リフォームで廃墟アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 普通
報酬 0.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/04〜03/07

●本文

 TOMITVの一室で、ディレクターに昇進したばかりの男が、早速上司に理不尽な説教を受けていた。
「大体、おまえにはパンク魂が足りないんだよ。そんなことじゃ、このTOMITVのディレクターは務まらんぞ!」
「パンク‥‥ですか?」
「社会への怒りというかだな、反発心のようなものがこうドーンとなって、番組という形でバーンとだな……」
「擬音ばっかでわからないっスよ」
「なんだとう! だったらてめえ、メタルとヘヴィメタルとデスメタルの違いを的確に言葉で言い表せるんだな?」
「いや、そんな曖昧な境界線のものの違いを述べよと言われましても‥‥」
「かーっ! だからおまえはダメなんだ。そういう憤りを、俺にじゃなく、社会、番組にぶつけていけよ‥‥分かった、普段の私生活から変えないとダメだな。よし、おまえの家を改造するぞ」
「いえ、その‥‥最近二世代ローンで家を建てたばかりでして、いきなりリフォームというのは‥‥」
「守りに入ったテレビマンは、もうダメだな」
「私はどうなっても構いません。しかし、家には妻と子どもが‥‥それだけは勘弁してください!」
 だが、聞き入れられることなく、ディレクターの家のリフォーム番組が作られることと成った。

企画内容:
 8名までの精鋭が一室ずつ割り振られ、各自思い思いにディレクターが常日頃からパンク魂を持てると考えるリフォームを施します。リフォーム作業に費やせるのは丸一日(24時間)です。

 リフォーム個所は、次の中から一つ選びます。
2階建ての木造一戸建て
・玄関
・和室
・洋室
・寝室
・キッチン
・ダイニング
・リビング
・バス
・トイレ
・押入れ
・クローゼット
・ベランダ
・庭
・その他(具体的に明記すること)

 ディレクターに一番殺意を抱かせることができた人が優勝、賞金10万円とディレクターの殺意がプレゼントされます。

 あくまでも殺意を抱かせるまでで、住人が死んでしまうような危険なリフォームはやめましょう。

●今回の参加者

 fa0427 チェダー千田(37歳・♂・リス)
 fa0631 暁 蓮華(20歳・♀・トカゲ)
 fa1769 新月ルイ(29歳・♂・トカゲ)
 fa2188 The:FiveI’s(19歳・♂・蝙蝠)
 fa2944 モヒカン(55歳・♂・熊)
 fa2989 稲川ジュンコ(24歳・♀・ハムスター)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa3135 古河 甚五郎(27歳・♂・トカゲ)

