プロレスごっこ夏休み05アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/04〜09/06

●本文

 プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居あり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。

 TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。その前に、プロレスごっこの一番えらい人が姿を現す。
「あの、土日までだったら夏休みのロスタイムというのもアリなんでしょうけど‥‥もう月曜ですし、今日からは普通に授業もはじまると思うんですけど‥‥」
 えらい人へ、さっそく当たり前の疑問を投げかけるスタッフ。夏休みスペシャル中は鉄パイプキャラ封印中のえらい人なので、いつもよりは気軽に質問することができる。
「一年中夏休みだったらいいのになぁ‥‥子どものころ、そう思ったコトはなかったのかね?」
「そりゃ、思いましたけど‥‥今は大人ですし、我々にとっては一年中夏休み=プロレスごっこスペシャルで忙しいだけ、なわけでして‥‥」
「バカヤロウ!」
 ついに鉄パイプ解禁である。今まで力を蓄えていたかのように、ブンブンと振り回すえらい人。
「そうやって、汚れた大人たちが子どもの夢を壊してどうする! プロレスごっこをたくさん放映できてうれしいな、夏休みサイコーだな、そういう姿勢を見せるのが俺たちの役目だろうが!」
「おっしゃるとおりです。サー! イエッサー!」
 冒頭のざっくばらんな雰囲気はどこへやら、急にかしこまるスタッフたち。
 こうして、プロレスごっこ王選手権・夏休みスペシャル最終回がスタートするのであった。

参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。

注意:
・二学期もはじまっているのに夏休みスペシャルということで、廃校にリングを置いて収録します。
・場所が廃校な以外は、普段のプロレスごっこと変わりません。
・夏休みスペシャルということで、ランキングは一旦お休みです。ポイントが与えられることはありません。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。

過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・第15回 8月26日 07:00〜
・夏休01 8月28日 07:00〜
・夏休02 8月29日 07:00〜
・夏休03 8月31日 07:00〜
・夏休04 9月02日 07:00〜

●今回の参加者

 fa0376 伊集院・帝(38歳・♂・虎)
 fa2333 三条院・棟篤(18歳・♂・ハムスター)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa3354 藤拓人(11歳・♂・兎)
 fa3982 姫野蜜柑(18歳・♀・猫)
 fa4203 花鳥風月(17歳・♀・犬)
 fa4287 帯刀橘(8歳・♂・蝙蝠)
 fa4300 因幡 眠兎(18歳・♀・兎)

