プロレスごっこ夏休み02アジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
牛山ひろかず
|
芸能 |
フリー
|
獣人 |
フリー
|
難度 |
やや易
|
報酬 |
0.7万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
08/29〜08/31
|
●本文
プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居あり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。
TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。その前に、プロレスごっこの一番えらい人が姿を現す。
「さぁ、夏休みのプロレスごっこの追い込みも佳境に突入だね☆」
「なぜ追い込まねばならないのかが、そもそも分かりませんが‥‥いえ、その通りですね」
キャラ封印中とはいえ、えらい人に鉄パイプを振り回されてはたまらんと、素直に肯定するスタッフたち。
「しょうがないからそろそろ宿題でもしようかと、めずらしく朝から起きてくる子どもたち。そこへ流れるプロレスごっこ。切羽詰った子どもたちの脳に、問答無用で焼き付けられるプロレスごっこ。ここまで言えば分かるだろう?」
「また洗脳大作戦ですか? 春休みのときのあれ、私たちが疲れるだけで、効果が上がってなかった気がするんですけど‥‥」
その言葉に、えらい人の鉄パイプを持つ手がピクと動く。
「今すぐ取りかかります。サー! イエッサー!」
慌てて全肯定になるスタッフたち。
いつかのノリを思い出しつつ、プロレスごっこ王選手権・夏休みスペシャル第2回がスタートするのであった。
参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。
注意:
・夏休みということで、スタジオを飛び出します。どこにリングを置くかは、参加者の希望が一番多かった場所とします。
・場所が多数決で決まる以外は、普段のプロレスごっこと変わりません。
・夏休みスペシャルということで、ランキングは一旦お休みです。ポイントが与えられることはありません。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。
過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・第12回 8月04日 07:00〜
・第13回 8月12日 07:00〜
・第14回 8月20日 07:00〜
・第15回 8月26日 07:00〜
・夏休01 8月28日 07:00〜
●リプレイ本文
TOMITV正面玄関。そこに、普段は置かれることのないリングが運び込まれていた。
いや、リングだけではない。今回のプロレスごっこのロケ地がハワイっぽいTOMITV正面玄関というよく分からないものになったので、それを解決すべく、ヤシの木風のオブジェやら、確実にハワイではないであろうどこかから運ばれた大量の砂やら、そういったものも運び込まれていた。
「はじまってもいないのに、砂埃がヒドいですね‥‥」
グチをこぼしながらも、上野公八(fa3871)が清掃員の名にかけてほうきをかけている。早くも今回の対戦相手、汚れと戦っていたのだ。
場所がTOMITV正面玄関だけに、プロレスごっこのためだけにどうこうできる場所ではないので、収録前の数時間の間に突貫工事でセッティングせねばならず、スタッフ一同砂が舞う程度に構っている場合ではなかったので、上野が都合よく使われていたというわけだ。
そんな慌しい周囲をよそに、リング上ではホワイトタイガーマスクとなった夏姫・シュトラウス(fa0761)が直立不動で腕組みし、周囲を満足げに見下ろしていた。
「えーっと‥‥確か、リングの上は掃除機でなくてはならないという大昔からの慣わしがあると聞いたことがあります‥‥」
リング上をキレイにしようとした上野が、掃除機を持ってリングに上がってくる。
「小僧、もう収録がはじまろうかというのに、リングに上がってくるとは何ゴトだ!」
だが、すでにスイッチの入っている夏姫のレフェリングにより、あっさり蹴り出されてしまう。
「うっ、血痕なんかを掃除するハメにならないといいなと思っていたんですが、まさか自分の血痕を掃除するハメになろうとは‥‥ガクッ」
上野がリングサイドで崩れ落ちたのをキッカケとするように、番組収録がスタートする。
『さあ、間もなく夏休みを迎えるということで、プロレスごっこ王夏休みスペシャルも第2回‥‥え? 夏休みが終わる? そんなバカな。僕たちの夏休みは、まだまだはじまったばかりですよ? ほら、カレンダーも7月19日だと言っている。そうだよね? ヨシュアく〜ん?』
