第20回プロレスごっこ王アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
牛山ひろかず
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや易
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報酬 |
0.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
10/05〜10/07
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●本文
プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居あり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。
TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。その前に、プロレスごっこの一番えらい人が姿を現す。
「今回のポイントは、1垓、1京、1兆。ついに垓だよ‥‥って、そんなコトはどうでもいい!」
「えー!?」
スタッフ一同、思わず声を上げてしまうが、そんなことで鉄パイプを振り回すえらい人ではない。今日のところは。
「それよりも、垓の上の『じょ』なんだよ。漢字が出ねーんだよ。どうすんべか?」
「どうにもならないんじゃないですか? ぐぼはっ!」
投げやりに答えるスタッフの一人。となれば、何よりもプロレスごっこにアツいえらい人が黙っているハズもない。今日のところはと言ったそばから、早速鉄パイプで制裁である。
「うーん、繰り上げて穣へいっとくか。『じょ』に『じょう』だから読みも似てるしな」
「読みは関係ないと思いますけど‥‥ぐはっ!」
相談しているというよりはえらい人の独り言のような状態だったが、それでも余計なコトを言ったスタッフは鉄パイプで制裁される。
「今回は『1垓、1京、1兆』だけど、次回は『1穣、1垓、1京』な!」
「サー、イエッサー!」
よって誰も口を挟めないので、『Sir,Yes Sir!』と答えるしかない。『No Sir』すらも許されていないのである。
今回は垓、次回は穣。残すは溝、澗、正、載、極、恒河沙、阿僧祇、那由他、不可思議のみである。のみと言っても、あと2桁回数以上あるわけだが。
こうして、初代プロレスごっこ王誕生が見えてきたんだかこないんだかよく分からない中、通算39回目のプロレスごっこ王選手権は突き進んでいくのであった。
参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。
注意:
・ポイントはプロレスごっこの一番えらい人の独断と偏見によってのみ与えられます。すばらしい、おもしろい、えろい、えらい人に媚びる、視聴率が取れる等、一切関係ありません。
・ランキングによるプロレスごっこ王は、ポイントで不可思議(10の64乗)を超える人が現れたくらいで決定の予定です(年内決着予定)。
・毎回上位総入れ替えのインフレですが、そういうバラエティのノリに怒らない人募集。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。
ランキング(上位5名、第18回プロレスごっこ王分まで)
1位 サトル・エンフィールド(fa2824) 1兆513pt
2位 阿野次のもじ(fa3092) 1億pt
3位 マリアーノ・ファリアス(fa2539) 1万133pt
4位 あずさ&お兄さん(fa2132) 1,156pt
5位 竜華(fa1294) 288pt
過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・夏休05 9月04日 07:00〜
・第16回 9月07日 07:00〜
・第17回 9月12日 07:00〜
・第18回 9月21日 07:00〜
・第19回 9月26日 07:00〜
●リプレイ本文
「 ある日突然、あなたに8人ものプロレスごっこ選手ができたらどうしますか?
それも‥‥とびっきりかわいくて。
とびっきり素直で。
とびっきり愛らしくて。
とびっきりの淋しがりや。
しかも、そのうえ‥‥
彼らはみんなみんな、とびっきり!