●リプレイ本文

 寂れた風景にある廃校に、ロケバスが到着する。そこから、プロレスごっこの勇士たちが、続々と降りてくる。
 一歩校門をくぐれば、そこはもう戦いのジャングルだ。廃校そのものがリング、敷地内ならすべてリングという考え方のため、通常のリングは設置されていない。
「早えもんだぜ、あの夏休みスペシャル04から中一日か。わしが一番乗りじゃあ‥‥って、あたしはこんなキャラじゃない!」
 レフェリーの花鳥風月(fa4203)が男塾風味に真っ先に入る。一人ボケツッコミで完結しているはずが、実況の藤拓人(fa3354)がさらに乗っかってきてしまう。
『フッ、あれだけの激戦の後だというのに相変わらずですね、カトリさんは』
「本物の実況なら、驚きコンビの方をとらんかい! もはや肉体言語にて語るまで‥‥改良阿修羅バスター!」
 先にボケたのは花鳥の方だが、理不尽にキレて藤を担ぎ上げ、阿修羅バスターの体勢に入る。
「み、見えます、6本の腕が。あるはずのない2対の腕が!」
 解説の帯刀橘(fa4287)が、驚愕の声を上げる。その中を、花鳥がジャンプしてキメに入る。無論、本当は固定されていない頭を抜くようなマネが藤にできるハズもない。
「これにて大往生間違いなし‥‥って、だからそういうキャラじゃないんだって! 早くレフェリーに戻らなきゃ‥‥」
 花鳥と藤、帯刀によるつかみのショートコントが終わったころには、姫野蜜柑(fa3982)に因幡眠兎(fa4300)も校門に入ってくる。
「なんか、周辺住民の避難完了とかなんとか言ってたよ?」
「あー、気にしないで。ちょっとした私の仕込みなだけだから」
 なにやら物騒な気配を感じずにはいられなかったが、それも佐渡川ススム(fa3134)の登場によって打ち切られる。なにせ、ボロボロになった身体にムチ打ちながら現れたのだから。
 ここでいうボロボロとはみすぼらしいということではなく、ボコボコにされた後で真っ白な灰になる寸前の状態を指す。はじまってもいないのに、なぜこんな目に遭っているのか? もはや常人には理解不能である。
「第13回プロレスごっこ、佐渡川ススムワンナイトシャウッ‥‥へへっ、今日も巻き舌の調子はビンビンだっしゃぁ!」
 本人は巻き舌のつもりだが、実のところ呂律が回らないだけの話である。第13回なぞ8月12日に放映済みであり、3日後には夏休みスペシャルも終わって第16回が放送されようかというところだが、自分でも何を言っているのか分かっていない、かなりキケンな打たれすぎの症状が出ている佐渡川。
「わぁ! 本物の佐渡川選手って、こんなにパンチドランカーなんだ! スゴいや、スゴすぎるよ!」
 確実に誰もが係わり合いになりたくない佐渡川の状態だったが、帯刀が感激のあまり佐渡川に飛びついていく。プロレスごっこを見て育ったと言い張る帯刀、ナマ佐渡川に大興奮である。こんなに幼いうちからここまでマニアックな趣味だと、学校でイジメられていないか心配になってしまうというものだ。
「わぁ! 一番えろい人も本当にいたんだ!」
 えらい人ではなくえろい人なので、これまたやはり佐渡川のことである。佐渡川に汚染されるあまり、打たれすぎっぷりまで影響を受けてしまったようだ。
 そんなキケン領域ぶっちぎりの二人はさておき、校舎につづく校庭がなぜか屋台街になっていた。
『夏休み? 何ですか、それ? 学校が授業を休止するなんて、ファンタジーやメルヘンじゃないんですから‥‥はっ、学校がメルヘンの国になっている! こ、これは早速焼きソバを食べなくてはいけません』
 勝手なことを言いつつ、藤が一番近くにあった焼きソバの屋台に駆け寄る。そこでは、伊集院帝(fa0376)が焼きソバを作っていた。
「へい、らっしゃい!」
『伊集院選手登場! あれ食物仮面Xはいずこに‥‥って、まあいいや。焼きソバ一つ、くださいな!』
 微妙に三条院棟篤(fa2333)のまたの名を間違えつつも、そんなことはスルーで、その場にいる全員に焼きソバがふるまわれる。だが、激高して立ち上がる者が一人。
「主を呼べい!」
 味もレフェリングするのか、花鳥が焼きソバを地面に叩きつける。
「え? 結構イケると思うんだけどな‥‥」
「こんなもの、ソースをまぶしただけのエサよ!」
 因幡の言葉は完全に無視し、堂々と言ってのける花鳥。
「えー、学祭の出し物にそこまで因縁つけますか!?」
「自覚がないようね。ならば、肉体言語にて語るまで‥‥タワーブリッジ!」
