暑さ熱さも彼岸までアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/23〜09/25

●本文

「いや〜、相変わらず暑いですね〜」
 残暑の厳しさに、後輩が汗を拭きながらスタッフルームに入ってくる。そこへ、待ち受けたる先輩が口を開く。
「だがな、昔から暑さ熱さも彼岸までといってだな‥‥」
「あの‥‥温度が高い方ばっかで、低い方がない気がしてならないのですが‥‥?」
「まさか、テレビに携わる人間が暑さ寒さも彼岸までとか、使い古された言葉を使うんじゃないだろうな!?」
「使い古されているからこそのことわざなんじゃ‥‥」
「‥‥でだ‥‥」
「相変わらず、鋭すぎるほどにぶった切りますね‥‥まあ、それでこそ先輩ですけど。で、なんです?」
「バカにされてる気がするのはいいとして‥‥暑さ熱さも彼岸まで、つまり彼岸を過ぎると同時に寒さと冷たさしかない世界になってしまうのだよ!?」
「なんですか、そのオンとオフしかないムチャな世界は?」
「まあ、実際にはそんな急に寒くなったりはしないが、幸い放送日は秋分の日。そんな世界を勝手に創り上げる神になるには絶好の機会!」
「神って‥‥まあ、そんな番組作って神気取りもいいですけど‥‥それ以前に放送日が秋分の日って、もう放送決まってるんですね? 相談とかじゃないんですね?」
「うん。神だし」
「じゃ、何も言うことはないです‥‥というか、言っても意味ないです‥‥」
 こうして、ただ寒さや冷たさに耐えるだけというガマン企画がスタートするのであった。

企画内容:
 一人一人の用意した寒いもの、冷たいものに耐える挑戦をしていきます。その際のガマンするリアクションのおもしろさを競い合います。
 それぞれに、同時に全員で挑戦します。一定時間経過後、あるいは飲食物だったら一定量完食後、リタイアしなかった人が次の寒いもの、冷たいものに挑戦します。
 寒さ、冷たさにガマンできない場合、リタイアできます。そこで挑戦は終わりとなり、以後ぬくぬくとその様を観覧できます。
 失神、凍傷の悪化等、競技続行不可能と判断された場合、失格となります。以後、リタイアと同様に扱われます。
 必要な物、装置等は指示があれば、すべて番組で用意します(絶対零度の冷凍庫とかはムリですけど)。
 収録はスタジオで行います。南極に行くとかのロケは不可能です。
 最後まで残った人に、優勝賞金1万円が送られます。一番おもしろリアクションをとったと判断された人に、敢闘賞10万円が送られます(敢闘賞の方が10倍高額です)。
 リタイア・失格になった場合、優勝はないですが敢闘賞を受け取る権利は残ります。
 その他こまかいルールは、スタッフがルールブックです。

過去の放送スケジュール:
・辛さ臭さも彼岸まで 8月14日 7:00〜

●今回の参加者

 fa0013 木之下霧子(16歳・♀・猫)
 fa0427 チェダー千田(37歳・♂・リス)
 fa1790 タケシ本郷(40歳・♂・虎)
 fa2671 ミゲール・イグレシアス(23歳・♂・熊)
 fa3503 Zebra(28歳・♂・パンダ)
 fa3571 武田信希(8歳・♂・トカゲ)
 fa4463 三島 麗華(19歳・♀・兎)
 fa4466 立花 奈保子(19歳・♀・猫)

