第16回プロレスごっこ王アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/07〜09/09

●本文

 プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居あり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。

 TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。その前に、プロレスごっこの一番えらい人が姿を現す。
「ランキング戦に戻るぞ。というわけで、倍率ドン! 144、64、16」
 またインフレか、やれやれという空気がスタッフたちの間に流れる。
「さらに倍‥‥にしとくか。この数字で2乗はさすがにデカいしな。というわけで、288、128、32と」
 今までとは違った意味で、言葉を失うスタッフたち。
「‥‥えっ! えらい人が2倍で済ますなんて‥‥何か悪いものでも食べましたか!?」
「ム、カッチーン来たね! 俺だって、こんな数字で満足してるんじゃない! 俺のビッグさは、億や兆という単位でも収まらん。本当は、恒河沙とか阿僧祇とかいう単位を使ってみたい年ごろなんじゃあ!」
「ああ、えらい人の存在が不可思議とかいうオチですか?」
「誰がうまいこと言えと言った、バカヤロウ!」
 下手にうまいことを言ってしまったスタッフが、当然の鉄パイプ制裁を受ける。しかし、一応えらい人にも自分がイカレた存在であるという自覚はあるらしい。
「せっかくあるものなら、使わないまま一生を終えるより、使って死にてえじゃねーか!」
「まあ、その気持ちは分かりますけども‥‥」
「分かるんなら、やるぞ!」
「サー、イエッサー!」
 こうして、ポイントが3桁に収まるという奇跡の中、プロレスごっこ王選手権のランキングがリスタートするのであった。

参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。

注意:
・普通のリングに無観客という、通常のプロレスごっことして行われます。
・ポイントはプロレスごっこの一番えらい人の独断と偏見によってのみ与えられます。すばらしい、おもしろい、えろい、えらい人に媚びる、視聴率が取れる等、一切関係ありません。
・ランキングによるプロレスごっこ王の決定が近づいた場合、その数回前に告知されます。現状、遠い未来の話です。
・すでにインフレ傾向にありますが、決定戦あたりでは多分倍率が1兆倍くらいの超インフレになっていると思います。そういうバラエティのノリに怒らない人募集。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。

ランキング(上位3名、第15回プロレスごっこ王分まで)
 1位 ブルース・ガロン(fa2123) 148pt
 2位 Tyrantess(fa3596) 64pt
 3位 三条院棟篤(fa2333) 19pt

過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・夏休01 8月28日 07:00〜
・夏休02 8月29日 07:00〜
・夏休03 8月31日 07:00〜
・夏休04 9月02日 07:00〜
・夏休05 9月04日 07:00〜

●今回の参加者

 fa0824 ベクサー・マカンダル(13歳・♀・鴉)
 fa1294 竜華(21歳・♀・虎)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2132 あずさ&お兄さん(14歳・♂・ハムスター)
 fa2396 海風 礼二郎(13歳・♂・蝙蝠)
 fa2824 サトル・エンフィールド(12歳・♂・狐)
 fa3577 ヨシュア・ルーン(14歳・♂・小鳥)
 fa4382 アルディーヌ・ダグラス(16歳・♀・猫)

