番長の千本ノックアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/17〜08/19

●本文

 TOMITVのスタッフルーム。その中の自称スポーツイベント便乗チームで、二人の男がボンヤリと会話をしていた。
「番長シリーズ‥‥やっぱ、夏の選手権をやってる間に一回やっておくべきだと思うんですよね!」
「そうだな。番長‥‥だけに限らず、KKの高校時代はスゴかったもんな。高校のときがピークだったって言われてしまうほどに」
「まあ、それは怪物とか平成の怪物とか呼ばれていた人々にも言えることですけど‥‥そこは長丁場のリーグ戦と短期決戦のトーナメント、重みが違いすぎますしね」
 しみじみと昔をなつかしむ後輩に先輩。だが、彼らにただ昔をなつかしむだけなのは許されていない。
「しかし、どうリスペクトしたもんかなぁ‥‥?」
「泥まみれで純白の球を追いかけるのが定番では?」
「延々ノックを受ける映像ってどうよ?」
「番長ほどのオーラがあれば、それすらも絵になりますよ!」
「でも、本物の番長じゃないわけだし‥‥」
「それを言ったら、今までの番長シリーズ全否定ですよ!!」
 なにはともあれ、なんとか夏の選手権期間中に間に合わせようとそれ以上考えるのはやめて、番長リスペクト企画の第7弾を本物の方の試合のはじまる前のうちにやっちまおうと、早朝7時という時間に放映されることとなった。

『千本ノックで男気を磨く、それが岸和田魂編』

ルール
・全員が若めの番長に扮して、普通にノックを受けます。ただそれだけのことです。
・黙々とノックをグローブではなく肉体で受けるもよし、カチンときてノッカーをボコボコにするもよし、ノック無視で殺人スライディングの練習をするもよし、泥まみれつながりなだけで泥レスをするもよし。
・あくまでもおもしろ番長映像を撮りたいのであって、全員が普通にノックを受けて終わると何の番組だか分からなくなってしまいます。だが、番長ならそれもまたよし(あんまよくない)。
・その他細かいルールは特にありません。が、番長でも法律は守る必要があります。

過去の放送スケジュール(最近5回分)
・番長のロシアンフック 5月18日 7:00〜
・番長のストレート 6月06日 7:00〜
・番長のマッハパンチ 6月29日 7:00〜
・番長だらけの水泳大会 7月17日 9:00〜
・【AoS】スケ番Bサッカー 7月30日 07:00〜

●今回の参加者

 fa1136 竜之介(26歳・♂・一角獣)
 fa1453 御堂 陣(24歳・♂・鷹)
 fa1790 タケシ本郷(40歳・♂・虎)
 fa2196 リーゼロッテ・ルーヴェ(16歳・♀・猫)
 fa2825 リーベ・レンジ(39歳・♂・ハムスター)
 fa3503 Zebra(28歳・♂・パンダ)
 fa3678 片倉 神無(37歳・♂・鷹)
 fa4079 志祭 迅(26歳・♂・鴉)

