海の日のプロレスごっこアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや易
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報酬 |
0.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/17〜07/19
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●本文
プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居あり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。
TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。といってもプロレスごっこの一番えらい人が召集したのではなく、一番えらい人の方がスタッフたちに呼び出されていた。
「先生、質問です‥‥海の日のプロレスごっこの企画書読んだんですけど‥‥本気ですか?」
「バカヤロウ!」
相変わらず寝ぼけたことを言うスタッフに、さっそくえらい人が前回にひきつづき鉄パイプ一振りである。
「わっ‥‥!」
さすがに、前回負傷者を出していては避けるしかないスタッフ。
「避けたな! 怪我しなかったことはほめてつかわすが‥‥なんで避けるんだ、バカヤロウ!」
理不尽に、さらにもう一振り。えらい人は今日も絶好調である。
「怪我しないように殴られろ‥‥って、鉄パイプでそんなムチャな!」
「‥‥で、海の日のプロレスごっこの企画書に何か問題があったか?」
急に普通に戻るえらい人。実に扱いがむずかしい。
「えー、このリングを会場に設置するっていうのですけど‥‥何の意味が? 金ばっかかかってしょうがないんですけど‥‥」
「バカヤロウ!」
一転、またも鉄パイプ一振りのえらい人。興奮して口から泡を飛ばしはじめ、段々エンジンがかかってきた様子だ。
「海上のリングといえば、つづきもののプロレスマンガの基本じゃねーか! ロマンっつーもんが、分かんないのかよ!?」
「いや、マンガじゃないし‥‥」
スタッフのぼやきも一切無視で、海の日のプロレスごっこ王選手権はスタートするのであった。
参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。
注意:
・今回は海の日ということで、海上にリングが設置されます。それ以外は普段と変わりません。
・ポイントはプロレスごっこの一番えらい人の独断と偏見によってのみ与えられます。すばらしい、おもしろい、えろい、えらい人に媚びる、視聴率が取れる等、一切関係ありません。
・ランキングによるプロレスごっこ王の決定が近づいた場合、その数回前に告知されます。現状、遠い未来の話です。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。
ランキング(上位3名、第8回プロレスごっこ王分まで)
1位 若宮久屋(fa2599) 3pt
1位 佐渡川ススム(fa3134) 3pt
3位 竜之介(fa1136) 2pt
3位 古河甚五郎(fa3135) 2pt
(同順位の場合、先にそのポイントを獲得した方が上になります)
過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・第7回 6月22日 18:30〜
・第8回 6月23日 08:00〜
・第9回 7月08日 07:00〜
・第10回 7月11日 07:00〜
・第11回 7月14日 07:00〜
●リプレイ本文
試合のはじまる前の控え室、プロレスごっこの一番えらい人が、スタッフではなく出場者に呼び出しをくらっていた。だから、鉄パイプ片手に非常に不機嫌である。
「打ち合わせ、台本を無視してイジられた結果のポイント獲得は、納得イカン! それじゃ、ただの操り人形じゃないか! そんなんでもらったプロレスごっこ王の称号に、何の意味があるっ!?」
現在ランキング第2位につける佐渡川ススム(fa3134)が、まずはえらい人を糾弾する。
「おまえは全員集合世代か? ひょうきん族は見なかった口か? どっちがすぐれているとか言う気はない。だって、どっちもすばらしかったろう? だから、台本どおりでもすばらしいし、アドリブだけでもすばらしい。そういうことだ!」
言い切ると同時に、佐渡川のアゴを鉄パイプでスコーンと一なでする。佐渡川はツッコミを受けすぎてガラスのジョーになっているので、あっさりと崩れ落ちる。
