第15回プロレスごっこ王アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/26〜08/28

●本文

 プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居あり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。

 TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。その前に、プロレスごっこの一番えらい人が姿を現す。
「倍率ドン! 12、8、4」
 また倍々ゲームか、ふーやれやれという空気が流れる。もはや、インフレにも慣れてきてしまった感のあるスタッフたち。
 だが、えらい人の次の言葉には、さすがに声を失った。
「さらに2乗! 144、64、16」
「って、2乗はやり過ぎじゃないですかっ!?」
 しかし、えらい人は答えない。ただ鉄パイプを振り回し、勝手な説明をはじめるのみだ。
「バカヤロウ! 今回はマットを鉄板にしてやるんだ。危険な分、見返りも多くなくちゃやってられないだろう?」
「そうですね‥‥って、あやうく納得しかけましたが、さらっと危険なコト、言わないでくださいよ!」
 流されかけたスタッフの一人が口を挟むが、もちろん鉄パイプで制裁である。
「バカヤロウ! 鉄板だと床暖房も思いのままなんだぞ!」
「うわー、季節感ゼロですね‥‥」
 ついつい呟いてしまうスタッフが、当然の鉄パイプ制裁を食らう。
「バカヤロウ! テレビに携わってるなら、季節くらい先取りだろーが!」
「むしろ半周遅れな気が‥‥」
 もっともなことを言うスタッフだが、鉄パイプ制裁で黙らされるのはいつものこと。
「バカヤロウ! 冷却した鉄板でアイスをミックスする食いモンだってあるじゃねーか!」
「最初からそれを言えば、被害も少な‥‥いえ、なんでもないです、ええ」
 ようやく懲りたスタッフが、何も言わなかったフリをして、ようやく鉄パイプの猛威は止まった。
 こうして、ついにポイントも3桁に突入するもどうせ次は4桁だろという空気の中、プロレスごっこ王選手権がスタートするのであった。

参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。

注意:
・リングのマットが鉄板になります。下から加熱・冷却することが可能です。
・その他、料理をする、鉄分を摂取する等、鉄板を好きに使って構いません。でも、下が硬いのでケガには気をつけましょう。
・マットが鉄板な以外は、普段のプロレスごっこと変わりません。
・ポイントはプロレスごっこの一番えらい人の独断と偏見によってのみ与えられます。すばらしい、おもしろい、えろい、えらい人に媚びる、視聴率が取れる等、一切関係ありません。
・ランキングによるプロレスごっこ王の決定が近づいた場合、その数回前に告知されます。現状、遠い未来の話です。
・すでにインフレ傾向にありますが、決定戦あたりでは多分倍率が1兆倍くらいの超インフレになっていると思います。そういうのにバラエティのノリに怒らない人募集。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。

ランキング(上位3名、第13回プロレスごっこ王分まで)
 1位 美角あすか(fa0155) 10pt
 2位 古河甚五郎(fa3135) 8pt
 3位 チェダー千田(fa0427) 7pt

過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・海の日 7月17日 11:00〜
・海プロ 7月27日 07:00〜
・第12回 8月04日 07:00〜
・第13回 8月12日 07:00〜
・第14回 8月20日 07:00〜

●今回の参加者

 fa0155 美角あすか(20歳・♀・牛)
 fa0376 伊集院・帝(38歳・♂・虎)
 fa2123 ブルース・ガロン(28歳・♂・蝙蝠)
 fa2333 三条院・棟篤(18歳・♂・ハムスター)
 fa2824 サトル・エンフィールド(12歳・♂・狐)
 fa3577 ヨシュア・ルーン(14歳・♂・小鳥)
 fa3596 Tyrantess(14歳・♀・竜)
 fa4348 斑鳩・透馬(13歳・♂・アライグマ)

