プロレスごっこ夏休み01アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/28〜08/30

●本文

 プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居あり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。

 TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。その前に、プロレスごっこの一番えらい人が姿を現す。
「ランキング戦はお休みさ、だって夏休みだもん☆」
「はぁ? 夏休み中ずっとランキング戦やってきてたじゃないですか?」
 鉄パイプを振り回すのか? と思いきや、今日のえらい人はキャラ設定がいつもと違うらしい。
「でもほら、夏休みの終盤といったら、宿題の追い込み。でも、僕らにはもっと大切なものがあるよね?」
「さぁ‥‥分かりませんけど‥‥」
「プロレスごっこの追い込みだよ! 長い夏休み、子どもたちはプロレスごっこ分が不足しがち。だから、僕たち大人が気をつけてあげないとね♪」
「はぁ‥‥そうですか‥‥」
 こうして、プロレスごっこ王選手権・夏休みスペシャル第1回がスタートするのであった。

参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。

注意:
・夏休みということで、スタジオを飛び出します。どこにリングを置くかは、参加者の希望が一番多かった場所とします。
・場所が多数決で決まる以外は、普段のプロレスごっこと変わりません。
・夏休みスペシャルということで、ランキングは一旦お休みです。ポイントが与えられることはありません。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。

過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・海プロ 7月27日 07:00〜
・第12回 8月04日 07:00〜
・第13回 8月12日 07:00〜
・第14回 8月20日 07:00〜
・第15回 8月26日 07:00〜

●今回の参加者

 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa0824 ベクサー・マカンダル(13歳・♀・鴉)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa1790 タケシ本郷(40歳・♂・虎)
 fa2396 海風 礼二郎(13歳・♂・蝙蝠)
 fa2711 伊集院・まりあ(12歳・♀・虎)
 fa3599 七瀬七海(11歳・♂・猫)
 fa4157 理緒(19歳・♀・狐)

