第11回プロレスごっこ王アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/14〜07/16

●本文

 プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居あり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。

 TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。といってもプロレスごっこの一番えらい人が召集したのではなく、一番えらい人の方がスタッフたちに呼び出されていた。
「先生、質問です‥‥結構いいペースに戻ってきた気がしてならないんですが、いつまでこのペースがつづくんですか?」
「バカヤロウ!」
 相変わらず甘えたことを言うスタッフに、さっそくえらい人が前回にひきつづき鉄パイプ一振りである。
「あっ‥‥!」
 ゴンッ! 鈍い音が響き渡り、そのまま昏倒するスタッフ。さすがに、一番えらい人もいつものように口から泡を吹く興奮状態になだれ込むわけにはいかない。
「てめえ、なんで避けねえんだよ!?」
「‥‥‥‥」
 理不尽な言い草ではあるが、それでもスタッフの返事はない。
 このまま、スタッフの事故というか一番えらい人の過失傷害でお蔵入りか!? と思いきや、そんなことは全然なく、普通にランキング制導入後5回目、通算23回目のプロレスごっこ王選手権がスタートするのであった。

参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。

注意:
・ポイントはプロレスごっこの一番えらい人の独断と偏見によってのみ与えられます。すばらしい、おもしろい、えろい、えらい人に媚びる、視聴率が取れる等、一切関係ありません。
・ランキングによるプロレスごっこ王の決定が近づいた場合、その数回前に告知されます。現状、遠い未来の話です。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。

ランキング(上位3名、第8回プロレスごっこ王分まで)
 1位 若宮久屋(fa2599) 3pt
 1位 佐渡川ススム(fa3134) 3pt
 3位 竜之介(fa1136) 2pt
 3位 古河甚五郎(fa3135) 2pt
(同順位の場合、先にそのポイントを獲得した方が上になります)

過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・第6回 5月08日 23:30〜
・第7回 6月22日 18:30〜
・第8回 6月23日 08:00〜
・第9回 7月08日 07:00〜
・第10回 7月11日 07:00〜

●今回の参加者

 fa0155 美角あすか(20歳・♀・牛)
 fa0427 チェダー千田(37歳・♂・リス)
 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa1881 アースハット(27歳・♂・鷹)
 fa3072 草壁 蛍(25歳・♀・狐)
 fa3135 古河 甚五郎(27歳・♂・トカゲ)
 fa3251 ティタネス(20歳・♀・熊)
 fa4044 犬神 一子(39歳・♂・犬)

