不真面目エア・シタールアジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
牛山ひろかず
|
芸能 |
フリー
|
獣人 |
フリー
|
難度 |
普通
|
報酬 |
0.7万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
03/03〜03/05
|
●本文
エア・ギター‥‥直訳するところの空気ギターの名のとおり、実際にギターを持つことなく演奏するフリだけで観客を魅了する、妄想力の具現化ともいえる演目である。
そして、このライブで取り扱うは、そのギターの部分をシタールに変えたものである。
シタールとはインドの民族楽器であり、日本でギターが弾けるとカッコよく見えるように、インドでシタールが弾けるとそれだけで大モテなのである(信じないでください)。
そしてタイトルにあるとおり、不真面目に──つまりは笑いを取る方向でやらなければならない。いや、日本でなじみの薄いシタールをあえて取り上げている時点で、不真面目といえば不真面目ではあるのだが。
そんなインド人10億人を敵に回すような企画が、ライブで行われようとしていた。
「しかし、無謀な企画ですよね。エア・ギターなら元となる有名アーティストがいて、それを模倣するとかもありですけど、シタールじゃそういう共通認識がないですからねぇ。シタールでヘッドバンギングとかあるんスかね?」
「知らねーよ。そういうものをひっくるめて、なんとか笑いにするのが芸人、プロの芸人ってもんじゃないのかい? っつーか、もうチケット売りはじめちゃったし、引き返せないんだよ‥‥」
「うへ、まだ出場者も白紙なのに‥‥まあ、なるようになりますか」
バックに音楽は流しません。歌唱してもいけません。ある意味究極のサイレント芸です(掛け声やしゃべりはOK。口パクもOK)。
観客の投票により、優勝者を選びます。優勝者には賞金10万円が授与されます。
●リプレイ本文
「えっ! そんな‥‥」
不真面目エア・シタールのライブ会場、その楽屋から悲痛な叫びが漏れ聞こえてきた。椋(fa3125)が参考までにと本物のシタールを見せられたときである。
本気で琵琶=シタールと思っていたらしい。琵琶法師の椋ならば、琵琶とシタールが違うことくらい、いくらなんでも気づきそうなものだが、世の中には何事も本気で気づかない人種もいるものなのである。
「そっか、俺以上に知らない人もいたんだ〜」
そんなに緊張していたわけではないが、柊(fa1409)の気もちょっと楽になった。
その一方で、分かっててやってるだろおまえ、という人種も確かに存在する。
「獲吾死汰或(えあしたある)‥‥まさかこんなトコロでお目にかかるとは思わなかったスね‥‥」
「し、知っているのか、きゃおるッ!?」
矢沢きゃおる(fa2868)が腕まくりをしながら呟くのに、マリアーノ・ファリアス(fa2539)がつい勢いでノッてしまう。
「う、うむ。獲吾死汰或とは本来、突き、蹴りを主体とした格闘技ッ! このきゃおるが本場印度の技を見せてやるっス!」
「な、なんだってー! 格闘家練習生として、異種格闘は望むところだゼ!」
きゃおるがどこまで本気で言ってるかは分からないが、マリアーノは完全に悪ノリである。
「ほんまうち、都会に出てきて初めての仕事がこんな仕事で緊張するわ‥‥」
普通に緊張する金糸雀(fa3121)の横では、椋が慌てて3秒でできるヨガの達人を読みはじめた。インドといえばヨガ、分かりやすいまでの付け焼刃である。
そんな中、全員舞台袖に連れていかれる。
『では、最初の出演者は‥‥』
ここで、たくさんの棒が入った箱が出てくる。この中で一本だけ、赤い印の付いている棒が入っている。それが当たりで、すぐさま出番となる。そして、これを毎回行うのだ。いつ出番が来るか分からないという、粋な計らいである。
(一番初めにだけはならないように祈るか〜)
(できれば、出番は早い内に!)
