第12回プロレスごっこ王アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや易
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報酬 |
0.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
08/04〜08/06
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●本文
プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居あり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。
TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。その前に、プロレスごっこの一番えらい人がすっと進み出る。
「海上リングもなくなったし、普通にやるか!」
「はいっ!」
普通という言葉のありがたさが身に染みたのか、スタッフ一同元気よく返事である。
「そう素直だと、調子が狂うな‥‥が、まあいい」
特に理由はないが、手近にいたスタッフに鉄パイプ一閃のえらい人。理不尽だが、これがえらい人イズムなのだから仕方がない。
こうして、ランキング制導入後8回目、通算26回目のプロレスごっこ王選手権がスタートするのであった。
参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。
注意:
・ポイントはプロレスごっこの一番えらい人の独断と偏見によってのみ与えられます。すばらしい、おもしろい、えろい、えらい人に媚びる、視聴率が取れる等、一切関係ありません。
・ランキングによるプロレスごっこ王の決定が近づいた場合、その数回前に告知されます。現状、遠い未来の話です。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。
ランキング(上位3名、海のプロレスごっこ王分まで)
1位 古河甚五郎(fa3135) 8pt
2位 チェダー千田(fa0427) 7pt
3位 あずさ&お兄さん(fa2132) 4pt
過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・第9回 7月08日 07:00〜
・第10回 7月11日 07:00〜
・第11回 7月14日 07:00〜
・海の日 7月17日 11:00〜
・海プロ 7月27日 07:00〜
●リプレイ本文
『暑さは笑って吹き飛ばせ! 夏だ、プールだ、プロレスごっこだ! え? 水上マッチは前回まで?』
実況の名賀井稔則(fa1985)のベタなボケで、スタジオ収録に戻ったプロレスごっこがはじまる。
とはいえ、リングはボロボロで建っているのが不思議なくらい。それもそのはず、前回爆破されたハズの水上リングが、ガムテでムリヤリ修復されて置かれていたのだ。
「自分、会場保守にガムテ賭けてますから‥‥」
もちろん、ガムテープ職人古河甚五郎(fa3135)の仕業であるのは言うまでもない。わざわざガムテで残骸を拾い集めて、復元してしまったのである。マットはガムテ、ロープもガムテ‥‥いやむしろ、四隅の鉄柱以外がすべてガムテと言った方が早い。
『さあ、実況アナウンサーと言っておきながら、スポーツよりもバラエティの実況の方が多い気がしてなりませんが‥‥何事も気のせいというのが世の理、なので名賀井でお送りしていきたいと思います!』
なお、今回のために新品のリングが用意されていたが、それは解体されて会場の片隅に立てかけられている。そう、何事も気のせいというのが世の理なのだ。
『楽しい夏休みに襲いかかる恐怖の大王‥‥それは宿題! 残りの休みを満喫するため、神代タテハ(fa1704)とパトリシア(fa3800)が挑戦だー! TVの前のお友だちも、地獄を見ないうちに早めに済まそうね☆』