だが、覚悟の上のえらい人召喚である。この程度ではへこたれない。入れ替わって、美角やよい(fa0791)がえらい人に訴えかける。
「最近、なんだかプロレスじゃなくなってきてませんか? ネタ技とかを繰り出しても、最終的に周りに巻き込まれて試合じゃなくなってしまってますし‥‥」
「プロレスごっこはプロレスじゃないしな‥‥リングという舞台上でやってるからプロレスごっこと名乗ってはいるが、本質お笑いだし。だから、試合として成立してるかどうかは関係ないし、勝敗も意味はない。むしろ、絡みが発生した方がイレギュラーな笑いが生まれるじゃねえか。おもしろいモンが撮れれば、それでいいのがお笑いってもんだろ!?」
言い切ると同時に、やはり鉄パイプでスコーンと美角のテンプルに一撃である。ええー! と控え室の空気が一気に悪くなる。佐渡川のときは別に佐渡川だしくらいに見ていたのだが、女子どもにも一切容赦なしにはさすがにドン引きである。
「おら、見世物じゃねえんだぞ!」
そんな空気は一切関係なしに、鉄パイプを振り回しながら控え室を後にするえらい人。なにはともあれ、番組開始である。
『さて、ウソかホントかは知りませんが、プロレスごっこ一度はやってみたいランキング1位、それが海上デスマッチ!』
控え室の様子など知らないサトル・エンフィールド(fa2824)が、明るく楽しく実況をはじめる。今回は会場にリングを設置するという特殊な状況ゆえ、放送席はリングの近くに船を浮かべてとなる。
「‥‥水の上のリング‥‥最近どこかで‥‥見かけたような‥‥気もしますけど‥‥デジャヴ?」
前回大会の様子がフラッシュバックしてしまったのは、湯ノ花ゆくる(fa0640)。とはいえ、前回大会は所詮、地に足着く地上に水のテーマパークを作り上げただけのこと。今回は海上にリングを設置である。リングサイドは当然海、さらに少し離れたところを網で囲ってある。
『早くも、リングサイドは阿鼻叫喚の地獄絵図と化しておりますッ!』
網で囲まれた部分の水面は、ピチャピチャ、ときにはザブーンと、水しぶきが上がったり中々に騒々しい。すでに水中では激しい弱肉強食の戦いがはじまっているようだ。それもそのはず、各選手が対戦相手と称して思い思いに放流していたからである。
「最近暑い日が続きますねぇ。いっそ水没してしまえば、少しは涼しくなるのに‥‥な〜んて思っている、解説の水鏡シメイ(fa0509)です」
しかしそんな水中の食物連鎖ピラミッドは一切お構いなしに、船縁から海水に足を突っ込みながら、冷やし中華をにこやかにまったり食べている水鏡。
「今回も明るく楽しく元気よく‥‥時に冷たく解説していこうと思っていますので、みなさんよろしくお願いします」
水鏡がそんな挨拶をしている間にも、実況のサトルに新たな情報が飛び込んでくる。
『あーっと、ここで神代タテハ(fa1704)選手が金魚とバトルロイヤルを行うとの情報が飛び込んできました‥‥が、本気でしょうか? 金魚と言えば淡水魚‥‥って、言わんこっちゃなーい!』
淡水ではなく海水なので、すでに腹を上にプカーと浮いてしまっている。そして、それをリング上から呆然と見つめるしかない神代。
「金魚さん、金ダライに入れておいたのに‥‥」
自分は海におっこちても大丈夫なようにスクール水着を着込んでいたものの、肝心の金魚が海に落ちていようとは思ってもいなかったのだ。
「すみません、会場保守・番組保全を司る自分がしっかり固定しておけばよかったんです、ガムテで!」
半泣きの神代のところに古河甚五郎(fa3135)がやってきて謝るが、素人目にはむしろ誤っているとしか思えない。
「‥‥全部、佐渡川さんが悪いんだ。えいっ!」
未だ失神状態だった佐渡川は、とりあえずということでリング上に寝かされていた。その佐渡川に向かって、水風船をこれでもかと投げつける古河。とはいえ、ただの水風船で佐渡川が起きるハズもない。
「いってー!」
だが、飛び起きる佐渡川。なんのことはない、ただちょっと水風船の中にピラニアが入っていただけである。その水風船が割れてしまっただけの話に過ぎない。
悶絶しながら、海中へと転がっていく佐渡川。
「さあ、佐渡川さん、これにつかまって!」
そこへ、ガムテープを伸ばして差し出す古河。
「げほっ‥‥あ、ありがとう!」
必死に手を伸ばす佐渡川。だが、あともうちょっとで手が届くというところで、古河はガムテープを引っ込めてしまう。
「ああ、ダメです。ガムテの粘着力が海水で洗い流されてしまいました!」
「‥‥助ける気ないでしょ?」
おぼれかけながらも、逆に冷静になってしまう佐渡川。これは、燃え尽きる前のロウソクとでもいうか、死の直前に一瞬パンチドランカーの意識がハッキリするというやつであろうか?
