番長だらけの水泳大会アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや易
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報酬 |
0.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/17〜07/19
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●本文
TOMITVのスタッフルーム。その中の自称スポーツイベント便乗チームで、二人の男がボンヤリと会話をしていた。
「海の日だな‥‥」
「そうですね‥‥」
ぼーっとしている先輩に後輩。だが、それだけで分かり合えてしまうのがこの二人。まあ、海の日ということで、自称スポーツイベント便乗チームには他に『ムチャキング7海の日SP』という企画もあるのだから、分からないはずがない。
こうして、ただ番長好きが海辺に集まるだけという、もはや完全に野球の関係ない番長リスペクト企画の第5弾が、祝日の朝っぱらというターゲット層のよく分からない時間に放送されることとなった。
『ユニフォームは筋肉を見せるのにはジャマなだけ、だから海に来た編』
ルール
・全員が番長に扮して、海辺で戯れます。ただそれだけです。
・本当にそれだけではターゲットが激しく狭くなってしまうので、お笑い番組らしく乱闘が多発したりする仕様になっております。
・あくまでもおもしろ番長映像を撮るのであって、乱闘時に必要以上に加害してはいけません。
・海辺でしたいことを、好きなようにして構いません。番長は何にも縛られないのです。
・その他細かいルールは特にありません。が、法律は守る必要があります。
過去の放送スケジュール
・番長のジャンピングニー 4月30日 7:00〜
・番長のロシアンフック 5月18日 7:00〜
・番長のストレート 6月06日 7:00〜
・番長のマッハパンチ 6月29日 7:00〜
●リプレイ本文
「朝の目覚めに予感してた、今日は出会いがあるってな‥‥」
食パンをくわえながら、砂浜までの道をひたすら急ぐ森里時雨(fa2002)。羽織った学ランの下は、海パンだけ。フンドシで作った凱旋旗をなびかせながら、ただひたすらに走るだけ。
そう、今日の森里は新たな出会いを予感するモテ番長。だから、あの角を曲がったら‥‥。
「ぐはっ!」
動かざること山のごとしな何かにぶつかり、ズシャーと吹き飛ばされる森里。もちろん、くわえていた食パンもどこかへ吹き飛んでしまっている。
「ん?」
一方、何かがぶつかったことに気づいたのは蕪木薫(fa4040)。ワンピースの水着を着ているが、その上からでも見事にビルドアップされた女体がうかがえる。
「大丈夫?」
蕪木が目をやれば、透き通るような白い肌の美少年が倒れている森里の顔をのぞき込んでいた。それが、さわやか番長のウィン・フレシェット(fa2029)だった。
「えっと、私にぶつかって倒れてしまったんですか? でも、女性にぶつかっただけで弾き飛ばされてしまうなんて‥‥ちゃんと食事を採ってますか?」
「え? いや、パンを食べかけていたんですが‥‥どこか行っちゃって‥‥」
身長も体重もはるかに上回る蕪木に激突したのだから無理もないのだが、森里は脳がシェイクされていて状況がよく飲み込めず、咄嗟にそう答えるしかなかった。
「ああ、でしたらコレを食べるといいですよ」
蕪木はスイカ割り番長なので、スイカを箱単位で持ち込んでいた。その中からスイカを一玉取り出すと、丸ごと森里の口に押し込もうとする。
「ちょ、くまの人じゃないんだから、そんな食べ方できるわけないよ!」
「え? そうなのですか?」
慌ててウィンが抗議すると、蕪木も素直に止める。蕪木は少し考え込むと、握力だけでスイカの皮を突き破って赤い部分だけえぐり取り、さらに握りつぶしてジュースにして森里の口に垂らす。
「ん‥‥げほっげほっ!」
だが、あまりに一度の大量のスイカ果汁が流し込まれて、むせてしまう森里。このまま蕪木に任せていたら森里が死んでしまうと、ウィンは慌てて森里の身体を引き寄せると、蕪木からかばうような体勢をとる。
「あー、もう! どうして番長はみんなそう荒っぽいのかな!? 今の僕たちに必要なことはやさしさ‥‥愛し合うことなんだよ!」
そう言って、未だ意識朦朧の森里を抱き起こすウィン。
「ん? 俺はどうしたんだ? なんだ、この美少女は? 彼女も番長なのか‥‥?」
混濁する意識の中、ウィンが美少女に見えてしまう森里。
