プロレスごっこ夏休み04アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや易
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報酬 |
0.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/02〜09/04
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●本文
プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居あり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。
TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。その前に、プロレスごっこの一番えらい人が姿を現す。
「気づけば、夏休みも終わろうとしているねぇ‥‥」
「あの‥‥確実に終わっていると思うんですけど‥‥?」
「ん? 今日は昨日始業式を終えただけの、9月2日土曜日だよな。終わったうちに入らない‥‥というか、これから該当する教科の最初の授業に向けて、がんばるってもんじゃあないのかい?」
「まあ、えらい人みたいに堕落した人ならそうなんでしょうが‥‥」
「バカヤロウ!」
調子に乗って言い過ぎたかな? と、さすがにスタッフもビクっとなる。しかし、鉄パイプが振り回されることはなかった。
「今からでも宿題やるヤツなんて、マジメもいいところじゃねーか。夏休みが過ぎても一切やらない、それがあるべき姿だろーが!」
「そ、そーいうものですかね‥‥?」
「宿題のコトが少しでも頭にあったら、夏休みを満喫できねーじゃねーか。だから、宿題のコトは一学期に出された瞬間に忘れ去り、二学期がはじまっても忘れ抜く。そうだろう?」
「は、はぁ‥‥」
「だから、間違っても宿題のコトなんざ思い出さないように、一日のはじまりに何もかも忘れられるプロレスごっこを流してやる‥‥すばらしい!」
こんな人でも、今やえらい人と呼ばれてしまうんだ‥‥と、スタッフ一同世をはかなみながらも、プロレスごっこ王選手権・夏休みスペシャル第4回は構わずスタートするのであった。
参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。
注意:
・未だに夏休みという体で、スタジオを飛び出します。どこにリングを置くかは、参加者の希望が一番多かった場所とします。
・場所が多数決で決まる以外は、普段のプロレスごっこと変わりません。
・夏休みスペシャルということで、ランキングは一旦お休みです。ポイントが与えられることはありません。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。
過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・第14回 8月20日 07:00〜
・第15回 8月26日 07:00〜
・夏休01 8月28日 07:00〜
・夏休02 8月29日 07:00〜
・夏休03 8月31日 07:00〜
●リプレイ本文
いつもとは趣を変え、TOMITV前での集合からはじまる本日のプロレスごっこ。用意されているのはロケバスである。
「っつーか、夏休み終わってるはずなのに平均年齢低いなー、今回。アレだろ、ギムキョーイクとかあんじゃねえの? あー、林間学校に行こーってわけだな!?」
集まった今回の出場者たちを見渡して、Tyrantess(fa3596)が軽口を叩くが、答える者はない。ただ、黙ってアイマスクとヘッドフォンが手渡されるのみである。
そのまま全員が目隠しされた状態で、バスでロケ地まで揺られていく。もちろん、耳には爆音で音楽が流れていて、眠れやしない迷惑仕様なのは言うまでもない。
「‥‥はい、アイマスクを外せ〜」
バスから降ろされ、えらい人に言われるがままに一同がアイマスクを外す。数時間ぶりの光とはいえ、周囲には木々が生い茂っており、眩しすぎるということはない。
「ここがえらい人の家? さすがに、個性的な場所でらっしゃる‥‥って、ちゃんとえらい人ん家って書いたよな?」
会場がえらい人の家だと信じ込んでいたサトル・エンフィールド(fa2824)が、傍らのヨシュア・ルーン(fa3577)に問いかける。問いかけるといっても、板鉛を鋲で裏打ちした特製ハリセンをブンブンと素振りしながらなので、もはや尋問である。
「一番えらい人のところでやりたいって書けばハリセン制裁は勘弁してくれるって言うから、ちゃんと書いたよぉ‥‥」
すでに半泣きで答えるヨシュア。別にヨシュアを助ける意図はまったくなかったが、えらい人がサトルを一喝した。
「ここがオレん家だッ! というか、ここからさらに徒歩だッ!」
