第17回プロレスごっこ王アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや易
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報酬 |
0.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/12〜09/14
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●本文
プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居あり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。
TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。その前に、プロレスごっこの一番えらい人が姿を現す。
しかし、えらい人が今回のポイントを発表する前に、スタッフの一人が言葉を発してしまう。
「夏休みスペシャルも入れると、結構ハイペースになってきた気がするんですが‥‥我々の夏休みというものはどこへ‥‥ぐはっ!」
おかげで、鉄パイプで制裁である。
「バカヤロウ! この倍率発表だけを楽しみに生きている俺様をジャマするとは‥‥というわけで、倍率ドン! 288、128、32」
そんなの生きがいにするなよとは思いつつも、決して口にはできないスタッフ一同。
「いい加減4桁くらいにゃしておかんといかんから‥‥さらに4倍にしとくか? 1,152、512、128‥‥と」
「しておかんといかんって、何の義務なんですか?」
「義務じゃあない。だが、恒河沙とか阿僧祇とかまでポイントをやるとなったら、今のペースだと夏休みが永久にもらえないノリだろ? だから、おまえたちのことを思って、あえて倍率を上げてやったんじゃねーか!」
「阿僧祇って、10の56乗ですよね? 今回でやっと10の3乗なわけで‥‥」
すかさず反論するスタッフを、光速の鉄パイプで黙らせるえらい人。
「バカヤロウ! テレビに携わる人間が、細かい計算なんかするんじゃねぇ!」
「相当大ざっぱな計算な気が‥‥いえ、サー、イエッサー!」
ようやくかやっとかは分からないが、ポイントが無事4桁に突入したところで、通算36回目のプロレスごっこ王選手権がスタートするのであった。
参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。
注意:
・ポイントはプロレスごっこの一番えらい人の独断と偏見によってのみ与えられます。すばらしい、おもしろい、えろい、えらい人に媚びる、視聴率が取れる等、一切関係ありません。
・ランキングによるプロレスごっこ王の決定が近づいた場合、その数回前に告知されます。少なくとも、今年中には終わると思います。
・すでにインフレ傾向にありますが、決定戦あたりでは多分倍率が1兆倍くらいの超インフレになっていると思います。そういうバラエティのノリに怒らない人募集。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。
ランキング(上位3名、第15回プロレスごっこ王分まで)
1位 ブルース・ガロン(fa2123) 148pt
2位 Tyrantess(fa3596) 64pt
3位 三条院棟篤(fa2333) 19pt
過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・夏休02 8月29日 07:00〜
・夏休03 8月31日 07:00〜
・夏休04 9月02日 07:00〜
・夏休05 9月04日 07:00〜
・第16回 9月07日 07:00〜
●リプレイ本文
「さあ、第1回プロレスごっこ実況放送がはじまりました!」
声はすれども姿は見えず、放送席は空であった。実況のサトル・エンフィールド(fa2824)も、解説のヨシュア・ルーン(fa3577)もいない。それ以前に、第1回?