えらい人のコトが大好きなんです‥‥ 」
なぜか解説のヨシュア・ルーン(fa3577)の意味不明のナレーションではじまる本日のプロレスごっこ。その横では、実況のサトル・エンフィールド(fa2824)が冷ややかな目でヨシュアを見ている。
『‥‥はい。今日は群青青磁(fa2670)さんの解説で‥‥』
「いや、放送席でゴロゴロしているだけで、解説をするつもりはないんだが‥‥ま、面倒だしそういうことでいっか」
サトルのフリに、狼の覆面をかぶった群青が応える。それに黙っていられないのはヨシュアだ。
「ちょ、いきなり無言で編集点作るなんてあんまりだよ、サトルくん! 『えらい人』を『えろい人』に変えると佐渡川ススム(fa3134)さんになるし、素直なのはどこぞのメロンパン芸能人だけど、結構ツンデレな気があるし──ああ、デレがメロンパンに対してで、ツンがそれ以外のすべてに対してね──かわいいはあずさ&お兄さん(fa2132)のあずささんで、お兄さんの方は寂しがりやさんでしょう? そして、新キャラの小峯吉淑(fa3822)さんもチェキですよ!」
『‥‥ヨシュアくん、そういうことを言ってるんじゃないんだよ‥‥』
言葉遣いこそ丁寧だったものの、得物のブローパイプに炭を詰めはじめるサトル。
「わわっ、ブローパイプを向けないで! 愛らしいのは夏姫・シュトラウス(fa0761)さんだよね? はっ! まさか、サトルくん‥‥愛らしいのは自分だなんて思ってないよね? ね?」
『今宵のえらい人の食卓は、小鳥の丸焼きか‥‥』
ブローパイプを手に、ヨシュアへと迫るサトル。同じ放送席にいる群青は、変な世界に巻き込まれるのはゴメンだと、すでに一歩引いてしまっている。
「‥‥とはいえ、チビッ子に危機が訪れたとき、颯爽と現れ助けるのが2m近い俺の役目‥‥って、俺が一番背が高いから、全員チビッ子じゃん!」
一人ボケツッコミをしつつも、サトルの手からひょいとブローパイプを取り上げる群青。
『な、何を‥‥OK‥‥』
殺人鬼というか、罪をなすりつける刑事の目になるサトル。そう、群青はサトルの空いた手に包丁を握らせてしまったのだ。
『ヨシュア・ルーン‥‥バラバラ殺人事件‥‥』
ぼそりと呟くサトルに、あれこれ言っていたヨシュアの身体がピクと固まる。
『遺体は五つに切り離され‥‥東京全域で発見される‥‥』
「な、ななな何を‥‥」
『こ、これは‥‥難解なヤマとなるやろおのお〜』
得物が変わったせいで、口調まですっかり変わるサトル。
「‥‥自首してきます」
これはシャレにならんと、サトルの包丁を取り上げて頭を垂れるヨシュア。そして、何も起きないうちにと、すばやく出口に向かっていく。
『うむ、事件解決おめでとう!』
妖刀を取り上げられたかのような晴れやかな顔のサトルが、去っていくヨシュアの背中に言葉を送る。
『‥‥国破れて山河あり、か。それにしても、今回も‥‥ミョーに後味の悪いヤマだったぜ‥‥』
勝手なことを呟いてまとめにかかるサトル。しかし、恒例のオープニングコントなので、深刻に考えることはない。深刻に考えることはないのだが、ヨシュアの出番は今回はこれっきりである。
『‥‥はい。今日のプロレスごっこは、実況サトル、解説群青さんでお送りします』
「よろしくどうぞ」
サトルが、念のため編集点を今一度作る。群青も慣らされてしまったのか、それに乗っかる。まあ、面倒だし乗っかっとくか程度の話であったが。
『本日の第一試合は‥‥おっと、早速入場してきました!』
サトルの実況の中、深刻な顔をした湯ノ花ゆくる(fa0640)が入場してくる。
「佐渡川さん‥‥プロダクションを‥‥追い出されて‥‥住むところが‥‥ないみたいです‥‥」
佐渡川のかつての所属プロダクションは解散しただけで追い出されたわけではないし、そもそもそこに住み着いていたわけでもない。仮に住み込んでいたのだとしても、佐渡川は提灯屋のあかり処玉音屋でまったりしているのである。
「これからの季節‥‥どんどん‥‥寒くなって‥‥いきます。佐渡川さんが‥‥凍えて縮んで‥‥しまいます‥‥」
