第8回プロレスごっこ王アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/23〜06/25

●本文

 プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居あり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。

 TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。久々に昨日召集を受けたかと思えば、何事もなかったかのように翌日も集められている。
「いきなり昨日の今日ですか‥‥?」
「バカヤロウ!」
 集められた早々、いきなりプロレスごっこの一番えらい人の鉄拳制裁からのオープニングである。
「甘ったれるな! 昨日の見出しはなんだった? 『俺たちが行くから道になる』だろう!? 俺たちの前に道はない、俺たちの後ろに道ができるんだろう!? だったら、毎日一歩ずつ進むしかねーじゃねーか!」
「だからって、連日やる理由になってない気が‥‥」
「バカヤロウ!」
 昨日から一番えらい人のテンションがすっかりおかしくなっていることを甘く見ていたスタッフの一人が反論してしまうが、すぐさま鉄拳制裁で黙らされる。ノリがすっかりダジャレチームのムダにアツい上司と同じになってしまっているが、TOMITVで昇進した行き先はこうなってしまうというわけでは別にない。
「Suck! ここまで腐っていたとは‥‥昔のTOMITVはこんなんじゃなかった。最近の若いスタッフときたら‥‥」
「っつーか、本当は4時間前に日本vsブラジルに合わせてムチャキングをやる日じゃなかったんスか?」
「バカヤロウ!」
 今どきっぽく軽いノリで聞いた若手スタッフだが、速攻鉄拳制裁で黙らされる。嘆くくらいなら、すすんで拳を振るいましょうというのが一番えらい人だ。
「あんなタダノリなだけのスポーツ便乗チームと一緒にするな! 俺たちは高尚な芸術を作っているんだ。俺たちの道に、横も隣も関係ねえ。内なる自分との戦いの、果てなきマラソンだろうが!」
「先生、ゴールがまったく見えないんですが‥‥どこにあるんですか?」
「バカヤロウ!」
 悲壮感を漂わせたスタッフの一人が質問するが、ノリがどうこうよりも口答えしたらとにかく鉄拳制裁で黙らされるのだ。
「そんなものはねえ! ゴールを決めちまったら、道が見えちまうだろうが。血ヘドを吐きながらつづける終わりなきマラソンなんだよ! 血ヘドを吐いて吐いて吐きまくれ! そして、最後にあるのは死という途中棄権だけだ!」
「えー!」
 スタッフの悲鳴がこだまする中、問答無用で第8回芸人プロレスごっこ王選手権はスタートした。

参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。

注意:
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。

過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・GWSP02 5月03日 07:00〜
・GWSP03 5月04日 07:00〜
・GWSP04 5月05日 07:00〜
・第6回 5月08日 23:30〜
・第7回 6月22日 18:30〜

●今回の参加者

 fa1294 竜華(21歳・♀・虎)
 fa1772 パイロ・シルヴァン(11歳・♂・竜)
 fa3004 ラム・セリアディア(14歳・♀・リス)
 fa3072 草壁 蛍(25歳・♀・狐)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa3135 古河 甚五郎(27歳・♂・トカゲ)
 fa3596 Tyrantess(14歳・♀・竜)
 fa3622 DarkUnicorn(16歳・♀・一角獣)