●リプレイ本文

 8人の匠の手によって、リフォームの完了したディレクターのマイホーム。門の前では、その匠たちがディレクターを待ち構えている。
 その中で、佐渡川ススム(fa3134)だけが、なぜか頭を包帯でぐるぐる巻きにしている。包帯には赤いものが滲んでいる。しかも、左手を吊っている。一体、どんなリフォームがあったのだろうかと、思わず引き込まれずにはいられない。
『さあ、本日の主役の登場です!』
 ナレーションにつづいて、問題のディレクターがマイクロバスから降りてくる。
 パーン! 一斉にクラッカーが鳴る。
「ディレクター、この度はマイホーム‥‥ご愁傷様でした〜!」
 チェダー千田(fa0427)の粋な計らいで、クラッカーを全員に配っておいたのだ。
 しかし、そんな歓迎ムードの匠たちに対し、微動だにしないディレクター。見れば、手にはバット、鬼の形相である。バットが金属ではなく木製なのが、唯一残った人のやさしさであろうか。
「も〜、あたしだけは味方なんだからぁ」
 新月ルイ(fa1769)がすり寄ろうとするが、無言でバット一振り、近寄らせてすらもらえない。
「ディレクターさん、あんまりだんまりが過ぎると、ジャーマンスープレックスかましちゃうよ!?」
 プロレスラーのThe:FiveI’s(fa2188)が場を和まそうと軽口を叩くが、ディレクターはくるりと背を向けると、バットに釘を打ちはじめた。木製の意味は、こういうことだったようだ。
 微笑ましいまでに殺伐とした空気の中、早速最初の玄関である。玄関担当の匠は、先程ディレクターに釘バットを用意させてしまった男、The:FiveI’sである。
「黒ペンキをベースに黄、これが映えるんだな!」
 玄関全体に黒ペンキがぶっかけられ、その上に黄のペンキで飛び散っている。そして、ドアにはディレクターの名前が表札代わりにデカデカと書かれている。
 ディレクターのバットを握る手が震えはじめるが、まだ家の中に入ってもいない。
 点灯しているパトランプを無視して中に入ると、そこもやはり黒ペンキの世界であった。
「そして振り返ると、ドアの内側には『No Chance in a HELL!』の文字が! ちなみに、意味は『お前にはチャンスなどないのだ』という‥‥」
「そんな解説、聞きたくないわ!」
 ディレクターがバット一閃! だが、軽々とよけるThe:FiveI’s。それを合図に、そのまま全員土足で家の中へと上がっていく。
 つづいては、稲川ジュンコ(fa2989)の和室であった。
 立派な鎧兜や日本刀、大きな和人形や見事な掛け軸が所狭しと飾られていた。床と壁に2箇所、霊道と称した穴が開いていることに目をつむりさえすれば、ごく普通‥‥というか、趣味の悪い成金の和室といえなくもない。
「実は‥‥すべて曰く付きの品でね。たとえば、アレ。持ち主が家人を惨殺した日本刀だとか‥‥」
 稲川の説明が終わるのを待たず、ディレクターがずかずかとその日本刀を取りに行く。そして、鞘から抜いて振り回す。
「ひぃっ! なんて恐ろしいことを!」
 他の誰にも見えない怨霊が、彼女には見えているようだ。
「いやー! 来ないでー!」
 逃げるように、自分の空けた穴へと落ちていく稲川。それを見届け、刀身を鞘に戻すディレクター。
『おやおや、ディレクターの怒りが怨霊に勝ってしまったようですね‥‥』
 そんなナレーションは無視して、暁蓮華(fa0631)がガムを噛みながらカーテンを開けた。
「どうだ、すばらしいだろう?」
 そう言って、薄暗かった部屋に一転、光のシャワーが降り注ぐ。庭は夢の国のパレード状態、まさに光の宝石箱である。
「庭に植えてある木々は、すべて四角や丸型に整形して未来都市をイメージ。さらに、中央に池を配し、その中もイルミネーションの嵐。テレビマンにふさわしく、まさに不夜城!」
 周辺住民からの苦情は殺到するだろうが、少なくともパンクとは程遠い、メルヒェンなリフォームである。
 だが、暁がガムで風船を作りながら手渡した書類により、事態は一変する。
「あ、そうそう。家庭用100Vから工業用200Vに変更しといたから。配線も直結のみで、ブレーカーを落とさない限りは24時間点きっ放し。見積もりはこのように‥‥」
「ふざけんなっ!」
 あまりの金額に、バットを振り回すディレクター。だが、暁はひょいとかわしてみせる。庭という開放的な場所ゆえ、逃げ場が広いのがよい。
 そんなディレクターをなだめながら、佐渡川は庭から壁を指差した。
「あの壁のへこみは何なのか? まずはこちらのVTRをご覧ください」
 いきなり、ヘリからの空撮でディレクター宅が映し出される。屋根の上では、佐渡川が大きく手を振って高笑いを上げている。まさに、なんとかと煙の面目躍如である。
 屋根を見れば、金色に塗りたくられ、そこに大きく『佐渡川ススム』と書いてある。