●リプレイ本文

『さて、本日はお日柄もよく、ゆとり教育の弊害を取り戻すべく、夏休みを一週間切り上げられた小学生のみんなもご覧になっているのでしょうか?』
 サトル・エンフィールド(fa2824)が鋭く時事ネタに切り込むが、そんなことを言っているサトル自身の年齢のコトを考えてはいけない。彼は選ばれし者なのだから。何に? プロレスごっこの実況にである。選ばれない方が幸せな世界の気がしてならないが、全員打たれすぎの世界なので、都合よく分からないことにする。
『そんなよい子と、おっきなお友だちのためのプロレスごっこの時間です。実況はサトル・エンフィールド。解説は踊るダメ人間の烙印を押された毛虫未満のヨシュア・ルーン(fa3577)でお送りします!』
 スパコーン! サトルのハリセンがヨシュアに炸裂する。第13回に引きつづき、意味もなくヨシュアをハリセンでどつくネタ継続中の模様。
『ふぅ‥‥とりあえずこれをやっておかないと、話がはじまりません。それではテレビの前のみなさんもご一緒に‥‥プロレスごっこ、レディーゴー!』
「‥‥コ・ノ・ウ・ラ・ミ・ハ・ラ・サ・デ・オ・ク・モ・ノ・カ!」
 サトルが何事もなかったかのように実況をつづけるが、ヨシュアとてただやられっ放しで納得しているわけではない。ヨシュアがくる! とばかりに、顔に黒い影を作っている。
『さて、まずは食い物系芸人兼俳優の三条院棟篤(fa2333)さんからです。今回は鉄板という未知のフィールドに挑むべく‥‥』
「透馬さん、アレを持ってきてください」
 すでにヨシュアには興味がないとばかりにリングを見つめるサトルの横で、ヨシュアが斑鳩透馬(fa4348)の運んできた鉄扇を受け取る。いや、鉄扇というにはあまりに大きすぎた。大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。それは、まさにリングのマットの鉄板の余りで作られたハリセンだった。
 ヨシュアがサトルの背後に回り、ブンブンと素振りをはじめるがサトルは気づかない。
「サトルくん。呪うのなら、君のハリセンを恨み‥‥痛ッ!」
 振りかぶったところで、ポトリとハリセンを落としてしまうヨシュア。そう、ハリセンは手を防護するようなものを一切巻いていない、むき出しの鉄の塊だったのだ。
「人を呪わば穴二つ‥‥よい子のみんな、勉強になりましたか? 僕は高すぎる授業料に泣きそうです」
 泣きそうどころかボロボロと涙と血をこぼしながら、そのまま医務室に運ばれていってしまうヨシュア。斑鳩もハリセンを運んできたかと思ったら、すぐさまヨシュアの付き添うである。
 しかし、そんなヨシュアには構うことなく番組は進む。サトルの実況のとおり、三条院が花道に登場する。もちろん、食欲覆面Xとしての登場であるのは言うまでもない。
『今回は鉄板という未知のフィールドに挑むべく、粉もの系と戦ってみるそうです。粉といいますと、鼻から粉末わさびを吸入するヤツのほんまもんでしょうか?』
 斑鳩が、ヨシュアの付き添いからとんぼ返りで生地を練っている。何種類もボウルが用意されているが、今練っているのは関西風のお好み焼きのもののようだった。
『さあ、リング下のバーナーが点火されました‥‥』
 一方、レフェリーの伊集院帝(fa0376)は、そんなこともあろうかと下駄を履いている。間違って鉄下駄を履くようなボケはかまさなかったので、熱にも安心である。
『セッティングにまだ時間がかかるようなので、この隙に次の試合にまいりましょう! ブルース・ガロン(fa2123)選手が、水槽を担いでの入場です!』
 リングインするや、水槽をロープに吊るし、滑車で引き上げていくブルース。
「諸君は鉄板リングがいかに危険なものか、ナメているんじゃなかろうか? 我が宿命のライバル水槽が身をもってアピールしたいと申し出たので、早速それを疲労したいと思う」
 ダミー人形の要領で、水槽を落下させるブルース。ガチャーン! もちろん、水槽は木っ端微塵である。
「ふぅ、こんなこともあろうかと、安全靴を履いておいてよかったぜ」
「こんなこともあろうかとあろうかとって、自分だけ分かった上でやってるんだろうが!」
 5カウント以内なので反則はとれず、文句しか言えない伊集院。下駄履きゆえにむき出しの足に赤いものが点々としていたが、血ではなく発疹ということでスルーされる。垂れる発疹など聞いたこともないが、流血禁止なのでウソも方便である。
