辛さ臭さも彼岸までアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
0.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
08/14〜08/16
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●本文
「いや〜、相変わらず暑いですね〜」
後輩が汗を拭きながらスタッフルームに入ってくる。そこへ、待ち受ける先輩が口を開く。
「だがな、昔から辛さ臭さも彼岸までといってだな‥‥」
「あの‥‥暑いという言葉がどこにも出てない気がしてならないのですが‥‥?」
「まさか、テレビに携わる人間が暑さ寒さも彼岸までとか、使い古された言葉を使うんじゃないだろうな!?」
「使い古されているからこそのことわざなんじゃ‥‥」
「‥‥でだ‥‥」
「鋭すぎるほどにぶった切りますね‥‥まあ、それでこそ先輩ですけど。で、なんです?」
「若干バカにされてる気がしないでもないが‥‥辛さ臭さも彼岸まで、つまり辛いものと臭いものを彼岸まで延々と食いまくる戦いだな!」
「なんですか、その無意味な長大スペクタクルは?」
「まあ、実際にそんな長々やる気はないから、リタイア続出で早めに決着してもらうわけだけどさ。とにかく、そういうのをやりたい!」
「やりたいんなら、やっちゃいましょうよ‥‥」
こうして、ただ辛いもの、臭いものを食べて悶絶する様を見てスタッフが涼むという企画がスタートした。
企画内容:
辛いもの、臭いものを食べて、ガマンするリアクションのおもしろさを競い合います。
辛いものを順番に一人ずつ食べていきます。次に、臭いものを反対順に一人ずつ食べていきます。以下、この繰り返し。
何を食べるか指示すれば、番組でそのものを用意します。
最後まで残った人に、優勝賞金5万円が送られます。一番無謀な挑戦をした人に、敢闘賞10万円が送られます(敢闘賞の方が高額なのです)。
辛さ、臭さが不十分であると判断された場合、失格となります。
たとえば、臭いことの分かりきっているシュールストレミングを食べたとしても、リアクション不十分だと失格となります。
辛さ、臭さにガマンできない場合、リタイアできます。
失神等、競技続行不可能と判断された場合、リタイア扱いとなります。
失格・リタイアになった場合、優勝はないですが敢闘賞を受け取る権利は残ります。
その他こまかいルールは、スタッフがルールブックです。
●リプレイ本文
『いや〜、まだまだ暑い日がつづきますね。こんな日には、暑い物や臭い物を食べるに限りますよね? 実況解説は、担々麺より冷やし中華、ドリアンよりスイカが食べたいので食べている、水鏡シメイ(fa0509)でお送りします』
冷房完備の特設隔離ボックス内の放送席で、冷やし中華とスイカを机の上に並べておきながら、固形の物なんぞ食えるかとばかりに、カキ氷を流し込んでいる水鏡。
透明な防壁に囲まれているのは、もちろん臭い物対策であるのは言うまでもない。屋外ロケをすればいいものの、スタジオ内という密閉されたところで収録するという暴挙。この番組関係者は番組を一本制作できるのだからともかく、一番悲惨なのは次にこのスタジオを使う人々である。
とはいえ、そんな他人のことなど考えている場合ではないのが、集いし6人の明日なき勇者たちである。
『各人の持ち寄った特選素材は一体いかなるものでしょうか? まずは最初、辛い物の一品目です』
完全に高みの見物で、水鏡がのほほんと出場者たちに振る。
「日の出荘からやって来ました津野雪加(fa0513)です。食べることが幸せなので、食べ物には負けませんよ‥‥って、今回は男性ばかりなんですね」
トップバッターの津野が、自己紹介をしながら一同を見渡す。佐渡川ススム(fa3134)が野獣のオスの目をしていたが、津野にはそれがこの戦いに向けたものとしか見えていない。津野はフードファイターの本職として来ているので、ヨゴレ芸人の意気込みなど理解の範疇外なのである。
