第19回プロレスごっこ王アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや易
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報酬 |
0.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/26〜09/28
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●本文
プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居あり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。
TOMITVのプロレスごっこ収録スタジオ。えらい人が呼び出しをかけたりせずとも、みな黙々と準備に取りかかっている。いや、えらい人の姿が見えないだけに伸び伸びと、いつもより効率がいいくらいである。
ランキング戦のポイント配分法が決まったので、あとはそれに従うのみ。だから、えらい人が無意味な発破をかける必要はなかったのだ。
そのポイントも、今回は1京、1兆、1億。そのインフレはどうなのよ? とは思っていたものの、口に出したりはしない。どこでえらい人が聞いているかも分からないし、それでえらい人が飛び出してきたりしたら、せっかくの和やかな時間が台なしだからである。
こうして粛々と準備が進む中、通算38回目のプロレスごっこ王選手権収録当日を迎えようとしていた。
参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。
注意:
・ポイントはプロレスごっこの一番えらい人の独断と偏見によってのみ与えられます。すばらしい、おもしろい、えろい、えらい人に媚びる、視聴率が取れる等、一切関係ありません。
・ランキングによるプロレスごっこ王は、ポイントで不可思議(10の64乗)を超える人が現れたくらいで決定の予定です(年内決着予定)。
・毎回上位総入れ替えのインフレですが、そういうバラエティのノリに怒らない人募集。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。
ランキング(上位5名、第17回プロレスごっこ王分まで)
1位 あずさ&お兄さん(fa2132) 1,156pt
2位 サトル・エンフィールド(fa2824) 513pt
3位 竜華(fa1294) 288pt
4位 ブルース・ガロン(fa2123) 148pt
5位 マリアーノ・ファリアス(fa2539) 133pt
過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・夏休04 9月02日 07:00〜
・夏休05 9月04日 07:00〜
・第16回 9月07日 07:00〜
・第17回 9月12日 07:00〜
・第18回 9月21日 07:00〜
●リプレイ本文
『96日です、みなさん! この数字が、何を意味するか分かりますか? 勘のいい人なら分かると思いますが‥‥そう! プロレスごっこ『2』がはじまるまでのカウントダウンなのです!!』
番組開始と同時にいきなり、実況のサトル・エンフィールド(fa2824)が勝手に続編の宣言をしてしまう。まあ、誰もがはじまると思っているので、文句を言えた義理はない。
『おそらく、今度はポイントがマイナス制で、一番低い者には毎回罰ゲームが待っているのでしょう! この場合、デフレと言うべきかインフレと言うべきかは分かりませんが‥‥ヒドい話です』
なおも勝手なコトを言いつづけるサトルに、放送席の隣に座る解説のヨシュア・ルーン(fa3577)がおずおずと口を挟む。
「サトルくん、来年のことを言うと鬼が笑うっていうから、やめときなよぉ‥‥」
『あーん!?』
それまで天使の笑顔だったサトルが、一瞬にして鬼の形相になる。さらには手にしたブローパイプをかざして威嚇してみれば、ヨシュアはもう黙って目をそらすしかない。
そう、プロレスごっこのえらい人といえば鉄パイプ。ならば、プロレスごっこの実況といえば何か? 不必要にライバル心を燃やしたサトルがたどり着いた答えこそが、ブローパイプだった。しかし、ライバル心を燃やし、溶かしつくすためのブローパイプだとしても、何が噴き出してくるのかは分からない。
