に念を押すとこうなるという見本である。まあ、竜之介は『押すな』と言うまでもなく熱湯風呂で溺死であるが。いや、死んでもいないし熱湯でもなかったが。
「はっ、雨乞いをしていたハズなのに、いつの間にか雪が! えーと、どうしよう‥‥」
 雨乞いの舞のトランス状態から急に正気に戻ったあずさが、カキ氷を雪と間違えてしまう。しかし、まさか雪が降るとは思わずに、途方に暮れてしまう。
「なんか豚汁の香りがしてきました‥‥でも、牛丼に豚汁、高蛋白、高カロリー‥‥」
 一方、解説席ではあずさと入れ替わって、河辺野がトランス状態に入ってしまっていた。
『収拾がつかなくなってきているが、さらに若宮選手の入場だぁ!』
 若宮がコーヒーゼリー納豆サンドをうずたかく積んだリヤカーを引いて、入場してくる。
 だが、若宮が入場してきた瞬間、周囲に異臭というか腐臭というか、とにかく悪臭が立ち込める。散々サウナで待たされていたので、これでもかとばかりに発酵しまくりである。
 おかげで、あずさが再びトランス状態に陥り、踊り出してしまっている。一体、何を乞おうとしているのか、もはや分からない。
 そして、放送席からサトルが、リング上からパトリシアが飛び出してくる。サトルは若宮に鉄拳制裁、パトリシアはマジカル縛りで拘束した上に、マジカル掌打からマジカルハイキックのコンボである。
「な、何を!?」
『答えはシンプルだ。てめーは俺を怒らせた!』
「でも、あいつらは平気じゃん!」
 指差した先には湯ノ花と河辺野。とはいえ、湯ノ花はカキ氷相手に、河辺野は牛丼相手にグロッキーなだけである。
「アハハ、ウフフ‥‥」
 さらに、リング上ではあずさの踊りに竜之介が加わっていた。
『りゅ、竜之介が蘇ったぁ! 死者の眠りすら覚ますとはーッ!』
「ファイッ!」
 ここに来て突然、パトリシアがレフェリーらしく試合開始を促す。
「‥‥納豆というより、シュールストレミングの臭いに近い気がしてきた‥‥」
 食べたことのないシュールストレミングに思いをはせながら、ガブリと一口いく若宮。
(‥‥ん? まいったな‥‥思ったほどマズくな‥‥)
「ぐぼはっ!」
 口と鼻から泡を出し、倒れる若宮。この手のものは、一拍遅れて襲いかかってくるから、大変危険である。
『よい子のみんなはマネすんなよ! では、ごきげ‥‥』
「I’m えらい人ーッ! 今回から、独断と偏見でポイントによるランキングがつくゼ!」
 1位 若宮久屋 3
 2位 竜之介 2
 3位 湯ノ花ゆくる 1
「目指せ、プロレスごっこ王! 以上だ!」
『な‥‥ともかく、ごきげんよう、さようなら!』