 ちょっと伊集院が反論しただけで、すぐに交渉決裂とみなす花鳥。体格差など気にせず、そのまま伊集院をアルゼンチンバックブリーカーの体勢に持ち上げる花鳥。
「はぁっ、はぁっ‥‥」
 そこへ、ちょうど三条院が敷地の回りを一周して、ランニングから戻ってきた。
 食欲覆面Xとしての登場なので、もちろんマスクはしたままである。別にサウナ効果を狙ってマスクをしているわけではないが、常に帽子をかぶる高校球児が坊主頭な理由を身をもって体感中である。
「このままでは、軽度とはいえ佐渡川はんみたくなってまう‥‥ノンノン、タッグパートナーの体重計のためにも、ダイエットせなあかん!」
『‥‥っと、今回は相方伊集院氏からの要望もあって、はじめて食べ物以外と対戦することになった食物連鎖Xこと三条院選手! 伊集院&屋台vs食欲旺盛X&体重計のタッグマッチ、放送時間内にどれだけ体重を落とせるか!?』
 三条院の言葉に慌てて実況の仕事を思い出し、焼きソバをあきらめて実況をはじめる藤。慌てたせいかどうかは知らないが、今まで一度も食欲覆面Xの名を正しく言えていないが、阿修羅バスターを食らった少年にそこまで求めては酷というものである。
「わぁ、スゴいぞ! やっぱり、食欲覆面Xも実在したんだ〜」
 一方、解説の帯刀は焼きソバはあきらめたものの、解説までもあきらめてしまい、ただただ伊集院の登場に感動してしまっている。
「み、水‥‥って、僕の好きなモンばっかりやないスか‥‥」
 三条院が水を求めて屋台をのぞくと、対戦相手にして相方の伊集院セレクションだけあって、三条院の大好物で固めてあった。水はないが、ヤバい色の炭酸なら大量に置いてある。
 ガマンできず、ゴクゴクと飲みはじめる三条院。そして、止まらなくなる。
「はっ、やってもうた‥‥また走らなあかん‥‥」
 数分後、ようやく我に返る三条院。すでに空き瓶の山ができてしまっているので、その分をまた落とさなければならない。ということで、また走り出す。
『‥‥このペースでいくと、三条院選手の勝ちはありえないように思えますが‥‥行ってらっしゃい』
 校門を出て行く三条院に、みんなで手を振る。そして、三条院と伊集院のことは遠い過去のこととして忘れ、校舎の中へと入っていく一同。
「あっ!」
 下駄箱で上履きに履き替えているところで、突然姫野が素っ頓狂な声を上げる。
「え、いや‥‥なんでもないよ!」
 そう言って、無理にみんなを先に行かせると、姫野自身はカメラに向かって小声で話しはじめる。
「‥‥夏になると、学校で水泳の授業がはじまるよね。当然、授業があった日は持って帰って洗濯するんだけど、たまに次の日も水泳があったりするとそのまま学校に置いて帰って、次の日湿ったまま着ちゃう人がいたんだ‥‥」
 マジメな顔になると、長々と説明をはじめる姫野。
「それだけならいいんだけど‥‥一学期最後の日に、持って帰るのを忘れる人が! 1ヶ月はあろう夏休み、湿ったままロッカーに放置された水着には、薄っすらとカビが‥‥しかも、そんな日に限って水泳の授業が! そして、そんな人がここに! 果たして僕は水泳の時間までに、1ヶ月以上も放置された水着に寄生したカビを除去し、清潔な水着を着ることが出来るのか!? 人目に怯えつつ、カビの寄生した水着を洗濯せよ‥‥では、行ってきます」
 忍足で、水着のある場所へ向かう姫野。だが、すでに先発隊はカチコチに固まりカビの生えたナゾの黒い物体を囲んでいた。
「ああぁぁぁッ! 遅かった‥‥」
「え? これ、みかんちゃんの?」
 佐渡川がその黒い物体をほぐしていくと、出てくるは当然スクール水着である。何を思ったか、カビだらけの水着をチューチューと吸い出す佐渡川。
「はぁはぁ‥‥みかんちゃんの着た水着のカビなら、いくらでも食べられる!」
「わぁ! スゴいや、佐渡川さん。真性の変態なんだ!」
「‥‥うわーーん!」
 帯刀はうっとりと佐渡川の吸いっぷりを見ているものの、姫野は恥ずかしさのあまり泣きながら走り出すしかない。
『試合放棄で敗北‥‥ってコトになるのでしょうか? とにかく、次の試合にまいりましょう。つづいての佐渡川選手は‥‥夏休みボケと戦おうと思ってる、とのこと。すでに負けている気がしますが、年中ボケているのをあえて夏休みボケと言い張るその勇気は讃えてもいいかと思われます』
