リフォームで新築が廃墟アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
易しい
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報酬 |
0.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/05〜07/07
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●本文
登場人物
・ディレクターに昇進したばかりの男(以下、ディレクター)
・ディレクターの上司(以下、上司A)
・上司Aのさらに上司(以下、上司B)
TOMITVのこのディレクターは、最近マイホームを建てたばかりだった。しかし、上司Aの提案によってメチャクチャなリフォームをされてしまう。それが、リフォームで廃墟という番組だった。
その恨みを晴らすべく、ディレクターは上司Bの許可をもらって、上司Aの屋敷にメチャクチャなリフォームを施してしまう。それが、リフォームで廃墟の逆襲という番組だった。
ディレクターと上司Aは一連の恨みを晴らすべく、上司Bの愛車の数々にメチャクチャなリフォーム(改造)を施してしまう。それが、リフォーム廃車復活戦という番組だった。このときのショックで、上司AB共に病院送りとなってしまう。
やがて退院してきた上司ABは、快気祝いと称してディレクター宅内でフットサルを行った。それが、リフォームフットサルという番組だった。結局、ロスタイムが2時間もとられ、家は全壊してしまう。
さらにその報復として、ディレクターは上司Aの屋敷で三角ベースを決行。それが、リフォーム三角ベースという番組だった。番組終了時のガス爆発により、上司Aの屋敷は完全に吹き飛んでしまう。
このように、憎悪の連鎖は決して途切れることはないのだ‥‥
そして──
「冷静になって考えたんだが‥‥リフォームって何よ?」
すっかり落胆した上司Aが、ディレクターのところにやって来ていた。
「増改築したり、内装や間取りを変えたり、ってことですよね?」
「だよな? なんか、最近のリフォームシリーズ、そうじゃない気がしてならないんだが‥‥気のせいかな?」
「気のせいですよ!」
明らかに気のせいではないのだが、ディレクターはにこやかに気のせいにしてしまおうとする。
「そうか‥‥じゃあ、次のリフォームシリーズやるしかなくなっちゃったな!」
「え!?」
上司Aが急に元気を取り戻す。同じく、ディレクターも急にイヤな予感がしてきた。
「建て直しているおまえん家あるだろ。もうすぐ完成するみたいだけどさ。だけど、完成してから内装いじるんじゃ効率悪いよな。だから、完成前に内装いじっておこうと思ってさー」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! なんでそうなるんですか!?」
「だから、リフォームの原点に立ち返るということだよ!」
「‥‥せめて、せめて一度まともな姿を拝みたかった‥‥」
こうして、完成間近のディレクター宅の内装を仕上げるという、再びリフォームという名前に相応しい番組が作られることとなった。
企画内容:
8名までの精鋭にディレクター宅の一室ずつが割り振られ、各自思い思いのテーマにのっとってリフォームを施します。リフォーム作業に費やせるのは丸一日(24時間)です。
賞金は出ませんが、ディレクターの殺意はプレゼントされます。
死人が出るような危険なリフォームはやめましょう。
過去の放送スケジュール:
・リフォームで廃墟 3月4日 07:00〜
・リフォームで廃墟の逆襲 4月1日 18:30〜
・リフォーム廃車復活戦 4月17日 23:00〜
・リフォームフットサル 5月16日 07:00〜
・リフォーム三角ベース 6月4日 07:00〜
●リプレイ本文
『というわけで、私は今、問題のディレクター宅前に来ています!』