●リプレイ本文

『さあ、今回もやってまいりました、プロレスごっこ王選手権! プロレスごっこ王には誰が輝くのか!? そんな先のことを気にするくらいなら、目の前の試合に注目しやがれ! さあ、入場口を見ろーッ!』
 放送席など用意せず、早くもリング上でリングアナのように立ちながらも、実況をはじめるアースハット(fa1881)。今回はレフェリーがいないので、このアースハットが試合進行すべてを司るのである。
『一体、これはどういうツーショットだ!? 古河甚五郎(fa3135)とチェダー千田(fa0427)が並んで立っている! ガムテープ職人とムチャジャックという職業もアレだが、その接点はなんだーッ!?』
 アースハットはすでに興奮状態なので、花道を戻って古河とチェダーのところまで行くと、一緒になって入場してくる。
 とはいえ、ただ一緒になって入場するだけならアナウンサーである意味はないので、アースハットはすかさずチェダーにインタビューである。
『なんでも、お二人は13日の金曜日に戦うとかで?』
「うむ、全米だけでおよそ2千万人! 経済的損失は8億円超! そんな13日の金曜日恐怖症と戦うゼっ!」
『‥‥今日は14日なんですが‥‥』
 チェダーはアースハットの冷静なツッコミにもまったく耳を貸さず、上半身裸のボクサーパンツ姿で、なぜかシャドーボクシングに余念がない。なので、古河が勝手に割って入ってくる。
「そう、今日は14日。だけど、14日の金曜日は呪われているのですかね? 世間では13金が一般的ですが、プロレスごっこ的には14金とのこと。その違いはどこにあり、どちらが正しいのでしょう? 13金と14金を区別しろと厳命ですので、科学的に検証していきたいと思います」
 手にしたのはなぜかビール瓶。もちろん、中身は入っている。そして、その王冠が金色に輝いているのが、早くも嫌な予感がしてならない。
「だから俺は、言い伝えにある治療方法を実行だゼ! あまりに有名な言い伝えだが、あえて説明しよう! まず、山や高いところに登り、穴のあいた自分の靴下を燃やす。そして、そのまま逆立ちして軟骨のから揚げを食べるというものだ! 説明するまでもなかったかな?」
『聞いたことねーよ!』
 リングインするや、意味不明の解説をはじめるチェダー。アースハットのツッコミは例によってスルーである。
 なので、すぐに靴下を半脱ぎの状態にすると、その先っぽにライターで火をつける。
『高いところって、リングの上かよ!』
 アースハットがもうやめようかなと思っていながらも、反射的にツッコミを入れてしまう。だが、チェダーはことごとくスルーである。というか、それどころではない。熱は上へと伝わってくるので、早く逆立ちしないと腿が焼けるのである。
「なるほど、逆立ちしなくてはいけない理由は、こういうワケだったんだな!」
『‥‥ところで、古河選手?』
 チェダーのツッコミにはもう疲れたとばかりに、古河の方に振り返るアースハット。極めて賢明な判断である。
「はい、なんでしょうか?」
『先程、科学的に検証するとおっしゃってましたが、具体的にはどのように?』
「ええ、まずはこちらをご覧ください」
 そう言って、手に持っていたビール瓶を見せる古河。
「13金と14金の王冠で蓋がされていますが、一切傷をつけずに調べねばなりません。ここは子ども用のプールに入って、ビールと一緒に冷やされながら、方法を考えてみようと思います」
 ビールを抱えながら、小さなプールにつかる古河。一方、本当に燃えている男チェダーは、逆立ちしたまま本当に軟骨のから揚げを食べはじめていた。
『火と水、そして金。このまま曜日が全部揃いそうな勢い‥‥おーっと、早くも次の試合の美角あすか(fa0155)が入ってきてるーッ!』
 気づけば、美角がリングインしていた。ビキニの水着の上に浴衣を羽織るという、そのまま古河のプールに入ってしまっても違和感のない格好であるが、なぜか目指すはチェダーのところである。
「こんなところに筆がありました。あれ‥‥でもなんで燃えてるんでしょう。消しちゃいましょうね」
 チェダーの靴下の火をさっくり叩き消し、チェダーの言い伝えをあっさり全否定すると、逆立ちしたままのチェダーの身体を引っこ抜いて、持ち上げる美角。
「ちょ、この体勢だと視線的にはうれしいけど‥‥なんで、いつの間にプールに墨汁が張ってあるんだよ!?」
 見れば考え終わった古河はプールから上がっており、そのプールの水はおそろしい速さで墨汁へと変わっていた。