●リプレイ本文

 暑さ熱さも彼岸まで──それは、彼岸の中日秋分の日を境にして、寒さと冷たさしかない世界になってしまうことを指した言葉である。
 今、出場8名の目の前には、冷凍室の巨大な扉がそびえ立っている。まだ暑いこちら側の世界、そして極寒のあちら側‥‥言うなれば、この扉こそがすべてを隔てる秋分の日なのだ。
 しかし、放送日であるその秋分の日を越えられそうにない挑戦者が、早くも出ようとしていた。
「いや〜、まだまだ日中は暑いね。こうなったら、人間クーラーしかないね!」
 チェダー千田(fa0427)が一歩進み出ると、メガネをはずして汗を拭ったりと、小芝居をはじめる。
「わっ! こんなところに全面ガラス張りのサウナがあるよ!」
 武田信希(fa3571)が今気づいたかのようにわざとらしく驚くが、冷凍室前にはなぜかサウナが併設されているのである。
 決して、中で凍えた人が暖を取れるように設置されたものではない。これから、チェダーが入るためだけに設置されているのである。
「説明しよう! 人間クーラーとは、要するに肉布団。外気温40度を超えると人間の体温の方が低くなることから、古代エジプトなどで使われていた方法のことだ。そして何より、人間クーラーになるのは主に奴隷として売買されていた女性であったという!」
 普通に気温が40度を超えることなど真夏でなければムリなので、そのためのサウナだ。そして、サウナ入り口には水着姿の美女軍団が待ち構えている。
「あー、寒いなーッ。凍えちまいそうだゼ〜♪」
 早速中に入り、人間クーラーの涼しさというより感触を堪能するチェダー。残る7人が白い目で見る中、鼻の下を伸ばしっぱなしである。
「しかーし! この程度の寒さでは、俺を倒すことはできんッ! もう一人追加ーッ♪」
 そこへ、がっしりした男性にしか見えない水着美女が入ってくる。
『‥‥申し遅れましたが、実況を務めさせていただく木之下霧子(fa0013)です。えー、ただ今チェダーさんの堪能してらっしゃる人間クーラーですが、美女軍団ではなく美ニューハーフ軍団であると判明しました。ではチェダーさん、引きつづきがんばってください!』
「な! ちょ‥‥」
 木之下に淡々と告げられた事実に、青ざめてサーっと体温の下がるチェダー。
「ちょっ、やめ‥‥脱がす‥‥触んなって! その動きはッ、ヤバ……ぁふン!?」
 急遽、男として反応したら負けにマイルール変更していたチェダーだったが、不覚にも下半身がアツくなってしまう。つまりは、暖をとったということで失格である。
「ふっ‥‥国破れて山河あり。齢38にして、ついに男の道を踏み外す‥‥か、ガクッ」
 意味不明のことを言って、膝から崩れ落ちるチェダー。だが、人間クーラーは倒れることを許してはくれない。ただ、余計に揉みくちゃにされるのみである。
『はい。さあはじまりました、暑さ熱さも彼岸まで。早速、秋分の日を越えた極寒の日々に突入してみましょう!』
 木之下がさりげなく編集点を作りつつ、チェダーの屍は踏み越えずに無視して、残る全員が振り返りもせずに冷凍室の扉の中へと入っていく。いや、ただ一人木之下だけは別の扉から入っていく。
 そんな中、水着姿の三島麗華(fa4463)と立花奈保子(fa4466)も冷凍室に入っていく。彼女らはチェダーに用意された水着美女ではなく、水着で寒さに挑むれっきとした挑戦者なのである。だから、入る先もサウナではなく、水着に不似合いな冷凍室である。
「お、思ったより寒いですね、三島さん」
「そんなバスタオルだけじゃ、自殺行為もいいところですわよ。ほら、もっとこっちに寄りなさい」
 水着以外はバスタオルだけという立花の肩を、毛布を持っている三島がそっと抱き寄せる。イチャイチャしすぎてアツいだろそれは? と失格になりかけるが、つづきが見たいスタッフの男子どものせいでそのまま続行となる。
「彼岸、彼岸ってなんだ〜? 墓を参るコトさ。盆ってなんだ〜? 先祖を祭るこーとーさー♪ 心の故郷、最北端の球団が1位通過したことやし、ここはわいも1位通過や!」
 一方、想像以上の寒さにコワレ気味なのか、ミゲール・イグレシアス(fa2671)が突然歌いだす。が、カメラが向いていることに気づくと、歌をやめて自己紹介に走る。