「というわけで、私は激辛キムチ鍋です。ハバネロスパイスを加え、辛さを増強してあります」
ドン! と、巨大な鍋を机の上に置く津野。食べる量は関係ないのだが、やはり見た目のインパクトは重要である。
が、津野はすぐには手をつけない。
「辛さが十分か、確かめてもらわないといけませんね」
本職フードファイターだけあって、リアクション芸におけるダミー人形の理論を提唱するが、水鏡ほかスタッフ一同、隔離ボックスに避難済みなのでどうにもならない。
仕方なく、鍋を食べはじめる津野。と、辛さのあまり、傍らの佐渡川の前の机を叩き割ってしまう。もちろん、壊れるように仕込んであったのは言うまでもない。
だが、その衝撃で津野の目の前の鍋もひっくり返ってしまった。
「津野さんが粗相を‥‥ハァハァ」
「‥‥?」
なぜか息が荒い佐渡川を怪訝そうに思いながらも、慌てて片づけようとする津野。だがそれよりも早く、床にこぼれた鍋の中身をすすり出す佐渡川。
「‥‥ふぅ。津野さんの粗相した分は、俺が食べてあげました。だから、津野さんには俺の分を少し食べて欲しいんだ」
「‥‥え、ええ‥‥いいですけど‥‥」
佐渡川に激辛ソーセージを手渡される津野。佐渡川の様子を気味悪がりながらも、津野がソーセージほおばる。ソーセージ自体は、激辛ではあるものの普通のソーセージだった。となれば、普通でないのは‥‥?
「津野さんがかぶりつくのを、かぶりつきで見る‥‥ハァハァ」
佐渡川にしては随分インパクトの弱い素材だと思いきや、それはこういうわけだったのだ。
身内の不始末をなんとかせんとばかりに、同じ神城台プロダクションの水鏡が飛び出してくると、佐渡川を引きずっていく。
「やだいやだい! むしろ、僕のもかぶりついてもらうんだい!」
ぐずる佐渡川を、やれやれとスイカで一殴りする水鏡。壊れかけのテレビを叩くがごとく、正気に戻る佐渡川。
「はっ! 一体何が‥‥!?」
待っていたのは津野の白い目であったが、佐渡川は余計に気持ちよくなってしまうので逆効果である。
「ふむ。となれば、次は臭いものじゃな? ワシが提供できるのは‥‥コレじゃ!」
如鳳(fa2722)のかけ声とともに、ついにスタジオ内に悪臭が充満する。
「世界一の食文化を誇る中国‥‥その4千年の歴史の中で、もっとも臭い食べ物として君臨している食材がある。それがッ! 臭豆腐ッッ!」
臭豆腐は如鳳が指差した大分先にあったのだが、すでに臭くてたまらない。
「テレビでもっとも伝わりにくい臭い‥‥それを分かりやすく言うならば、十年以上放ったらかされた肥溜めに、頭から突っ込んだときの臭いって感じじゃな!」
今どき肥溜めのたとえが分かりやすいのかどうかはさておき、普通は屋外である屋台で出されるものだし、油で炒めて少しなりとも臭いを飛ばすのである。が、如鳳はそんなことはしない。
「じゃが、これだけでは済ません! これを二つに割ったアボガドの上に盛りつけ、死なない程度にかき混ぜるのじゃ、ほっほっほ!」
自らの作り出した物に、意味なく笑いが止まらなくなってしまう如鳳。非常に危険な状態であるが、構わず続行である。
「か〜! うまいっスね、これ! 部長もどうですか?」
隣の白海龍(fa4120)に向かって、満面の笑みを浮かべる如鳳。もちろん、白海龍は部長でも課長でもない。
「‥‥かくして、暁のワルプルギスは幕を上げるのじゃ‥‥ガクッ」
そんなことを言いながら、真っ先に惨劇の餌食となってしまった如鳳。しかし、臭いがキツすぎて近づけないため、如鳳は倒れたまま放置である。
「振られたみたいデスので、僕が辛い物行きマスネ‥‥」
白海龍の合図で運び込まれたのは、そうめんだった。ごく普通の、真っ白なそうめん。だが、問題はそのつけダレであった。