「はい、私の対戦相手は見てのとおり習字です! この巨大筆で、プロレスごっこにちなんだ標語を書きたいと思いまーす!」
「ちょ、俺髪短いから、筆には不向きだって! むしろ、筆下ろ‥‥ブクブク」
 チェダーが文句を言っても、構わず墨汁の中に沈めていく美角。
 引き上げられたとき、チェダーは黒光りして滴るいい男になっていた。が、やはり構わず美角の文字入れである。いつの間にか、マットの上に巨大な半紙が敷かれている。
「んー‥‥重いっ!」
 美角が重さに耐え切れず、チェダーの頭がマットに突き刺さる。
「俺、こんなんでドランカーになりたくないんだけど‥‥」
『大丈夫、すでに立派な打たれ過ぎだから‥‥ああ、打たれ過ぎててそれも分からないんだ、かわいそうに‥‥』
 アースハットが思わず涙ぐむが、美角がプロレスっぽく習字をしようと余計にがんばってしまって、脳天杭打ち連発状態である。
「こんなことなら、パンチドランカーの前に普通にアルコールでドランカーになっておくんだった! ビールはまだかーッ!?」
「エウレーカ! 卵を立てるには割ってよいし、王冠さえ無事なら瓶を割ってもよいのです!」
 そんなチェダーの悲痛な叫びは一切無視して、コロンブスのように発見したことに喜んでいる古河は、いきなりビール瓶を手刀で切ろうという構えである。
「え? 破片で王冠が傷つく? もちろん保護しますよ、ガムテで!」
『っていうか、それ以前に手の方を先に保護しろよ! ザックリやられたら、放送できなくなっちゃうじゃない!』
「もちろん、すでに保護してますよ、ガムテで!」
 とはいえ、古河は空手の達人でもなんでもないので、スパっと切れたりはしない。ただ砕け散るのみである。もちろん、ビールも一緒に飛散してしまっている。
 飛び散ったガラスの破片が、当然ながらマット上の半紙の上にも散乱するが、美角は気づいていない。なので、ガラスの破片の上にチェダーの頭をドッカンドッカン落としていくのである。
 たちまちのうちに、残酷映像の出来上がりである。が、チェダーは根っからのモザイク芸人なので、問題はない。むしろ願ったり叶ったりである
「なんか、すっげー気持ちいい‥‥なんでだろう?」
 恍惚の表情を浮かべるチェダーだが、せっかくの表情もモザイクでまったく見えない。
『世の中には知らない方がいいこともある‥‥あーっと、血の臭いに引き寄せられたか、ムチャクイーンの草壁蛍(fa3072)がやって来たーッ!』
「鞭は肉を打つのではなく、鳴らすようにスナップを効かせて振るう‥‥って解説書で読んだところだったので、ちょうど都合のいい肉片があると聞いて飛んできたわよ!」
 鞭の特訓にやって来た草壁が、早速美角ごとチェダーを鞭で打つ。美角は新感覚に目覚めてしまうとマズいと、すぐさまチェダーを放り出して逃げるが、肝心のチェダーはすでに目覚めてしまっているので、そのままされるがままである。
「気持ちよさに、新たな気持ちよさが重なってきた‥‥このままじゃ、大きくなっちゃうよ‥‥あれ?」
 モザイクが股間にもかかるのではないかという心配をするチェダーだったが、そんなことはなかった。
『上から出しすぎて、もう下に集まる血がないんだね』
 アースハット冷静に実況する中、さすがにチェダーが担架で運び出されていく。
『さあ、仕切り直しです‥‥って、うわっ! 今ごろになってはじめて気づいたけど、観客席はなんじゃこりゃ!?』
 観客席には、マネキンがずらりと並んでいた。それだけでもホラーなのに、すべてにホッケーマスクがかぶせられ、チェーンソーが持たされている。
 と、そのチェーンソーが一斉に唸りを上げる。ムチャクイーンの登場か? とはいえ、草壁はすでに登場済みである。
「ええい! 散々苦労して仕込んでおいたのに、今ごろかよ!」
 汗だくになった犬神一子(fa4044)が、チェーンソーを振り回しながら入ってくる。
「まあいい、さっそく石膏と戦って像に仕立て上げるゼ! 女体像以外には興味がないんで、モデルは‥‥そこのムチャクイーンにしとこうか!」
 指名を受けて、草壁がやってみなさいとばかりに鞭を構えてポーズを決める。
 しかし、石膏の塊をチェーンソーで彫っていこうにも、チェーンソーの振動で簡単にボロボロと崩れ落ちてしまう。
「っつーか、超人硬度2の石膏じゃモロ過ぎるわ!」
『硬度はともかく、超人って何よ‥‥?』