「じゃあ、さっそく試合の方に‥‥って、誰と戦うんだよ!?」
 ブルースが一人ボケツッコミをかましつつ、ゴム手袋をはめる。
「‥‥では、試合前に変わり果てた姿となった我がライバルの骨を拾ってまいります」
 そこで、ブルースの本当の対戦相手、鉄板に仕込まれた電磁石が発動する。
「ムム‥‥う、動けない‥‥」
「まったく‥‥やれやれだぜ‥‥」
 安全靴と鉄板がくっつき、見事に動けなくなるブルース。仕方なく、レフェリーの伊集院がリング保全として水槽の破片の掃除をするハメになる。
 そんな中、ブルースの水槽が吊るされていたロープに、今度は食欲覆面Xとなった三条院が吊るされていた。滑車を挟んでロープの反対側を、生地を練り終わった斑鳩がつかんでいる。
「重い‥‥食欲覆面Xだけあって、重すぎる!」
 早くも耐え切れなくなった斑鳩の手の中で、ロープがスルスルと滑っていく。
「うわーっ! っつーか、なんで吊るされなあかんねん!?」
『熱せられた鉄板の上は危険ゆえ、吊るされながら粉ものを焼くのが基本中の基本です。そして、支える側の手が滑って鉄板の上に落とされるのもお約束中のお約束です!』
「熱ッ! くない‥‥?」
 鉄板全面を熱しているわけではないので、熱い部分と熱くない部分があるのだ。
「なんや、熱いとこを探しつつやるんかいな。んなら、ここか‥‥ぐぼはっ!」
「あぶなーいっ!」
 吊るされたまま、鉄板を手で探りながら移動していた三条院に、突然Tyrantess(fa3596)の飛び蹴りが炸裂していた。
『あーっと、みんなのアイドルTyrantessさんの突然の乱入です。三条院選手が振り子のようです。でも、女性だから許す!』
 若い身空でおっさんのようなことを言うサトルをよそに、ラバーブーツ着用のTyrantessがスチャっと鉄板マットに着地する。ゴム製なので、ブルースの苦戦している電磁石も問題なしである。
「気安く触るんじゃねー! マットの代わりに熱せられた上に電磁石となった鉄板‥‥もうこんなのリングじゃない。ならばあえて言おう、ステージであると!」
 ズシャーンというSEが聞こえてきそうなほどにビシっと、プランプランしたままの三条院を指差すTyrantess。セリフの説得力は皆無だったものの。
「ロープやポスト? あー、見えんなぁー」
 どっかの獄長のような口調で、なおもステージ説を強調するTyrantess。Tyrantessの脳内では本当に見えていないので、おかしなことはない。とはいえ、Tyrantessの脳内でどう見えていようとも、カメラにはしっかり映るという説が極めて有力であるが、プロレスごっこの視聴者の悪ノリ脳でもしっかり変換され、見えないことにしてくれるので心配無用だ。
「こんなアツいステージは滅多にねえ。これに黙ってられるギタリストがいるわけないじゃん!」
「おじさん、熱い違いだと思うんだけどな‥‥」
 伊集院のツッコミもスルーして、ギターをかき鳴らしはじめるTyrantess。しかし、ブルースは肯定してうんうんうなずいていた。
「熱い、確かに熱すぎる!」
 熱くて当然。ブルースが身動きできなくなっていた場所は、ちょうどバーナーの真上だったのである。
「どけーい! 俺の魂は止められねーぜ! 
 リング、もといステージ中央のいい位置を取ろうと、ジャマだったブルースを蹴り飛ばすTyrantess。ブルースはリングサイドに転落するが、おかげで丸焼きになることは免れた。もっとも、転がって落ちたのでまだ残っていた水槽の破片を身体中に巻き込んでしまっていたが。
 さらには、なぜか巨大ワニ口クリップを取り出すTyrantess。二つのクリップを合わせると、激しく火花が飛んだ。
「ラバーブーツで完全絶縁。なぜかって? 間違って金属である鉄板に電気が流れたら危ないじゃん?」
 Tyrantessはそう言うと、ひょいと鉄板の上に放り投げる。鉄板に電気が流れているかどうかは映像では分からないが、伊集院は木の下駄、三条院は吊るされているので、幸いにも犠牲者は出なかった。
 そこへ、治療を終えたヨシュアが飛び出してくると、なぜかロープを持つ斑鳩にハサミを渡し、リングインしてしまう。
