プロレスごっこ夏休み03アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 1.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/31〜09/04

●本文

 プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居あり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。

 TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。その前に、プロレスごっこの一番えらい人が姿を現す。
「気づけば、夏休みも終わろうとしているねぇ‥‥」
「密かに1日あいたのは、さりげなくスルーですか?」
「ん? 世間のお子ちゃまは夏休みだというのに、キミたちはまったく休みたくないのかね?」
「いや、そりゃ休みたいですけど‥‥そのお子ちゃまたちも、すでに夏休み最終日じゃないですか!?」
「そう。宿題をあと4日で仕上げなきゃと慌ててみたものの、2日で燃え尽き昨日は休養。そして、本当に切羽詰った今になってどうしようと悶絶している‥‥という設定だな!」
「そんな設定の子どもたちに、宿題やらせるではなくプロレスごっこを見せる、と?」
「宿題はやるものでも、やらされるものでもなく、仏恥義るもの。だったら、プロレスごっこを見ておくしかあるまい」
「宿題をぶっちぎるかどうかは別として‥‥プロレスごっこを見るかどうかと関係ないですよね?」
 その言葉に、えらい人の鉄パイプを持つ手がピクと動く。
「今すぐ取りかかります。サー! イエッサー!」
 慌てて全肯定になるスタッフたち。おとといとまったく同じノリで、プロレスごっこ王選手権・夏休みスペシャル第3回がスタートするのであった。

参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。

注意:
・夏休みということで、スタジオを飛び出します。どこにリングを置くかは、参加者の希望が一番多かった場所とします。
・場所が多数決で決まる以外は、普段のプロレスごっこと変わりません。
・夏休みスペシャルということで、ランキングは一旦お休みです。ポイントが与えられることはありません。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。

過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・第13回 8月12日 07:00〜
・第14回 8月20日 07:00〜
・第15回 8月26日 07:00〜
・夏休01 8月28日 07:00〜
・夏休02 8月29日 07:00〜

●今回の参加者

 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa1790 タケシ本郷(40歳・♂・虎)
 fa2029 ウィン・フレシェット(11歳・♂・一角獣)
 fa2123 ブルース・ガロン(28歳・♂・蝙蝠)
 fa2132 あずさ&お兄さん(14歳・♂・ハムスター)
 fa3503 Zebra(28歳・♂・パンダ)
 fa3599 七瀬七海(11歳・♂・猫)
 fa4371 雅楽川 陽向(15歳・♀・犬)