「これが‥‥予感していた出会いなのですか?」
だから、確実に勘違い番長になっていた。とそこへ、うさぎ跳びで現れたナゾの人影が。
「番長たるもの、夏のバカンス、海といえども身体を鍛えねばいかん。そんな中、人目もはばからず砂浜でイチャつき、青少年の育成に害をなす不純異性交遊カップルどもには天誅じゃッ」
うさ耳、スクール水着装備のうさぎ番長のDarkUnicorn(fa3622)が、森里とウィンに砂をかけはじめる。一瞬にして、砂かけ番長に豹変である。
だが、DarkUnicornがあることに気づく。
「ん? よく見れば同性じゃな。異性間じゃないならば、わしの管轄外じゃ‥‥」
DarkUnicornが踵を返していく。DarkUnicornのその言葉の意味を、森里はまだ理解できずにいた。
四人がようやく砂浜にたどり着くと、すでに待ち構えていた残りの番長たちは、番組趣旨どおりに本当に思い思いのことをしていた。
まずは、カメラマン番長からして、好き勝手やっている。
「なに‥‥俺は、俺にしかできない番長をやっているだけだ‥‥」
鶸檜皮(fa2614)は長ランとフンドシに『フリフリシェイク復活祈願番長!!』と刺繍を入れ、腕には超合金製の万歩計を巻いている。
「本物の漢である番長は背中で語る‥‥言葉は不要‥‥」
そしてそれっきり、意図は何も語ろうとしない鶸。
「番長の正装は、海でもエジプトでも長ランと決定されている。これはアカシックレコードに記されている事実だ。アクセスしたのだから間違いない!」
同じく長ラン番長のタケシ本郷(fa1790)だったが、明らかに周囲に空間ができている。といっても、本郷が恐怖の暴力番長だからではない。
一見すると長ランを着たただの番長なのだが、一度話を聞いてしまうとただのなんて恐れ多くて言えなくなってしまう。本人がどう言おうと、傍から見れば毒電波番長にしか見えないのだ。
波打ち際では、犬神一子(fa4044)が白フンの上に学ランを羽織って、学帽に葉っぱをくわえながら海を見つめている。鶸のカメラが近づいてきたので、バッと学ランを投げ捨てて肉体美をさらけ出す犬神。
そして、手にしているのはなぜか白いフンドシの束である。この犬神、白フン普及番長なのである。
まず手近にいた鶸に白フンを渡したが、身に着けずに振りはじめてしまう。犬神はそれにツッコミを入れることはなく、本郷と同じ扱いでスルーすることにした。
となると、次の標的はサングラスをかけてデッキチェアを粉砕してくつろぐKAMO関(fa2988)である。名前に関がつくとおりまげをきっちり大銀杏に結い、デッキチェアをその重さでバラバラにしてしまっている。なので、レジャーシート代わりのブルーシートの上で、デッキチェアの残骸と共にだらしなく横になっている。
白フンを受け取ったKAMO関だが、表情が明らかにくもる。
「犬神さん‥‥力のもののふたるもの、ふんどしではなくまわしだろうがッ!」
張り手一閃、犬神が吹き飛ぶ。学ランを脱ぎ捨ててふんどし一丁に下駄姿だったのが同類と思われたか、力士はまわしに雪駄がデフォとの強烈な主張である。しかも、KAMO関はなぜか無意味に化粧まわしである。
力士であっても確実に間違えたスタイルのKAMO関だったが、これが当たり前で今の自分は最高に輝いていると思っているからタチが悪い。
そして、今の張り手で小腹が空いてしまったくらいである。力士たるもの、食べるのも稽古のうちとばかりに、早速収録を無視して海の家へと繰り出す。
「メニューにあるやつ、全部持ってきて!」
KAMO関が言うと、DarkUnicornが出てきた。いつの間にか、DarkUnicornが海の家番長として仕切ってしまっていたのだ。
「ほい、やきそばメロンパンお待ちなのじゃ。そして、がんもどきメロンパンもお待ちなのじゃ。さらに、ちくわメロンパンもお待ちなのじゃ」
ことごとくメロンパンで作られた料理を出すDarkUnicorn。妹の大好物のメロンパンだけで料理を出すという、家族思い番長になっていたのだ。
「ごっつぁんです!」
しかし、KAMO関の鋼鉄の胃袋の前にはまったく効き目はない。食べるのも稽古の内と、問答無用で平らげていく。
一方、外ではスイカ割りがはじめられようとしていた。本郷だけは一人でバーベキューの準備をしていたが、危険な香りが漂いすぎていて誰も近づけないでいる。
「では、はじめましょうか!」
蕪木の合図で、スイカ割りがはじまった。
ならばと棒に手を伸ばした森里の手とウィンの手が、思わず触れ合ってしまう。一瞬飛びずさって、ウィンに棒を譲る森里。
「べ、別に譲ったわけじゃねぇんだからなっ! 勘違いすんじゃねぇぞ!」