「俺が有名になったとき価値が出るから、大事に取っとくんだぞ!?」
 ふざけたことを言っている佐渡川であるが、若干壁こそ壊れたるものの、人目に触れない屋根だけならば実害のないおとなしそうなものに見える。しかし、それだと佐渡川が傷だらけなのを説明できない。
「イマイチ物足りねーなぁ‥‥っと、うわぁ!」
 バランスを崩した佐渡川だが、かろうじて屋根のへりをつかんで転落を免れる。が、いきなり左手が光ったかと、佐渡川の身体が吹き飛んだ。そして、ピンボールのように落ちていく。
「み、見たか!? こ‥‥これが、パンクソウ‥‥ル、だ‥‥」
 そこまで言ってガクッと倒れたところで、VTRが終わる。見れば、佐渡川が感動でうんうんうなずいている。
 さすがにディレクターも怪我人に強く言うことはできないのか、微妙な顔で佐渡川をにらむだけであった。
「では、自分の番ですね? パンクしたメタルということで、水周り処置が急務とみましたので、1階トイレを担当しました」
 つづいて、古河甚五郎(fa3135)である。英語ならばpunkとpunc(ture)で違うが、日本語では同じというヤツである。わざと間違えているならば鋭いボケということになるのだろうが、素で間違えているだけに余計にタチが悪い。
「配管は、ご覧のようにガムテで補強。この時期不安な凍結によるパンクも心配無用です」
 配管は元より、タンクまでガムテープでぐるぐる巻きにされ、漏水どころか水の流しようもない。だが、古河の説明はつづく。
「便座のカバーもガムテ製。パンクの心配もなく、粘着性ですからお尻の埃もよく取ります。トイレットペーパーもガムテ。大変丈夫で、よく汚れを取ります。そして、いつも清潔な手を保つため、ロールタオルもガム‥‥」
「うがー!」
 いつ終わるとも知れぬ古河の説明にブチギレて、ディレクターが釘バットを振り回して暴れる。バットが当たった拍子に水道管が破裂し、辺り一面水浸しになる。
「ああ! まだ補強が足りなかったようですね!」
 さすがの古河でも、ガムテープだけでは水圧との戦いに決着がつかない。必死にガムテープだけでなんとかしようとする古河を置き去りにして、一同は2階へと上がっていく。
「1階のトイレは使えなくなっちゃったけど、2階はあたしのだから安心よ!」
 新月に促されて入った2階のトイレは、黒一色になっていた。The:FiveI’sの玄関から、黄色を抜いたテイストである。その代わり、白ペンキで髑髏マークやアメリカン落書き満載である。
「でね、蓋を開けると激しいロックがガンガンに流れるのよ!」
 またもディレクターのバットテクが見られるかというところで、新月がペラリとはがした。種明かしである。
「でも、ほら。これは壁紙で、はがせば元通り。蓋の音楽も、簡単に取り外せるし」
 それでも憤慨したまま、ディレクターは出て行ってしまう。
「ああん、照れ屋さんなんだからぁ」
 新月がカマらしい甘ったるい声を出すが、当然スルーのディレクター。
 そして、モヒカン(fa2944)の寝室である。ここは、ある意味深読み一切なしの直球勝負であった。
 室内灯は骸骨で覆われ、壁紙は人間のデスマスク柄、もちろん蛍光色である。
 ベッドには、スピーカーが埋め込まれている。流れるは、パンク、メタル、ハードロックと入り混じった音楽が流れる。といっても、モヒカンの趣味でメタルがヘビロテになっているが。そして、ボリュームこそ睡眠学習できる程度に抑えられているが、身体がズンズンに揺れて安眠を保証するように、ボディソニックは効いている。
 そして、突然ディレクターの釘バットを奪ったかと思うと、パンクを演出するために頭突きで折ってしまう。釘のせいで若干流血しているが、そこはモザイク処理でなかったことに。
 振り回すものがなくなってしまったディレクターといえば、そんなモヒカンにただひたすらドン引きなだけである。
 そして、大トリは千田の子ども部屋である。子どもに手を出す時点ですでに情け容赦ないのに、入った瞬間にいきなりモザイクだらけである。
「見ている方は、モザイクだらけでなんのことだか分からないと思いますが、ディレクター秘蔵のえっちな本を貼りつけてあります。いやぁ〜、なかなか良い趣味をお持ちで♪」
「さて。一足お先に、お子さんからの感想を頂いておりまーす♪ VTRドン!」
 ディレクターは、これで完全にブチギレである。稲川の日本刀をいつの間にか手にしているディレクターは、抜き身で振り回しはじめる。当然、千田はかわすが、今までだったらその一振りでで終わるところ、もはやは地獄の果てまで追いつづけるべく目がイッてしまってる。
「お父さん、サイテー!」
 逃げながらあおる千田。日本刀を振り回すディレクターのせいでリフォーム分以上に壊れているような気がするが、無論気のせいではない。
『優勝は、どう見てもチェダー千田さんです。本当にありがとうございました!』