●リプレイ本文

『聞こえる、聞こえます。ローカル局で、プロレスごっこを見れない人々の嘆きが! 聞こえる、聞こえます。暴力に悩むスタッフの叫びの声が! だって、猫の耳はながいんだもーん! 愛と正義の使者、ネコノミ仮面参上!』
 なにやら実況の声は聞こえるものの、画面は真っ暗である。といっても、放送事故なわけではない。七瀬七海(fa3599)がリングの下に放送席を設置していたからである。
 画面は切り替わって、先程とは打って変わってた夏の青空が広がる。プロレスごっこともあろうものが、なんと北海道ロケなのである。そんな北海道で屋外リングというか、ただの草むらの空き地にリングが置かれていた。
「まだまだ現役とはいえ、気づけば自分も41歳か‥‥くそ、若さが憎い。憎すぎる!」
 そのリングの上を、レフェリーのタケシ本郷(fa1790)が早くも徘徊している。しかも、死ねだの死んじまえだの、物騒な歌詞を口ずさんでいる始末。ならば、本日最年少の七瀬は隠れてしまうしかない。
『えぐえぐ‥‥初の晴れ舞台が、こんなリングの下だなんてさみしいよう‥‥』
 そう言いながらも、人目のないのをいいことに大量に買い込んでおいた空弁を机一面に広げる七瀬。
『えぐえぐ‥‥カニがおいしいよう‥‥』
 おかげで、気づけばおいしさのあまり涙をこぼしている始末であった。
 そんなリング下には誰も注意を払うはずもなく、外にも普通にウィン・フレシェット(fa2029)の座る放送席があったので、まったく滞りなく番組がはじまろうとしていた。
『あれ? 肝心の七海はどこいった‥‥ま、どうでもいっか。はい、なんと今回は北海道は某社前からの放送となりましたプロレスごっこ!』
 ウィンの実況に促されてよく見てみれば、空き地の片隅にプレハブが豪邸に見えるほどの掘っ立て小屋があった。それが、某社ということらしい。ピサの斜塔もかくやというほど傾いているが、そんな歴史的建造物と比べるのもおこがましいというものである。
『早速、ベス(fa0877)選手が入ってきました! 今回は、永遠のライバル夏の思い出との一戦か? 甘い夏のアバンチュールか? はたまた、宿題とのリアルバウトか? それとも、ダイエットの戦記か? いずれにしても勝率0%! 死中に活ありや? いや、違います。戦う相手はGSDだッ! GSDとは、ごいすー・すごいー・でらい人で一番えらい人の親戚だという情報が、垂れ流しに流れ込んできました!』
 ウィンが勝手なコトを言っている間にも、リングではなく掘っ立て小屋の方に入っていくベス。
「よろしくおねがいしまーす♪ ぴよ? 対戦相手のGSDさんはどこに?」
 ベスが入った場所はがらーんとした、あまりに殺風景な部屋であった。
 そう、GSDとは本当は、がらんと・さみしい・ダイニングの略なのである。ダイニングキッチンでもリビングダイニングでもないので、ただ食事をするためだけの場所であり、食事を作る場所もなければくつろげる場所もない。そしてがらんとさみしいので、テーブルとイス以外には何もない。窓すらもない。
「‥‥ぴえぇ〜!?」
 そして、振り返ればドアすらもないのである。ホラーである。
 いや、本当はあるのだが、入ってくる専用で内面は壁と同化しているので、よく見て隙間を探さない限りは気づけないのである。なので、ベスに気づけるハズもなかった。
「ぴぇ〜ん。めそめそ‥‥」
『一体、中ではどのような死闘が繰り広げられているのでしょうか? 放送席からはうかがい知ることはできません。そんな間にも、ブルース・ガロン(fa2123)選手とあずさ&お兄さん(fa2132)選手がリングに上がっているーッ! 同プロダクション幻糸工房所属同士による、禁断の正面衝突かッ!?』
「ついに‥‥ついに誰もが恐れていたこのときが来てしまった。この日が来るのを‥‥根拠はないが、俺は恐れていたような気がしないでもないような気がしないでも‥‥」
 どっちなんだかよく分からないことを言いながら、傍らに立つお兄さんをバッと見やるブルース。そこには、顔色が悪すぎて、緑色になっていたお兄さんがいた。しかも、額からは触覚が生えている。
「うっ! さすがは無敵にして最強‥‥いや最凶の、まごうことなく天下無双の弄られ役二人の二人による、二人のための頂上対決だけあって、先制パンチも利いているな‥‥」
 お兄さんにうろたえるブルースをよそに、あずさはリングサイドでスクーターを乗り回していた。あずさはAの文字の入った真っ赤なTシャツとハーフパンツを着て、そしてベルトのバックルに電光文字盤では宇宙人を超えられないとばかりに、携帯ゲーム機を装着していた。
「待て待てーッ!」
 そして、そのあずさを本郷が普通に走って追い回していた。反則のカウントを取ろうとしているのだが、なかなか追いつけない。なお私有地なので、法的には反則ではない。
「はぁはぁ‥‥若いだけあって、すばしっこいな‥‥とても追いつけん!」
 スクーターに乗っている相手だということをまったく考慮に入れず、ついに追うのをあきらめる。
「まだまだ‥‥現役‥‥」
 本郷が息も絶え絶えでリングに戻ってくると、リングの上では一足先に戻っていたあずさとお兄さんが、砕けたミラーボールと共に横たわっていた。ミラーボールと共に降りてくるはずだったのだが、そもそもドーム球場ではないので天井がなく、だた自由落下したのみである。
「俺も負けてはいられん‥‥水槽、カモン!」
 そのあずさ&お兄さんの惨状を目の当たりにし、一気にやる気の出るブルース。そう言って、相方の水槽を運び込ませる。
「俺の対戦相手は、某大物芸能人のジャーマネの実家の寿司屋が経営する、有名人は大勢来るが立ち食いソバよりマズいと好評のラーメン屋に提供してもらった、水槽いっぱいのラーメンとバトルロイヤルだ! 誰か一人でも‥‥」
「まずっ!」
 だが、ブルースがルール説明をしている間に勝手に蘇生して食べはじめていたあずさが、一口でぶふーっと吹き出してしまう。