「ふっ‥‥この番組、一筋縄ではいかないようだな‥‥」
その様子を映していたカメラマンの鶸檜皮(fa2614)が、思わず呟いてしまう。が、その瞳には何かを決心した光があった。
「おそらく、まともな思考回路では番組についていけないだろう‥‥思考レベルを切り替える必要があるだろうな‥‥ならば、必殺! フリフリシェイク!」
カメラを持っているにも関わらず、ヘッドバンギングをはじめてしまう鶸。ヘッドバンギングしなくとも十分まともな思考回路ではないような気もするが、そういう人ほど自分の脳を揺らしたくなるものらしい。
「プロレスごっこの迫力を伝えるため、キャメラマンとして‥‥」
別に英語っぽく発音しているわけではない。頭をシェイクしすぎて、単に呂律が回らないだけの話である。カメラの映像も揺れまくり、視聴者までもが酔いかねないので、思考レベルを切り替えるどころか、すでに映像は別のカメラに切り替えられている。
「ふっ‥‥番組のために身体を張るのは、当然の義務だ‥‥」
それでも、やり遂げた男の顔をする鶸。すでにパンチドランカーで真っ白な灰状態であるが、まだ試合は一試合たりとも行われていない。
「このタケシ本郷(fa1790)には夢があるッ! それは、えらい人が来る前に全試合を完璧に終わらせることッ! 夢のためならば、多大な犠牲もやむを得ないッ!」
そこへ、レフェリーの本郷がリング上で大声を上げていた。多少ではなく多大と言い切るあたりが本郷らしかったが。
「そうだ‥‥己の犠牲を厭わってはいけない。俺は、俺にしかできない仕事をやるだけだ‥‥」
鶸が勝手に本郷に感銘を受けているところへ、さらにレフェリーのコスチュームに身をまとった人影がリングに飛び込んできた。自ら打たれすぎとなった鶸のカメラはその動きについていけてなかったが、ちゃんと別のカメラが押さえているので問題はない。
「そのレフェリング、ちょっと待ったぁーっ!」
ちょっと待ったコールを出したその人影は、やはりレフェリーである伊集院帝(fa0376)だった。
「ふふ‥‥プロレスごっこにおけるレフェリーダブり程度、想定の範囲内だろう? それとも、まさかできないとか言うんじゃないだろうね?」
挑発的にビシっと本郷を指差す伊集院。ここまでされて、引き下がるような本郷ではない、普段ならば。
「ふっ、おもしろい‥‥と、いつもの俺だったら言ってたろう。だが、今日の俺は夢のためならばどんなことだってしてみせる!」
思わず伊集院に飛びかかる本郷。伊集院もとっさに構えるが、二人があいまみえることはなかった。二人の間には、突然せり上がってきた神輿の屋根の部分が障害として横たわっていたからだ。
『あーっと、リング上に突如出現した神輿ですが‥‥これは一体、何を意味しているのでしょう? 給料泥棒のヨシュアく〜ん、解説らしく分析できるよね‥‥?』
ブローパイプ片手に、ヨシュアにムチャ振りするサトル。
「サトルくん、相変わらず唐突だよ‥‥おそらく、あの上に乗って何十秒揺すられても平気かどうかを競うのでしょう。ほら、よく知りませんけど、だんじりって奴ですよ?」
文句を言いつつも、解説してみせるヨシュア。冒頭のサトルと同じく、かなり口から出まかせなのは否めないが。
「あらためまして‥‥みなさん、真プロレスごっこへようこそ。これから、今まさにこれから、みなさんの目は身体を離れ、このプロレスごっこの世界に入り込んでいくのです!」
しかも、調子に乗って実況までも仕切りなおしてしまうヨシュア。サトルはどうせムダな解説がつづいていると思って聞いていなかったので、まだ気づいていない。
「それでは、天界のキャバクラ、96日の迷宮、プロレスごっこのはじまりです。実況、解説はヨシュア、サトルのパシリでお送りします。レフェリーは二人、第一レフェリーは股間で空中制御できるザ・グレート・本郷と、第二レフェリーは角が増えただけの獣神・サンダー・伊集院です。おっと、今慌てて全身を金色に塗られています」
神輿のことなど忘れ去られ、ヨシュアの実況どおりに本郷と伊集院に金粉が塗られていく。本郷は夢のためにもこんなことをしている場合ではないはずだが、ついつい従ってしまっている。あるいは、金色の人々が神輿を担ぐという奇祭なのであろうか?