 アースハットのツッコミはチェダーのごとくスルーの犬神。
「やっぱ、型をとってそこに石膏を流し込むのが道理! というわけで、この手で型をとらせてもらうぞ!」
 チェーンソーは放り投げ、いやらしい手の動きで草壁に迫る犬神。
 とはいえ、草壁はムチャクイーンである。ただ餌食になるハズがない。犬神の放り投げたチェーンソーを拾い上げると、逆にそれで犬神を追い立てる。
「私が、本当のチェーンソーの使い方を教えてあげるわ!」
 たまらず、リング下へと逃げる犬神。
 観客席にさえたどり着けば‥‥俺のマネキンたちが、伏兵として待っている。もう隠されてないけど。そんなわずかな希望だけを頼りに、犬神は逃げ惑う。
 しかし、それは目の前に現れた障害物に遮られた。メロンパンによる巨大な山、であった。
「‥‥奪われた‥‥メロンパンを‥‥取り戻すために‥‥戦います‥‥」
 犬神が散々苦労して並べた観客席のマネキン群以上に黙々と、それはもう黙々と、湯ノ花ゆくる(fa0640)が勝手な脳内設定だけでメロンパンを積み上げていたのだ。しかも、下の方からメロンパンを抜いては上に載せを延々と、それはもう延々と繰り返し。放送開始前からやっていたのだが、それがついに画面に映ったかと思ったら、それは崩れ落ちる瞬間だった。
 メロンパンの雪崩に流される湯ノ花と犬神。目の前には半泣きの湯ノ花、そして追いついてしまった草壁。まさに前門の湯ノ花、後門の草壁の犬神である。
「待ちなさい。そんなことよりも、大変なことに気づいてしまいました。最強の金は13金でも14金でもなく、この18金だということに!」
 犬神ピーンチ! というところに、古河がリアカーを引いてやって来た。
「チェダーさん‥‥惜しい人を亡くしたものです」
『おかしい人でしょ?』
 アースハットの合いの手にうなづきながらも、言葉をつづける古河。
「しかし、虎は死んで皮を残し、チェダーさんは死んでエッチな本を残すのです。ならば、せめて遺品を有意義に使ってあげようではないですか!」
 リアカーにうずたかく積まれていたのは、チェダー愛蔵のエッチ本であった。
『ああ、それは金ではなく禁だー‥‥と言いたいところだが、そんなのとは関係なしに、有意義に使ってあげたくなるのが男子というもの!』
 早速群がるアースハットと犬神。女性である草壁ですら、縛りや鞭のテクを学ぶために、その手の本を読み漁ってしまっている。美角もそんな男性陣を汚らしいものを見るような目で見るそぶりをしながら、きっちり本の中身を確認したりなんかしている。
 そんな中、湯ノ花は泣きながらメロンパンを食べている、モザイクだらけの一種異様な光景。
 とそこへ、アースハットが掘り出し物を探すために放り投げたマイクを拾って、リング上に立つ女性が一人。満を持して登場のティタネス(fa3251)である。
「えーと‥‥ちょうどマイクも落ちてたことだし、マイクパフォーマンスに挑むぞ! でも、マイクパフォーマンスって、一体どういうことを言ったらいいんだろうな?」
 マイクを手に、悩むティタネス。しかし、みんなそれどころではないので、誰も助言はしてくれない。
「あーあー、本日は晴天なり本日は晴天なり‥‥って、これは違うな、うん」
 おかげで、ボケとツッコミも全部ティタネス一人で解決しなければならない。
「そういえば、この前ボクシング見たんだけど、勝った方の‥‥ほら、あの三兄弟の真ん中だっけ? なんかリングの上で歌ってたんだけど、あれもマイクパフォーマンスだよな? よし、それなら大丈夫だ! あたしの歌を聴けえぇっ!!」
 ティタネスが一人納得して絶叫したところだが、そこへえらい人がカットインしてくる。
「I’m not えろい人、Yes I’m えらい人ーッ! 今回も独断と偏見で、ポイントによるランキングがつくゼ!」
 1位 美角あすか 3
 2位 古河甚五郎 2
 3位 チェダー千田 1
「目指せ、プロレスごっこ王! では、さらばだ‥‥」
 そこへ、エッチな本など相手にしている場合かと、草壁がチェーンソー片手にえらい人へと向かっていく。
 そのときだった。えらい人も草壁も、もちろん犬神も湯ノ花も古河も美角も実況のアースハットも、要するにリタイアしたチェダー以外全員、一瞬でノックアウトされたのは。
 そう、ついにティタネスの歌声が炸裂したのである。
「‥‥ふぅ、ありがとー! あれ? なんで、みんな寝てるんだ?」
 こうして、ティタネスリサイタルは長すぎる前説を経て幕を閉じた。