●リプレイ本文

『はろーでござる! またしてもやって来たなり、ラム・セリアディア(fa3004)でござるよー♪ よろしくなり〜! 今回は、実況席座らせてもらうでおじゃる。一度やってみたかったんでござるよ、高みの見ぶ‥‥じゃなくて、実況! ろっくしんがー魂でがんばるでござる、ニンニン♪』
 ろっくしんがー魂と言いつつも、なぜかちょんまげに着物姿でエセ時代劇口調で実況のラムであるが、それは今日のテーマが『かぶる』で、ラムのテーマが『日本かぶれ』だから仕方がない。『かぶる』と『かぶれ』じゃ、字も意味も全然違うだろうという話もあるが、なんとなく似ていればそれでOKというのが、プロレスごっこのゆるさなのである。
『そしてそして、拙者の隣の解説席には、Tyrantess(fa3596)殿に‥‥』
「ムチャクイーンの命により、ネタは『かぶり』と『縛り』となりました」
 突然、佐渡川ススム(fa3134)が現れて、テーマにのっとりセリフをかぶせて去っていく。勝手にテーマに『縛り』まで加えていたが、どうせ佐渡川にしか関係のないことである。
『‥‥Tyrantess殿に来てもらっているでおじゃる♪』
 しかし、ラムは慣れないキャラ作りに忙しいので佐渡川は一切スルーして、Tyrantessに話を振る。
「あ、はじめまして。僭越ながら解説の大役を務めさせていただくことになりましたTyrantessです。14歳コンビでがんばろうと思いますので、よろしくお願いします☆」
 あくまでも丁寧に控えめに。スカートのプリーツは乱さないように。Tyrantessが狂乱のギタリストらしからぬ態度であるが、それは『猫かぶり』ゆえであろう。確かに猫をかぶっていることはかぶっているが、ネコミミ帽子着用と文字通りの意味でも猫をかぶってしまっているあたりの微妙感が、プロレスごっこらしさを醸し出している。
 ついでに言えば、14歳コンビだなんて二人とも鯖読んでやがるが、そこは見た目でごまかす乙女の秘密というものである。
『さてさて、これからはじまりまするは第8回プロレスごっこ王。昨日に引きつづき、老若男女、生死問わずの血で血を洗う戦が行われようとしている次第でおじゃる! 者ども、討ち入りじゃぁ!』
 ラムのよく分からないあおりに促されて、早速最初の試合の竜華(fa1294)と草壁蛍(fa3072)が入ってくるかと思いきや、花道の様子がおかしい。
「本日は道なき道を作る仕事だそうですね。花道作り‥‥スポンサーは旧公団様でしょうか? 買いかぶりは遠慮しますが、皆様の血税ムダにはしません!」
 何やらブツブツ言いながら、古河甚五郎(fa3135)が今ごろになって花道を作りはじめている。俗に言う、年度末に急遽‥‥というヤツである。今は別に年度末ではないが。
「道作りは測量が大切です、ガムテの! 振動で水平が取れませんが、ガムテなら無問題です」
 花道のフェンス間にガムテを張りまくって閉鎖状態にしてしまう古河。
 そこへ、ムチャクイーンは待たぬとばかりに、草壁がホッケーマスクをかぶってチェーンソーを振り回しての入場である。古河が一生懸命張ったガムテープなど、一瞬で一刀両断である。
「ああ、民営化のあおりを受けるのはいつも庶民なのですね、痛みしか伴わないんですね‥‥」
 ガックリと肩を落とす古河の横を、巨大なサッカーボール柄の風呂敷を持った竜華も通り過ぎていく。何を思ったか、気を取り直してその後をつけていく古河。
 一方、リング上にはレフェリーのパイロ・シルヴァン(fa1772)が威風堂々と立っていた。
「このパイロ・シルヴァンには夢があるッ! それはジャッジスターとなることだ。その第一歩として、敗退記念に金のサッカーボール、銀のサッカーボールを売りつける!」
『資本主義の世知辛い世の中になったもんでござるな‥‥これが文明開化というものでござるか‥‥』
 ラムが実況で嘆く中、パイロが金色と銀色のサッカーボールをかざしている。
 が、それもそこまで。サンバのコスチュームの上にカナリア色のユニフォームを羽織った草壁がリングインすると、サンバのノリのままパイロを蹴り倒す。さすがにチェーンソーで斬りかかることはなかったが、ホッケーマスクはつけたままである。
「ま、まずい! このパイロ、殴られたことよりも、レフェリー服が汚れたことを怒るタイプ! だがおそろしいッ、俺はおそろしい! なにがおそろしいかって、草壁! 蹴られても痛くないんだ! 快感に変わっているんだぜーッ!!」
