第9回プロレスごっこ王アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/08〜07/10

●本文

 プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居あり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。

 TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。めずらしくプロレスごっこの一番えらい人が召集したのではなく、一番えらい人の方がスタッフたちに呼び出されていた。
「先生、質問です!」
「何かね?」
 この俺様を呼び出すとは生意気なと、すでにブチギレ寸前の一番えらい人だったが、俺はえらいんだという無意味な誇りがかろうじて踏みとどまらせていた。
「なんかポイントによるランキング制とかいうものが前々回から強引に導入されてますが‥‥アレはなんなんでしょう?」
「バカヤロウ!」
 かろうじて踏みとどまっていたのも忘れて、一番えらい人があっさりと鉄拳制裁に踏み出す。
「俺たちのやっている番組のタイトルはなんだ? 『プロレスごっこ王選手権』だろうが。だったら、プロレスごっこ王を決めなくてどうするんだよ!」
「先生、だとするとランキング1位の人がプロレスごっこ王を名乗れるってコトですか?」
「バカヤロウ!」
 別におかしなことは言ってないが、すでにスイッチが入ってしまっているので鉄拳制裁あるのみである。
「プロレスごっこ王は特別なんだよ。ボクシングでランキング1位の上にチャンピオンがいるように、イングランドのフットボールリーグのディヴィジョン1の上にプレミアリーグがあるように、だ! まあ、ディヴィジョン1も今じゃチャンピオンシップと呼ぶわけだが、まあこれは総番の上に実は影番がいてというのと同じパターンだな!」
「先生、話が脱線しすぎです!」
「バカヤロウ!」
 すでに俺様の独演会になっている空気が分からんのかと、鉄拳制裁で分からせる一番えらい人。もちろんそんな空気になっていようハズはないのだが、一番えらい人に逆らえる者などいない。
「要するにだ、プロレスごっこ王はそう簡単に決まるような甘いもんじゃないってことだ!」
「先生、その特別な存在であるところのプロレスごっこ王は、いつ決まるんでしょうか?」
「バカヤロウ!」
 特におかしなことは言ってないが、鉄拳制裁の一番えらい人。ヒートアップする一方である。
「期限なんてねえ! ゴールを決めちまったら、道が見えちまうって前にも言ったろうが! 俺たちはプロレスごっこの求道者だろうが!? 分かっちまうような簡単な道を求めてるんじゃねえだろ。血ヘドを吐きながらつづける終わりなきマラソンがしたいだけ、死という途中棄権以外許されない果てなきマラソンがしたいだけ、そうだろう!?」
「先生、死にたくないです!」
「バカヤロウ!」
 生命ある者の本能にのっとった意見すらも、問答無用の鉄拳制裁である。
「何度言わせれば分かるんだ!? 決めるのは誰だ? やるのは誰だ? 俺だ! 俺がやると決めたんだ。I’m えらい人ーッ!!」
 口から泡を吹きながら、異常な興奮状態の一番えらい人。ドラッグでもキメてるのかというテンションで、ただでさえ持て余し気味のスタッフたちにどうこうできるはずもない。
「やれやれだぜ‥‥」
 スタッフのあきらめにも似たため息だけが響き渡る中、ランキング制導入後3回目、通算21回目のプロレスごっこ王選手権がスタートした。

参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。

注意:
・ポイントはプロレスごっこの一番えらい人の独断と偏見によってのみ与えられます。すばらしい、おもしろい、えろい、えらい人に媚びる、視聴率が取れる等、一切関係ありません。
・ランキングによるプロレスごっこ王の決定が近づいた場合、その数回前に告知されます。現状、遠い未来の話です。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。

ランキング(上位3名、第8回プロレスごっこ王分まで)
 1位 若宮久屋(fa2599) 3pt
 1位 佐渡川ススム(fa3134) 3pt
 3位 竜之介(fa1136) 2pt
 3位 古河甚五郎(fa3135) 2pt
(同順位の場合、先にそのポイントを獲得した方が上になります)