いや、声は違う放送席からしていたのだ。放送席の斜め90度に、同じように放送席が設置されている。そこには、あずさ&お兄さん(fa2132)が座っていた。そう、リング上ではなく放送席での出来事の実況をあずさが、解説をお兄さんがこの第2放送席で行うというのである。プロレスごっこの実況の様子を放送するのはこれがはじめてということで、ウソはついていない。
「おっと、サトルくんが現れました。レフェリーのタケシ本郷(fa1790)さんに何やら手渡しているようですが、これは一体?」
リング上では、サトルが本郷に裁ちバサミと、それに添えられたカードを渡していた。
『はい。えらい人からだって』
「なに? えらい人からだと!? えらい人といえば『テレビに携わる人間が、細かい計算なんかするんじゃねぇ!』という名ゼリフに心洗われていたところよ。そのえらい人からメッセージをもらえるとは、光栄の至り!」
本郷が喜び勇んでカードを見ると、そこには『いつ使うかは君次第だ』と書いてあった。無論、ハサミもカードもすべてサトルの偽造であるが、本郷は信じ込んでしまっている。
「‥‥いつっていつだ? 今以外ねえ! 裁ちバサミ‥‥布を切るハサミ、ならば布を切るまで!」
えらい人に感銘を受けるあまり、本郷は細かい計算なんかせずに生きる‥‥つまり、明日なき今日を生きるだけになってしまっているので、いつと言われればまさにその瞬間以外には存在しない。
『えーっ!?』
今すぐハサミを使わねば‥‥引き上げようとしていたサトルの服を、これでもかとばかりに滅多切りにしてしまう本郷。
「あーっと、これはうれしいハプニングですッ!」
サトルのあられもない姿を凝視しながら、興奮気味に叫ぶあずさ。と、そのあずさの肩が横からツンツンと叩かれる。
「ちょっと待って、お兄さん。今、いいところなんだから!」
サトルの服だけでは飽き足らず下着を切り刻みにかかった本郷を応援すべく、その手を払いながら実況をつづけるあずさ。しかし、お兄さんの手にしてはおかしいと、ようやくそちらの方をちらとだけ見る。
「え? あ、何?」
そこには、やはりハサミを持ったヨシュアがいた。あずさとしても、ローティーンの男の子に声をかけられては、邪険に扱うわけにはいかない。目をリング上に固定したまま、耳をヨシュアに向ける
「えっと、ハサミの差し入れなんですけど‥‥」
「分かった。そこに置いておいて!」
差し入れにハサミは明らかにおかしいのだが、そうとだけ言うと再びリング上のサトルに釘付けになるあずさ。その隙にヨシュアがお兄さんをいじくっていたが、気づきもしない。
オープニングの惨劇も終わり、変わり果てた姿のサトルが放送席に戻ってくる。それを、解説席にすでに着席しているヨシュアが出迎える。
『ヨシュアめ、余計なコトしやがって!』
「サトルくんが勝手に自爆しただけじゃん!」
『ええい、黙れ!』
えらい人に鉄パイプならぬ、サトルにパイプイスで、ヨシュアをボコボコにするサトル。逆恨み、ここに極まれりである。
『ふー、いい汗かいた。さ、試合にまいりましょう!』
ヨシュアの亡骸は一切無視し、服を着ながら実況をはじめるサトル。その様子をさらに実況していたあずさが名残惜しそうにしているが、そんな中草壁蛍(fa3072)のテーマが鳴り響く。
ポップでキュートな入場曲に不似合いな爆音を上げるチェーンソーを振り回し、草壁入場である。
「みんな、こんにちわ〜☆ わたしホタル。ホントはムチャのクイーンで色々ムチャやってたんだけど、ある日突然えらい人の不思議能力にやられてムチャプリンセスになっちゃった☆ クイーンに戻るためには、沢山のムチャ力を集めなくちゃいけないの。とっても大変だけど、わたしガンバル! みんな、ホタルのデンジャラステージを応援してね♪」
普通のチェーンソーではムチャ力の足しにならないとばかり、放り捨てる。そして、運び込まれる巨大エンジンのチェーンソー。
「V8エンジンのものが有名になっちゃったけど、プリンセスの乗る車は12気筒以上って決まってるの♪」
車がV12なのは構わないが、チェーンソーでV12はやりすぎでは? と思われるかもしれないが、V8の時点でやりすぎなので問題はない。むしろムチャ力回収のために、デカい分にはより都合がいいのである。
「よいしょ、ふんぬ〜!」