 そこまで言って、急に押し黙るパイロ。見れば、草壁のマスクの下から養豚場の豚でも見るかのような冷たい目がのぞいている。さらには、放送席の猫かぶりTyrantessも汚らわしいものを見たかのように目を背けている。
『おっと、遅れて竜華殿もリングインでござるな。おや、古河殿もリングインで‥‥古河殿、殿中でござる〜!?』
 サムライブルーのユニフォームに身を包んだ竜華がリングに上がり、古河もリングに上がる。そしてすぐさま、古河が竜華のバストをガムテープで巻きはじめる。
「衣装のサイズを測ります‥‥ガムテで!」
 そして、測り終えてガムテをはがすと、ユニフォームもベリベリっと破れてしまう。ラメ入りのブラ姿になってしまう竜華。思わず、猫かぶりTyrantessが手で目を覆ってしまう。もちろん、指の隙間から見ているのはお約束であるが。
 この衝撃で、竜華が持っていた風呂敷を落としてしまう。風呂敷がほどけ、中から猿ぐつわを噛まされた佐渡川が姿を現す。
「んー! んー!」
 何やらうめいているが、佐渡川なので当然スルーである。というか、これきっかけで雑然としていた場が急に静まり、竜華が試合のルール説明をはじめる。
『なにやら、電光掲示板が出てきたでござるな‥‥ふむ、これにブラジル戦の視聴率が出るでござるか』
 生放送ではないものの、ギリギリの撮って出しなので、W杯の結果は分かっている。とはいえ、視聴率の方が判明するまでにはまだ時間がかかるので、当然ながら勝手なハッタリの数字である。
「‥‥というわけで、蛍と戦ってる画でこの数字に挑む!」
「でも、ボールがこうなったんじゃ、サッカーはできないわね‥‥」
 そう言って、佐渡川を指差す草壁。何を思ったかそのまま佐渡川を抱き起こすと、これまたどこから取り出したか荒縄で器用に亀甲縛りにしていく。
「これで完成ね」
 さらに佐渡川にゴールポストの着ぐるみを着せ、ボールからゴールへの大変身を勝手に成し遂げさせてしまう。
「‥‥あなたが落としたのはこの金のサッカーボールですか? それとも、銀のサッカーボールですか? 今なら千円で‥‥」
 それに乗っかって軽くボケるパイロをよそに、竜華と草壁がサッカーとはまったく無関係にキャットファイト、いわゆる大人のプロレスごっこをはじめてしまう。
 パイロは呆然と立ち尽くすしかない。パイロ以上にゴールとなった佐渡川の立つ瀬がないが、身動きがまったく取れないので、最初からどうにもならない。
「‥‥碑文にはこうだ。すごく格好悪い芸人が、ムチャクイーンたちにやっつけられ、すごく格好悪くここに眠る」
 手持ち無沙汰になったパイロが、佐渡川の入るゴールポストを墓石に見立て、勝手なことを掘り出している。
『哀れ佐渡川っ、儚くもここで散りゆくのか‥‥あーっと、開脚バックドロップでござるか! スゴいでござる。朝っぱらから、ここまで見せてもいいなりかっ!?』』
 ラムも佐渡川のことなどすぐに忘れ、竜華と草壁の実況に忙しくなる。
 そして、ラムが絶叫する横では、Tyrantessがプルプルと震えはじめていた。猫かぶりキャラゆえ、羞恥心でそうなっているかと思いきや、どうも様子がおかしい。
「こんなの見せられて、ガマンできるワケないじゃん!」
 辛抱たまらず、ついに本性丸出しでリングに乱入するTyrantess。
『あっ‥‥なぁんか、あたしも疲れちゃったー。やっぱ、ナチュラルでネイティブがブリリアントよねー♪』
 そんなTyrantessを見て、ラムもあっさりキャラ放棄である。着物を脱ぐと、その下に来ていたTシャツ、デニムミニスカ姿という普段の格好になってしまう。
 そんな間にも、リング上は三つ巴の大乱戦が繰り広げられている。
 いつの間にかラメ入りのブラ&ミニスカだけになっている竜華、いつの間にかリオのカーニバルのコスチュームだけになっている草壁、そしてギターでサンバのリズムをかき鳴らすTyrantess。
 そう、気づけばお色気サンバショーである。なので、佐渡川がいつの間にか姿を消していたが、誰も気にしてはいなかった。
『オ〜、Tyrantessさんの歯ギターでーす!』
 いつ果てるとも知れぬ饗宴が、急に画面右下のワイプへと移される。メイン画面は、入場口に切り替わっていた。そこには、DarkUnicorn(fa3622)が立っていた。佐渡川を引き連れて。