●リプレイ本文

 川沿いの、いかにも練習用のためだけにありますというカンジのグラウンド。
「はーっはっはっはっは!」
 そこに、高笑いがこだましていた。
「僕の名は竜之介(fa1136)、世界が誇る美形番長サ☆ 黙っていても漂ってしまう美形番長オーラ‥‥僕は罪作りだね、罪作りすぎるよね☆」
 自称美形番長の竜之介だが、実態は違う意味で危険な番長でしかない。そう、高笑いだけならなんとか言い訳ができたのかもしれないが、涙をボロボロと流し号泣しながらの高笑いなのである。
「美形番長に汗は似合わない。美しさに感動してむせび泣くことしか許されない美形番長‥‥美しすぎる僕がコワすぎる☆」
 外部からは確実に、しっ見ちゃいけません番長なのだが、すでに自分に酔いまくりの竜之介には一切関係なしである。
 そんな竜之介の横を、トレンチコートを着込んだ片倉神無(fa3678)が通り過ぎていく。
 番長は長ランでも特攻服でもなく、トレンチコートと相場が決まっている。なぜなら、片倉はハードボイルド番長だからだ。熱中症なんて気にしない。どんな夏場もトレンチコート。北風と太陽の旅人とは気合いが違うのだよ、と言わんばかりである。
 もっとも万が一脱げてしまって、しかも下に何も着けていなかった日には、一瞬で変質者番長になれてしまう資格を有していたが。
 そして、そんな番長たちとは完全に異質なリーベ・レンジ(fa2825)が、なぜか虹を模した滑り台を降りてくる。
『実況番長、デビュー!』
 そう言いながら、放送席として特別に設けられたボックスへとスポっと入っていくリーベ。今回はドーム球場ではないので、クーラーがギンギンに効いた一画を設けさせたのである。
 しかし、実況番長と言いながら、すでにカキ氷番長と化しているリーベ。
『まあ、日本の夏は蒸し暑いからね』
 しかし、言い訳番長リーベ曰く蒸し暑いのなら仕方がない。
「俺の名は夏休みの友番長。友なんかじゃない! というツッコミがもっとも似合う悲しい男だ」
 ボックスの横で、意味不明のことを言い出すZebra(fa3503)。つまり、夏休みの友=宿題追い込み番長である。番長ともあろう者が宿題をやるのか? 番長に宿題を出す奴がいるのか? という根本的な問題は、この際抜きである。
 なので、涼しげなリーベのボックスの隣で、地べたにちゃぶ台を置いただけの炎天下に扇風機だけが唯一の清涼剤という中、宿題をはじめるZebra。
「全然進んでないじゃないか。夏休みの間何をしていたんだって? あえて手をつけていなかっただけだ。なぜなら、夏休みの宿題は8月31日にすべて手がけるものだからだ。そうだろう?」
『カキ氷はブルーハワイに限るな!』
 まったく噛み合わないが、気温が違うので仕方がない。リーベの脳は凍りつき、Zebraの脳は茹っているのだ。南極と北極で戦うようなものなのである。なお、番長脳では赤道等は一切関係なく、南ほど暑いことになっている。
「まずはドリルだ。社会科か‥‥なになに、645年に起きた事件?」
 そんなわけで、ちゃんと番長脳に合わせた宿題のようだ。
「‥‥知らん! サムライの三刀流が禁止された事件じゃないか?」
 しかし、その上をいく番長頭脳Zebra。そのままの勢いで、何やら埋めていき、あっという間にドリルが終わる。
「次は‥‥読書感想文か‥‥」
 おもむろに原稿用紙を取り出すと、『感動した。』を延々と書きつづけていくZebra。ふと立ち上がると、竜之介のところへ向かう。
「ああ、女子にフラれて、漢泣き。友に励まされ、漢泣き。番組録画失敗して、漢泣き。タンスの角に足の小指ぶつけて、漢泣き‥‥」
 脳内で様々なシチュエーションを作り、未だに号泣しつづける竜之介。その竜之介の涙を、原稿用紙の上に垂らすZebra。
「この涙で滲んだ跡で、感動がリアルでバッチリだ。もはや閻魔大王にも分かるまい!」
「‥‥並んだ割にそんなに美味しくなくて、漢泣き。痴漢に間違われ、漢泣き。ビンタくらって、漢泣き。電車賃すらなくなって、漢泣き‥‥」
 Zebraに気づくことなく、ポーズをキメながら泣きつづける竜之介。Zebraもこれ以上の深入りはキケンとばかりに、さっさとリーベのボックス横へ戻ってくる。
『いや〜、美しい青春の涙でした!』
 ボックスの壁が隔てているせいか、勝手なことを言うリーベ。しかし、Zebraにリーベを構っている時間はない。