「う、美しい‥‥いや、何が美しく何が美しくないのか、何が正しく何が間違っているのか、それを判断するのはテレビの前の視聴者とえらい人だ‥‥俺は、ただありのままの現状を撮るだけだ‥‥」
興奮した鶸が、リング上を激撮する。金粉ショーの本郷と伊集院を美しいと思うあたりは、確実に脳が揺れているものと思われる。
「この前‥‥テレビのニュースで‥‥見ました。えらい人は‥‥神輿が‥‥好きなんです♪ ということで‥‥プロレスごっこリング神輿と‥‥対戦です‥‥」
声の主は湯ノ花ゆくる(fa0640)、よく見れば神輿の屋根の装飾がメロンパンによって施されていることからも分かるとおりの対戦相手であった。そう、神輿の屋根の部分がただせり出してきたわけではない。リングそのものが神輿になってしまったというわけだ。
「では、プロレスごっこ、レディ・ゴー!」
『‥‥って、いつの間にか仕切っていた!?』
ようやくサトルがヨシュアの暴走に気づく。となれば、えらい人が鉄パイプで制裁するの同様、サトルはブローパイプでヨシュアを制裁するしかない。
ブローパイプから、何かが吹き出てくる。安全重視で単なるエアだったが、その風圧にヨシュアの服がどこぞの魔法先生のくしゃみのように吹き飛ばされていく。
「ふっ‥‥ティーン前のお子ちゃまのオチンチンには、モザイクをかける必要などないな‥‥」
リングから鋭く放送席にカメラを戻した鶸が、シェイクされた脳で勝手な判断をする。しかし、依然鶸の撮る映像はスイッチャーに殺されていたので問題はない。
そんな間にも、金ピカになった本郷と伊集院を載せたリング神輿がちょっとだけ浮かぶ。もちろん、湯ノ花一人の力で持ち上がるわけがない。黒子の格好をさせられたスタッフたちの努力の賜物である。しかも、用意された黒子の衣装がメロンパン柄で、目立つことこの上ない。
「ランキング‥‥最下位のまま‥‥終われません‥‥」
そう、ポイントランキングで圧倒的最下位を走るのが、この湯ノ花であった。0点は芸能人の数だけいるが、マイナスの域に達しているのは湯ノ花ただ一人なのである。このインフレのご時勢、逆に目立つ存在だ。
「最下位のままなのは‥‥恥ずかしい‥‥ですから‥‥がんばります」
最下位のままの方がおいしいんじゃ? と思う黒子スタッフ一同であったが、メロンパン柄といえど黒子は縁の下の力持ちであるからして、黙って湯ノ花以上にがんばるしかない。
「‥‥苦労しているようだな? 我が対戦相手だが、貸し出してやってもいいぞ」
そこへ、股間にニンジンを突き立てた、馬にとっては扇情的なコスチュームのZebra(fa3503)が現れる。そう、Zebraの対戦相手は天高く馬肥ゆる秋ということで、太めの馬である。
しかし、ポニー程度にしておけばいいものを、Zebraは重さにこだわって1トン以上もあるばん馬を連れてきてしまっていた。確かにリング神輿相手にポニーではムリだが‥‥案の定、Zebraの股間のニンジンに興奮し、暴れだしてしまう。
「ちょ、暴れるな! こら、噛むんなら股間のニンジンにしろ!」
股間のニンジンと一緒に、違うニンジンまで噛まれたらおいしいな? くらいに思っていたZebraだが、ばん馬がただ単に暴れ馬になることは予想外だった。
「放馬したぞ! ファー!」
マッチョなZebraとはいえ、1トンの巨獣が暴れてはどうにもならない。ただ、黒子のスタッフたちが蹴散らされていくのを眺めているしかない。湯ノ花は、いつの間にか姿を消してしまっている。
「さすが、プロレスごっこはハプニングの宝庫だ‥‥ぐはっ!」
接近した迫力の映像を求めて突撃した鶸が、あっさり蹴り飛ばされていく。だが、一人殺すも二人殺すも同じの理論により、打たれすぎ度に違いはない。