●リプレイ本文

 夏休みスペシャルも終わり、ランキング戦に舞台を戻したプロレスごっこ。よってロケも終わり、いつもの無観客スタジオ収録である。
『さあ、新学期の学校にも慣れてきたころでしょうか? 僕もさっさと巻いて、さっくり学校に行きたいと思います‥‥生放送じゃないけど』
 サトル・エンフィールド(fa2824)の実況で、早速収録がはじまる。巻きと言ったわりには、リング上はまだ無人であったが。
『えー、今回はレフェリーがいませんが‥‥きっと、えらい人がどこからともなくレフェリングしてくれるんでしょう!』
 リング上に人はいないが、リングサイドにはナース姿の月見里神楽(fa2122)が控えていた。
「えっ? 違いますよ、救護班ですよ〜」
 レフェリー云々のところでカメラが自分に向いたことに、慌てて手を振って否定する月見里。格好を見て分かるとおり、自称救護班である。ナース服はさておき、小道具に巨大注射器を持っていたりするが、使われることがないと信じたいものだ。そもそも安全第一のプロレスごっこであるから、救護班の出番があっては本当はいけないのである。
『え? レフェリーはおまえがやれ? 巻きでやるにはいいのかもしれませんが‥‥実況席からカウントとかしないといけないのかな? それは勘弁して欲しいなぁ‥‥ま、そんなときのためだけにヨシュア・ルーン(fa3577)がいるわけだけど。ヨシュアく〜ん?』
 サトルが下僕扱いのヨシュアを呼ぶが、返事はない。いないのだから、返事があるはずがなかった。
『どこに行ったんでしょ? ああ、ヨシュアくんも自分がプロレスごっこの食物連鎖の地位が、ピラミッドの最下層の角の隅でぷちっと潰れているお兄さんの、さらに下に位置する芋虫だって理解して、カメラに映らないようにしているのかな?』
 ヨシュアにヒドいことを言っている体で、さらっとあずさ&お兄さん(fa2132)のお兄さんに失礼なことを言っていたが、冷静に考えれば人形であるお兄さんが最下層なのはやむを得ないところか。
 そこで、放送席のモニタには映っていなかったが、画面の映像が切り替わる。映し出されるは、様々な機器の並んだ制御室。そこに、ヨシュアはいた。
「熱風、疫病、銃弾、ここは碧の地獄。混乱のTOMITVにきわどく涼しい風が吹く。えらい人よ、男の神話を取り戻せ──第16回プロレスごっこ、お楽しみに!」
 そんなことをブツブツ言いながら、空調の機械をいじっているヨシュア。
「最近、サトルくんの実況を構ってあげてないなぁ。でも、冷血のサトルくんだって、これで人の心の温かさを分かってくれるハズさ☆ というわけで、スーパーハッカーの僕にかかれば、こんな空調くらい‥‥」
 空調をいじり、例によってありえない温度設定にしてしまうヨシュア。そこで、映像が再びリングへと戻される。
『‥‥さあ、まず最初にリングに上がったのは、海風礼二郎(fa2396)選手! 夏休みスペシャルでは宿題を終わらせることができず、手付かずの図画の宿題に挑みます‥‥って、まだ終わっていないのに、プロレスごっこに出ている場合なのかーッ!?』
 青コーナー側の片隅にみかんのダンボール箱を置くと、その上に画用紙を敷く海風。さらにどういう原理になっているのかは不明であるが、愛用のチェックの帽子から絵の具やら筆やら水バケツやらパレットやら、ありとあらゆる道具を取り出してみせる。
 そう、海風が描くのはプロレスごっこ会場の風景。なんともイヤな風景画である。
『別にタッグマッチでもなんでもありませんが、対する赤コーナー側ではアルディーヌ・ダグラス(fa4382)選手が、こちらも筆を構えているッ! とはいえ、こちらは半紙を相手に習字です。そんなことよりも、新人アイドルの初仕事にプロレスごっこを選んでしまう事務所のファンキーっぷりには、拍手を送らずにはいられません!』
 口に大筆をくわえ、半紙に向き合うアルディーヌ。ただ四つんばいになって犬のように書いてもおもしろくもなんともないわ! とばかりに、立った体勢を堅守して、がに股というか大股開きというか、そんなムリな体勢で半紙に筆を近づけていく。
「白鳥のポーズ‥‥あっ!」
 両手を大きく広げて優雅な白鳥をイメージしたまではいいものの、ポーズ名を叫んでしまい、肉をくわえた犬よろしく筆をぽとりと半紙の上に落としてしまうアルディーヌ。しかし、こんなこともあろうかと、半紙は大量に用意してある。