過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・GWSP03 5月04日 07:00〜
・GWSP04 5月05日 07:00〜
・第6回 5月08日 23:30〜
・第7回 6月22日 18:30〜
・第8回 6月23日 08:00〜

●今回の参加者

 fa0376 伊集院・帝(38歳・♂・虎)
 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa2132 あずさ&お兄さん(14歳・♂・ハムスター)
 fa2333 三条院・棟篤(18歳・♂・ハムスター)
 fa2824 サトル・エンフィールド(12歳・♂・狐)
 fa3072 草壁 蛍(25歳・♀・狐)
 fa3503 Zebra(28歳・♂・パンダ)
 fa3658 雨宮慶(12歳・♀・アライグマ)

●リプレイ本文

『殺してやる、という言葉は使ってはいけないと思うんです。考えたときにはすでに行動し終わった後ですから、殺してやった‥‥という言葉なら使っていいんです』
 サトル・エンフィールド(fa2824)物騒な実況ではじまる本日のプロレスごっこ。解説席には、プロレスごっこの一番えらい人の遺影が置かれていた。生前の愛用品ということで、鉄パイプも置かれている。
 もちろん、本当に殺人が行われていたらこの放送が流れていないので、そのへんは心配無用である。
『リング上では、伊集院帝(fa0376)レフェリーが早くもそわそわしていますが‥‥キターッ! チェーンソーの轟音が響き渡れば、それはムチャクイーン、草壁蛍(fa3072)が現れるときだーッ!』
 リングの下からチェーンソーの唸る爆音が聞こえてくる。慌ててリングサイドに逃げる伊集院。
 しかし、いつまで経っても草壁が現れる気配はない。
『音はすれども姿は見えず! 壊れたままのリミッターは、ついに肉体という枷をも振り切ってしまったのかーッ!?』
 サトルがムダにあおって間をつなぐが、それでも草壁は現れない。
 それもそのはず、その昔チェーンソーでリングをバラしてしまった出場者がいたため、えらい人がムダに頑丈な特注リングを作らせていたのである。もっとも、リングに既製品などなく、すべて特注品であるわけだが。
 よって、分厚い鋼鉄の仕込まれたマットとチェーンソーの、目に見えぬところでの戦いである。きっと文字どおり激しく火花が散っているのであろうが、画面上からはまったくうかがい知ることはできない。
 さらにしばらくの後、ついにリングの脇から草壁が這い出てくる。チェーンソーの刃はすっかりダメになってしまっているが、ホッケーマスクの下の瞳は逆に危険な輝きを増している。
『ついに出たーッ! もはや、彼女を止められるものは誰もいないッ!』
 ホッケーマスクをつけたまま、放送席目がけて突っ込んでくる草壁。サトルがムダに実況魂を発揮して、なんとか逃げずに実況をつづけているが、草壁はお構いなしに一直線である。
『やっぱり、今日もリミッターは壊れたまま‥‥〜ッ!!』
 チェーンソーが振りかぶられ、さすがにサトルも目を瞑ってしまう。しかし、次に目を開けたときに一刀両断にされていたのは、実況席でもサトルでもなく、えらい人の遺影の置かれた解説席の机であった。
 草壁は、すでに高々と中指を突き立ててみせている。そして、今度は親指を立てると、首を掻っ切るポーズをして、最後はその親指を地に向ける。
「‥‥次は貴方の番よ、背中とお尻を洗って待ってなさい」
 サトルのマイクを奪うと、遺影に向かって宣言する草壁。さらには、どこからか取り出した手袋を、遺影に投げつける。