「残るは最大級の大物、自由研究か。学校によっては理科研究に限ってるのがキツいな? しかーし、番長はあえて理科だ! よーし、今日はここにいる他の番長たちの観察日記をつけよう」
 そう言って、ノートを出すと何も書きはじめないZebra。しばらくそのままでいたかと思うと、急に立つ。
「オラ、早く実況しろ。実況しないと書き写せないだろうが!」
 ボックスをガンガン蹴るZebra。これにはトコトンしゃべらないでやろうかと思うリーベだったが、ちょうどグラウンドへ番長たちが入ってきたから実況しないわけにはいかなかった。
『OK、OK。不快指数80突破の中、番長たちが汗を流す姿をおもしろおかしく実況させてもらうよ。よく聴け、炎天下の愚民番長どもめ』
「『タケシ本郷(fa1790)、番長ヲ殺セ』だと!? そりゃそうだな、だって暑苦しいもんな」
 最初のノッカーは、自分のあずかり知らぬところで格下げとなった冥王星からの電波を受けて、ただの暴力番長から超能力サイボーグ暴力番長と格上げとなった本郷である。格上げのせいかどうかは知らないが、自分がもっとも暑苦しい中の一人であることはすっかり棚に上げている。
 とはいえ、生まれ変わった機械の身体という感じはどこにもなく、長ランに鉄下駄、髪の毛と一体化した学帽と、ごく普通の暴力番長にしか見えない。
 問題は、振り回されるバットである。暴力番長にとって、釘バット以外はバットではない。よって、金属バットではなく木製バットなのであるが、釘のせいで金属探知機に引っかかてしまうのである。そこだけが、唯一のメカっぽさであろうか?
 その本郷が右バッターボックスに入り、ノックだからそこまで細かくやる必要はないのだが、最初に鉄下駄だろうと気にせずスパイクのように土をならしている。
 そこへ、トレンチコート姿のままの片倉が左バッターボックスに入る。
「超攻撃型番長の俺だから‥‥おまえの打球の出鼻を挫くように打ち返してやるゼ!」
 構えるはキャッチャーに向かって。つまり、本郷が打った瞬間、そのボールを片倉がバックネット方向に打つという構えである。
「さあこい! これが男というもんを見せてやる!」
 さらには、ファーストで志祭迅(fa4079)も構えている。構えているだけで、グローブはつけていない。が、それこそがなり立て番長流のノーミットキャッチである。
「ふっ、バラエティは初めてだが、仕事を引き受けたからには精一杯やるゼ」
 そう、バラエティ慣れしていないので、ついムチャしてしまう番長である。
 そんなファーストの志祭とは関係なく、バッターボックスに監督番長となった御堂陣(fa1453)が向かっていく。といっても、御堂はただの監督番長ではない。現実には絶対に実現しないであろうプレイングマネージャー番長となっていたのだ。
 本郷からバットを奪い取ろうとする御堂。しかし、暴力番長である本郷が魂である釘バットを手放すハズがない。
「いや、だから代打は俺だって!」
 ノッカーに代打もクソもないのだが、御堂はしつこく釘バットを奪い取ろうとする。それに、ついに本郷がキレる。
「飛ばせ、バスター葬らん!」
 そう叫びながら、御堂目がけてバットを振り回す本郷。だが、御堂が飛んでいくことはなく、実際に飛んでいったのはバットだった。しかも、すっぽ抜けの流し打ちで。
 となれば、バットが飛んでいくは左バッターボックスに入っていた片倉目がけてである。
「ふっ、超攻撃型番長の名を冠しているからには、当たる前に迎撃するがな‥‥」
 バコッ! 言葉とは裏腹に、見事なまでにテンプルにバットを食らう片倉。
「‥‥というつもりだったんだが、ハードボイルド番長でもあったな。だったら、よけるわけにはいかない。受け止めるのみ‥‥ガクッ」
 腰から崩れ落ちそうになるが、尻餅をつくわけにはいかないと、ハードボイルドは前のめり以外許されないと、逆に危険に頭からホームベースに崩れ落ちそうになる。
 チュドーン! しかし、現実はもっと危険だった。崩れ落ちる片倉の頭がホームベースに触れた瞬間、爆発したのである。片倉がアフロで黒コゲになっているのはもちろん、隣にいた本郷も吹き飛ばされてしまっている。
『いや〜、青春は爆発だね〜?』
 そこへ、グラウンドへは一番乗りだったのに、それっきり見かけなかったリーゼロッテ・ルーヴェ(fa2196)が姿を現す。
「ホームインしたときにホームベースが爆発したらおもしろいと思ってたけど‥‥早くも爆発。どうですか、アフロ番長からぶっ飛び番長のコンボの感想は?」