佐渡川は打たれすぎだが、別に徘徊がごとく路上生活をしているわけではない。ついでに言えば、脳は萎縮しているかもしれないが、身体が縮んだりすることはない。
が、勝手な思い込みで突っ走れるのが湯ノ花のいいところである。
「そんな‥‥佐渡川さんの‥‥ために‥‥お家を‥‥作って‥‥プレゼントです♪」
そう言って運び込まれてきたのは、自転車とドラム缶。これで移動しながら生活しろとムチャを言い出す模様である。
「お湯を‥‥入れれば‥‥お風呂にもなりますし‥‥でも、その前に‥‥まず‥‥佐渡川さんに‥‥ドラム缶に入って‥‥もらわないと‥‥間取りが‥‥」
『おーっと、ここで都合よく第二試合の佐渡川選手が早くも入場です!』
「むむ、あれはえらい人が吹き飛ばした鋼鉄製の扉じゃないか?」
興味なさ気に見ていた群青であったが、急に身を乗り出して解説をはじめる。そう、佐渡川の対戦相手は、えらい人が拳一つでぶち破った鋼鉄製の扉であった。
「てめぇ! えらい人に流血させたからって、チョーシこいてんじゃねぇぞ! ああっ!? 何か言えよ、オラ!」
リングの上に扉を置くと、早速下からのぞき込むように、鋼鉄製の扉に因縁をつける佐渡川。
「あ‥‥佐渡川さんです。採寸の‥‥時間ですよ‥‥早く‥‥入ってください‥‥」
「へっ、ジョートーじゃねえか! そっちがその気なら‥‥え?」
相変わらず扉とやり合っていた佐渡川だが、湯ノ花に引っ張られあっさりドラム缶の中に放り込まれてしまう。
「えっと‥‥蓋をして‥‥それから‥‥」
用意しておいた組み立てマニュアルに従い、ドラム缶に蓋をする湯ノ花。残念ながら、コンクリで密閉とかいうことはない。
だが、蓋をしている間にマニュアルをどこまで読み進めたか分からなくなってしまう湯ノ花。
「えっと‥‥縄を巻き‥‥自転車につなぎ‥‥メロンパンのペイントを描き‥‥自転車に乗って‥‥ちゃんと引けるか試運転です‥‥ね♪」
間取り関係は一切無視し、ついでに引っ張られることになるドラム缶に車輪をつけることも忘れ、すぐさま自転車にくくりつけられる。
「レッツ‥‥試運転です♪」
ガランゴロンと鈍い金属音を上げながら、リングサイドを引きずり回される佐渡川入りドラム缶。メロンパンペイントのドラム缶でトランスルーセントではないので、中でどうなっているかは一切不明である。が、きっとヒドいことになっているであろうから、視聴者にとっては見えない幸せというものである。
そこへ突然、ヒヒーンと馬のいななく声が聞こえてくる。
真打は遅れて登場するとばかりに、レフェリーでありながらようやく登場する夏姫。白馬にまたがっての入場である。しかも、芦毛ではなくきっちり白毛の馬を用意させる念の入れよう。
「どけい、小僧! ひき殺されたいのか!?」
夏姫がそう言ったときには、すでに佐渡川の入ったドラム缶が馬に蹴り飛ばされた後だった。その衝撃で自転車にくくりつけてあった縄が切れ、フェンスに叩きつけられてしまう。
が、建付けがいいのかドラム缶はベコリとへこむのみで、中の佐渡川がぶちまけられることはない。
「うろたえるな、小僧ども! 紳士たるもの、黙って次の試合に突入だ!」
何事もなかったかのように下馬してリングに立つと、夏姫は次のあずさ&お兄さんの入場を促してしまう。
そこへ入ってきたのは、ハサミを手にしたあずさだった。小道具で毎回手渡されるハサミ。ならば、いっそのことそのハサミと共に試合をしてやろうじゃないか、というあずさであった。一方のお兄さんには、石がくくりつけられている。
「へこみ具合が‥‥アーティスティックでは‥‥ありません。この‥‥ブローパイプで‥‥微調整‥‥しましょう‥‥」
そんなあずさの入場とは関係なしに、リングサイドでは湯ノ花がサトルから奪ったブローパイプでドラム缶をガンガン叩いていた。無論、佐渡川は中に入ったままである。
「ファイッ!」
リング上では、夏姫が試合開始の合図をかけていた。ハサミはあくまでもタッグパートナーであり、凶器認定を一切しないのは言うまでもない。
「長きにわたるグー、チョキ、パーの三つどもえの戦いに終止符を打つべく、ハサミマスター、もしくはハサミプリンセスの名にかけて、ハサミで石を打倒します!」