●リプレイ本文

 TOMITV内の狭い部屋に、リングやら何やらが詰め込まれていた。今回の夏休みスペシャルは出場者自身が場所が選べるということで、多数決でこの場所が選ばれたようだが、多数派こそが納得がいかない様子だった。
「どういうことだ? えらい人ん家のリビングじゃなかったのか? リフォーム企画への伏線だったんだぞ!」
『そうですよ。えらい人のリビングこそが萌えられると思ったんですが‥‥』
 タケシ本郷(fa1790)と七瀬七海(fa3599)が文句を言うとおり、えらい人の家のリビングルームに決まったハズだった。しかし、現実にはTOMITV内のスタッフ用休憩室だった。
「うるせー! 俺のリビングは、ある意味ココだっ!」
 プロレスごっこの一番えらい人が現れると、そんなムチャクチャな暴論だけ言うと、去っていこうとする。
「今日のレフェリーは自分だっ! というわけで、えらい人だろうとジャッジさせてもらうゼ!」
 本郷が隠し持っていたアイスピックを早速振りかざしてえらい人に向かっていくが、勝手知ったるリビングと言い張るだけあって、えらい人はあっという間に姿をくらませてしまう。
『やれやれ、ですね。まあ、こんな地獄の黙示録と死霊の盆踊りを足して割らないような番組に選手として出場する気にはなれないんで、とりあえず夏休みの宿題片手に実況開始〜♪』
 一方、あまり係わり合いになるまいと、さっくりと放送席に着く七瀬。すでに机の上には、未だにしっかりと残った本物の宿題を広げてしまっている。
「くそ、逃げられたか‥‥しかし、えらい人を見て分かったろう? 勝つためには方法を選ぶな、ということだ。プロレス歴20年の俺が断言するんだ、間違いない」
 アイスピックを構えたまま、リングに戻ってくる本郷。アイスピックをしまうことなく、そのままレフェリーの職務に戻る。
 そんな殺伐とした空気を醸し出すレフェリーの本郷のいるリングへ、真逆の空気のセットが運ばれてくる。南国のビーチをイメージした背景パネルが設置され、その中を最初の選手、ベス(fa0877)が入場してくる。
「お仕事の合間に女の子同士で遊びに行ったりもしたけど、ドラマみたいにかっこいい男の子と想い出をつくってみたいです!」
 ぐっと握り拳を作りつつ、コント仕立てで入場してくるベス。いつもよりもはるかに狭いので、花道などあっという間に通過ですでにリング上である。
「残り少ない夏、想い出を作るために追い込みをかけます! 17の夏は今年だけなんです!」
 そう言って、ハンターの目になるベス。とはいえ、今回の男性陣はベスよりうんと年上か、あるいは年下しかいない。四十を過ぎた本郷では援交カップルっぽく見えてしまうし、中学生な海風礼二郎(fa2396)ではショタなお姉さまに見られてしまうし、小学生の七瀬では犯罪的な臭いがプンプンしてしまうという困った状態である。
『そうです。若干一名の例外はありますがレフェリーということで無視して、選手は全員十代なのです。さあ、果たしてベスさんのお眼鏡にかなう選手は現れるのでしょうか? で、この問題なんですけど‥‥』
 いもしないかっこいい男の人を物色するため、放送席に座って待ち構えるベス。七瀬が隣に座ったベスに、早速宿題を聞かれる。エロゲならこのまま隣のお姉さんに違うことも教わってしまうところだが、プロレスごっこでは次の選手が入場してくるだけである。
「ぴえぇ〜!? 最近の小学生の問題はむずかしいなぁ‥‥」
『‥‥さあ、伊集院まりあ(fa2711)選手の登場です』
 頭を抱えるベスをよそに、あっさり実況に戻る七瀬。伊集院が女子なので、ベスもじっくり考える時間があるというものである。
『浴衣姿での登場となりました伊集院選手。和装の場合、その下に下着は着けているのかがいつも焦点となりますが‥‥』
 すでにリングインした伊集院が浴衣を脱ぎはじめてしまっているが、上はスポーツブラの上にタンクトップ、下はスパッツとしっかり防護済みである。12歳の女の子の生着替えをリアルにやろうものなら、いかにプロレスごっこといえども人知れず打ち切りというものだ。
 そして、本郷はアイスピックから何やら本に持ち替えていた。
「ファイッ!」
 本郷の合図で、浴衣をたたみはじめる伊集院。そう、本郷の持っている本は、事前に伊集院から手渡された和服のたたみ方の手引書だったのである。