その証拠に、佐渡川へとサメが迫っていた。古河も、ガムテのメンテで佐渡川のことを意図的に忘れてしまっているので、サメには気づいていない。
サメの背びれが、いよいよ佐渡川の目前へと迫り、大きな水しぶきを上げて黒い影が佐渡川にのしかかる。
『さらば、佐渡川選手! プロレスごっこは偉大なる佐渡川選手のことを忘れないーッ!』
サトルが絶叫を上げる。本来ならば目を覆うような光景なのだが、その横では黙々と冷やし中華を食べつづける水鏡。
まあ佐渡川だしねという空気が、水面が真っ赤に染まって佐渡川が上がってこないことで一変する。佐渡川はギャグ要員で不死身ではなかったのか? これも冗談だよな? という、微妙な静寂が周囲を包む。
ザバーッ!
反対側のリングサイドから、リングに上がる人影が2つ。
「シャークハンターの指導を受け、安全に留意して撮影しています‥‥って、驚いた?」
よく見れば、サメ型のウェットスーツを着たマリアーノ・ファリアス(fa2539)が、佐渡川を抱えて立っていた。
『残念ながら無事でした! では、このまま佐渡川選手の試合に行ってしまいましょう!』
「ん? あ、そう?」
サトルの実況を受けて、まだ息も絶え絶えな佐渡川を、再び海に放り投げてしまうマリアーノ。さすがの佐渡川も、いきなりおぼれかけである。
「さあ、佐渡川さん、これにつかまって!」
「げほっ‥‥も、もういいわ!」
古河がガムテープを差し出すが、さすがに同じ手は食ってなるものかと払いのける佐渡川。
「そうですか。では、クラゲを投入しておきますね、ガムテで!」
対戦相手のクラゲが、ガムテは一切無関係でどぼどぼと投入される。
「げほげほっ‥‥このフニャフニャ野郎、かかってこんかーい!!」
「あ、元気そうで安心しました。ミズクラゲだけじゃ満足できないみたいですので、このカツオノエボシ、通称電気クラゲも入れておきますねー、ガムテで!」
やはりガムテは一切関係なく、ただ毒クラゲだけが投入される。いや、古河はガムテを手に貼って、クラゲの毒にやられないようちゃんと活用していた。
「〜ッ! 電気クラゲは電気ウナギと違って、本当に放電するわけじゃないんだ。でも、よいこのみんなは、海でクラゲを見つけても触っちゃダメだよ‥‥ブクブク」
早速刺されたのか、そのまま沈んでいく佐渡川。そして、海の藻屑と消えた。
「あっ、マリアーノさん! ウェットスーツにピラニアに噛まれた痕があります。補修しておきましょう、ガムテで!」
「え、あ、いや‥‥それは最初からそういうデザインで‥‥」
マリアーノの反論を一切無視して、ガムテでグルグル巻きにしてしまう古河。おかげで、マリアーノはまったく身動きがとれない。せいぜいが、足をバタつかせられるくらいである。
「海の日の船出とは、幸先よろしいですね。自分、おめでたい初出港進水式を、ガムテ吹雪とガムテープで演出します!」
そう言って、マリアーノを海に沈める古河。一応、マリアーノとガムテ製テープで結ばれていたが、何を思ったのか神代がハサミを持ってやってくる。
「えーっと、式典のテープカットをすればいいのね?」
確実にテープカットのためのテープではないのだが、古河がうなずいてしまったものだから、あっさりと切り離されてしまう。こうして、あっという間にマリアーノも海の藻屑である。
『母なる海は、どこまで貪欲なのでしょう? 早くも2人脱落であります。しかし、我々の闘争本能は止められない!』
解説の水鏡も闘争本能を止められず、2杯目の冷やし中華にかかっていた。
『本当のプロレスごっこを見せてやる! 美角選手がイルカスーツで泳ぎながら入ってきたーッ! 若干先程のマリアーノ選手を彷彿とさせて、不吉ではありますが‥‥』
「‥‥んー!」
サトルに振られた水鏡であるが、ノドを詰まらせて熱いお茶で流し込んでいたところである。