 リポーター番長として、片倉に突撃するリーゼロッテ。そのキッカケ作りのためだけに、細工番長としてグラウンドのいたるところに細工を施していたのである。
「ここまでされても、女性には手を上げずに耐えの一手。それもまたハードボイルド番長ッ!」
 それでも倒れず、立ったまま失神する片倉。そこへ、竜之介が号泣しつづけながら、しかも無意味にポーズを決めながら、さらには笑いながらやって来る。
「‥‥子猫に逃げられ、漢泣き。トイレットペーパーがなくて、漢泣き。母子が再会できて、漢泣き。教えてもらった携帯番号が天気予報に繋がって、漢泣き。そして、ハードボイルド番長は侠客立ち!」
 言うまでもないが、漢も侠客もおとこと読む。教科書には載ってなくても、番長界では常識だ。
 しかし、片倉脱落も収まりがつかないのが本郷と御堂だ。志祭などは、バラエティの間がよく分からず、グローブもないのにずっと『バッチコーイ!』と拳で手のひらを叩いているが。
「はい。じゃあ、あなたが投げて、あなたが打てばいいじゃない!」
 勝手に御堂にボールを手渡すとマウンドに送り、本郷をバッターボックスに立たせるリーゼロッテ。
 ホームベースがすでに吹き飛んでいて審判泣かせであるが、そもそも審判がいないので関係ない。それを言ったら、本郷の釘バットは片倉のテンプルに突き刺さったまま退場してしまっている。
「ちょっと待って‥‥はい、OK!」
「よっしゃぁ! って、熱ッ!」
 マウンドで振りかぶろうとした御堂を止めるリーゼロッテ。すると、ボールに火をつける。そう、ガソリンをたっぷり染み込ませたボールだったのである。黒煙を上げ、時折ボンボンと小さく爆発するボール。そんなもんを長々と持っていられるわけもないので、御堂は息も絶え絶えに投げるしかない。
 対する本郷もバットがないので、三角ベースのように手のひらで打ち返すしかない。力のないフライが打ちあがるだけだった。
「オーライ、オーライ‥‥って、熱ッ!」
 当たり前の結果だが、やはり素手の志祭がキャッチするが、すぐに叩きつける。
「亜細亜番長連合総長、志祭迅様をナメるんじゃねぇ!」
「アジアなど狭いわ! 遊星からの番長Xをナメるな」
 怒り狂った志祭が吠えれば、本郷も毒電波番長で応酬である。ならば、志祭は突っ込むしかない。別に走者というわけではないので、セカンド、サードは一切無視して、そのまま本塁突入だ。
「俺を止められるもんなら、止めてみやがれ!」
 スパイクの刃を立てて、殺人スライディングをかます志祭。本郷も走塁妨害上等の殺人ブロックである。
「‥‥やるな、てめぇ。それでこそ‥‥ガクッ」
 一瞬の間の後、志祭が体格に勝る本郷に吹き飛ばされる。志祭の本塁憤死である。通常の野球では比喩表現に過ぎないのだが、番長ルールゆえにほぼ文字通りである。そのまま担架に乗せられ、負傷退場番長である。
「どうですか、ホームランを打った感想は?」
「サイコーです!」
 そんな間にも、なぜかピッチャーなのにホームランを打ったことになっていて、ダイヤモンド一周をはじめる御堂と、併走しながらインタビューするリーゼロッテ。
 調子に乗った御堂が、ホームインにあたり側転からのバック宙を繰り出す。アクロバティックな動きをしようというのに気をとられ、爆発で開いた穴のことをすっかり忘れていた。ホームベース上に着地したかと思いきや、ズッポリと穴にハマる。
「どうですか、ホームベースになった気分は?」
「サイテーです!」
 しかし、本当の最低はこれから起きるのである。殺人ブロックだけでは満足できない本郷が、今度は殺人スライディングでホームインしようというのである。
「うひゃっ!」
 すんでのところで頭を引っ込め、かわす御堂。勢いのつき過ぎた本郷は、そのままベンチまで滑って激突だ。
『やれやれだぜ‥‥知性溢れる者は千本ノックなどせずに高みの見物。精神論者どもに、私の爪の垢でも分けてあげたいところだね〜』
 リーベが高みの見物であることは疑いはないところだが、千本ノックもなにも実のところ一球もノックしてないのであった。
 そして、観察日記をつけているはずのZebraは、知恵熱で居眠り番長である。そう、番長が宿題をやるなどという絵にならないことをしてしまってはいけないのである。
『ところでこのボックス、天井から以外出入りできないのかね?』
 滑り台で颯爽と入ったのはいいものの、どう出たものかとリーベも困り果て番長のまま、番組は終了していくのであった。