叩かれろ、人間どもアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
0.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/02〜07/04
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●本文
TOMITVのスタッフルーム。その中の、自称スポーツイベント便乗チームに、一人の男が駆け込んできた。
「いやー、ディープは相変わらず引くくらいに強いですねー!」
「なに国内で戦ってんだよ、さっさと海外行けよ、限られた競走寿命がもったいないとか、余計な心配しちゃうくらいだもんなぁ‥‥」
「ところで‥‥思ったんですけど、今までの走れシリーズのことなんですけど‥‥」
「ん、どうした?」
祝賀ムード一転、急に神妙な面持ちになる後輩。
「今までも自分の足で走る場合もあるにせよ、結局は出場者はジョッキー気分だったと思うんですよ。でも、元々の趣旨は『馬もがんばっているから、人間どももがんばれ』ということで、もっと馬の気持ちを知ろうというところから来ているんだと思うんです」
「まー、そんな感じだったっけかな?」
「だから、ちょっと自分に甘ったれた気分を抜く意味でも、人も鞭で叩かれてなんぼだと思うんですよ。ジョッキー気分で鞭を叩き、馬気分で鞭で叩かれる。一度に両方味わわせてみてはどうでしょうか?」
「んー、いいんじゃないの? 叩かれるの俺じゃないし」
「じゃ、やりますねー。私も叩かれませんし」
大分違う世界に旅立ってしまった感じだが、疾走企画第5弾があさっての方向に疾走していくことになった。
ルール
・自分の身体を競走馬用の鞭で叩き、悲鳴の大きさを競い合います。
・叩かれるのが自分でさえあれば、自分で叩かず、他人や装置に叩いてもらうのもありです。
・優勝賞金10万円。
・その他細かいルールは、俺がルールブックだ! とスタッフが申しております。
事前に用意される物
・鞭を含め、大抵のものは用意されます。
・番組用意のものでなく、持ち込みでももちろん構いません。
過去の放送のスケジュール
・走れ、人間ども 4月04日 22:00〜
・走れ、人間ども2 5月01日 07:00〜
・走れ、マシンたち 5月25日 07:00〜
・走れ、人間ども3 6月11日 07:00〜
●リプレイ本文
梅雨間にのぞいた青空、適度にチリチリと肌を焦がす陽射しの中で、さわやかな風が青い芝をなでてゆく。ここは競馬場、人馬一体となってゴールを目指す熱き戦場。
ああ、なのに自分たちはそんな日曜の朝っぱらから、何をしに集まっているのだろう? そう、こんな企画内容であるにも関わらず、収録ではなく生放送なのである。
そして、その日曜の朝っぱらから各自思い思いの格好で、観客のまったくいないパドックをぐるぐる回らされているなんて、すでに羞恥プレイの様相である。
『パドックで各人の心身の状態をしっかり観察して、きっちり人券ゲットといこう!』
勝手な実況が入る。もちろん、馬券ならぬ人券など存在もしていない。
とはいえ30分番組、前フリで余計な時間を使ってももったいないだけなので、すぐにパドックから地下馬道を抜け、本馬場入場である。
入り口には先導するサラブレッドの代わりのつもりか、なぜか木馬が置いてある。騎手の練習用の木馬ではもちろんなく、三角木馬である。日曜の朝から、実にすがすがしい。
『本馬場入場、それでは順に紹介していきましょう‥‥もはやダンサーではない、今日から僕はエンターテイナーだ! 叩かれるエンターテイメントで魅せる、それがこの静琉(fa2860)です!』
静琉が競走馬用の鞭を持って、踊りながら入場してくる。だが、振り回した鞭が早くも自分の身体をかすめてしまう。
「〜〜ッ!!」
声にならない悲鳴を上げる静琉。とはいえ、声になっていたところで、まだ競技前なので評価対象にはまったくならないのだが。
『大がかりな装置を持っての入場は、大道芸人の志羽翔流(fa0422)だぁ! お手製という装置の破壊力やいかに!?』
何やらモーターのついた装置を台車で運びながら、志羽が入ってくる。モーターから延びた回転軸には、鞭がくくりつけられている。どう使うかはもはや一目瞭然だが、別に隠すものでもないので気にしない。
『自前の鞭を持ってやって来た、冷徹なる風貌のフェイテル=ファウスト(fa0796)! しかも、バラ鞭の九尾鞭だぁ!』