「えーっと、カレンダーですね。はい、ちゃんと言われておいたところに赤丸つけておきましたよ!」
サトル・エンフィールド(fa2824)の打たれすぎ感たっぷりの実況ではじまったところで、横のヨシュア・ルーン(fa3577)がすっとカレンダーを差し出す。
『そうそう、この9月17日のところに赤丸が‥‥って、はじまってもいないのに、なんで終わっているんだよ!?』
サトルがえらい人譲りの鉄パイプ一閃で、小道具でボケてきたヨシュアを制裁する。今日は8月29日なので、サトル暦だろうがヨシュア暦だろうが月すら合っていないが、そんなことは問題にしないサトル。今の彼の心は、ジャイアニズムに支配されてしまっている。
『ヨシュアのくせに生意気だぞ!?』
「暴力です。言葉と腕力の暴力です。ダメです! テレビの前のよい子のみんな、こんな番組を見るくらいなら、二度寝して宿題に備えた方がはるかにマシだよ。だから、早くスイッチを切るんだ!」
『僕のコトをどう言っても構わない。だが、プロレスごっこのコトを悪く言っちゃダメだ!』
再び鉄パイプを振るうサトル。プロレスごっこ云々よりも、結局はヨシュアのくせに生意気だぞということなのだが、ウソも方便である。
「うるうる‥‥暑いからって、それはないよ! 暑いのがダメなら、冷やせばいいじゃない。テレビのスイッチが切れないなら、空調のスイッチを入れればいいじゃない。受付のお姉さん、空調どこですかー?」
打たれすぎておかしくなったのか、よく分からない理屈で空調のスイッチへと走るヨシュア。しかも制御盤を叩き壊しながら、どこをどうやったか本来ありえない超低温設定にしてしまう。
「‥‥さあ、これで涼しくなれば、みんながんばってプロレスごっこに専念できるでしょ? ささやかなプレゼントです。さあ、選手入場‥‥ぐぼはっ!」
『なんでおまえが仕切るんだよ‥‥』
ヨシュアの理屈や行動はどうあれ、冷房を強めるだけなら別に問題ないようにも思えるが、そこはやはりジャイアニズムで制裁するサトルであった。
「早速、大きなゴミが出てしまいましたね。これは燃えるゴミ? 産廃になるんでしょうか?」
気がつけば甦生していた上野がすぐさま駆けつけてくると、ヨシュアを担架ではなくゴミ箱に詰め、そのまま運んでいってしまう。
『‥‥さあ、今度こそはじりました、我らが夏の幕開けです! 主審はこの人、夏姫・シュトラウスだッ!』
ヨシュアを振り返ることなく実況をはじめるサトルにあわせて、一旦引っ込んでいた夏姫が再び姿を現す。しかも、上空から降ってきたのである。
収録がはじまると同時に天井の照明の光の中に隠れていたのだが、そこから飛び降りて登場という、レフェリーとしてはまったく無意味な登場である。しかも照明が熱かったので、冷房を強めてくれたヨシュアよありがとうと言いたいところだったが、すでにヨシュアは上野に搬出された後である。
「小僧ども、紳士にふさわしい試合を繰り広げるがよい!」
そう言われて出てきたのは、人を外見で判断してはいけないが小僧というにはムリのある年齢と思われる、人を外見で判断してはいけないが紳士というにはあまりにいかつい、鬼王丸征國(fa0750)だった。
『鬼プロデューサーこと鬼王丸選手の入場です。対戦相手は夏休みの宿題ということですが‥‥30過ぎでやる宿題ってなんなのでしょうか!? 人生の宿題ってヤツでしょうか? 深読みしようにもコワすぎます! 重い、重すぎます!』
「わっはっはっは! 小学生やちびっ子ファンを増やしてこその夏休み、ならば夏休みの宿題と戦う以外あるまい!」
勝手なコトを言うサトルに、勝手なコトを言って応える鬼王丸。まったく噛み合ってないが、鬼王丸は気にすることなく『夏休みのドリル』『自由研究』と書かれた自分と同じくらいの巨大なノートを取り出す。
「よっしゃ、タマとったるで〜!」
早速ノートをちぎっては投げの大立ち回りを繰り広げる鬼王丸。その度に生まれる紙くずを、上野が夢の国バリの勢いで片づけていく。
「はぁはぁ‥‥おぬし、やるのう‥‥」
だが、巨大ノートを1ページ1ページ引きちぎっていくのは、想像以上に体力を消耗する。あっという間に肩で息する鬼王丸。
「ふっ、さすが自由研究の絵日記よのう。毎日つけないとこうなるの見本じゃけんのう‥‥1日1日を大切に、毎日勉強するんじゃよ‥‥ぐぼはっ!」
「今さら言ったって、あと3日しかないわっ!」
紙に押しつぶされながらもカメラに向かってしゃべっていた鬼王丸だが、あっさり夏姫にトドメを刺される。
『あーっと、ついに決着です。夏姫レフェリーの夏休みはあと2日と16時間強しかないんじゃ踏みつけでフィニッシュ! って、レフェリーが勝ってしまっていいんでしょうか? ミゲール・イグレシアス(fa2671)選手が入ってきてしまったので、善も悪もないままいきましょう!』