しかし、持ち上がるハズがない。とそこへ、なぜかシェフの格好なチェダー千田(fa0427)が入場してきてしまう。
「3日過ぎちゃったけど、誕生日オメデトウ♪ ついにピー十路にリーチ‥‥ぼげふッ!」
9月9日は草壁の29歳の誕生日だったのである。30前という歳のことに触れるには一番微妙な時期であるが、そんなことは一切気にしないのがチェダーのムチャキングとしての侠気である。
だが、当然の如く草壁に蹴り倒されるチェダー。しかも、持ち上がるハズのないチェーンソーが、草壁の手によって少しずつ浮き上がっていく。
「ダメだわ。まだムチャ力が足りない!」
持ち上がりこそしたものの、振り回せるわけがない。なので、チェダーに待っているのは圧殺である。ドスンという鈍い音と共に、ぺちゃんこになるチェダー。
「チェーンソーは斬るだけじゃない。こういう使い方もあったのね!」
一方、草壁は変な感心しつつも、少しムチャ力を回収できたようだった。
『あー。チェダー選手、あっさりつぶれアンパンです! 次の試合なのですが‥‥どうする気なんでしょう?』
「ん? ああ、俺の番?」
ピラピラの紙状だったチェダーが、あっさりと膨らんで元に戻る。
「9月12日といえば、言わずと知れたとっとり県民の日! というわけで、鳥取名産二十世紀梨の調理法の少なさと戦うゼ!」
己の人体の神秘には一切触れず、鳥取県民以外初耳であろう情報を披露するチェダー。
早速、梨ジュース、梨コンポート、梨寿司、梨カツサンドなどをダイジェストで平らげていくチェダー。梨の入ったダンボールを1箱消費したところで、中に入っていたメッセージカードにようやく気づく。
「えー、なになに‥‥梨は水分が多く、体を冷やす働きがあります。ぶっちゃけ多量に食べるとお腹を下すので注意‥‥って、先に言えよ!」
言われると気になるもので、今までなんともなかったくせに、急にお腹がゴロゴロと鳴りはじめるチェダー。
「お、おい! それは反則なんてもんじゃねーぞ! ワン、たくさん‥‥反則負けだ!」
本郷が慌てて反則カウントをとる。しかし、こんな極限下に置かれてなお、えらい人の教えを守って細かい数字を無視する本郷。
もっとも、この場合は少しでも早くチェダーを退場させた方がいいので、本郷のファインプレーといえたかもしれない。だが、すべては手遅れだった。
「ふっ、チェダリング前のチェダーチーズが土石流のように噴き出してくるゼ! あ、音にもモザイクかけられねぇ?」
音のモザイクといえばピー音であるが、それ以前に映像からして全カットである。
画面が瞬間的に切り替わると、すっかりげっそりしながらもやり遂げた男の顔をしているチェダーが、サトルの横の解説席に座っていた。本来ならばそこに座っているはずのヨシュアは、いつの間にか姿を消している。
「チェダーがジャマで、サトルくんがよく見えないじゃない!」
その様子をプンプンと怒りながら実況するあずさ。一方のサトルはばっちいものには近づきたくないとばかり、少し席を離している。
『いやー、草壁選手のチェーンソーはスゴかったですね。では、次の第2試合に‥‥』
チェダーの試合はなかったものとして実況するサトル。極めて妥当な判断である。
「ふふ‥‥いつもは解説役ですが、今回は夏の名残惜しさを断ち切るべく、選手としてリングに上がらせてもらいます」
なにやら掃除した痕のあるリングに、水鏡シメイ(fa0509)が上がる。
「トイレの消臭にマッチを擦ったりしますが、ちょっと範囲が広いので花火で一気にやっちゃいましょう!」
夏の風物詩である花火と戦うはずが、若干意味合いが代わってしまった第2試合。まずはマットの上を大量のねずみ花火が滑り回る。
「この程度では!」
パンパンと炸裂していくねずみ花火を、華麗なステップでかわす水鏡。
さらにリング上にスモークが焚かれると、その中をロケット花火が水平に飛び交う。
それらも華麗にかわす水鏡。一方、リングサイドでは草壁が使い物にならなくなったチェダーを流れロケット花火の盾にしていた。チェダーは身動き一つせず、プリンセスのために受け止める‥‥単に動けなかっただけだが。
「スモーク程度では、私には無意味ですよ」
水鏡が優雅に扇子で煙を払うと、そこへ本郷が打ち上げ花火を運び込んでくる。小物の花火など細かい計算に同じ、デカい打ち上げ花火しか認めんというわけである。