夏休みの朝っぱらからこんな番組を見ているお子ちゃまが宿題をちゃんとやるとも思えないが、それも気のせいということで一応忠告しておく名賀井。
そんな中、花道を入ってくる神代とパトリシア。神代は必勝ハチマキを巻き、自分の学校のブレザーの制服を着ての入場である。夏休みの宿題をするのに制服を着る必要性はまったくないのだが、それも気のせいである。
対するパトリシアはラフな格好であるが、かぶり芸人佐渡川ススム(fa3134)のファン過ぎて、プロレスごっこで共演の暁に自分も神代の対戦相手の宿題とかぶせてくるくらい、頭の中はといえば完全にイカレてしまっている。しかし、それも佐渡川がパンチドランカーなのと同様、気のせいである。
『さあ、神代選手、得意の国語から終わらせていく作戦のようです』
小さなTVの置かれた昔ながらの茶の間で、ちゃぶ台で向き合って仲良く宿題をはじめる神代とパトリシア。
『一方のパトリシア選手‥‥あーっと、早くも宿題を放り投げてTVを見ています!』
「テレビの砂嵐やノイズって、最近は青一色や無音になってつまらないですよね」
クッキーをつまみながら、神代に話しかけるパトリシア。アンテナもビデオも一切つながってないダイヤル式のTVなのでザーっと砂嵐なのだが、そこで佐渡川登場なので気のせいかどうかも分からない。
「ちょっと待ったぁ! キミたち中高生に、かぶり芸をこなすのは早過ぎですよ!」
『エロースからバイオレンスまで、あらゆる角度で放送コードギリギリ男、佐渡川ススムが早くも登場だッ!?』
「そこで、夏休みの宿題の観察日記向けに、本当のかぶり芸を見せてあげましょう。そう、分厚い皮をかぶったいびつな象さんの観察を‥‥ぐぼはっ!」
ズボンを下ろしはじめる佐渡川。放送コードギリギリどころかあっさりと突き破り、慌てて入ってきた草壁蛍(fa3072)にチェーンソーでど突かれ失神する。
その一連の流れに、ただただポカーンとするしかない神代とパトリシア。もっとも、パトリシアは間近で佐渡川の変態芸が見られてポワーンなのかもしれないが。
そんなことよりも、バニースーツに燕尾ジャケット、もちろん顔にはホッケーマスクという草壁が二人の視線に気づき、急に我に返る。
「‥‥呼ばれてないのに、ジャジャジャジャーン♪ わたし、クサカベ・ホタル。ごく普通の女の人♪」
『ごく普通って‥‥ムチャ国の姫君は、すでに言ってることがムチャクチャだぁ!』
いきなり名賀井の辛辣だが的を射ているツッコミ実況が入るが、無視してつづける草壁。というか、外野の声を無視しなければやってられない。
「‥‥ある日、突然ヘンなプロレスごっこの一番えらくてヘンな人に、ムチャプリンセスにされちゃったの! クイーンに戻るためには、たくさんのムチャ力を集めなくちゃいけないんだけど、それがとってもタイヘンタイヘンタイへ〜〜ン♪」
相変わらずポカーン状態だが、気のせいとばかりに草壁が失神したままの佐渡川を担ぎ上げる。
「今日回収するムチャ力はワンダー、つまり不思議ね! というわけで、頭の中が不思議な人は回収していくわね。じゃ、宿題がんばって☆」
そのまま逃げるように去っていく草壁。しばらく間ができたが、ハッと我に返ったパトリシアがあることに気づく。
「そうそう、今ので思い出しました。私、第7回プロレスごっこ王にて勝手に告知した『魔法少女★マジカルレフェリー♪』で当初出場を予定しておりましたが、昨今の世界情勢等の時勢も鑑みた上で検討したところ、大変申し訳ありませんが出場を辞退させていただくことになりました。なにとぞご了承をお願いいたします」
カメラに向かって、ペコリとお辞儀をするパトリシア。そんなんで思い出されたくなかったわ! と草壁が思っているに違いない。
そんな間にも、神代は地味に国語の宿題を終わらせていた。
「さーて、次は自由課題の絵日記だね!」