えらい人にそう言われてはサトルは黙るしかなかったが、見れば分かるとおり今回の舞台はただの樹海である。えらい人無関係のただの樹海とはいえ、樹海は樹海なので、ナメてかかるとヒドい目に遭う場所なのは言うまでもない。
こうして、さらに道なき道を進んでいく一同。はぐれようものなら遭難間違いなしなので、その無意味な緊張感がたまらない。
「プロレスごっこってはじめてなんだが‥‥思った以上にハードなものなんだな?」
スイカを大量に持っている沢渡霧江(fa4354)がボヤく。ハードも何も、まだはじまってもいないのは言うまでもない。とはいえ、本当に大変だったのは、あらかじめリングを設置しに来たスタッフたちであるが。
「夏休みといえばエジプト旅行フォー! 夏休みスペシャル04の04はフォーエバーのフォー! つまり、永久保存版! みんな、録画と再生と祈りの準備は忘れるなよ☆」
しかし、阿野次のもじ(fa3092)は先程のサトル以上に場所を勘違いしたままで、ズシズシと進んでいく。
同じような景色がつづいて方向感覚もすっかり狂ってきた、小一時間くらい経ったころであろうか。
「現地集合、現地解散でよかったんじゃねーか? ま、最初はみんなで行くのが醍醐味っつーもんかね? って、あれ? せんせー、サトルくんがいませーん!」
Tyrantessが、サトルがいなくなっていることに気づく。
「サトルくんは実況だから、きっと先回りしたんですよ!」
「そ、そーなのか? 一応、探しといた方がいいんじゃねーのか?」
ヨシュアが勝手なコトを言うが、そこでTyrantessの目に『もう一度考え直せ』と書かれた看板が入ってきたので本当に考え直し、ヨシュアの言葉に従うコトにする。
こうしてサトルのことはスルーされたが、実はヨシュアの策略の賜物であった。
「サトルくんは狐‥‥狐といえば油揚げ‥‥油揚げは豆腐を油で揚げたもの‥‥油を床にまくと滑る‥‥滑って転ぶと頭かち割り‥‥って、そういうこと!?」
沢渡のボヤきで音声は拾っていなかったが、ヨシュアは先程そうブツブツと呟いていたのだ。
そして、最後尾を歩いていたサトルの足下に本当に油揚げを撒くと、果たしてサトルはルツーンと滑っていたのだ。後頭部を強打し、血溜まりに沈むサトル。それに誰も気づいていないことを確認すると、一人ほくそ笑むヨシュア。
そんなサスペンスドラマがあったとは露知らず、ようやくリングに到着する一同。
『‥‥サトルくんが行方をくらましてしまったので、ヨシュアの実況・解説でお送りします!』
脇目も振らずに放送席に突進すると、平然と実況をはじめるヨシュア。一方、阿野次が何かに導かれるようにふらふらとリングに上がっていく。
「‥‥ここが、選抜の奪三振記録を未だに持つ投手の名を授かった超人たちが戦った‥‥って、回りくどすぎだね☆ クロスボンバーをしようにもタッグパートナーがいないのが、うん残念。マスク狩り対象者がいないのが、うん残念♪」
『リング上でのもじさんがなにやら言ってますが‥‥お子ちゃまの僕にはさっぱり分かりません。のもじさんの歳でも分からない気がするのですが‥‥女性の歳の話題は禁忌なのでスルーです』
そんな中、阿野次が鉄心と電線を取り出す。
「戦え、自由課題! 巨大コルクを巻いて、電気も磁場も大量発生にれっつチャレンジ☆ えらいひとの鉄パイプも吸い寄せられるくらい強い磁力が出れば、実験は成功だね♪」
そして、おもむろに電線を延々と鉄心に巻きはじめる阿野次。コルクとコイルを間違えている可能性が高いが、そこは触れないであげるのが大人のやさしさというものである。
が、ヨシュアは自らお子ちゃまというだけあって、そんなものは持ち合わせていなかった。
『果たして、いつコイルがコルクに変わるのでしょうか? バットが折れたら、覚えのないコルクが入っているようなものでしょうか?』
ヨシュアの実況も耳に入らないくらい巻き巻きに熱中する阿野次のところへ、Tyrantessが水着姿にギターという自由な格好で上がってくる。
「ふーん、それが自由研究ってヤツか? 要するに、自分の好きなことを自由に研究すればいいんだろ‥‥って、うわっ!」
いきなり突風にあおられるTyrantess。リングサイドでは、月見里神楽(fa2122)が超巨大扇風機の前で台風リポーターになっていた。
そこは、砂浜になっていた。巨大扇風機のおかげで、砂浜にはビッグウェーブが押し寄せてきている。
こんな秘境ともいえる場所にこれだけの機材を搬入させる発注をするとは、月見里もなかなか鬼であった。とはいえ、月見里としてもここまで奥地だとは思っていなかったのも事実だが。
それ以前に、今の段階ではなくて、もっと前にリングより先にこの大がかりなセットに気づけという話だが。
『あ! 自由課題のやりとりで思い出したけど、月曜提出の算数ドリルがあったんでした!』
都合の悪いことをすべて放り投げるかのように、急に算数ドリルに取りかかるヨシュア。
「伝説のビッグウェーブに乗るのです♪」
リポーターの衣装を脱ぎ捨て、ウェットスーツ姿でサーフボードを取り出す月見里。
ビッグウェンズデーというには場所以前に人工的に起こす段階でムリがあるものの、かなりの大波が押し寄せてくる。
「ほら、夏が‥‥海が‥‥呼んでるよ‥‥ごぼごぼ」