「むぁいどー、ミゲールや! しかし、最近のハワイは随分ショボくなったもんやのう!」
リングサイドの砂浜を蹴散らしながら、ミゲールが入ってくる。リング上では、上野がモップがけをしている。紙くずにモップが有効かどうかはさておき、モップの軸で棒高跳びとか、無駄にアクロバティックな動きを披露している。
「ハワイで、日焼けや水着のねーちゃんと戦うんや♪ って、すでに焼けとるからワイの負けか? って、ワイはネイティブオオサカンやから肌は黒くて当たり前やん! っつーか、ハワイって随分寒いんやのう!? 寝たら死んでまう‥‥しゃべりつづけなあかん。ワイはしゃべってないと死んでまうんやから、どっちにしろ死ぬんやけど」
あまりの寒さに、震え出すミゲール。見れば、上野のモップが凍ってしまっている。
『ああ、ハワイの陽射しが眩しいッ! しかし、それを上回って余りあるクーラーの冷却っぷり。環境よりも人にやさしいプロレスごっこでありたい。日本亜熱帯化? ヒートアイランド? それが何? っつーか、ヨシュアのバカは何度に設定したんだッ!?』
準備よくスノーウェアを取り出すと、それを着込むサトル。しかし、夏姫が飛んでくると、スノーウェアを引っぺがしてしまう。
「小僧、紳士なら放送席の隅でガクガク震えておけ!」
「こりゃあかん、ホントに死んでまう。これも、本物のハワイやないからあかんのや! っちゅーわけで、本物のハワイ行きを賭けて、プロデューサーと勝負や!」
そのころリングでは、鬼王丸が倒れた巨大ノートをパトラッシュに見立てて、死への眠りにつこうとしていた。
「そこのプロデューサー! ワイはハワイに行きたいんや!」
「眠い、眠いよ、パトラッシュ‥‥」
プロデューサー間違いで、鬼王丸に勝負を吹っかける鬼王丸。プロレスごっこのえらい人なり、担当プロデューサーなりのプロレスごっこ関係者を相手にしなければならないのだが、寒さで判断力がおかしくなっていて気づけないでいる。
「ハワイで‥‥雪中行軍したいんや‥‥これが六甲おろし‥‥なんやな‥‥」
そんなことをやっているうちに、ミゲールも鬼王丸の横に倒れてしまう。すでに、六甲山と八甲田山の区別がつかなくなってしまっていた。
『‥‥‥‥』
サトルも放送席で遭難寸前である。上野はゴミを捨ててくると言ったきり、戻ってくる気配はない。この極限状況下で元気なのは、変なスイッチの入ってしまっている夏姫だけである。
「ぐーーもーーにんぐ☆ 少年少女〜」
そこへ、阿野次のもじ(fa3092)が寒々しいレスリングコスチュームで入ってくる。一瞬で鬼王丸とミゲールのパトラッシュ仲間に加わりそうな格好だったが、電話ボックスを用意させていたので、それを密閉して暖房完備である。まさに、夏に最高の贅沢であった。
「夏も終わり、今年も栄華と挫折と鬼ごっこの季節は幕を閉じる。だがしかーし! 夏休みの宿題と世界征服だけは完遂しなければならない。分からない問題の空きがあれば、秋までにオーウタム。空白地帯を黒く塗りつぶすだけだ。何だって答えてみせる。自由課題だってへっちゃらさ、どんとこーい♪」
阿野次がワケの分からないコトを言っているが、電話相談室のオープニングトークに過ぎない。そんな間にも鬼王丸とミゲール、サトルがどんどん白くなっていってるが、そんなコトも気にしない。なぜなら、相談されていないからだ。
というわけで、阿野次が黒電話の前できっちり正座をして、電話がかかってくるのを待っている。
「ガチャ‥‥もしもし、私いっちゃん。今の気温は何度ですか? −30度だよ‥‥ガチャ」
ベルは鳴っていないが、受話器をとってなにやら会話する阿野次。受話器から聞こえてくる音声ではなく、阿野次が復唱する形になっているので、本当に話をしているのかうさん臭くなってしまっているが、プロレスごっこ自体がもっとうさん臭いので心配無用だ。
「ガチャ‥‥もしもし、私いっちゃん。このときの鬼王丸、ミゲール、サトル、3人の心境を10文字以内で答えよ? ガッツでガツンガツン☆‥‥ガチャ」
確実に3人ともピクリともしていなかったが、阿野次的には内に秘めたるものは相当なものがあるらしい。
「ガチャ‥‥もしもし、私いっちゃん。愛って何でしょう? ふり向かないことさ♪‥‥ガチャ」
なので、鬼王丸、ミゲール、サトルのコトをためらうことなく振り返ろうとはしない阿野次。
「あっ、ここでタイムアップ〜☆ 要望の多かった自由課題は、また次回の対戦で! 9月1日の放送を活目して待て!」
9月1日は阿野次の二十歳の誕生日なだけであって、プロレスごっこの放送はない。しかし、今はそんな些細なことを気にしている場合ではない。遭難者は無事なのか?
だが、答えるものはない。ただ、夏姫だけが仁王立ちで見下ろしていただけであった。