 そう言って、チラと佐渡川を見る藤。佐渡川は依然水着を吸っており、しかも股の部分を集中的に吸っているところだ。あくまでも姫野の小道具であり、姫野が着ていたとは限らないのだが、そんなことは考えないのが漢気というものらしい。
『‥‥は? 台本変更? あんな状態で、今さら何が変わるというのでしょうか? ま、とにかく始業式と戦うんですね? じゃ、講堂に移動しましょう』
 なにやら佐渡川の新しい台本が藤に手渡され、場所を移動する一同。その一同の中から因幡の姿がいつの間にか消えていたが、佐渡川の映像があまりにクドすぎて、誰も気づいていない。
 講堂に入り、ようやく口から水着を離す佐渡川。とはいえ、水着はそのままポケットにしまってしまっている。
「ゴホン。えー‥‥」
 今さら取り繕いようもないのだが、一応改まってみる佐渡川。
「ルールは単純明快、校長の長話に倒れたら負け、最後まで立っていられたら勝ちだ!」
 そう言って、佐渡川が壇上の校長の真ん前にわざわざ立つ。校長とはいってもマネキンで、長い話は内蔵ICレコーダがエンドレスで繰り返す設定になっているだけだが。
 そのせいで、今までの狂気の沙汰っぷりはどこへやら、非常に地味な映像になってしまう。それには、レフェリーの花鳥が黙ってられない。
「アグレッシブさに欠ける! 動かないプロレスごっこなんて、プロレスごっこじゃない! エロくない佐渡川なんて、佐渡川じゃない! ならば、肉体言語にて語るまで‥‥キン肉バスター!」
 佐渡川が動いたのは、花鳥が近づいた瞬間だった。
「‥‥俺は返し技を知っているんだゼ。6をひっくり返すと9になる‥‥ん? 6と9? シックスナイン‥‥ハァハァ」
 勝手にエロワードを作り上げ、佐渡川の息が荒くなる。これには、筋肉でしか語り合えない女子高生を自認する花鳥も、コミュニケーション不能とみなすしかない。
「ひぃ! 近寄るなッ!」
 たまらず、花鳥が校庭へと逃げていく。佐渡川をのぞいた全員が追っていくと、ちょうど伊集院の屋台では姫野がヤケ食いをしているところだった。
「もう、食べて忘れるしかないよね‥‥」
 その横では、三条院が無言でフランクフルトやらりんごあめやらチョコバナナやらをほお張っていた。炎天下を走り回り、完全にコワれてしまったようだ。体重計が出るまでもなく、伊集院の勝ち以外考えられない状況である。
「‥‥はっ、またやってもうた! そうや、廃校やったら長い廊下とかあるし、雑巾がけの走り込みでもして‥‥」
 抜群の手遅れ感の中、講堂へ向かって走っていく三条院。入れ替わるように、因幡が屋台へと戻ってくる。と同時に、なぜかサイレンが鳴らされる。
「相手が大きいければ大きいほど、強ければ強いほど燃えるってもんだよね! というわけで、今まで廃校にチクチクと攻撃をしていたのに気づいたかな? そう、廃校に解体作業用の爆薬を仕かけて回っていたんだね! じゃあ、プロレスごっこ夏休みスペシャル最終回も大トリ、全開‥‥むしろ全壊で行っくよー!」
 そう宣言すると、スイッチを取り出す因幡。
「スリー、ツー‥‥はっくしょん!」
 ドカーン! カウントダウン途中で、ベタにくしゃみをしてスイッチを押してしまう因幡。
「わぁ、プロレスごっこってスゴいや! 佐渡川さんに食欲覆面X、本当に爆破されちゃうんだ!」
 帯刀が感嘆の声を上げる中、少しずつ砂煙が晴れていく。その中に、二つの人影が。アフロになった佐渡川と三条院である。
「脂肪まで燃焼できた‥‥ガクッ」
 よたよたと歩いてきた三条院が、体重計の上に崩れ落ちる。しかし残念なことに、当初よりもプラス体重である。
「最近の校長の話はワイルドですな! だが、俺は最後まで立っていたぞ、股間がな‥‥ぐぼはっ!」
 そして、やはり崩れ落ちる佐渡川。三条院と違ったのは、姫野にツッコミを入れられて倒れたことであろうか。しかも、失神している隙に秘蔵の水着も取り返されてしまった。
『失神KOか!? しかし、校長はすでに因幡選手の手で木っ端微塵! これは引き分けか? 勝敗に意味はないですけど‥‥』
 そんな中、藤が冷静に実況をつづける。そして、花鳥が番組をシメにかかる。
「さ、即座に登校よ! 夏休みの宿題? まさか、そんなものやる必要があるなんて思っているほど腐ってはいないわよね? 何も持たずに登校よ。だって、教科書とか教室に置きっぱなしでしょ? 水着を置き忘れることはないと思うけど」
 佐渡川から取り返した水着を握り締め、しくしく泣く姫野。
 こうして極めて教育的によろしい雰囲気の中、夏休みスペシャルは幕を閉じるのであった。