どうやら、森里の脳はシェイクされたままらしい。思わず、フリフリシェイク番長の鶸がカメラを回しながらガッツポーズをしてしまう。
「せいっ!」
だが、なぜか棒を持ったウィンではなく、犬神が正拳でスイカを割っていた。
「勝ったと思ったら勝ち、負けたと思ったら負け。そういうことだ!」
まったく理由になってなかったがそうとだけ言うと、修学旅行番長になった犬神が、まくら投げの要領でスイカを投げ出す。
「ふふ、こんなこともあろうかと、バットを持ってきて正解でした。だって、番長ですものね」
そう言いながらも、ゴルフクラブやら竹刀の間からバットを抜き取ると、ウィンや森里、鶸らに一本ずつバットを手渡していく蕪木。
「おっ、心配無用じゃ! 自前のがあるからの」
海の家から、金属バットを持って飛び出してくるDarkUnicorn。その金属バッドにまさか刀が仕込んであろうとは、誰も知る由はない。
「ふはははは‥‥!」
スイカ投げに触発されたか、本郷が突然笑い出すと、バーベキューの串を持って暴れ出す。通常なら大惨事なのだが、まあ毒電波番長だからねということで、軽くスルーされてしまう。
「おっ、うまそうじゃないか!」
そこへ、食事を終えたKAMO関も出てくる。しかし、暴れる本郷にはまったく目もくれず、バーベキューの方しか目に入っていない。
「隙ありッ!」
KAMO関に、なんの躊躇もなく鉄串を突き刺す本郷。凍りつく空気。だが、KAMO関は何事もなかったかのようにバーベキューを食べはじめる。
だからといって、大男総身に知恵が回りかねというわけではなかった。海の家を食い尽くしてなお満腹になれないKAMO関の脂肪をナメてはいけないということなだけだ。太陽光でも発火するのではないかというほど脂のノッたKAMO関は、バーベキューの鉄串程度は跳ね返してしまうのである。
「くっ‥‥バカな!」
筋骨隆々の本郷だが、自分のトレーニングを否定されたような気持ちになってしまい、茫然自失である。対するKAMO関は、相変わらずバーベキューをバクバク食べているだけである。
バックのスイカをめぐる狂想曲そっちのけで、なぜか海を見つめながらウィンとツーショットになっている森里。
「この仕事が終わったら、俺マジメになろうと思うんだ‥‥」
「そうだね。俺たちに必要なことは戦うことじゃなくて、愛し合うことだもんね!」
それを目ざとく見つけた犬神が、白フン普及番長に戻ってやってくる。
「海水パンツなんて軟弱な番長ではイカーン!」
問答無用でウィンの海パンを下ろすと、フンドシを装着させようとする犬神。だが、そこへスイカが飛んできてしまい、ウィンの海パンだけ下ろした状態で白フンの束が飛んでいってしまう。
「うわぁ!」
今まで森里の目はうつろだったがようやく正気に戻った様子で、しかも気づいたら放送事故になりかけの場面で、とっさにウィンの股間の前に飛び出していたのだ。
脳のシェイクが収まってしまってガッカリの鶸だが、それでもカメラはしっかり回しつづけている。
「すいません、スイカがそっちに‥‥って、あー! 何かいやらしいことをしていましたね!?」
蕪木がやってくると、森里とウィンの間に流れる微妙な空気を感じ取って、森里をヘッドロックして再び脳をシェイクである。
蕪木本人は軽いスキンシップのつもりだったのだが、体格に劣る森里にはキツい。おかげで、パンチドランカー番長に逆戻りである。そして、フリフリシェイク番長の鶸も再びガッツポーズである。
「うわーん! 大事なトコ見られちゃったよー! カメラには撮られなかったけど‥‥」
とそこへ、ウィンが泣き出してしまう。
「心配無用ですよ‥‥俺が、責任を‥‥」
森里が言いながら、何か確実に変な方向に進んでいるコトには気づいていた。だが、シェイクされた脳は、砂浜をメルヒェンにお花畑のように駆け回りたいという要求しか突きつけてこない。
「‥‥責任って?」
「こういうことですよ!」
ウィンを引き寄せると、そっと唇を合わせる森里。そして、ようやくここで何か大きな間違いをしていることに気づく。
「えーと、あれ? 女の子‥‥じゃないですよね?」
ウィンが海パン一丁の時点で気づけという話だが、これまでの森里はほぼずっとパンチドランカー番長だったので仕方がない。
「番長が女の子のわけないじゃん!」
「〜ッ!!」
だがしかし、海をバックにハイティーンとローティーンの少年二人のキスシーンという、祝日の午前中から何流してんだよという状態のまま、番組はおごそかに終わっていく。
「うぉー! こんなバッドエンドはイヤだー! 編集の際には呼んでくれー!」
森里の絶叫むなしく、きっちりカットされずに放送されたのであった。