『ここでさらに、浴衣姿の竜華(fa1294)が入場してきました。水着というか、水着のサイズと戦うことで、何かを期待せずにはいられません!』
 竜華登場に興奮し、ハサミをシャキーンと取り出すサトル。何をする気だよ? というところだが、まだハサミを使うべきところではないと、かろうじて自制する。
 カーテン一枚で隔てただけの、試着室というにはあまりにデインジャラスな試着台が運び込まれ、その中に何着かの水着を持った竜華が入っていく。
 海風も試着台の搬入でドカドカ揺れるのも気にせず‥‥いや、気にしてはいたが文句も言えず、新たに増えたオブジェを描くのに忙しい。
 対するアルディーヌも、すっかり墨まみれになりつつも、半紙に何か
墨が滴っていて、半紙を置くたびにボトボトと墨が垂れて、まったく試合になっていなかったが。
「‥‥これはデザインがイマイチねー」
 そんな周囲の状況とは関係なく、試着台の中から竜華の声が聞こえると、ワンピースの水着が中から投げ捨てられる。
「‥‥かわいすぎね」
 さらには、タンキニも投げ捨てられる。
『一体、中ではどのような審査が行われているのでしょうか? 一度着た上で脱ぎ捨てているのでしょうか!? ええい、せめて放送席のモニタには中の様子を映さないと、実況できないじゃないかッ!?』
 サトルが一気に老けてエロオヤジ化するが、そこへさらにひも状の何かが放り投げられる。
「‥‥ちょっと布地が小さくなりすぎるかしら?」
 マイクロビキニの水着であった。が、何を思ったか竜華がバスタオルで身体を隠しながら出てくると、マイクロビキニを拾い上げてアルディーヌのところへ行く。
「墨で真っ黒じゃない。さ、これに着替えて方がいいわ!」
「え? あの‥‥まだヨゴレたくな‥‥」
 さすがに拒むアルディーヌを、問答無用で試着台の中へと引きずり込む竜華。
『ええい、カメラはまだか? せめてシルエットだけでも‥‥』
 サトルがすっかりダメ人間になる一方、より間近で見ることのできる海風はハァハァするどころではなく、むしろ次々に増えるオブジェに勘弁してくださいと言いたいところだったが、着替え中の女性に文句を言える度胸などありはしないので、リングからくるりと背を向けてコーナーポストを机代わりに色を塗りはじめる。
 そこへ、なぜか大量の風船がリングに流し込まれる。
「私はかつて風船に負けた。なぜか? ホースがつながっていたからさ」
 勝手に自問自答しながら、ベクサー・マカンダル(fa0824)が入ってくる。
『ああ、試着台が風船で大分隠されてしまいました‥‥ではなく、ベクサー選手が風船に挑みます! 一つ割ればいいのか、全部割らなきゃいけないのか、さっぱり分かりませんが、とにかくリベンジマッチです!』
 以前の戦いの反省を踏まえ、ホースで空気を送り込みながらではなく、すでに膨らませた風船を相手にするベクサー。ハチマキで目隠しをし、数多くそろえた風船相手に下手な鉄砲数撃ちゃ当たる方式である。
「せやぁ!」
 気合い一閃、ベクサーが飛び蹴りを放つ。
「ぐはっ! ビクちゃん、世界が獲れるゼ‥‥ガクッ」
 だが、風船が割れる音は一切せず、上がったのは海風の悲鳴だけであった。海風が背中を蹴り飛ばされ崩れ落ちる。ふわふわした風船はすべてベクサーをよけ、海風まで一直線であった。
「‥‥わっ!? 本当に救護班の出番が来ちゃった!」
 出番がなくのんびりとお茶をすすっていた月見里であるが、慌ててリングに飛び込んでくる。とはいえ、巨大注射器を海風に刺したりはさすがにしない。単に、リングサイドへと退避させるのみである。
「とう! はいぃ!」
 しかし、ベクサーは目隠しをしているのでそんな惨状にはまったく気づかず、なおも突きやら蹴りやらを放っていく。風船が固定されているならともかく、ふわふわしているものを目隠しした上に突きや蹴りだけで割ろうなど、どこの達人の所業だという話である。
 パンパーン! しかし、突如として風船が割れだす。ベクサーは触れてもいない。まさか、気合いだけで割ってしまっているのか? って、そんなワケがない。風船の中でもパンパンに膨らませてあったものが、ヨシュアが温度を上げたせいで膨張に耐え切れず割れてしまっただけの話である。
 パーン! 今度は、風船が月見里の持った巨大注射器の針に飛ばされ、割れた音である。飛ばされ? そう、気温上昇で台風でも発生したのか、急に突風が吹き荒れていた。