「えーっと‥‥ここがこう‥‥でしょうか‥‥?」
「いや、そーじゃなくてだな。そこがそうで‥‥あー! そうじゃない‥‥」
 もはや、お父さんと娘のほのぼのホームビデオの世界である。場所がリング上で、お父さんがアイスピックを持っていてほのぼのというのも、そうあるものではない。
「だから、そこがそうくると‥‥だーッ!!」
 しかし、今日の本郷はだらだらした展開が30秒つづいただけでキレる設定になっていたのだ。持っていたアイスピックを叩きつけ、浴衣ごとマットに串刺しである。
「これが、男の手料‥‥たたみ方というものだッ!」
『さすがは本郷レフェリー、荒っぽすぎる』
「フッ、なにしろ自分以外は未熟なティーンばかりだ。嬲り甲斐が‥‥」
 満足そうに言う本郷だったか、伊集院が驚きのあまり涙ぐんでしまったことで状況は一変する。
「‥‥いやいや、成長させ甲斐があるものだ。だから、その、なんだ‥‥」
 泣く子と地頭には勝てぬとはいえ、それ以上に娘の涙に勝てないというのがパパさんというものである。別に本当の父娘でもなんでもないのだが、
「‥‥ほーら、パパの反則負けだよー」
 なぜかレフェリーの本郷の負けで、選手の伊集院と浴衣が共に勝ちという裁定が下る。
『なんと伊集院選手、激勝です‥‥で、問題はできましたか?』
「んー、ちょっと待って。分からないわけじゃないんだよ‥‥ここまで出かかっているんだから!」
 気づけば、七瀬の宿題に本気になってしまっているベス。そこへ、次の試合の理緒(fa4157)がフラフラと入ってくる。
「ふえ〜〜ん、遊んでないで早く済ませておけばよかったよ〜う」
 伊集院とは違い、最初から泣きを入れて入ってくる理緒。
『理緒選手の対戦相手は、夏休みの宿題‥‥というか課題です。すでに激戦を経ているのか、その足取りがフラフラとしています』
 七瀬のような堂々とベスにやらせてしまうようなタイプではなく、理緒は自力でなんとかしようとするタイプのようだ。
 とはいえ、伊集院は小学生だが、理緒は大学生なのである。大学生の夏休みはとにかく長いのが売りだ。8月末など折り返しに過ぎん! という状況で別にここまで必死になる必要などないのだが、そのことに気づけない理緒であった。
 だから、プロレスごっこ流にいえば、夏休みのうちからやるなど愚の骨頂! ましてや、折り返し地点であらかじめやっておくなどあってはならないことなのだが、それでは理緒の対戦相手がいなくなってしまうので気にしないことにされる。
「もう、お腹だぼだぼだよ〜」
 そう言いながらベスの横に着席すると、おもむろにアイスコーヒーと栄養ドリンクをがぶ飲みする理緒。
『戦う前に勝負が決している感がありますが‥‥で、この問題なんですが』
 そんな実況をしながらも、高校生のベスが止まってしまった問題を平然と理緒に振る七瀬。
「いや、だから分からないわけじゃなくって‥‥」
「‥‥私‥‥もうダメ‥‥」
 言い訳するベスをよそに、見る間でもなくダウンしてしまう理緒。そのあまりに早過ぎるダウンに、本郷の30秒ルールを発動させる隙を与えなかった。
『僕の宿題はどうなってしまうのでしょうか? そんな間にも、みかんのダンボール箱を持った海風選手が入ってきました』
 リングの上に段ボール箱をセッティングすると、早速自分の宿題に取りかかる海風。七瀬的にはこれで小中高大とあらゆる英知が結集されたことになるが、海風に七瀬の宿題に構っているヒマはない。自分ので手一杯というものである。
「で、この問題なんですけど‥‥」
 いや、むしろ小学生の七瀬に聞いてしまう始末であった。愛用のチェックの帽子の中から愛用の筆箱を取り出し、颯爽と段ボール箱に向かったまではよかったが、分からないし集中できないしで頭がパニックになり、聞いて回った先がよりによって最年少の七瀬だった。
『高校生と大学生が横にいる中、あえて小学生に聞くのはどうかと‥‥』
「黙ってやってください! 今それどころじゃないんです!」
 七瀬が至極当然のことを言うが、パニクり絶頂の海風は順調に逆ギレである。
 その隙に、やみくもあんどんの相方、ベクサー・マカンダル(fa0824)がなぜかホースの伸びた巨大風船片手に背後にやって来ていたが、まったく気づかない。
 パーン!
「わっ!」
 しかし、驚いたのは当の本人のベクサーであった。本郷の30秒ルールが発動し、アイスピックで風船を刺してしまっていたのである。
