第10回プロレスごっこ王アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや易
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報酬 |
0.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/11〜07/13
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●本文
プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居あり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。
TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。といってもプロレスごっこの一番えらい人が召集したのではなく、一番えらい人の方がスタッフたちに呼び出されていた。
「先生、質問です‥‥というか、この先生に質問方式、いつまでやればいいんですか?」
「バカヤロウ!」
何度も呼び出されて気が立っているえらい人は、ちょっとでもくだらない質問をしたら、速攻で鉄拳制裁である‥‥いや、今日は鉄パイプ一振りである。
「うわっ!」
「てめえ、何避けてんだよ!?」
「いや、避けなきゃ死にますって! 大体、何鉄パイプなんて持ってんですか!?」
となれば、スタッフは避けるしかない。鉄拳制裁ならすべて受け切ってみせようが、鉄パイプではシャレにならないのである。
「てめえらが、鉄拳制裁はダジャレとかぶるとか言うからじゃねーか! だから、鉄パイプを握り締めることにしたんだろーが! 感謝はされても、文句を言われる筋合いはないわ!」
「‥‥あ、ありがとうございます」
やむなく、感謝の言葉を口にするスタッフ。一番えらい人に鉄パイプは、もはやなんとかに刃物と同意、余計な刺激を与えてはいけない。
「そ、それでですね。先程のいつまで先生に質問方式をつづけるかという件なのですが‥‥」
「バカヤロウ!」
再び鉄パイプを振るうえらい人。当然、スタッフは避けるしかない。避けるしかないのだが、その度にえらい人の顔が紅潮していくのが困りものだ。
「だから、何避けてんだよ!? ‥‥まあいい。で、質問方式だぁ!? てめえらで勝手にはじめたんじゃねーか! だったら、血ヘドを吐きながらつづける終わりなきマラソンでいいじゃねえか! てめえら、これはプロレスごっこなんだぞ!!」
意味不明の理論で、全員を黙らせるえらい人。というか、いつもの口から泡を吹きながらのトランス状態に入ってしまっているので、極力刺激を与えないように時間が経つのを待つしかない。
こうして不気味な静寂が支配する中、ランキング制導入後4回目、通算22回目のプロレスごっこ王選手権がスタートした。
参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。
注意:
・ポイントはプロレスごっこの一番えらい人の独断と偏見によってのみ与えられます。すばらしい、おもしろい、えろい、えらい人に媚びる、視聴率が取れる等、一切関係ありません。
・ランキングによるプロレスごっこ王の決定が近づいた場合、その数回前に告知されます。現状、遠い未来の話です。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。
ランキング(上位3名、第8回プロレスごっこ王分まで)
1位 若宮久屋(fa2599) 3pt
1位 佐渡川ススム(fa3134) 3pt
3位 竜之介(fa1136) 2pt
3位 古河甚五郎(fa3135) 2pt
(同順位の場合、先にそのポイントを獲得した方が上になります)
過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・GWSP04 5月05日 07:00〜