「I’m えらい人代理ーッ! 今回も独断と偏見で、ポイントによるランキングがつくゼ! というわけで、今回の特別ランカーはサトル・エンフィールドで100点‥‥お!?」
 勝手なコトを言い出したヨシュアの腕が、どこからともなく引っ張られる。
「あ! 待ってましたよ、えらい人ー!」
 美角あすか(fa0155)が、えらい人代理と名乗るヨシュアをえらい人と勘違いしていたのだ。
『ついにここで登場は、一瞬の綺羅星の如くリング上で輝いた前チャンプの美角あすかさんです。さあ、胸が超新星の如く弾けるのか? 今、テレビの前のみなさんは歴史の証人となるのです!』
 ヨシュアがサトルの名を出したことなどさりげなくスルーで、平然とエロオヤジ風味の実況をつづけるサトル。
「あ、いえ、代理ですから‥‥」
 ヨシュアの言葉は聞き間違いということにして、ピコピコハンマーとヘルメットを手渡す美角。
「第13回終了時点で一度でもトップに立てたので、そのことを個人的にお祝いしようと思いまして‥‥何か大きいことをしようと思ったんです。だったら、えらい人に戦いを挑むしかないな、と。やりましょう、たたいてかぶってジャンケンホイを!」
 ちなみに、ヨシュアの持っているのはピコハンだが、美角の持っているのはなぜかヨシュアの作った鉄のハリセンである。ヨシュアの失敗を踏まえ、斑鳩がグリップにちゃんと布が巻いておいたシロモノである。
 困り果てたヨシュアがチラと伊集院を見るが、
「ファイッ!」
 と、凶器も美角の勘違いも完全スルーの方向でジャッジしていた。
「えーっと‥‥これをどうしろと?」
 一方の斑鳩であるが、ヨシュアに手渡されたハサミに困っていた。本来はヨシュアがサトルをリング上に誘い出した際に、これでサトルの服を切り裂けと渡したものであるが、そんな説明は一切されてなかったし、そもそもまったく違う展開になってしまっている。
 そんな困惑する人々をよそに、美角がジャンケンをはじめてしまう。
「たたいてかぶってジャンケン‥‥」
 ちょうどそこへ、三条院が振ってきた。ロープを持っている斑鳩にハサミが渡されては、ロープを切るものと考えるのが普通というものである。
「ぐはっ!」
 ヨシュアと三条院の頭が激突し、そのまま失神してしまう二人。
「か、勝ってしまいました‥‥どうしましょう、ねぇ?」
「ねぇ言われても‥‥」
 豊満な美角が喜びのあまり伊集院に抱きついてしまったものだから、伊集院も困りつつもその感触を堪能するしかない。
「えーっと‥‥生地はどうすればいいんでしょう?」
 ハサミのことは忘れることにして、今度は三条院が気絶してしまって宙に浮いてしまった生地の心配をしだす斑鳩。
「熱っ!」
 そこへ、Tyrantessの悲鳴が上がる。それまでリング上で他に何が起きていようと一切無視でギターをかき鳴らしつづけていたTyrantessだが、さすがに焼けた鉄板にラバーブーツは無意味だったらしい。
『ゴムの溶けるイヤな臭いがします!』
「えーっと‥‥えい!」
 Tyrantessのピンチを救えとばかりに、斑鳩が鉄板の上に一気に大量の生地を流し込む。それは鉄板を冷やす好判断だったが、そのせいでリング上はカオスである。
「I’m えらい人ーッ!」
 その隙に、するりと本物のえらい人が現れてしまう。
「今回も独断と偏見で、ポイントによるランキングがつくゼ!」
 1位 ブルース・ガロン 144
 2位 Tyrantess 64
 3位 三条院棟篤 16
「目指せ、プロレスごっこ王! 以上だ‥‥」
 そして、人知れず去っていくえらい人。だが、急遽ぶっちぎりのトップに立ったブルースはリングサイドで三条院の生地に埋もれていた。
「え? 最後に俺とえらい人がガチンコバトル‥‥聞いてないよぉ‥‥」
『どうやら朦朧とした意識の中で夢を見ているようですが‥‥寝たらダメだ。死んでしまうぞ、ブルース! って、雪山かッ!?』
 しかし、リングは雪山とはほど遠いホカホカとした湯気を上げており、お好み焼きやらもんじゃ焼きやらの生地を一度に流し込んだ粉ものが完成しようとしていた。
「なお、これらの料理はすべてスタッフがおいしくいただきました〜♪ と」
 そうギターをかき鳴らして、斑鳩の肩をポンと叩くTyrantess。
「ええーっ!」
 その後斑鳩がどうなったか分からないまま、番組は終了していった。