「本気のようですね‥‥いいでしょう。私も全力でお相手します!」
そう言って、草壁に投げ込まれたチェダーを花火にくくりつける水鏡。
「ありがとう、夏‥‥そして、また会いましょう‥‥」
号泣しながら最敬礼をする水鏡の前でチェダー花火が打ち上げられ、そしてキレイなチェダーの花が散った。
『夏の後は秋。となれば、秋の風物詩とも戦わねば秋に失礼です。というわけで、最後にマリアーノ・ファリアス(fa2539)選手の入場です!』
チェダーには一切触れないサトル。あずさにも、サトルの見晴らしがよくなったと好評で迎えられている。
そんな中、マリアーノがスタジオ中に日本最大を誇るトンボ、オニヤンマを数匹放つ。
秋なら赤とんぼじゃ? という意見は却下である。マリアーノには、ビッグである必要があったのだ。それは、以前あずさにパンツをハサミで切られて丸出しになってしまったから。
それも遠い夏の思い出と消え去って欲しいものだが、マリアーノのテンションは上がらない。消し去ろうにも、当のあずさがリング下から見守っているわけで。
「べ、別にあずささんに怯えてるわけじゃないヨ」
ムリに空元気を出してみつつ、試合開始である。Tシャツに半ズボン、手には虫カゴと虫取り網という典型的虫取り少年ルックのマリアーノだけに、あずさの視線も熱い。
早速、コーナーポストに止まったオニヤンマに狙いをつけ、指をグルグル回してトンボの目を回し捕まえる伝説の大技に挑戦である。
しかし、ここは自分が目を回す伝統芸を本気で披露してしまうマリアーノ。
『ベタです。ベタすぎます!』
サトルが叫ぶが、あずさの好感度は逆にアップというものである。
「お! 2匹まとめてゲットのチャンス!」
網を振るおうとするマリアーノだったが、急にその手が止まる。それは、交尾中のつがいだったから。
「捕まえるなんテ、マリスにはとてもできなイヨ」
がっくりうなだれるマリアーノ。そこへ、黒コゲながらもいつの間にか復帰したチェダーがやってくる。
「捕まえることができないなら、むしろ我々で同じコトをしてやればよかろうなのだ! 先程、はからずも腸内をキレイにしてしまったから、受け入れ態勢万端だゼ!」
「男同士じゃン! しかも、チェダーさんが受けかヨ!」
「ズ、ズルいよ!」
辛抱たまらずあずさが飛び込んできて、リング上は大混乱である。細かいことを気にしてはいけないと、本郷は静観を決め込んでいる。教えに従っているだけで、決して楽しんでいるわけではないとは本郷の談。
「I’m えらい人ーッ!」
そこへ突然、えらい人の声がかかる。声が若干いつもと違ったが、気にしている場合ではない。
「今回も独断と偏見で、ポイントによるランキングがつくゼ!」
1位 あずさ&お兄さん 1,152
2位 サトル・エンフィールド 512
3位 マリアーノ・ファリアス 128
「呼ばれた者は、リングに上がるように。以上だ‥‥」
しかし、えらい人の姿が見えない。いつもなら疾風のように現れ去っていくのだが、今こそこそ去ろうとしているのはヨシュアであった。
それもそのはず。すべてはヨシュアがボイスチェンジャー越しにしゃべった声だったからだ。サトルとマリアーノをリングに上げさせ、そこであずさにハサミで暴走してもらおうという魂胆である。
しかし、出口でドカンと何かに衝突し、弾き飛ばされるヨシュア。
そこには、えらい人が立っていた。えらい人がアイアンクローでヨシュアを持ち上げると、そのままブンブン振り回しながら入ってくる。
「I’m 本物のえらい人ーッ! 面倒だから、ポイントはそのままでいーや」
ポイントを細かい計算抜きでそのままにしてしまうえらい人に、感動した本郷がうんうんうなずいている。
「じゃ、記念のテープカットやって、シメといてくれや」
ヨシュアをリング内に放り投げると、去っていくえらい人。
一方、ヨシュアはあずさとサトルに囲まれていた。マリアーノは過去の経験からイヤな予感しかしていなかったので、すでに逃げてしまっている。
「1位になった記念に、テープカットしておくね!」
サトルに羽交い絞めにされたヨシュアの前に、冒頭でヨシュアの手によってシザーマンに改造されていたお兄さんを持ったあずさが歩み寄る。
そして、シザーマンお兄さんの手によってヨシュアが断末魔の叫びを上げるところで映像が切れる、そんなホラーな夏の終わりであった。