高校生の宿題で絵日記はどうよ? と思わなくもないが、何もかも気のせいなのである。
「ふー、完成っ!」
放送時間の関係上、一瞬で完成してしまう神代の絵日記。それ以前に、まだ先の長い夏休みの絵日記が完成してしまうってどういうことよ? という話だが、これは周りの人が書かれたとおりに行動して書かれたことを実現させてあげなくてはならないという、非常におそろしい絵日記なのである。
『なんということでしょう! 神代選手の絵日記が、草野ノート状態ですッ!』
「8月4日、今日は隣のお姉ちゃんが花火を持って遊びに来てくれました‥‥」
頼まれてもいないのに、神代が日記を読みはじめる。すると、美角あすか(fa0155)が本当に花火を持って入場してきたではないか。
『絵日記に導かれ、美角選手の入場です! 対するは花火、早くも二人の間に火花が飛び交っています! しかも、それはすぐに本物の火花へと代わるッ!』
しかし、絵日記の内容はすぐに花火にはいかなかった。
「お姉ちゃんは浴衣を着ていました。とってもかわいかったです。浴衣に下着は無粋だってことで、下には何もつけてないんだって! これが、エロカワってヤツなのかなぁ?」
「下にコスチュームをつけてますよ! 反則ですッ!」
いつの間にか甦生した佐渡川が猛スピードでやってくると、花火側のセコンドについて勝手な野次を飛ばしている。
「子どもたちの夢を壊す気ですかー? 早く絵日記どおりにッ!」
確実に子どもの夢ではなく、成人男子の夢をぶつけている佐渡川。意を決した美角が浴衣の下でもぞもぞすると、脱いだコスチュームで佐渡川の首をグイグイ締め上げる。
「ああ‥‥かすかに残るぬくもりが‥‥」
佐渡川は酸欠のまま昇天し、またも失神KOで運ばれていく。
「‥‥お姉ちゃんはなぜか周囲を気にして笑顔を振りまくと、大量のネズミ花火に着火しました」
美角は観客席に向かって可愛くアピールすると、ネズミ花火に火をつけだす。
「お姉ちゃんは、ネズミ花火が破裂する前にガシガシ踏み消しはじめました。なんでも、足元で破裂したら負けという夏の名物祭りなんだって」
「みなさーん! 夏☆エンジョイ、してますかーぁ! 私は負けませんよっ☆」
ブーツでネズミ花火を消して回る美角。佐渡川のせいで浴衣の下には何も着けていないので、必要以上のスリルで妙にハイテンションである。
「でも、本当の勝負はここからなんだって。夏の風物詩と呼ばれているのは、裸足でやるからなんだって。そのせいか、お姉ちゃんのリアクションも大きくなって、帯がほどけちゃってさあ大変! でも、ウチの庭でやってたから、誰も見てなかったよ。よかったね、お姉ちゃん」
「みなさーん! 夏☆エンジョイ、してますかーぁ! 私はできそうにありません‥‥」
泣きそうな顔をしながらも、ブーツを脱ぎ捨てる美角。さすがに最近のグラビアアイドルは、芸人根性抜群である。
だが結局、帯がほどけることもなく、浴衣がはだけることもなく、ただ静かに水を張ったタライに足を突っ込み、コーナーで燃え尽きた美角が映し出されるだけだった。
『対花火戦だけあって、両者とも燃え尽きてしまいました!』
「花火も終わって、みんなで冷奴を食べることになりました」
何事もなかったかのように、神代が絵日記を読みつづける。
『冷奴? ということは、佐渡川選手の登場ですね‥‥たんぱく質大量消費体質に、植物性たんぱく質は欠かせない。色白美人の豆腐相手に、勝利はつかめるの? はたまた、ベタに角に頭をぶつけて死すのかーッ!?』
もっとも、打たれ過ぎの佐渡川には、豆腐の角じゃなく平らな側面すらも凶器となりえるのであるが。
『おや、どうしたのでしょう? 豆腐しか出てきませんが‥‥』
見れば、美角以上の高さのある巨大な木枠に収まった豆腐しか運び込まれていない。
「呼ばれてないのに、ジャジャジャジャーン♪ わたし‥‥以下同文。というわけで、この不思議を解き明かすため、このVを見てね☆」