・第6回 5月08日 23:30〜
・第7回 6月22日 18:30〜
・第8回 6月23日 08:00〜
・第9回 7月08日 07:00〜
●リプレイ本文
『ふむ‥‥つまり、俺に実況もやれというのだな? よかろう。自己表現のための破壊、それは創造主の意思に反する愚行といえる。だが、破壊でしか表現できない魂の叫びは、何物にも束縛できない。ゆえに、プロレスごっこは己の限界を破壊し、新たなる自分を模索する若獅子たちの戦場といえるだろう。しかして、そこへ若い獅子ばかり投入されるのを見送るばかりが、俺の勤めなのだろうか? 否! ならば伝えよう、若獅子の咆哮を!』
解説だけをするつもりでやって来た藤宮誠士郎(fa3656)に、急遽実況も任される。しかし、持って回ったくどい表現が、早くも周囲を辟易させているが、藤宮は気にする様子もなくマイペースを貫いている。
「もー、さっきからダラダラダラダラ、長いよ! 長すぎるよ!」
それを、さすがにリング上でレフェリーを務めるMAKOTO(fa0295)が文句を言うが、藤宮節はとどまることを知らない。
『ああ、美しきは笑いのために己の何かを犠牲にしてまでこのリングという名の舞台に挑む若獅子たちよ。新たなる笑いを作る行為は、言うなれば血を吐きながらつづける悲しいマラソン‥‥だとしても、彼らは挑みつづけるだろう。恋、夢、花、命‥‥それらは、必ず散る。笑いもまた同じ‥‥だが彼らは挑む、一瞬の笑いと虚構の王座を目指し、戦いつづける。愚かしくも、美しいとは思わんか?』
「はい、最初の挑戦者入ってきてー」
問いかけを軽くスルーし、最初の挑戦者である草壁蛍(fa3072)を呼び込むMAKOTO。実に正しい判断である。が、そのままレフェリーのMAKOTOの実況に移ってしまっただけだった。
『本職格闘家の者が世を忍ぶレフェリーの姿でプロレスごっこという虚構に挑む、一見愚行に映るがその虚構の中に新たなる姿を見出し、真の戦場に生かそうという心意気は見事としか言いようが‥‥』
そんな間にも、草壁はなかなか入ってこない。いや、入ってこれないのである。会場にはウォータースライダーのチューブが幾重にも張り巡らされていて、入ってくるのにも一苦労なのだ。ましてや、草壁はチェーンソーに木偶人形という小道具というにはかさばる物を抱えての入場だけに。
藤宮の冗長な実況では一切触れられなかったが、会場は今や水のテーマパーク状態なのである。湯ノ花ゆくる(fa0640)の手によって、会場中にリングを中心に十重二十重にウォータースライダーのチューブが渦巻状に張り巡らされ、さらにはリングサイドに掘った流れるプールに着水するという、一大アトラクションに大改造されていたからである。
草壁はムチャクイーンなのだから、手にしたチェーンソーで道を切り開いてしまってもいいのだが、そうなるとこの無茶女王様の高貴な身体が濡れてしまうので、ただそれだけの理由で自重している。
ようやくリングインすると、草壁は自分で丁寧にセッティングを行う。まず木偶人形を配置すると、その顔の部分にプロレスごっこの一番えらい人の顔写真を貼りつける。もちろん、写真には黒い目線が入っているのは言うまでもない。
『人は時として、愛をサディスティックな行為で表そうとする。愛するが故に傷つけ、その傷を愛の証としたがる‥‥一見暴行としか見えない行為も、当人たちにとっては愛情表現でありその結果得られる愛は残虐行為手当とでも言うべきだろう』
藤宮はそう言っているものの、草壁の戦いっぷりはムチャクイーンの名に相応しくなく、木偶人形相手にキャットファイト的な技の応酬を繰り広げるという、まだまだ暖気運転状態である。
「んー、じゃあ次の試合行っちゃおーか」
リング上の進行は僕が司るとばかりに、MAKOTOが次の雨宮慶(fa3658)も呼び寄せる。もちろん、草壁は戦いはじめたばかりだし、藤宮のある種お経のような実況もつづいてままだ。
「第10回記念ですし、プロレスごっこにおける10のルールを石版に刻み込もうと思います。はい、十戒です。海も割れてしまうのです」