「むぁいど! ミゲールや。ホンマ、ええ鍛錬になるわ‥‥」
 空手胴衣をブラックベルトで縛るだけという軽装のミゲール。確実に寒稽古間違いだが、自分で自分にツッコミを入れるタイミングを計っているところなので、誰も関わろうとはしない。
 とそこへ、場内アナウンスが入る。
『はい、みなさん入りましたか? まずは1分ほど身体をクールダウンさせてから、ミゲールさんの競技からはじめたいと思います』
 見れば、壁に大きなガラス窓があり、その向こうに実況の木之下がいた。しかも、窓の向こうは寒くもなかろうにスキーウェアを着込んで汗ばみ、さらには両手で抱えきれないほどの使い捨てカイロの海に溺れている。
『おーっと、早くも皆さんの闘志が痛いほど突き刺さってまいりました! スゴい意気込みです!』
 木之下は暑いを通り越して熱中症寸前であったが、ガラス越しに突き刺さる氷の視線があまりに心地よいので、かろうじて正気を保てている。
『では、みなさんのリアクションを助けるべく、まずは目の前でカキ氷を‥‥』
「ほな、わいのからいかしてもらいまっせ!」
 ドジっ子アピールをつづける木之下の実況は聞こえないコトにして、早速競技に入ろうとミゲールが巨大扇風機を運び込ませる。
「沖縄古流唐手の熱い息吹は、寒さにも打ち勝てると証明せんと!」
 あっという間に寒風が吹きすさび、容赦なく体温を奪っていく。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫じゃないですけど‥‥三島さんとなら乗り越えられる気がします」
 おかげで三島と立花は、二人でくるまる毛布は剥ぎ取られそうだけど、二人の結束はヒートアップという北風と太陽状態だが、そもそも太陽など存在しない。
 しかし、太陽がないくらいで嘆いていてはいけない。ミゲールはさらに氷水を撒かせ、暴風雨というかブリザードと戦っている。
 だが、三戦立ちで耐えるミゲール。風に吹き飛ばされることはないものの、身体の熱が奪われることになんの影響も及ぼさない三戦立ちで。が、そこは気持ちの問題である。精神論万歳なのである。
「あかん‥‥気持ちようなってきた‥‥」
「‥‥氷水のお味はどう?」
 水を撒くスタッフがミゲールに声をかける。
「まろやか〜ん」
「もう一丁行く?」
「オーッス。わいはぺヤンガーやからな!」
 すると、そのスタッフが隣のスタッフと小声で何やら話している。
「寒さ比べは熱くない、そう思ってた時期がありました」
「寒さ比べは熱いと?」
「ああ、寒さ比べって魂が熱い競技なんだな」
「そうや。わいの魂を凍りつかせることなど、できへんのや!」
 その安らかな死に顔からは、きっとこういう夢を見ているに違いなかった。そう、現実のミゲールはすでに氷柱と化していたのだ。こんなトコで水を撒いたら、凍りつくに決まっている。
 カチコチのミゲールが搬出されていく。扇風機は撤去され、残るは5人である。
「じゃ、うちの番だね! さあ、この究極の寒さにどれだけついてこれるかな? おいしいよっ‥‥というコトで、今回はドライアイスのかき氷、しかも名古屋風なんだ☆」
 武田がそう言って、まずは氷のカキ氷で名古屋風とはどういうものかを示してみせる。そして、いざドライアイスのカキ氷を作ろうとしたところで、なぜか猛獣が骨を噛み砕くような音が聞こえてくる。
「ん?」
 武田の横では、Zebra(fa3503)がボリボリとドライアイスを噛み砕いていた。
「‥‥子どものころ、魚の目を焼かれたときの熱さは今も忘れない俺、みたいな?」
 さらには、特効のように激しく白い煙を吐いているのだが、冷凍室では元からそんなような状況なので、ただのやり損である。
「‥‥というわけで、ドライアイスをかいちゃダメだ! 巨大カキ氷のトッピングにドライアイスの塊。それが名古屋風ってもんだろ?」
「〜ッ!? 目から鱗が‥‥そうだね。オレ竜だもんね! さあ、氷を食べ切るきるまでにドライアイスを蒸発させるなんてチキンはいないよね!?」
 武田とZebraだけ、山のようなカキ氷という勝手なチキンレースをはじめる。
「〜ッ!? 目から氷が‥‥ガクッ」
 そして、早くも武田が勝手に脱落していく。
「暑いし熱い! いやー、暑いねー! ほんと暑い! 茹っちゃう!」