「そうデス、ご存知ザ・ソースデス! 本当はブレアシリーズの限定品を持って来たかったんデスけど‥‥限定だけあって、手に入らなかったのデス」
いきなり市販品最上級の辛さを持ってくる白海龍。しかし、クールに表情を変えることなく、普段からそうしているかのようにそうめんをたっぷりタレに浸し、口の中へと流し込む。
「相変わらずおいしいデス‥‥ぐぼっ」
何食わぬ顔は崩さぬものの、一瞬で尋常でない汗が噴き出してくる白海龍。気づけば咳き込み、よだれ垂れ流しでのた打ち回っているが、あくまでも顔は平静を装っている。
タップしているが、誰かが技をかけているわけでもなんでもないので、どうすることもできない。よって、動かなくなった白海龍も如鳳の隣に放置プレイである。
「お、ちょうどよかった」
何やら火にかけた鍋を前にした片倉神無(fa3678)が、白海龍の遺品のつけダレを手にすると、中身を鍋の中に放り込む。
「俺のハードボイルド辞書に、妥協という文字はない!」
片倉が煮ているのは、別の番組で『カレーは辛ぇー』というダジャレのためだけに作ったデスソースベースのカレーである。その番組終了後もハードボイルドに煮込み過ぎて、ルーと呼べるほどにまで固まってしまっていたが、それをザ・ソースで溶かそうというのである。
すでに蒸気だけで涙が止まらないという、人工タマネギともいうべき別方向の物体になっていたが、ハードボイルド辞書にのっとっているので止まることはない。
「次は臭いの番‥‥ふっ、ならばこの夏男、佐渡川におまかせを!」
調理をつづける片倉をよそに、何やら壷を取り出す佐渡川。
「さー、どれどれ?」
壷を開けながら、のぞきこむように無造作に顔を近づける佐渡川。次の瞬間、悶絶である。
「うおぉーっ!? 鼻が! 鼻がー!」
『これは韓国の食べ物、ホンオ・フェですね。ホンオはエイ、フェは刺身という意味らしいです。納豆やくさや、シュールストレミングとは一線を画す、アンモニアの臭さ。口に入れて噛んだときに深呼吸をすると、100人中98人は気絶、2人は死亡寸前になるらしいですよ?』
もはや佐渡川が何をしようと隔離ボックスを出ない覚悟の水鏡が、微笑みを絶やさずにカキ氷を食べつづけている。
「ん? うまい‥‥かも?」
しかし、打たれ過ぎの佐渡川には、むしろいい気付け薬になってしまったようだ。
「よし、確認完了! プロフィール上だとサバ読んでいるヤツがいるかもしれないから、ちゃんと確認するのに苦労したゼ! だが、未成年のヤツがいないと知ったら、もう遠慮はいらねえ」
何やら書類をしまい込むタケシ本郷(fa1790)。代わりに、一升瓶の束を取り出す。
「自分の出すのはコレ、本醸造酒生貯蔵なまら超辛だッ! そして、つまみは塩と赤唐辛子以外認めん!」
たまたま物産展で見つけて以来、ずっと飲みたくてたまらなかった本郷だが、この番組を活かさぬ手はないとばかりに、大量に購入してきたのだ。
『これは見事な辛党ぶりですね。甘い物が好きだと甘党、酒が好きだと辛党で、辛い物は一切関係ないんですが‥‥辛口だからいいんですかね?』
「うまい! おかわりだ!」
津野の鍋の量に意味がなかったように、このおかわりにも何の意味はないが、本郷はすでに飲兵衛モードになってしまっているので、誰にも止められない。
「ダメだ! 渡さん、渡さんぞ! 俺一人で飲むんだ‥‥おかわりだ!」
誰も頼んでもいないのに、一升瓶を抱え込んで放そうとしない本郷。これでは、なんのために年齢確認をしたのか分からない。が、お酒さえ与えておけばおとなしいから、とばかりに全員生暖かく放置である。
「いよいよ俺の番か。先程から煮込んでいるから分かっているとは思うが、辛さも臭さもコレだ!」
玄米仕込の地酒、激辛口をちびりちびりとやりながら、カレーの鍋を披露する片倉。
「臭さの番なのに、辛さじゃないかって? この涙も止まらぬ刺激臭が、テレビ越しに伝わらないのが憎い‥‥」
とはいえ、妥協を許さぬ片倉のハードボイルド魂が、少しでも疑念を抱かれることを許さない。