「食えるか、こんなもん! 主を呼べい!」
 本郷にいたっては、怒りのあまり水槽をひっくり返していた。
「‥‥誰か一人でもマズいといったら負けのバトルロイヤルって言おうとしたのに‥‥」
 あずさのミラーボールと同じく、砕けてリング上に散らばる水槽。しかし、負けたにも関わらず、すがすがしい顔をしているのは食べずにすんだからであろうか。
『ガラスの破片だらけのリングに構わず、さらに奇術師Zebra(fa3503)選手が登場です。今回は圧縮空気のマジシャンということで、すでに対戦相手のペットボトル軍団を大量に背負っています!』
「このリングの上からペットボトルロケットで発射され、あそこの某社屋まで到達できたら俺の勝ちだ!」
 海パン一丁の姿で、ルールを淡々と説明するZebra。もちろん、マッチョバディにはブーメランパンツ以外禁止であるのは言うまでもない。
 さらにサーフボードに見立てたスケボーの上に乗っかり、発射の瞬間を待つ。
「ようそろー、ビッグウェーブが来るゼ! 母なる海は‥‥ぬおっ!」
 なにやら言いかけていたが、あっさり発射されるZebra。リングの上を滑走し、そのままスコーン! と、リングサイドの地面に顔面から突き刺さる。
「‥‥ゼブ、このアイスピックよりもいい刺さりしていたゼ!」
 アイスピック片手に、Zebraを抱き起こす本郷。憎かったはずの若さだが、今は若さゆえのムチャに涙が止まらないでいる。
『つづいては、雅楽川陽向(fa4371)選手が犬ミミ、尻尾装着で、犬のコックさんとしての登場です。パティシエでないということは、北の大地の幸をふんだんに味わえるのでしょうか?』
『えぐえぐ‥‥シャケがおいしいよう‥‥』
 リングの下では、すでに七瀬が北の大地の幸を堪能しまくりであったが、誰も知る由はない。まあ、画面真っ暗で放送事故に思われてはコトなので、まったくカメラが入らないのは仕方がないと言えたが。
「いえいえ、対戦相手は、ソーメンや冷麺、杏仁豆腐などの夏の料理ですよ」
 ウィンの実況に応えるように、そう言う雅楽川。しかし、完成したのはなぜかシュークリームであった。
「ドキドキ! カラシ入りはどれだ? ロシアンシュークリーム〜!」
『さすがは本郷レフェリーの憎む、若き10代! ムチャクチャやってくれます!』
 まずは、試合を終えてホッと一息ついていたあずさ&お兄さんとブルースの口に、問答無用でシュークリームが放り込まれる。顔色激悪で緑色だったお兄さんの顔が心なしか白くなった気がするが、単にクリームの白さである。
 そして、雅楽川はリングサイドに下りると、本郷の口にも放り込むもセーフ。しかし、その次のZebraが当たりだった。
「ひょーっ!?」
 半失神状態だったZebraが、一瞬で飛び起きてしまう。
「マジシャンはヤメだ。俺はエスパーになる!」
 そしておもむろに圧縮空気のマジシャンをあっさり廃業宣言し、超能力ならぬ高能力を駆使する宣言をするZebra。先程の打ちどころが悪かったのか、雅楽川のカラシ入りシュークリームが悪かったのか、それは神のみぞ知るである。
『なんと、対戦相手のペットボトルにこれでもかとロケット花火を詰めはじめてしまったーッ! これにて大往生間違いなし、というか死者続出間違いなしッ! 北海道炎上か!? すべてを消し去る奇術師を超えた高能力が炸裂するッ!』
 ウィンはロケット花火と実況していたが、実際にはもっと強力な火薬である。が、よい子がマネするとキケンなので、ロケット花火という体になったのだ。
『キケンなので、よい子はマネしちゃダメですよ!』
 とはいえ、ロケット花火の段階ですでに十分キケンすぎるのは言うまでもない。しかし、Zebraはプロレスごっこ名物打たれすぎ状態になっているので、もう止まらない。
「ルールも変更だ。到達など小さなことは言わん! 建物をぶっ倒せたら俺の勝ち‥‥って、いくらなんでもペットボトルロケットで倒れる建造物があるわけないか‥‥うおっ!」
 火薬が点火され、ぶっ飛んでいくZebra。さすがに放物線を描くことはないが、ものすごい勢いで某社屋へと走っていく。
「球けがれなく道けわし‥‥一打入魂、記録よりも記憶!」
 気づけば、いつの間にかあずさが黄金のバットを構えていて、Zebraを打ち返そうとしていた。
 スカッ! しかし、的がデカいにもかかわらず、豪快に空振りしてしまうあずさ。
「まだまだーっ!」
 なおも止まらないZebraへ、今度は雅楽川が10tハンマーを持って殺到してくる。
「なんでやねん!」
「んなわけ、あらへんやろ!」
 ツッコミのセリフを入れながら、渾身の力を込めて10tハンマーを振り下ろす雅楽川だったが、地面に穴を二つ作るに終わった。なお、片方の穴にお兄さんの左半身が、もう片方の穴にお兄さんの右半身がめり込んでいたが、なぜだか分からないのでそのまま放置である。
 ドカーン! ついに某社屋こと掘っ立て小屋に激突してしまうZebra。傾いていた小屋は、その衝撃であっさりと崩れ落ちてしまう。
「ぴ? ぴえぇ〜!?」
 もうもうと上がった砂煙が晴れてくると、その中にベスが立っていた。
「はい〜」
 ムリヤリ、ベスの大脱出が成功した体にしてしまうZebra。
「若いって‥‥スバらしいな。自分もまだまだやっていけるって元気をもらったゼ!」
 なぜか感動して号泣する本郷。確実に、番組をシメにかかっている。しかし、死ねだの死んじまえだのの物騒な歌詞を口ずさむのだけは、止められないでいた。
「しかし、せっかく北海道まで来たのに、シュークリームだけ食って終わりか‥‥」
 そして本郷の横では、ブルースが血の涙で慟哭していた。
『えぐえぐ‥‥イクラがおいしいよう‥‥』
 そんな周囲の喧騒とは一切関係なく、リング下では七瀬が未だに北海道グルメを堪能していたが、食べすぎで隙間を通り抜けることができなくなり、リングの撤去まで出られなくなってしまったとか。