草壁の合図で、会場に映像が流される。どうやら、豆腐の製作過程のVTRのようだ。大豆の栽培シーンからはじまっている。放送上はダイジェストで一瞬だが、夏休みの宿題の観察日記のごとく、実際はダラダラとつづいていた。
そして、ついに大豆を茹でるところまでやってくる。なぜか作っているのは草壁である。そして、豆乳を型に流し込んだところで何か考え込む草壁。
「このままでは、ワンダーでムチャ力を回収できないわ。こうなったら、不思議を注入ね☆」
隠し味として、失神したままの佐渡川を放り込む草壁。どうやら、美角に締め上げられた直後の映像のようだ。そして、このVの上映で豆腐が固まるまでの時間を稼いでいたようだ。
Vも終わり、木枠が外され、見事な巨大豆腐が姿を現す。
「妹が大喜びで、豆腐を食べはじめました。すると、中からオジサンが出てきたではありませんか!」
妹とはパトリシアのこと、佐渡川エキスたっぷりに豆腐を口にするのはいくらファンでもはばかれるので、普通にかき分けていってついに佐渡川に到達する。
「でもよく調べると、オジサンは息をしません。慌てて警察に電話しました」
急にパトカーのサイレンが鳴り響き、あずさ&お兄さん(fa2132)が入ってくる。正確にはあずさだけで、お兄さんはいなかったが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「特撮番組などでも『夏休み怪奇スペシャル』などと銘打って、怪談っぽい話をやるのが定番。プロレスごっこも、当然この慣習に従うべきだよね! というわけで『呪われたプロレスごっこの謎』はじまるよ! というわけで、佐渡川さんがこうなったのは呪いです!」
先程までのVは一切無視して、呪いと結論づけるあずさ。一方、リング周囲では古河が現場保存といって封鎖していた、ガムテで。
「‥‥いや、違う! そして、犯人はこの中にいる!?」
明らかに犯人はこの中の草壁なのだが、あずさの推理はあさっての方向へ突き進む。
「自らの手にガムテを巻くことで、凶器から指紋を消せたあの人か?」
凶器が何かも決めていない段階で、古河を睨めつけるあずさ。
「あるいは、一見人畜無害そうに見える少女二人や、実況の人も可能性としてはゼロではない」
神代にパトリシア、名賀井と順に見やる。そして草壁にも目をやるが、なぜかすぐそらす。真犯人だけに。
「論理の旋律は、必ず真実を示すハズ‥‥ならば!」
論理的な思考を一切してないように見えるが、これも気のせいだというのか。だが、あずさが導き出した結論は一つ!
「犯人はこの場にいないお兄さんだ! 間違いないよ」
控え室に向かって駆け出すあずさ。あずさがリングを飛び降りた弾みで豆腐の中からお兄さんが出てくるが、まったく気づかない。
「あ! お子さまたちが夏休みの宿題をやっています。感心です! 自分、休み明けてからやってました‥‥と、自由研究ですね? 昆虫採集はどうでしょう?」
ガムテの封鎖を解いた古河が、ガムテにハエ取り紙のようにかかった羽虫をさし出す。
「ちょうど色々かかってますので、日記に貼っておきますね、ガムテで!」
こうして、危険極まりない絵日記は誰も触れなくなってしまったという。
「I’m えらい人ーッ! 今回も独断と偏見で、ポイントによるランキングがつくゼ!」
1位 神代タテハ 3
2位 パトリシア 2
3位 美角あすか 1
「目指せ、プロレスごっこ王! 以上だ」
「えーん、お兄さんがいないよぅ‥‥」
そこへ、逮捕に向かったはずのあずさが、お兄さんがいないと泣きながら戻ってくる。
「あっ、お兄さんが死んでる!?」
リング上で豆腐まみれに変わり果てたお兄さんを、ついに発見するあずさ。
「そんなときは、不思議回収のコレよ♪」
草壁が和紙を取り出すと、湿らせてお兄さんと佐渡川の顔の上に載せる。もちろん、人形であるお兄さんに変化は見られないが、人間である佐渡川には効果てき面。
それまで動かなかった佐渡川が急にジタバタしはじめ、さかんにタップをする。しかし、プロレスならばそこで試合終了となるが、ごっこなのでそのまま放置されたという。