 ベクサーが本郷を睨むが、本郷はどこ吹く風である。そして、ベクサーもめげずにスペアの風船を装着し直すだけであった。
「でもほら、プロレスごっこのネタにもなってるし‥‥さくっと仕上げちゃおうよ‥‥ね?」
 一方、海風は未だに七瀬に無理なお願いをしていた。もちろん、背後のベクサーには一度風船が割れた程度では気づいていない。
 さらに、なぜかランプの着いたヘルメットをかぶり出すベクサー。その間にも風船はどんどん大きくなり、気づけばランプがカラータイマーのように点滅をはじめ、警告音まで出している。
「やばい、割れる‥‥」
 そう言って、本郷に風船を手渡すベクサー。本郷も平然と受け取り、ヘルメットまで律儀に装着する。
「まだいけるか‥‥んー、まあこんなもんか」
 山手線ゲームでもやってるならともかく、何キッカケで渡すのかは分からないが、今度は腹痛と闘いつづけて突っ伏したままの理緒に風船が渡される。すでに、最初のベクサーはリングの反対側に非難してしまっている。
「ふえぇぇ〜ん‥‥さっき、ギブアップしたのにぃ‥‥」
 涙ぐみながらも、しっかりとヘルメットをかぶった上で、隣のベスにパスする理緒。
「ぴよ? かっこいい男の人、いませんかー?」
 なぜか風船の中をのぞき込み、かっこいい男の人がいないか確認をし出すベス。もちろんいるわけないので、ますます膨らんだ風船を七瀬に手渡した。
『えーっ!? はい、じゃあ僕が宿題をやりますんで、これをお願いします。じゃっ!』
 突然の受諾に何が何だか分からない海風の頭にヘルメットを乗せてやると、そのまま風船を手渡して逃げ出してしまう七瀬。こうして、海風一人が取り残された。
「‥‥ん?」
 パーン! ついに風船が割れ、海風がひっくり返る。茫然自失で倒れる海風の顔に、紙吹雪がヒラヒラと舞い落ちてくる。
「風船が破裂する恐怖には負けたけど、今はホッとしてる」
 非難していたベクサーが戻ってくると、これまた戻ってきた七瀬のインタビューを受けて勝手なコトを言っていた。
『いろいろありましたが、最後にMAKOTO(fa0295)選手の入場です‥‥いえ、選手ではないようですね‥‥』
 入場してきたMAKOTOが、丸太を担いで入場してくる。
「僕のはコレ! 金網デスマッチさ!」
 そう言って丸太を金網で囲うと、その中へヘラクレスオオカブトとギラファノコギリクワガタを放り込むMAKOTO。
『そう、選手はカブトとクワガタで、MAKOTOさんは一セコンドに過ぎないとのこと‥‥って、どっちのセコンドなのでしょうか?』
「それは乙女の秘密だよ!」
 チッチッと指を振りながら、さっぱり意味不明なコトを言ってみせるMAKOTO。
「いやー、目の前でリアルなんとかキングを見てみたかったんだよねー」
「ぴよーっ!」
 MAKOTOが目の前の戦いを堪能している中、ベスがあることに気づいて叫び声を上げる。そう、MAKOTOがセコンドを務める試合で最後ということは、もうかっこいい男の子が出てこないということである。最初から分かっていたことだが、ベスにお似合いのかっこいい男の子などプロレスごっこにはいないのである。
 落胆するベスをよそに、なおも風船を膨らませているベクサー。先程はホッとしただけであって、あくまでも反省はしてないのだ。
 そこへ、ヤケになったのか、あるいは単にビーチの背景セットを思い出しただけなのかは分からないが、ベクサーの持つ風船へと走り込み、ビーチバレーのようにをアタックするベス。
 しかし、ボヨンとはじかれて割れない。ただ、風船がMAKOTOの横にはずんでいっただけである。
 しかし、それを見逃せる本郷ではない。それでもきっちり30秒は待つが、どちらかというと膨らみきるのを待っているようなものである。
「じゃ、いっとこか!」
 パーン! アイスピックに刺され、MAKOTOの横で炸裂する。
「わっ!?」
 驚いたMAKOTOが金網に顔をぶつけ、その衝撃でムシたちは飛んで逃げていってしまう。
「あーっ、僕のヘラクレスとギラファがっ!?」
『‥‥ムシは逃げてしまったが、宿題は逃げてくれません。我々の宿題はどうなるのでしょうか? では、ごきげんよう、さようなら!』
 宿題は終わらなくても、番組は終わるというわけで、そのまま終わっていくのであった。