 佐渡川は、いつしか荒縄縛りからも猿ぐつわからも解放されている。ただ、今度は首輪をつけられ、DarkUnicornに引っ張られての登場なだけである。
 DarkUnicornはプロレスごっこの一番えらい人のペットの犬でも連れてこようと思ったのだが、えらい人は犬が嫌いなら動物が嫌い、その動物にはもちろん人間も含まれるという、何もかも嫌い、好きなのは自分とその自分が手がけるプロレスごっこだけという好人物ゆえに、そんなものは存在しなかった。
 ならば野良犬でガマンと思ってもこのご時勢、野良犬などそうそう捕まえてこれるものでもない。そこで犬といえば犬猿の仲の猿ということで、猿が如くでおなじみの佐渡川の出番というわけである。
「今回の対戦相手は猿、試合方式は調教じゃ!」
 DarkUnicornにとって佐渡川は同じ神城台プロダクションの先輩に当たるが、そこには敬意も畏怖もなく、ヘッドギア装着のアマチュアの身でありながら、パンチドランカーになってしまった上、ガラスのジョーになってしまっている佐渡川への憐憫しかなかった。しかも、下半身には天然モノのヘッドギアを常時装着とあっては、涙を禁じえないというものである。
「この猿めを、飴と鞭で調教できればわしの勝ち。調教を受け切れなければ、この猿めが根性なしと言うことでわしの勝ちじゃッ!」
 なので、勝負がかなり理不尽なものになるのもやむを得ぬところ。もっとも、佐渡川は調教と聞いただけでエノキがキヌガサタケになってしまうような、訓練されたアマチュア芸人なので問題はない。というわけで、早速試合開始である。
「お手、お座り、三回回ってワン! ふむ、猿の分際にしてはよくできたの。では、鞭ではなく飴じゃな」
 佐渡川にペロペロキャンディーを与えるではなく、目の前で自分で舐めてみせるDarkUnicorn。佐渡川には、とことんおあずけの方針のようだ。
「‥‥では、ぷりんぷりん!」
 ぷりんぷりんが何か分からず、首をかしげる佐渡川。
「ぷりんぷりんと言えば、ぷりんぷりんに決まっておるじゃろうが!!」
 理不尽ぷりをいかんなく発揮するDarkUnicorn。もちろん、DarkUnicorn自身にも何だかは分かっていない。しかし、佐渡川は何かを思いついたらしく、おもむろにパンツを脱ぎはじめる。
 そう、ぷりんぷりんとアレがぷらんぷらんを間違えるつもりなのである。
「あぶなーいっ!」
 ピンチを察した古河が飛び込んでくると、佐渡川のむき出しになった股間にガムテープを貼りつける。
「ふぅ、これで一安心です」
 モロ出しを免れ、ホッと一息吐く古河。しかし、佐渡川が安心できるハズもない。
「ばっ、こんなところに貼ったら、剥がすときどうすんだよ!? 脱毛と変わらないじゃん!」
 これまで猿になりきって言葉を発していなかった佐渡川であるが、さすがに文句を言い出してしまう。
「コドモのころの気持ちを、いつまでも忘れないで欲しい、ということです。ちょうど、色も姿形もお子ちゃまのと変わらないことですし」
「ちょ、折角見えてないっていうのに、バラすなギャーーッ!!」
 佐渡川に構わずガムテープを引っぺがす古河。素早くモザイクが入るが、それとは関係なしに佐渡川は絶叫して、口から泡を吹いて失神するしかない。
「ふむ‥‥さすがに続行できんし、これはわしの勝ちということかのう?」
「ええ、これで佐渡川さんも一つ下のオトコ‥‥コドモになれましたね、ガムテで!」
「なんという‥‥不可能な小ささ! しかも、コドモコドモって、俺以下だーッ!」
 DarkUnicornと古河が勝手なことを言ってる中、パイロがやって来て、佐渡川を凝視しながらさらに勝手なことを言っている。
 こうして、プロレスごっこの一番えろい人は倒された。だが安心してはいけない。まだ一番えらい人が残されている。言ってるそばから、早速乱入である。
「I’m えらい人ーッ! 今回も独断と偏見で、ポイントによるランキングがつくゼ!」
 1位 佐渡川ススム 3
 2位 古河甚五郎 2
 3位 DarkUnicorn 1
「目指せ、プロレスごっこ王! 以上だ!」
 そして、絡まれる前に光速で去っていくえらい人。竜華に草壁、Tyrantessが電光掲示板の数字のことなどすっかり忘れて踊り狂っていようとも、素通りである。
『ハ〜イ、ではバイバイアルよー!』
 ラムにナゾの中国人キャラが加わったところで、番組はさっくり終了した。