 とはいえ、中学生が神様になれるような世界でもない限り、突如として台風が現れたりはしない。ましてや、ここは室内である。よって、あずさが巨大扇風機を使って室内に突風を撒き散らしているだけの話である。
「この時期の強敵といえば、やっぱり台風っ! 台風、出てこいやあっ♪」
 出てこいやも何もあずさが出しているのだが、ツッコミを入れるべきはそこではない。お兄さんが扇風機を支える役なのか、扇風機の真後ろにセッティングされていたのだが、気づいたら巻き込まれて粉々にされ、散骨状態になってしまっていたことであり、それに気づかないでいるあずさに対してである。
 が、リング上は台風通過中なので、それどころではない。アルディーヌの半紙がバラバラと飛ばされていく。人工台風の演出に新聞紙を飛ばすのがお約束であるが、それの代わりにちょうどいいのである。
 さらには、試着台のカーテンまでもが吹き飛ばされてしまう。
『ま、まさか、ついに!? って、着替え済みかよ!』
 サトルが思わず立ち上がるが、すぐにドスンと着席する。
 現れたのは、ややハイネックの、アスリート仕様のスイムスーツを着た竜華だった。結局、露出部分の多さよりも、身体の線を出すことに主眼を置いたようだ。もっとも、その分ピッチリしすぎていて、早着替えには不向きであったが、さっくり着替え終わってしまっている。
 そして、アルディーヌはマイクロビキニを着るハズもなく、タンキニを着ていた。竜華にはキツめのサイズとはいえ、アルディーヌにはブカブカで押さえていないとずり落ちてきてしまうが。そんな中でも、お気に入りの白鳥のポーズをとるアルディーヌ。気温と湿度も上がって、気づけばホットヨガの世界である。
「リング上をずぶぬれにすると後の人に迷惑なので、降らすなよ! 絶対降らすなよ!」
 と言いながら、ホースを扇風機の前にかざすあずさ。そう、そのおかげで湿度もグングン上昇中だったのだ。
 暴風雨の中、竜華とアルディーヌの水着披露の横で、頑なに目隠ししたままのベクサーだったが、バランスを崩してリング下へ転落する。
 パーン! たまたま下敷きになった風船がようやく1個、ベクサー自身の手によって割られる。
 さらにその下には、海風の画用紙が飛ばされてきており、破裂した風船の残骸が貼りついて、見ようによっては趣があると言えなくもない状態になる。
「ベクちゃん、これが芸術は爆発ってことなんだね!」
 月見里とまったりお茶を飲んでいた海風だったが、興奮して飛び上がる。
「そんなわけあるかっ!」
「まあまあ、落ち着いて。リラックスには、レモングラスのハーブティがいけるよ」
 暑くなったところでアツくなるベクサーに、熱い紅茶を勧める月見里。むしろリラックスに逆効果である。
『えーっと‥‥現場の様子はどうですか?』
「こちらはすごい風で、立っているのがやっとの状況です‥‥って、やんできちゃいましたね‥‥」
 サトルの問いかけに、台風リポーターとなったあずさが答える。が、扇風機も止まり、台風一過でリング上は一気に灼熱地獄になっていた。といっても、すべてヨシュアの仕業であるが。
 とそこへ、元凶のヨシュアが涼しげな格好で、肩からクーラーボックス下げて入ってくる。
「キンキンに冷えた冷たい飲み物はいかがですか〜。あ、女性陣にはサービスですよ〜。あ、サトルくんには人の心の温かさの分かるホットがあるから」
 これにカッチーンきたサトルがリングに上がると、大切に持っていたハサミをあずさに手渡す。
「え? いいの? テレビでこんなプレイしていいの?」
 勝手に脳内妄想し、それをさすがに踏みとどまるあずさだったが、サトルがいっちゃってくんなと合図を送っている。止めるお兄さんはもういない。
「うん。えい! さらに、えい!」
 思い切ってヨシュアの海パンを切ってしまうあずさ。だが、さらにサトルの服まで切り刻んでしまう。
「I’m えらい人ーッ!」
 幼い少年のモロ出し映像を覆い隠すように、咄嗟にえらい人が現れる。
「今回も独断と偏見で、ポイントによるランキングがつくゼ!」
 1位 竜華 288
 2位 アルディーヌ・ダグラス 128
 3位 月見里神楽 32
「目指せ、プロレスごっこ王! 以上だ‥‥」
 暑さに耐え切れず、速攻去っていくえらい人。
 一方、リング上ではヨシュアのよく冷えたドリンクを飲みながら、すっかりバカンス気分‥‥一部ヌーディストビーチ仕様であった。