「ええい、時間厳守! この隙に、次の試合をこなすのだ!」
「いや、そんなことよりも、いい加減この金粉を‥‥皮膚呼吸が‥‥」
そんな周囲の喧騒をよそに、夢実現へ向け残る食欲覆面Xこと三条院棟篤(fa2333)戦をはじめようとする本郷。対して伊集院は、レフェリー対決に持ち込む前にすでに息も絶え絶えになっていた。
「ホンマ、こんな中でやるんでっか? まあ、僕はカレーと戦うんやけども‥‥」
「‥‥スプーンは‥‥凶器だぞ‥‥」
レフェリー対決に勝ちたいんやと、そして相方には厳しくありたいと、ヘロヘロになりながらも反則カウントを取りはじめる伊集院。だが、5までカウントする余力がなく、凶器認定とはならない。
なので、三条院の前にはカレーが運び込まれ、普通にスプーンを手にすることができている。が、普通のまま終わるはずがない。
「ニンジン入りま〜す」
自分発であることを一切無視し、リングサイドから避難してきたZebraが、勝手にカレーの中に股間のニンジンを切り刻んでトッピングしはじめる。
「うわっ、食べる気萎えるわ‥‥食欲覆面じゃなくなってまう‥‥」
生であることよりも、股間から突き出ていたことを気にする三条院。
「超豪華、金粉入りま〜す」
伊集院も最後の力を振り絞り、Zebraに釣られて身体の金粉をカレーに振りかけていく。
そこへ暴れ馬がリングに体当たりして、リングが大きく揺れる。
「ああ、味をごまかすためのラッキョウと福神漬けが!」
最後の希望であった小皿がぶちまけられ、涙目になる三条院。もはや、徒手で金粉生ニンジンカレーに挑むしかない。
「I’m‥‥」
そこへ、ついにえらい人の声がかかる。三条院には救いの天の声かもしれないが、本郷にとっては地獄の底からの声である。夢は破れてしまうのか?
バタン! ドアを閉める本郷。まだ全試合終わっていないので、ムリにでもえらい人を登場させないつもりである。
「I’m‥‥」
バタン! またもドアを閉める本郷。一瞬しか映らなかったが、えらい人が鼻血を垂らしていたように見えたが、一応は流血禁止のプロレスごっこ。そのえらい人が鼻血など、気のせいであろう。
いや、気のせいではなかったようだ。ドスドスと鋼鉄製の扉が拳型に膨れてくる。その鈍い音からは、怒りが感じられる。
ドッシャー! ついに、本郷ごとドアが吹き飛ぶ。
「I’m えらい人ーッ! ちょっと手こずったが、今回も独断と偏見でポイントによるランキングがつくゼ!」
1位 伊集院帝 1京
2位 タケシ本郷 1兆
3位 鶸檜皮 1億
「目指せ、プロレスごっこ王! 以上だ‥‥」
何事もなかったかのように、引き上げていくえらい人。若干足がふらついていたのは気のせいである。
ドカーン! 一難去ってまた一難。えらい人の去ったリングへ、トラックが激突していた。乗っているのはきっちり18歳未満の湯ノ花である。まあ、公道ではないので、法的にはまったく問題はない。問題を被っているのは、周囲にいる人々だけである。
「さすがに‥‥長時間担ぐのは‥‥大変ですから‥‥トラックの上に載せて‥‥運転します‥‥」
何事もなかったかのように言い放つ湯ノ花。もっとも、そのおかげで馬が怯えて立ちすくんでいたが。
「僕、甘いのんの方が好きやねんけど、辛いのんもそこそこは行けるんやで♪」
そして、リング上では三条院が、すべてのカレーがぶちまけられたことをいいことに勝手なことを言っていた。
「車の免許は‥‥持っていませんけど‥‥来年挑戦する予定ですから‥‥よい予行演習です‥‥。ぶつけないように‥‥がんばります‥‥」
運転席から降りてきた湯ノ花が、確実に手遅れなことを言っている。
「‥‥やれやれだぜ」
一方、吹き飛ばされていた本郷が起き上がると、もはやそう言うしか他になかった。