柊の願いは叶い、上月一夜(fa0048)の願いも虚しく、最初の出演者は愛飢え雄(fa0972)に決まった。舞台袖に立ったときから、すでに緊張でガチガチになっていたのだが、
「ひぃぃっ!」
今や悲鳴を上げて、ガクガクブルブルと震えている。よだれも垂れ流し放題。本当は失禁と脱糞もしたいところなのだが、かろうじて人としての何かが押し留めているようだった。
「カメラを向けたり、小道具を作るのは好きだけんど、目立つのは、ワイ、ワイ‥‥」
うわ言の様に呟くが、待っているのはまったくあたたまっていない会場だけである。
見るに見かけた上月が落ち着かせようと声をかけて、ポンと肩を叩くが、
「ぎゃぁ!?」
驚いて、そのまま舞台へと出て行ってしまう。
「え? え? 俺が悪いの!?」
上月は助けを求めて回りを見渡すが、誰も目を合わせてくれない。唯一、きゃおるがよくやったとばかりに親指をグッと突き立てているのみである。
そして、本当に誰も助けてくれないのは、舞台に上がった愛飢え雄である。会場の視線を一身に浴びて、
「いくつものライト、大勢の視線‥‥ワイ、恥ずかしい‥‥」
なぜか頬をポッと赤らめる愛飢え雄。
だが、何かが弾けたのか、エア・シタールをはじめる。静かに、そして情熱的に、淡々と。実際にシタールを弾いて練習してきたのだから、それを真似るだけなら、今の愛飢え雄にはむずかしいことではないのだ。
「ありがとうだがや!」
演奏を終えると、絶叫して舞台袖へと捌けて行く。それを見送る拍手と視線は、ハードボイルドではない方の危険な香りのする男を見るそれだった。
そんな微妙な空気の中で次に登場することとなったのは、愛飢え雄を送り出す形になってしまった上月である。
覚悟を決めて飛び出すと、
「あっ! それ! それ! それそれそれそれ!!」
観客に手拍子を求めながら、両手で激しく見えないシタールを弾きはじめる。
「楽器、楽器とは言うけれど〜、楽器取ったらただのガキ。楽器、楽器、ガッキガキ。あそこの庭のは干した柿〜」
そこまで言い切ると、手は動かしながら会場を見渡す。それはただ、逆境を思い知ることになるだけだった。が、だからといって止められるわけもないし、ネタを急遽入れ替える余裕があるわけでもない。
「‥‥たんたん、じゃかじゃか。たんたん、じゃかじゃか。気になる彼女が肉じゃがくれた‥‥以上、シタールの演奏でした。なお、実は弦が全部切れてたのでずっと無音だったのはご内密にお願い致します〜」
そう言って一礼すると、まばらな拍手が起こる。とはいえ、少しは会場があたたまってきたのは確かである。
つづいて、クツクリームを全身に塗りたくり腰布を着け、ターバンを頭に巻いて登場は椋。今回初のインドを意識した衣装である。
静かに舞台中央へと進むと、座って静かに普通に弾きはじめる。
やがて、先程読んだヨガのポーズをはじめるが、会場の反応は薄い。
「斬新だろ!? 斬新だと言ってくれ! 正直辛いんだ!!」
突然キレ芸に変わる椋。だがしかし、会場の空気は明らかに冷え込んでしまった。
それを敏感に察知した椋は、すごすごと奥に引っ込んでいった。
「かあちゃん‥‥俺こんな事するために田舎から出てきたわけじゃないよね‥‥」
一人涙する椋だが、そんなことはお構いなしに舞台は進む。
次に赤い棒を引き当てたのは、金糸雀だった。インドだけに、和の真っ赤な着物である。
「シタールいうたって結局はエアや! 客やてそんなマイナー楽器わかとらへん! 思い切ってギターぽくしたる!」
気合いを入れて飛び出すと、大きな動きで激しく掻き鳴らす。それは、もはやエア・ギターと寸分違わぬものだった。
ただ違いを上げるとすれば、着物であるということだ。これだけ大きなリアクションをしていると、着崩れていくものである。
一部男性客を中心に、ヒートアップしていく。今入ってきた客がいれば、ちょっとエッチなライブと勘違いしてもおかしくはない。
「しぇいく、しぇいく、しぇいくや!!」
しかし、そんなことはお構いなしに、激しい動きはとどまることを知らない。
意気揚々と引き上げてくる金糸雀に、ようやく立ち直りかけていた愛飢え雄が声をかける。
「見えてただすよ」
「このスケベ!」