『こ、これはムチャクイーンの処刑宣告だーッ! しかし、えらい人はすでに死んでいる! 地獄の果てまで追いかけていくというのかーッ!?』
 マイクを返してもらったサトルの実況がこだまする中、壊れたチェーンソーではなく、これまたどこからか取り出した鞭を振り回しながら、草壁が悠然と引き上げていく。
『‥‥次回へつづくということなのでしょうか? とにかく乞うご期待ということで、次の試合にまいりましょう! 昨日の夜は七夕でした。というわけで、遅れてきた雨宮慶(fa3658)選手が、未だに七夕飾りを作っているッ! しかし、水着を着ての登場なので、いくらでも遅れて構わないーッ!』
 サトルが興奮して実況するとおり、水着姿で入場してくる雨宮。その脇には、レフェリーの伊集院が雑用係のように浴槽をえっほえっほと運んでいる。しかも2つ。
 しかし、サトルにはそんな伊集院の姿はもはや目に入らない。ティーンになったばかりのサトルには、ちょっとだけお姉さんに当たる雨宮の水着姿はたまらない。しかも、雨宮は顔に似合わぬ爆裂バディの持ち主なので、サトルが先程草壁に斬られた机を不思議な力で支えてしまっている状態だ。
 そんなサトルには一切関係なく、短冊を一つ書いては熱湯風呂に入り、短冊を一つ書いては氷水風呂に入るという行動を繰り返す雨宮。おかげで、伊集院もどうレフェリングしたものか思案に暮れてしまっている。
『一体、何の意味があるんだーッ!?』
「これは、自分自身との戦いなのです」
 サトルの実況に、律儀に答える雨宮。あまり答えにはなっていなかったが、水着姿の雨宮にそう言い切られては、サトルも引き下がるしかない。
『よく分からないですが‥‥画的に問題ないので、このまま次の試合にまいりましょう! 出たーッ! おかまのあずささんと、貧乳──だが、それがいいのお兄さん‥‥って、イヤだー! この胸のときめきを返してください!』
 サトルが錯乱する中、あずさ&お兄さん(fa2132)が堂々の登場である。とはいえ、サトルが錯乱するように普段とは様子が違うあずさ&お兄さん。
 あずさはマッチョ着ぐるみを着込み、金髪のヅラに明らかに不自然な女装といういでたち。対するお兄さんは茶髪ツーテールに普通の女の子な服装という、現代に蘇るとりかえばや物語である。とはいえ、蘇って欲しくない不気味アレンジともいえたが。
「あら、レフェリーの帝さん。よく見ればいい男ね」
 きっちりキャラも入れ替わっているあずさなので、男の嗜好もお兄さん風味になってしまっている。おかげで、年上の伊集院狙いでガンガンに攻めまくりである。
「ぶふっ‥‥いいから、さっさと戦えや、このカマ!」
 とはいえ、伊集院もプロなのできっちり乗っかる。お兄さんに好かれて悦ぶような性癖ではないので、お兄さん風味のあずさにたぶらかされることなく、冷たくあしらってみせる。
「わっ!」
 伊集院はツッコミとして軽く押しただけのつもりだったのだが、あずさは慣れない着ぐるみのせいかよろけると、ちょうど誰もいない熱湯風呂にスコーンと落ちてしまう。
「わっ! 熱い‥‥熱いよう!」
 雨宮は水着だからまだしも、浴槽から上がろうともあずさの着ぐるみはお湯を吸ってしまって離さない。
「‥‥お兄さん、悲鳴があずさに戻ってるよ」
 さすがは名レフェリー、冷徹にツッコミを入れる伊集院。しかし、あずさはそれどころではない。雨宮の入っていた氷水風呂に、割り込んで入っていく。
「ふぅ‥‥わっ、冷たい‥‥冷たいよう!」
 そんな中、雨宮は冷静に短冊を書いては熱湯風呂と氷水風呂に交互に入るを繰り返している。
「熱ッ! 冷たッ! 熱ッ! 冷たッ‥‥ 」
 気づけば、あずさは雨宮と入れ替わるように、氷水風呂と熱湯風呂に入る永久機関モードに突入、よく分からない状態になってしまっている。