いかにもシャレにならなそうな、拷問器具としての鞭を携えてフェイテルが入ってくる。とはいえ、見た目と違って温和な性格なので、材質は密かにソフトオイルレザーであるが。
『戦いの場はリング上に限らない! いつなんどき、誰とでも戦う。それが鞭であったとしてもだ! プロレスラーを超越した男、タケシ本郷(fa1790)見参だぁ!』
上半身裸で、早くも乗馬用鞭で気合いを入れている本郷。とはいえ、静琉のとき同様評価対象にならないのはいうまでもない。まあ、それ以前に悲鳴の一つも上げていないのだが。
『叩かれるために、気ぐるみではなく全身タイツを選んだ! シマウマ柄での登場は、その名もずばりZebra(fa3503)だーッ!』
頭からつま先まで、白黒のシマウマ柄全身タイツに身を包んだZebra。鞭がしっかり効くようにと、薄手の素材である。おかげで、屈強な肉体がくっきり浮かび上がっており、何サービスなのかよく分からない。
『女王様、わんことお呼びください。自称真性Mはダテではない、犬神一子(fa4044)だーッ!』
しつけられた飼い犬を強調するため、大型犬用の首輪をつけて登場の犬神。犬用の首輪は薬が塗ってあったりする場合があるので、こういう場合はちゃんと人間用のを用意するのが普通なのだが、あえて犬用を使うところが犬神の犬道一直線ぶりなのである。
『年齢的に叩くだけの参戦か? 最年少の七瀬七海(fa3599)がゆっくりと入ってきました。幼さの裏に、どのような嗜虐趣味が隠されているのかッ!?』
なぜか蜂蜜の入った壷を抱えての登場は七瀬。一体、どのようなプレイに使われるのか、想像もつかない。
『そして、若き女王様が帰ってきたッ! 唯一の牝人、M男たちはキミを待っていたッ! チェシャ(fa0953)の登場だーッ!』
どこからどこに帰ってきたのかは一切のナゾであるが、勢いだけでそう紹介されるチェシャ、見事な女王様スタイルである。
そして、チェシャと七瀬を中心にひざまずく六名。そう、出場者が本馬場入りした時点で戦いはすでにはじまっているのだ。早くも競技開始なのである。
まず、最初に立ち上がったのは志羽だった。
「‥‥これだけは最初に言っておく。俺はMじゃないからな!」
「またまた、謙遜しないでくださいよ‥‥」
「本当だって! だから、自分で自分を叩く方法でやらせてもらう」
七瀬のツッコミも軽くいなし、台車に乗せていた装置をセッティングする志羽。鞭の回転する、バツゲームによくあるマッシーンである。
「準備完了‥‥志羽翔流、いっきまーすっ♪」
ゆっくりと回りだす鞭を浴びながら、威勢よく皿回しをはじめる志羽。
「‥‥うっぎゃああああ! すっげぇいてぇえええ!!」
パシパシ叩かれながらも快調に皿回しをしていたかと思ったら、突然絶叫する志羽。見れば、チェシャが勝手に装置の回転数を上げてしまっている。
「もっといい声でお鳴きなさい!」
「いや、シャレんなってないから‥‥ぎゃああああ!」
今度こそ、絶叫を上げて倒れる志羽。
(これで、身体張った芸ができたぜ‥‥)
しかし、その顔はやり遂げた男のものだったという。
「ふん、小僧が! 生まれる前から犬道を歩むこの俺からすれば、その程度でMとは片腹痛いわっ!」
だが、犬神にはその程度で満足する志羽が許せなかった。そう言い捨てると、犬のようにチェシャに擦り寄っていくが、チェシャはただハイヒールで踏みつけるのみである。
「男に叩かれているのがお似合いだよ!」
「そんな‥‥女王様、お慈悲を‥‥お慈悲を‥‥!」
「じゃあ、私がやろう‥‥」
チェシャの代わりに、フェイテルが割って入る。手にしていたバラ鞭の九尾鞭で、犬神の太ももを激しく打ちすえる。
「うおぉー!」
悲鳴を上げる犬神。だが、チェシャが不機嫌そうに首をかしげている。
「うーん、悲鳴がわざとらしいなぁ‥‥」
フェイテルの鞭を取り上げると、材質を確認するチェシャ。
「これを使いなさい!」
金属製の棘の鞭を手渡すチェシャ。おかげで、フェイテルはすっかり引き気味である。が、女王様のお言葉は絶対。それを振り下ろすしかない。
「うおおぉぉー!」
「いい声になってきた‥‥けど、まだヌルい! 貸しなさい!」
ついにフェイテルから鞭を奪うと、それで犬神を何度も打ちすえるチェシャ。
「ああ、女王様‥‥うおおおぉぉーーッ!!」
犬神が絶叫する。しかし、悲鳴ではなく歓喜の声だということで、ポイントがつかない。
チェシャはさらに犬神の首輪の鎖を引っ張って内埒まで連れて行くと、そこにつないで戻ってきてしまう。