 強がって言ってるならいいが、本気で言ってるのだとしたらかなりヤバい状況になってきているZebra。ハンカチを取り出すと、汗を拭う。
 しかし、汗を拭くフリして摩擦熱で暖を取っていたので、まだ正常のようだ。とはいえ、目の前のマウンテンは減る気配がない。
 そして、残る3人は普通のカキ氷である。とはいえ、この状況下ではキツいことに代わりはない。
「立花さん‥‥はい、アーン」
「もう、自分が食べたくないからって‥‥パク」
 三島に差し出されたスプーンを、パクリと食べてあげる立花。助け合う美しい友情? いや、微妙に違ったのかもしれない。
「もぐもぐ‥‥こうやって私の口の中で温めてからなら、飲めるでしょう?」
 そう言って、口移しで溶けたカキ氷を三島の喉に流し込む立花。毛布の下は水着だけなのだから、いい加減ドクターストップをかけてもよさそうな状態だったが、ドクターも男子だったので止まらない。経過観察といいながら、違う観察続行である。
 そんな間にもZebraの心はあっけなくパキっと折れ、暖かい放送席へと逃げ込んでしまう。
「あ、おねーちゃん! ラーメン、一丁!」
『えー、冷たいジュースやシャーベットしか用意してませんよ?』
 木之下が暑さで溶け気味のアイスを差し出す。すでに心の折れているZebraは一瞬泣きそうな顔をしたものの、ガンガンに暖めている部屋なので、すぐにも冷たいものがちょうど食べたくなってくる。
『さあ、いよいよ残るも三島さんと立花さんのコンビ、そしてタケシ本郷(fa1790)さんだけで‥‥本郷さん!? 今までじっとしていたので、気づきませんでしたよ!』
 それまで気配を殺していた本郷だったが、真打登場とばかりに大股で中央に歩み出る。
「フッ‥‥今まで黙って耐えていたわけではないゼ。この瞬間を待っていたんだ。サブいギャグを炸裂させるこの瞬間を、な!」
 確信したビクトリーのVか、サブいのVか、Vサインを両手で作る本郷。
「あの人、変ですよぅ」
「しっ、見ちゃいけません!」
 抱き合いながら、必死に本郷から視線をそらす三島と立花。それでも、体温が一気に下がった気がした。
「ふっ、2Vヤツらだ‥‥ならば、真にサブいものを見せてやろう」」
 Vサインだった手を、大きく開く本郷。するとそこには、小指から親指に向けてA〜Eの文字が書かれていた。
「まだ分からないのか? まったく、人間としてのレベルがマイナスな連中だ‥‥」
 分からないのではなく関わりあいたくないのだが、本郷にそんな空気を読む気はない。ただ、親指を立てるだけである。
「もう分かったろう? 親指にE、ThumbにE、サムにイー、サムイー。そういうコトだ!」
 暑い放送席にまで、絶対零度を下回る寒さがあるのかと思わせる、絶妙の闘気ならぬ凍気。
「ああん、まだコッチの寒さの方がイイ〜。イクよりイカせたいの〜ん」
 だがそこへ、パンツ一丁で全身キスマークだらけでフラフラになったチェダーが、冷凍室の方がまだマシと逃げ込んできていた。そして、本郷の股間に突進していく。
「このヤロウ! とりあえず、死んどけぇい!」
 すぐさま体勢を入れ替え、チェダーをパロスペシャルに極める本郷。チェダーごときにアツくなってしまったので、さりげなく失格である。
「アツくならないでください! この氷で頭を冷やして‥‥きゃっ!」
 そこへ、たまらず木之下が飛び出してくる。だが、急に冷えた場所に出たせいか、足をもつれさせてしまい、持っていた巨大氷がスポっと吹っ飛んでいく。
 そして、氷はパロスペシャルで動けないチェダーの側頭部に直撃し、砕け散った。
『ごめ〜ん。この血溜まりは拭き取ってなかったことにしておきますね、テヘヘ☆』
 こうして、震える三島と立花が残ったわけだが、それが寒くてなのか怯えてなのかは分からない。だが、一心同体の二人を戦い合わせるのは酷ということで、
『優勝は、三島さんと立花さんペア〜!』
 両者優勝ということになった。チェダーのコトはキレイさっぱり忘れて、木之下がそう宣言する。
 賞金も半分ずつではあまりにセコいので、1万円ずつが贈られた。
『そして、敢闘賞は本郷さん〜!』
 また、プロレスラーの身でありながら、芸人も寒さに逃げ出すほどのサブいギャグを繰り返した本郷が敢闘賞となり、賞金10万円が贈られた。