ということなので、流れるプールの上に橋のように石版が敷かれていく。別に流れるプールの水が割れたりはしないが、流れるプールを泳がずに渡ることはできる。
「というわけで、10のルールをえらい人に教えて欲しいんですけど‥‥」
雨宮がそう言った瞬間、突然草壁のえらい人木偶人形がカタカタと震えだす。
「俺がルールブックだ!」
機械音的な声でそう再生されると、ボンと木偶人形の頭部が自動的に爆破される。
「むむ、一体いつの間に‥‥どこ!? どこにいる?」
自分の用意した木偶人形にいつの間にか細工をされていた草壁が、憤慨のあまり獲物を探し求める獣のような目で周囲を見回すが、えらい人は影も形もない。しかし、えらい人の影をスタジオ外にまで追っていってしまう草壁。
一方、雨宮は爆発のショックで石版の上から転落してしまっていた。幸いかどうかは分からないが、下は流れるプールである。
「ふぅ‥‥こんなこともあろうかと、用意しておいて助かりました」
どこからともなく浮き輪を取り出すと、すでにそれでプカプカと流れるプールを堪能してしまっている雨宮。10のルールと言ったのにたった1つのルールしかないとあっては、バカンス気分で楽しんでないとやってられないのである。
しかし、本当にバカンス気分を堪能しているのは月見里神楽(fa2122)であろう。
無人となり、用なしとなってしまった石版の橋を最大限活用し、その上にパラソルやらビーチチェアやら、テーブルの上にはフルーツの盛り合わせにカクテルやらを持ちこみ、リゾート演出満点である。
そこへ颯爽と月見里が現れる。サングラスをはずすと、強い光にまぶしそうにする。夏の日差しが強すぎるのではなく、ただ単に照明のライトが近すぎるだけだったが、優雅なバカンスではそんなことは気にしない。
だから、大きな氷がウォータースライダーを滑らせて運び込まれてきたとしても、衛生上の問題なんかも気にしない。
そう、月見里の対戦相手は巨大氷である。戦い方は言わずもがな、カキ氷に決まっている。
「カキ氷は、シロップがないとはじまらないよね☆ イチゴにレモン、ミゾレは定番? 抹茶にハワイアンブルー、アマ〜い練乳も欲しいかも‥‥」
しかし、カキ氷を作るよりも早く、シロップ各種を取り揃えるのに忙しい。その間にも氷はどんどん溶けていっているが、単に勝利が近づくだけなので気にしない。いや、逆に負けなのか?
『勝利とは何か? 敗北とは何か? 勝利より価値のある敗北はあるのか? よくは分からぬが、舞台に立った以上は、勝つもよし、負けるもよし‥‥それを体現しようというのだな!』
草壁が勝手なことを言っているが、レフェリーのMAKOTOからしたら、リング上はに自分以外は頭のとれた木偶人形だけ、リングサイドの流れるプールに雨宮、その上の橋に月見里という場外戦しか行われていない状態なのだから、たまったものではない。
「一度やってみたかったという甘い考えでレフェリーをやってみたけど‥‥試合の勝ち負けを判定する以前に、試合が成立するかどうかを心配しなくちゃいけないなんて、さすがにやるな、プロレスごっこ!」
腕を組みながら、思わず感心してしまうMAKOTOであったが、そうのんびりしているわけにもいかないので、すぐさま次の湯ノ花を呼び寄せる。
すると、湯ノ花が紅白のサンタクロースの衣装に身をつつみ、サーフボードを持ってウォータースライダーの出発点に立っていた。
「ここ南半球では‥‥クリスマスは夏なのです‥‥」
南半球ではこれから冬だろ以前に、確実に北半球というかTOMITV内スタジオでの収録だが、そんな小さなことに縛られる湯ノ花ではない。そんなことに縛られるくらいだったら、こんな大がかりなセットの発注は自重するというものである。
「では‥‥行きます!」
サーフボードに乗り、勢いよく滑り降りていく湯ノ花。うねりまくったスライダーを転ばないように散々粘り、そのままの勢いで流れるプールに着水する。
「きゃ!」
だがしかし、勢いが死なずに石版の橋桁に激突し、あっさり水没する湯ノ花。プカーンと土左衛門のように浮かび上がり、完全に出オチ状態である。