だが、ピラニアや電気クラゲに遭遇することなく、なんとか無事にリングまでたどり着く美角。リング上に、スーツの中からポトリとスイカを落とす。
「イルカの産卵‥‥って、哺乳類だった! というわけで、スイカ割りやりまーす」
そう言うと、あっさりイルカスーツを脱ぎ捨て、水着姿になる美角。スイカをセットすると、棒を取り出す。
だが、すぐに古河に棒を取り上げられてしまった。
「え? プロレスごっこだから、棒を使ったら凶器扱いで反則!? ええい、分かった、分かりましたよ。プロレスごっこはあくまでプロレス流にと主張したばかりだし‥‥己の身一つで勝負すりゃいいんでしょ?」
「いえ、そういうことではありません。このままではリングが傷んでしまいます。だから、緩衝材をつけておきましょう、ガムテで!」
ガムテで緩衝材をつけるといっても、ガムテ自身が緩衝材を兼ねるだけの話なので、ガムテをただひたすらに巻くだけの話である。
「えーと‥‥やっぱ目隠しで棒は危険だからいいです‥‥あくまでもプロレス、全身凶器となって戦うのみ!」
そう言うと、チョップやらニードロップであさっての方向を叩きつづける美角。あくまでもベースはスイカ割りなので、そう簡単にクリーンヒットするものではない。
「美角さん、空中殺法です、ガムテで!」
古河が美角に声をかけるが、相変わらずガムテの意味が分からない。だが、美角は海に落ちてしまってもガムテで救出してやるから迷わず飛ぶんだ! ということだと、勝手に解釈してしまう。
「とうっ!」
ボッチャーン! コーナーポストに上れるなら方向が分かりそうなものだが、美角は海に向かってダイブしてしまった。
「さあ、美角さん、これにつかまって!」
そこへ、ガムテープを伸ばして差し出す古河。佐渡川と違って、美角だとなぜかしっかり救出される。
「どうも‥‥って、そうそう! スイカはこの後、スタッフおよび参加者がおいしくいただいきましたので!」
目隠しをとりながらの美角の言葉とは裏腹に、映し出されるはプカプカと海面を漂うスイカ。割れなかったスイカの勝ちなのか、はたまたスイカのリングアウト負けなのか、さっぱり分からない。
そして、そのスイカとは一切関係なしに、解説席では冷やし中華のデザートとして水鏡が別に用意されたスイカをほおばっていた。
『水鏡さん、おいしそうですね‥‥っと、いよいよ最後! オマージュという言葉で自分を誤魔化さない真の女王の登場だ! さあ、みんなでメロメロ☆メロンパン♪』
サンタガールのコスチュームに身を包んだ湯ノ花が、メロンパンのサーフボードに乗り、颯爽と沈んでいく。
ウォータースライダーと違って傾斜がないので、波にうまく乗れなければブクブクと沈むのみである。そもそも、ボードの材質がメロンパンなのだし。
こうして、湯ノ花もまた海の藻屑と消え‥‥ずに、なんとかリングに這い上がってくる。
「あやうく‥‥佐渡川さんに‥‥なってしまうところでした。でも‥‥絶対‥‥何かいます‥‥確信しました‥‥」
先程水中に転落したときの感触で、大物がいることを確認する湯ノ花。早速、メロンパンをエサに釣り糸を垂らす。
そして、延々と釣れない時間を映しててもしょうがないので、えらい人が飛び出してくる。
「I’m えらい人ーッ! 今回も独断と偏見で、ポイントによるランキングがつくゼ!」
1位 マリアーノ・ファリアス 3
2位 古河甚五郎 2
3位 神代タテハ 1
「目指せ、プロレスごっこ王! 以上だ‥‥」
えらい人が去っていっても、湯ノ花がヒットする気配はない。そのまま、番組は終了していく。
それでも粘った湯ノ花だが、番組終了後にようやくかかった獲物は、佐渡川にマリアーノだけだったという。なので、キャッチ&リリースしたとか、しなかったとか。