リポーターのリーゼロッテ・ルーヴェ(fa2196)のしゃべりではじまったリフォームで新築が廃墟。ディレクターの家の前に来るのも、もう何度目になるだろうか? しかし、何度来てもその度に、この家は表情を変えて見せてくれる。まあ、実際に別物が建っているのだから仕方がないのだが。
『外からではまったく分かりませんが、一体中はどのように‥‥』
リーゼロッテはそう言っているものの、中に入るまでもなく、屋根から観覧車が突き出ていたりするのがはっきり見える。とはいえ、紹介されるまでは見えないフリをするのがTVに携わる人間の務め。もっとも、ディレクターにとっては、本当に見えないよう脳が防御本能を働かせてしまっているかもしれないが。
「‥‥ときどき来るよな、新聞の勧誘とか宗教屋とか、うぜえ客がよ。俺みたいに鉄拳制裁で黙らせりゃいいんだろうが‥‥」
なので、早速玄関担当の犬神一子(fa4044)が解説をはじめる。
「‥‥NOとは言えない日本人だと、困っちゃうよな。でももはや心配無用! そんなときは、この玄関の横にある紐を引くと‥‥」
言葉どおりに犬神が紐を引くと、突然リーゼロッテの姿が消える。
「あ! まあ、死にゃしねーだろ‥‥ごにょごにょ」
見れば、リーゼロッテのいた場所にポッカリと穴が開いていた。下にクッションの敷いてあるバラエティ的な落とし穴ではなく、地獄にでも通じているのではないかというほどの深い穴が。地下道なり下水道なりにつなげておきゃいいんじゃねーのと発注しただけなので、実際にどこにつながっているかは犬神自身にも分からない。
「えーと‥‥こんなこともあるから、一応ドアに警告文を彫っておいたゼ!」
騒然とする一同をよそに、落ちたのが進行のリーゼロッテでよかったとばかりに番組を進めてしまう犬神。犬神の指し示したドアには『この扉をくぐる者、希望を捨てよ』と、地獄の入り口のようなことが書いてあった。
落とし穴の方が地獄の入り口だろ! というツッコミもあるが、家の中にこそ本当の地獄、インフェルノが待ち構えているのだから、しょうがない。
つづいて、キッチンの夏姫・シュトラウス(fa0761)の番である。
「目指せ! 最強の料理人!」
夏姫は白い虎の覆面をかぶり、傲岸不遜な自信家、ホワイトタイガーに変身してしまっている。そう、最強モードになってしまっている。なので、求めるものは文字どおりの最強ばかりなのだ。
「まずは最強の肉体を作るということで、食器や調理器具はすべて鉛製でそろえた。重量感抜群だが、ただ重いだけではない! 鉛には強い毒性があるので、それで作った料理でさらに鍛えられるというわけだ。そう、毒手のようなものだな!」
早くもディレクターの怒りの炎が激しくなりつつあるが、夏姫は一向に構わず説明をつづける。
「だが、それだけでは最強の料理ではない。そこでだ! 人間国宝の刀匠に依頼して食材を鋼鉄製まな板ごと両断してのける、この包丁を用意したッ! そう、俗に馬斬り包丁と呼ばれているヤツだ!」
「それ、料理の包丁じゃなくて、日本刀、斬馬刀のことだと思うんだが‥‥」
「黙れ、小僧! 真の男なら、口先でなんとかしようとするんじゃない!」
ディレクターがたまらずツッコミを入れるが、すかさず封殺する夏姫。肉体での語り方を教えてやらんと豪腕ラリアットにかかる。
しかし、ディレクターが手にした馬斬り包丁が明らかに左腕を斬りにかかっているのが見えたので、あわてて低空ドロップキックに切り替える。
「うろたえるな、小僧! 真の男なら、常に冷静沈着で紳士であるものよ」
しかし、膝を抑えてうずくまるディレクターが聞いているとも思えない。それでも、夏姫の説明はつづく。
「そして、換気扇はスイッチを入れると突風が吹き荒れ‥‥」
換気扇のみならず、コンロ、冷蔵庫といったありとあらゆる物の説明を終えると、未だに悶絶しているディレクターに紙の束を投げつける夏姫。
見れば、領収書の束だった。しかも、番組制作費で払われることがないよう、ディレクター個人名義にするという芸の細かさ。しかし、そこにどんな金額が書かれていようとも、ディレクターは痛みでそれどころではない。
「立て、小僧! 自分の足で、しっかりと大地を踏みしめろ」
なので、夏姫がムリヤリ引きずり起こすと、次の部屋へと移動である。
「傷ついたディレクターさんには、癒しが必要だよね!」