みんなも一緒に波に乗ろうと誘いかけたところであっという間に波に飲まれ、樹海の藻屑と消える月見里。
いや、ちゃんと誘いに応じた者たちが2人もいた。応じたというか、単に巻き込まれただけだが、リング上にいた阿野次とTyrantessも波に飲まれていく。
「ビビビ‥‥」
やがて波が引き、Tyrantessだけがリング内に打ち上げられていたが、エレキギターですっかり感電中である。
「みんなやるな! ならば私も負けていられん。スイカを3分間に何個割ることができるかに挑戦しようと思っていたのだが、スイカ割りらしく目隠しもするとしよう。幸い、砂浜もあることだしな」
沢渡が苦労して運んできたスイカを、砂浜に大量に並べはじめる。砂浜といっても、先程のビッグウェーブでほとんど流されてしまっていたが。
「よし、間違った方向へ進んでいたら、うまく誘導してくれよ」
『‥‥‥‥』
しかし、ヨシュアはドリルに忙しく、誘導する余裕がない。そのせいで、目隠しをしたまま、どんどん樹海の奥へと進んでいってしまう沢渡。
「‥‥って、樹海行きにする気か!?」
さすがに気づいて飛び戻ってきた沢渡が、ヨシュアにスコーンと鉄拳制裁である。
「もういい、普通に早割りに挑戦だ! 放送席に破片が飛んでいく危険性もあるぞ? 樹海の蟻はたくましそうだ‥‥フフフ」
沢渡の豪腕一閃、スイカの果汁が飛び散る。そして、こんなときのためにスタンバっていた軍隊アリが、一斉に沢渡目がけて押し寄せてくる。外来種云々ということは気にしない。それ以上に、その後沢渡がどうなったかは気にしない。
なので、『割ったスイカとその付随物は、アリがおいしくいただきました』のスーパーの入った黒だかりの物体の脇を通り抜けて、百鬼レイ(fa4361)が入場してくる。
「プロレスごっこ初出場、ナキリレイ。芸名が読み仮名なしじゃ読めないことは気にせずに、がんばります!」
一方、放送席ではスイカを割った以上にあざやかな赤い花が咲いていた。ヨシュアの姿が消え、代わりにサトルが座っている。
『遅れて申し訳ありません。では、百鬼さんのアサガオの観察日記戦にまいりましょう!』
ラブ&ピースをテーマに、天使の笑顔で実況をはじめるサトル。赤い花の模様が血の色に見えて仕方ないが、この笑顔ならそんなことはありえないだろう。依然、ヨシュアの消息は不明なものの。
「あー、自由研究、何にしましょう? やっぱり、ベタにアサガオの観察ですね。さあ、アサガオの種を蒔きましょう!」
すでに夏休みのロスタイムに突入しているが、そんなことは気にせず種蒔きからはじめる侠気あふれまくりな百鬼。
「さー、この見るからに怪しすぎる肥料を‥‥」
とはいえ、さすがに何も放送できずに終わるわけにはいかないので、ドクロマークの入った瓶から毒々しい色の液体をばら撒く百鬼。
すると次の瞬間、早くも芽が出てくる。さらに次の瞬間には、ヒマワリでもありえないほど大きくなってしまう。
「さすがは樹海とオリジナル肥料の化学反応、アサガオすらもナゾの成長を遂げてしまいます‥‥ぐはっ!」
謎の巨大ツル植物となったアサガオのツルに、あっさり絡みつかれて身動きできなくなる百鬼。もちろん本物のアサガオではないが、月見里バリに金のかかった大がかりなセットである。
「触手プレイと聞いては‥‥黙ってられねーぜ!」
まだビリビリしている身体にムチ打って、よせばいいのにツルに巻き込まれにくるTyrantess。
『まあ、男の百鬼よりもはるかに見栄えがいいですしね!』
サトルの天使の笑みが、さらに輝きを増す。エンジェルというよりは、もはやエロスである。
「先生! 研究の中身どうこうではなく、僕の努力を評価してくださ‥‥」
「もうお別れの時間がやってきてしまいました。エンディングはこの曲、のもじ&カイロ傍立ち隊で『でしょ −ゼロの世界ver.−』」
百鬼の声がだんだん聞こえなくなっていく中、波にさらわれて行方の分からなくなっていたハズの阿野次が、いつの間にか巨大アサガオの横に立っていた。しかも、勝手にエンディングの曲紹介までしている。
「 体中の愛が歌い始めてる 貴方が好きだと
早撃つ鼓動 駆け巡る電流 回る地球で全てが止まる
世界中の元気を集めても 貴方に届ける勇気にたらない 」
だが、歌いはじめた阿野次の声も、百鬼同様小さくなっていく。アサガオの横に立っていれば、当然百鬼やTyrantessのようにツルに巻き込まれてしまうというものである。先のコイル作りが途中で打ち切られた怨念か、のもじをコアとしたツルのコイルが出来上がりそうだ。
『えー、月見里さんが波にさらわれ樹海の藻屑、沢渡さんが黒くコーティングされて、ツルコイルというか触手プレイというかに百鬼さん、Tyrantessさん、阿野次さんのお三方。それからヨシュアは‥‥まあいいとして、無事なのは僕一人ですか? 樹海らしく、いい感じで盛り上がってまいりました! では、ごきげんよう、さようなら!』
盛り上がってきたと言いながら、そこでスパーンとシメてしまうサトル。
結局、何人が樹海に消えたのかはナゾのままである。放送されたのだから、全員無事たったのだと思いたいものだ。