「さすが女王様、犬の気持ちを分かってらっしゃる‥‥」
犬神の声に耳を貸すことももはやなく、残った面々に新たな指示を出すチェシャ。
「ほうら、今度はあなたたちだけの力でやってごらんなさい」
「ふっ、ならば自分の出番だな‥‥まだまだ現役、だが自分はレスラーをやめるぞーッ!」
本郷が高らかに宣言すると、置いてあった木馬に卍固めのような微妙な体勢でまたがり、バッチンバッチン自分をブッ叩き出す。
「イッチバーン!」
確実にレスラーやめてないだろという絶叫を上げる本郷。しかし、雄叫びであって悲鳴ではないということになり、ポイントがつかない。だが、そんなことは気にせずに、自ら鞭を叩き込むのを止めようとはしない。
「ふっ、みんな手出しは無用だ!」
確実に手の出したくない危険な香りのする男になっているので、言われずとも手出しなどしない。
「‥‥一人は危険ね。今度は二人一組でやってごらんなさい」
背景には木馬にまたがり自分に鞭する本郷、未だくるくる回りつづける装置の横に倒れる志羽、そして鎖でつながれたまま放置プレイの犬神。確実に日曜の朝とは思えない光景であるが、番組はまだまだ中盤である。
「ヒヒーン‥‥って、シマウマもこの鳴き方でいいんだっけか? まあいい。さあ、七海、乗っちゃってくんな!」
シマウマタイツのZebraが四つんばいになって進み出ると、七瀬にまたがるよう促す。
鞭を手にした七瀬だが、叩く前に蜂蜜の壷を取り出すと、いきなりZebraの身体に蜂蜜を塗りはじめる。蜂蜜で衝撃を和らげようという、七瀬の子どもながらのやさしさであろうか?
「行動展示で有名な動物園では、蜂蜜をガラスに塗って、それを猿に舐めさせるという‥‥」
「いや、それ今関係ないだろ!」
目の前で繰り広げられるグダグダのコントに、チェシャ女王様大激怒である。
「そんなのはいいから、さっさとお鳴き!」
鞭で七瀬もろともZebraを滅多叩きにするチェシャ。女王様モードなので、子どもだろうと容赦はしない。
こうして、背景に突っ伏したZebraと七瀬が追加され、いよいよ残るはフェイテルと静琉だけである。
「さあ、あなたたちはどう楽しませてくれるのかしらね?」
プレッシャーをかけられて、思わず顔を見合わせるフェイテルと静琉。
「うむ‥‥見た目のキャラ上、私は叩く側の方がいいかと思っていたのだが‥‥そうも言ってられない緊急事態だ。ここは一つ、お願いしよう」
「分かった。本当は叩かれて悲鳴を上げたくて仕方がなかったんだけど、フェットのために僕が犠牲になるよ!」
フェイテルの提案に、渡りに船とばかりに図太く乗っかる静琉。
だが、静琉が鞭と称して取り出したのは、新体操のリボンだった。叩く前からして、チェシャの逆鱗に触れてしまう。
「あぅ、このくらい大目に見てくれたっていいのに‥‥」
と、そこに倒れていたはずのZebraが復帰してくる。
「どうせ死ぬなら、札束の鞭で力一杯ビンタされて死にたかった‥‥」
「これを使いなさい。その代わり、いい声で鳴かすのよ!」
スタッフから強奪した札束を、静琉に手渡すチェシャ。
「は、はい!」
札束といえば通常はビンタなのだが、リボンの先にくくりつけてしまったものだから、モーニングスターのような武器のでき上がりである。
「それ、遠心力が乗りすぎだろ‥‥ぐはっ!」
後頭部に直撃して、呻き声を上げて倒れるZebra。こうして、未だ立っているのは、チェシャを除いてはフェイテルと静琉という状態に逆戻りである。
「もう、誰にも任せられないわね。だから‥‥せめていい声でお鳴き!」
「えー!」
静琉の不平の声も、鞭で黙らせるチェシャ。すぐさま、芝の上にフェイテルと静琉の身体が横たわることとなった。
結局、最後まで立っていた女王様であるチェシャが一番えらいということで、悲鳴なんか一切無視でチェシャが優勝ということになってしまった。
そして、表彰式である。その表彰台に立つのは、なぜかワンピースを着た清楚な雰囲気の女性である。そして、なぜか賞金10万円を受け取ってしまっている。
「ありがとうございます。うれしいです♪」
「え!? なんで賞金をもらっているんだ?」
「一体、誰なんだーッ!?」
そこへ、未だに放置プレイ継続中だった犬神の首輪の鎖が、ようやくはずされる。すると、一直線に表彰台に向かって駆け寄っていくではないか。
「おおっ、わんこが反応しているぞ」
「すり寄っていった‥‥ってコトは!?」
そう、表彰台に立つ清楚な女性こそ、先の女王様チェシャその人だったのである。