金糸雀にはたかれて、愛飢え雄はまた落ち込みの世界へと戻っていった。
半分になった中から選ばれた柊は、普段着の上から布をサリー状に巻いての登場である。
これまでの出演者同様、普通にエア・シタールを弾きはじめる柊。手の動きは直前の金糸雀のコピーなので、完全にエア・ギターなのだが、そんなことは気にしない。
だが、弾いていくにつれ、段々と腕を広ていくようになる。楽器が巨大化していくように見えるそれは、パントマイムの手法であった。
やがて、弾くどころかしがみつくことすら困難になり、これ以上大きくなるのを止めようと押さえつけているような感じになる。
だが必死に押さえつけるのが限界に達したのか、弾け飛んで倒れてしまう。どうやら、爆発してしまったということらしい。巻いてあった布がほどけ、ヒラヒラと舞って柊の身体にかかる。
それっきり微動だにしないので、どうかなってしまったのではないかと客も心配になってくる。
と、そこへ急に目覚ましの音が会場中に響き渡ったかと思うと、急にむっくりと起き上がる。
そして、顔を洗いにいくように舞台袖へ向かおうとすると、何かにつまずく。どこにあったものを見て、驚愕の表情を浮かべると、それを持って一発奏でる。シタールだった、というわけだ。
芸の細かいパフォーマンスに、会場はヒートアップ気味である。
そのちょうどあたたまりかかったところへ、運よく選ばれたのは木野菜種(fa1681)であった。
「3階席〜! 2階席〜! 1階席〜! アリーナ〜! みんなー、盛り上がってるー?」
言うまでもないが、そんな広い会場ではない。というか、エア・シタールでそんな大会場が埋まるようになったら、世も末である。
「盛り上がりが足りないわよーっ! 前の方、座らないで下さ〜い」
客席をあおりながら、激しく掻き鳴らす。
「全然盛り上がってないじゃない!」
ついにキレたのか、ステージを縦横無尽に走り回りながら、床や壁や、アンプやモニターであろうものに、何度もエア・シタールを叩き付けていく。
そして壊れてしまったのか、エア・シタールにサインをする仕草をすると、それを客席に投げた。
「また来年!」
最後の二人になって、赤い棒を引いたのはマリアーノだった。となると、必然的に大トリはきゃおるである。
まずはマリアーノが出てきて、一礼。ステージ中央に座り、いざシタールを構えようとしたところで、突然大げさにびくっとする。落としてしまったことのアピールのようだ。
何やら調べるポーズをとると、
「ダメだね、ヒビ入っちゃっタヨ」
ステージ袖に向かって手招き。無論実際には誰も来ないが、シタールを交換すると、今度こそと構え直す。すると今度は、
「いきなり弦が切れるなんて聞いてなイヨ!」
再びステージ袖に向かって手招き。無論実際には‥‥と思っていたら、何を思ったのかきゃおるが出てきてしまう。
「そんな動きじゃまだまだ甘いっスね! エアじゃない獲吾死汰或だったら、もう5回は死んでるっスよ!」
観客の知らない楽屋でのネタで小芝居しつつ、きゃおるが出てきたのだ。
「問答無用! いざ、尋常に勝負っス! アチョー!!」
ええー! というような顔をしていたマリアーノだが、
「しゃーっ! ノッてきたゼ!」
変なスイッチが入ってしまったようだ。
突き、蹴りを繰り出すきゃおるに、すべて見切るマリアーノ。動きの早い空手の形のようになっている。
格闘家の端くれであるマリアーノにきゃおるがかなうわけもないのだが、いつまでもそうしているわけにもいかないので、結局マリアーノが気を利かせてやられたフリをして倒れる。
「フッ、戦いとはいつのトキも虚しいものスね‥‥」
きゃおるへの大ブーイングで、この日一番の盛り上がりをみせる。
「こんなのエアシタールじゃない? これはお笑いライブ。ルールなど無用! ステージの上では最後に客を笑わせた者が勝者なのだーっはっはっは!」
悪の帝王のようなセリフと笑い声を残して、きゃおるは去っていった。
こうしてすべての演目が終わり、投票がはじまる。緊張して見守る中、開票結果が報じられた。
『エア・シタールだからといって、特別なことをせずにオーソドックスに攻めたのが功を奏したか、優勝は木野菜種さんです!』