パイロ・シルヴァン(fa1772)が促すは、洋間であった。そう、洋間になるはずの場所だった。
「お帰りなさいませ、ご主人様〜☆」
そして今は、メイド喫茶だ。きちんとメイド服姿のお姉さま方が、一斉にお出迎えである。なぜかいつの間にか復帰していたリーゼロッテがメイドの中に混じっていたが、今気にすべきはそんなことではない。
そう、特筆すべきは広さである。パイロがしっかり間取りに口を出して、必要以上のスペースを確保済みである。おかげで、1階はキッチン、トイレ、廊下以外はすべてこのメイド喫茶である。
「これだけのメイドが平民宅にいるなんて、きっと一生の誇りになるよね!」
そう言って、メイドの人件費等の書かれた請求書の束をディレクターに渡すパイロ。しかし、ディレクターは相変わらず痛みでそれどころではない。
『うーん、まだまだ癒しが足りないようですね〜。では、庭に行って外の空気を吸いましょう!』
ナゾはナゾのままきっちりリポーターに復帰したリーゼロッテが、自分の担当した庭へとディレクターを誘う。
「ええい、いい加減自分の足で立たんか!」
夏姫の肩を借りっぱなしだったディレクターだが、夏姫に振りほどかれてよろよろと庭に崩れ落ちてしまう。
『あ、危ない!』
リーゼロッテの声に振り向いたディレクターの後頭部をかすめて、銃弾が通り抜けていった。
『‥‥というわけで、今回リポートさせていただくのはリーゼロッテさんの匠の技の光るこちらの庭。一見普通の庭に見えますが、塀に設置された鉄条網がこの庭がただの庭でないことを匂わせていますね。そうです、実は様々な防犯設備やトラップが設置されていて‥‥』
他人事のようにリポートをはじめるリーゼロッテ。ディレクターは怒る以前に、膝の痛み以前に、腰が抜けてしまって動けない。
そんなディレクターに、領収書の束が渡される。どうも全員、経費で落とさせないことに夢中になっているようだ。さらには、電気の見積書が渡される。
しかし、命の危機の前にはお金のことなど瑣末なことと言わんばかりに、ピクリとも動かないディレクター。
『今渡した電気の見積書ですけど、ちょっと高額すぎますよね? そこで、このお手製の小型原子炉の出番です!』
小型原子炉と紹介された物体の脇では、ガイガーカウンタが激しく警告音を鳴らしている。一斉に蜘蛛の子を散らしたかのように逃げ出す一同。先程まで動けなかったディレクターまで、しっかり走っている。
『リポート上の軽いジョークだったんですが‥‥』
「ええい、立てるではないか!」
夏姫に殴られるディレクターだったが、とにかく復活したので、気を取り直して次の部屋である。
「世のお父さんたちが唯一心安らげる場所、それがトイレ!」
Zebra(fa3503)がドアを開けると、そこは今までの流れからするとおそろしいほどおとなしいものだった。
タンクの上にナスやキュウリで作られた精霊馬が置かれ、四隅には笹が立てられてしめ縄で結ばれている。またがないと入れないという微妙な実害はあるものの、ただそれだけである。
その他、蝋燭、香炉、花立てといったお盆向けのオブジェが並び、清め塩も盛ってある。すべてのバチは、作ったZebraにではなく、この土地に住まうディレクターに向かいますように、というものである。
しかし、これだけ見れば、お盆以外の時期が一切考慮外なことを除けば、ソフト過ぎる仕上がりである。
「入ってみてくださいよ!」
ディレクターが入ってドアを閉めると、自動的に提灯に明かりが点き、かすかにお経が聞こえてくる。ところどころに、女の子の笑い声や鳴き声もかぶさっている。
しかし、そういったギミックには一切反応することはなく、水を流して出ようとするディレクター。流れる水が、赤茶に着色してあった。
「‥‥‥‥」
だがやっぱり、無言で出てくるディレクター。
「恐さの中にも風流さがそこはかとなく香るように作ったつもりなんだけど‥‥つまらなかったですか? 俺、がんばったんですよ?」
『では、2階にまいりましょう!』
ディレクターにすがるZebraを無視して、リーゼロッテがガンガン進行する。