しかも、その衝撃でシロップ選びに夢中になっていた月見里も、氷と一緒に転落してしまう。
「こんな戦い方をするはずじゃなかったのに‥‥」
浮いている巨大氷に乗ろうとするが、今度は冷たさに耐え切れずにまたプールに飛び込む。月見里はその繰り返しである。
とそこへ、ウォータースライダーの出発点にあずさ&お兄さん(fa2132)が立っていた。あずさはタンキニにパレオを付けてという水着コスチュームで、対するお兄さんは、どう見てもいろんなものを雑多に詰め込んだだけのマッチョ着ぐるみにしか見えなかったが、あずさがお兄さんだと言い張るので、お兄さんということにしておこう。
しかし、あずさとお兄さんがなにやら険悪な雰囲気である。あずさがお兄さんをボディスラムで叩きつけると、そのままお兄さんの上に乗ってしまうあずさ。
『お兄さんをサーフボードにしてしまうという暴挙、ここに真実の愛を見た! ああ、かくも美しいものなのか‥‥涙でしっかりと目に焼きつけることができないことだけが、心残りだ‥‥』
まったく表情を崩すことなく、さらりと言ってのける藤宮。一方、あずさは先の湯ノ花同様、お兄さんサーフボードに立って滑り降りてくると、勢いよく流れるプールに着水する。
そして、さすがに湯ノ花と同じ轍は踏まないとばかりに、ひらりと石版の橋の上に飛び移る。
お兄さんはそのまま流されていくが、気にしない。それよりも、石版の橋の上に残された緑色の液体の入った瓶が気になって仕方がない。
「これは‥‥毒霧の素!」
早速、口に含むあずさ。
「そんな着色料だけのを‥‥飲んでは‥‥ダメです。このメロンパンから抽出した‥‥」
そこへ急に湯ノ花が這い上がってきたものだから、驚いたあずさはぶふーとは吹かずに、思わず飲んでしまう。
「甘っ! くどっ! ケホケホ‥‥」
シロップの原液攻撃に、思わずむせるあずさ。自分のせいかもと心配になった湯ノ花の目に、テーブルの上のチューブが飛び込んでくる。
「そうです‥‥この軟膏をぬれば‥‥」
しかし、それは月見里の用意した練乳である。それ以前にこの状況に軟膏はないだろという話であるが。結果、むせるあずさの顔に白いどろっとしたものが塗られただけであった。
「むむ‥‥全試合終了になるのかな?」
ついに全選手リタイヤということでMAKOTOが締めようとしたそのとき、ようやく草壁がリングに戻ってきた。
「くっ、どこにもいないじゃない!」
やはり、えらい人を見つけることはできなかったようだ。仕方なしに、オイルライターでシガーに火をつけると、そのまま一服する草壁。
いや、ただくつろいでいるわけではない。放置プレイだった木偶人形にホワイトガソリンを撒くと、火のついたままのライターを放り投げる。無論、たちまち炎上である。
シガーにオイルライターはオイルの臭いが移るから禁じ手なのであるが、ムチャクイーンなのでそんなことは気にしない。だから、スタジオ内が禁煙であることも、メキシコ監督並みに気にしない。それ以前に、木偶人形でキャンプファイヤーなのだから、そっちを気にしろという話である。
そして、それがのろしとなったか、神出鬼没のえらい人の登場である。
「呼ばれて飛び出て‥‥I’m えらい人ーッ! 今回も独断と偏見で、ポイントによるランキングがつくゼ!」
1位 湯ノ花ゆくる 3
2位 雨宮慶 2
3位 月見里神楽 1
「目指せ、プロレスごっこ王! 俺に関わるとヤケドするゼ‥‥」
そこへもはやウォータースライダーなど知ったことかと、チェーンソーでチューブをぶった斬りながら草壁が殺到してくるが、えらい人が異常な身軽さでひょいひょいとスタジオの外へ出ていってしまい、またも草壁はえらい人を見失ってしまった。
『勝利とは何か? 敗北とは何か? そんなことを考えた俺がバカだった。今ここには、勝者もなく、敗者もなく、ただただ水が流れ落ちるのみ。そうか、諸君は俺に戦いが無為であることを教えてくれたのだな。ああ、なんとプロレスごっこの高尚なることか!』
藤宮が確実に間違えたことを言っているが、本気でそう思っているわけではないので問題はない。口から出まかせサイコー! なのである。