その片倉の肩が、ポンと叩かれる。振り返れば、白海龍が立っていた。
「これを使うのデス‥‥」
片倉になにやら缶詰を手渡すだけ手渡すと、そのまま如鳳の横で眠りにつく白海龍。一応、うつろな目で勝負の行方を眺めてはいたが。
その膨らんだ缶に、一瞬シュールストレミングかと思う片倉だったが、よく見るとエピィキュアーチーズとある。缶詰のチーズだ。
「ふっ‥‥ちょうど俺の番で折り返しだ。こいつで臭さを、カレーで辛さを一気にいってやろうじゃ‥‥うわっぷ!」
プシュー! なかなか開けない片倉の横で、津野がなんのためらいもなくシュールストレミングの缶を開けていた。
『ついに出ました。世界一臭い食べ物と言われるシュールストレミング。アタマと腸の入っている激しく臭い物と、入っていない臭さ控えめな物の2種類があるのですが、今回は激しく臭い方のようです』
ボックス越しなのに、いつの間にかマスクまで装着している水鏡。
「くっ、負けるわけにはいかねぇ!」
プシュー! 負けじと片倉もチーズの缶を開ける。いろいろな臭いが入り混じり、もはやなにがなんだか分からない。ただ一つはっきり言えるのは、臭い! ということだけである。
「ふっ、おまえのチーズ、なかなかいけてたぜ!」
白海龍を見てニヤリとする片倉だったが、口内ボロボロの白海龍の返事はない。対する片倉も若干ふらついていたが、倒れることが許されない。
「はい、くさやとシュールストレミングのペペロンチーノの完成でーす!」
そんな中、津野が笑顔で強烈な料理を完成させていた。が、津野はそれだけでは満足できない、フードファイターの職業病ともいうべきものにかかっていた。
「このままではラチが開きません。今まで食べた料理、これから食べる料理、それらを全部鍋に入れて、闇鍋にして勝負してみませんか?」
「サドンデスチャレンジか‥‥いいだろう。幸いなことに、鍋のだし汁にちょうどいいカレーがここにある」
そして、片倉はハードボイルドの職業病、挑まれたら一切退かないにかかってしまっている。
『さぁ、お待ちかねの闇鍋です。闇鍋といえば、史上最高のゲテモノ料理。果たしてどんな味になるんでしょう? 私も楽しみです』
完全に他人事な水鏡だけに、口も滑らかである。
一方、如鳳は自らの惨劇で返事のない屍であり、白海龍は口の中がボロボロでしゃべることもままならない状態、本郷にいたっては酒に溺れる日々に突入してしまっていてどうにもならない。
残るは永遠のパンチドランカー、佐渡川ススムだけだ。
「サドンデス上等!」
しかし、ホンオ・フェでむしろ元気になってしまったので、やる気満々である。
早速、片倉のカレー鍋の中にペペロンチーノはもとより、ホンオ・フェ、臭豆腐、激辛ソーセージと、すべてが入れられていく。入ってないのは、本郷の酒くらいである。
『あ、そういえばカキ氷のシロップがまだ残っていましたね。これもついでに入れちゃいましょう‥‥って、あそこまで行きたくないですね‥‥』
思い出したかのようにカキ氷のシロップの瓶を取り出す水鏡だったが、ボックスから出たくないので駆けつけることができない。甘さを加えたらどうなるのだろうという好奇心は強かったものの、自分の身も大切なのである。
そして、できあがった闇鍋。とにかく痛いのである。口にせずとも目が、鼻が、肌が。そして、口にしようものなら、五臓六腑がすべて破壊される勢いである。
「あはは、津野さんがソーセージを、あはは‥‥」
真っ先に、佐渡川が別世界に旅立って脱落してしまう。とはいえ、元の世界に戻っただけなのかもしれない。
「斃れるときは前のめり!」
つづいて様子がおかしくなったのは片倉だ。だが前のめりに倒れることはなく、立ったまま気を失っていた。
こうして、優勝は本職フードファイターの意地で津野が輝いた。
そして、辛さの解釈の変化球が評価され、というよりは酒びたりな生活からの復帰支援金として、タケシ本郷に敢闘賞10万円が送られた。