 そして、あずさ風味のお兄さんは、ただただ遠くから微動だにせず見守るだけである。
「むぅ、このままでは収集がつかん‥‥ええい、相方カモン!」
 しかし、レフェリーの伊集院まで微動だにしないわけにはいかないので、相方の三条院棟篤(fa2333)を呼び寄せるという他力本願に打って出る。
「相方やない! 食欲覆面X、またまた参上☆」
 入場口に、覆面をかぶった小太りの少年が現れる。このときの彼は三条院ではない。食欲だけが本能の、食欲覆面Xなのだ。
『あーっと、まだお兄さんあずさ選手の戦いがはじまってもいないのに、たまらず伊集院レフェリーが三条院選手を呼び寄せた! しかし三条院選手はもはや食欲覆面X! 食の原野を突き進むことしか知らないッ!』
『夏やからこそ、強敵鍋焼きうどんと戦うんや!』
 かなり大き目の鍋焼きうどんを手に、颯爽とリングに向かって走り出す。
 これは勢いよくコケて、リング上にさらなる阿鼻叫喚を撒き散らすのか!? と思いきや、普通にリングインして、所定のテーブルにつく三条院。
「くっ‥‥まあいい。ファイッ!」
 何やら言いたそうな伊集院であったが、ここはグッとこらえて永久運動の二人を振り返ることなく、問答無用で三条院の試合をはじめさせてしまう。
「よっしゃ、いただいたる‥‥」
 蓋を開けた三条院の手が、ピタリと止まる。見れば、鍋の中でうどんと一緒にゴキが煮えているではないか!
「いいから、早く食え!」
 頭を押して、ムリヤリ鍋に顔を突っ込ませる伊集院。
「〜ッ!? 口の‥‥口の中‥‥あぶぅ‥‥」
 顔を上げた三条院が、口から泡を吹いて倒れる。その泡がマット上に広がっていくと、その中から茹で上がったゴキが姿を現してくる。まさに黒い悪魔である。あまりのショッキング映像に、すかさずモザイクが入る。
「すみません‥‥ゆくるの対戦相手が‥‥こちらに紛れ込んでいると聞いて‥‥」
 だが、実は三条院程度ではショッキング映像ではなかった。スズメバチ駆除の際に使うような、いやもはや宇宙服といった方がいいような防護服を着た湯ノ花ゆくる(fa0640) が大きな虫かご片手に現れると、その中はゴキだらけであった。メロンパンで作られたゴキでしたなんてオチもなく、ガチで本物である。
「あっ‥‥!」
 ここで、先程三条院がやっておくべきだったコケ芸が炸裂である。湯ノ花の手から虫かごが飛び、マットに叩きつけられると、ついに黒い悪魔たちがこの世に解き放たれてしまう。
『な、なんということでしょうッ!!』
 一瞬にして、阿鼻叫喚の地獄絵図である。スタジオ中を飛び回るその画はもはや壮観‥‥とは言ってられず、全面モザイクで放送事故状態である。
『これは一体、どんなファンシーなメロンパン劇場なんだーッ!?』
 先程とはまったく違う意味で錯乱してしまったサトルが、意味不明の実況をしている。
 そこへ、ついにあの男までもがこの地獄へとやって来た。
「こっちの方が地獄らしい地獄なので、本物の地獄から呼び覚まされてしまった‥‥I’m えらい人ーッ! 今回も独断と偏見で、ポイントによるランキングがつくゼ!」
 1位 三条院棟篤 3
 2位 伊集院帝 2
 3位 サトル・エンフィールド 1
 減点 湯ノ花ゆくる −5
「目指せ、プロレスごっこ王! では、私は再び眠りにつく‥‥」
 地獄から一時的に蘇ったという設定なので、あっという間に去っていくえらい人。
 そこへゴキなどものともせずに草壁が乱入し、鞭を振り回しながらおそろしい勢いで迫っていったが、えらい人はそれ以上のスピードで逃げ切ってしまった。
 そして結局、リング上は地獄絵図のままであった。