2階に上がってすぐ気づいたことは、目の前に透明の壁が現れたことだ。そのまま外の景色がよく見える‥‥よく見える? そう、壁だけにとどまらず、中の机や本棚、パソコンといったものまでトランスルーセント仕様なのである。
「気づいたみたいだから、説明しちゃおっかな」
あずさ&お兄さん(fa2132)が進み出ると、その透明な書斎の中へと案内する。
「書斎はどうしても細かい物が多く、物がなくなりがち。そこで!」
まずは、強化ガラスで特別に作らせた机をバンと叩いてみせ、つづいてやはり特注の自動販売機を叩いてみせる。
「本を読んでいる途中で喉が渇いたときのため、なんと室内に自販機を設置! 中のドリンクの缶も特別にスケルトンで発注!」
そのせいか硬貨投入口は存在せず、紙幣を入れるところしかない。しかも、1万円札限定である。
「しかも、週2くらいで担当の女性係員がドリンクの補充に来てくれます! そこで、このスケルトンな書斎が生きてくるわけです。本棚の中身が丸見え!」
そう言ってあずさが指差した先の本棚には、放送上モザイクがかかってしまって分からない、エッチな本が並べてあった。
「っつーか、誰が持ち込んだんだよ‥‥いてて‥‥」
元気のない声で、それでも反論するディレクター。そう、まだ家が建て直されたばかりで、ディレクターの私物は一切搬入されていないのである。
だから、このエッチな本の数々は、あずさが恥を忍んで本屋に買いに行ったのである。なお、未成年であることを気にしてはいけない。そのへんは乙女の秘密ということになっているのである。
『あーっと、まだ傷が痛むようです! 寝た方がいいのかもしれませんね?』
「ん? あー俺の寝室の番か。しかし、どいつもこいつもひどいことしやがるな‥‥でも、安心しろよ。俺は今のディレクターさんみたいな状態のヤツに、追い打ちかける趣味はねえから」
リーゼロッテのフリにTyrantess(fa3596)が応えると、寝室へと移動していく。
白い壁に天井、ふかふかの大きなベッド。壁には心休まる風景画も飾られ、これ以上ないくらいに普通に上等に仕上げられた寝室である。
「じゃあ、電気を消すぞ」
ディレクターが横になり、部屋の電気も消えて静まり返った中、なぜか急にモーター音が聞こえてくる。見れば、壁一面にプロジェクターのスクリーンが下りてきていた。
しかし、映像が映し出されたのは天井だった。リフォームシリーズの中から、過去のディレクター宅で行われた物のみをチョイスして、延々と流される。
見事なトラウマ攻撃だが、見たくなければ横を向けばいいだけの話だ。しかし、壁のスクリーンはすでに上がっていた。そして、壁は上司Aの肖像の壁画になっていた。
「ヘコんでるヤツにそのまま追い打ちかけても、おもしろくねぇ。こういうときは、やっぱ一度安心させてから裏切らなきゃな! っつーことで、今日の映像も含めて視聴者プレゼントにしたいから、このDVDの好きなトコにサインしてく‥‥」
「あーれー」
律儀にサインしようとディレクターが身を起こしかけたところへ、天井を突き破って湯ノ花ゆくる(fa0640)が降ってきた。幸い、ディレクターの寝ているベッドの上だったので、湯ノ花は無事である。
屋根と屋根裏部屋担当の湯ノ花が、ガスがこもって爆発したりしないよう、床に大量に穴を開けておいたので、メッシュ仕様になって弱くなっていたのである。床のみならず、屋根も同様のメッシュ仕様だが、幸いなことに本日は晴天なので、雨漏りの心配は今のところ無用である。
なので、屋根裏部屋はもうどうにもならないので、いよいよ屋上の出番である。
屋根に上がると、そこは別世界だった。外から遠目に見ていただけでは観覧車に目が行って気づかなかったが、観覧車以外にもシャチホコ、旗など、メロンパンのテーマパーク状態である。そう、すべてメロンパンで作られているのだ。
「これで‥‥いつでも‥‥メロンパン気分が味わえます♪」
メッシュ屋根の上にこれだけの物を載せて平気なのかという話もあるが、観覧車だけは一本筋の通った大黒柱の上に乗っているので心配はない。
「では、どうぞ‥‥一人乗りで、小さいですけど」
メロンパンのカゴに乗り込むディレクター。屋根の上で、ぐるぐる回る。
ぐるぐる、ぐるぐる‥‥。いつまでも、いつまでも‥‥。