『これはあずささん、大きく出ました! しかし、石をどうやって切るというのでしょう?』
サトルが自分の服が着られるのではないかと若干怯えつつも、実況をつづける。
「今回の凶‥‥もといパートナーは、厚さ1.2mmの鉄板も切れる倍力ハサミ! ではデモンストレーションを‥‥って、何か手ごろなものは‥‥?」
鋭い目で獲物を探し求めるあずさ。飛び込んできたのは、対戦相手の石にくくりつけられたお兄さんであった。
お兄さんの胴体を真っ二つにするあずさ。ヨシュアのときとは違い、ホントのバラバラ殺人事件発生か!? と思いきや、切れていたのは服だけだった。っつーか、ここで地味にそんなマジックを挟むなという話である。
「‥‥あ、サービスになっちゃった!」
思わずあずさが叫ぶが、オカマ人形の裸体で悦ぶ域に達するには、相当の修練が必要であろう。
「‥‥じゃ、試合開始ね!」
ひょいと石をつまむと、リングサイドに放り投げるあずさ。そう、頭脳戦に出たあずさは、これでリングアウト勝ちを収めようというのである。
が、夏姫は場外カウントをとろうともしない。スイッチの入った夏姫がレフェリングする試合に、そんな決着が許されるハズもないのだ。
「甘ったれるな、小僧! そんな画を視聴者が求めていると思うな! 視聴者の求めている画というのは、こういうのだ‥‥最後の挑戦者カモン!」
小峯が脚を震わせながら入場してくる。プロレスごっこ初参戦にして、いきなりのプレッシャーである。
「アンニョン! 僕の戦うものは激辛料理、まずはコチュでどす黒く浸かっている激辛キムチから‥‥って、ベタな上に某番組とかぶっているような。あ、某番組、というか暑さ辛さも彼岸までという番組で‥‥」
かぶり芸人佐渡川の目の前で──とはいえ、佐渡川はドラム缶の中で見ようがなかったが──かぶりネタをするとあって気合いの入っていた小峯だが、急に鉄拳が降ってきて黙らされた。見れば、怒りに震えた夏姫が立っているではないか。
「文字どおり甘ったれるな、小僧! 甘い、甘すぎる‥‥ので、手はじめにコレをかけてやろう」
デスソースを一本丸々かけてしまう夏姫。すでに次以降に備えてザ・ソースやらブレアシリーズやらが並べてあるようにも見えたが、気のせいではない。
「‥‥あの、こういうのは段々辛くしていくものでは?」
「無論、順を追って辛くしていくつもりだが‥‥何か?」
一方、やむなくリング下の石を追っていったあずさだが、ふと湯ノ花がドラム缶をブローパイプでガンガン叩いているのに気づく。と同時に、勘違いしてお節介してしまいたくなる。
「ん? 開けられないの? だったら、あずさにおまかせ! ほーら、こうすれば缶切りにもなるよ!」
「あ‥‥あの‥‥」
鉄板を切るためのハサミだけあって、ドラム缶の蓋を開けていってしまうあずさ。早くも佐渡川家解体作業である。
「うがっ‥‥ああ、水が‥‥でも、飲んだら負けてしまいます‥‥」
辛さに悶絶してじっとしていられなくなった小峯が、ドラム缶のところにやって来ていた。
そして、リバース。無論、ちょうどバケツが用意されていたが如くのドラム缶の中にである。ついでに手にしていたザ・ソースまで中に振りかけていたが、きっと悪意があってのことではないだろう。
「ああ‥‥メロンパン色では‥‥なくなって‥‥しまいました!」
ドラム缶の色が変わったことに慌てた湯ノ花も、負けじとメロンシロップを注ぎはじめる。
「I’m えらい人ーッ! 今回も独断と偏見でポイントによるランキングがつくゼ!」
佐渡川の安否は一切無視して、シメに入るべくえらい人登場である。
1位 湯ノ花ゆくる 1垓
2位 あずさ&お兄さん 1京
3位 小峯吉淑 1兆
「目指せ、プロレスごっこ王! 以上だ‥‥」
『あっ! 群青さん、どこへ?』
それまで放送席でまったりしていた群青だが、急に駆け出していた。狙うはえらい人。いや、えらい人の命、鉄パイプである。
(えらい人対策は万全だ。えらい人は足が速い。だが、俺も俊敏脚足を使うから問題ねぇ。えらい人はパンチが強い。鉄の扉をも吹っ飛ばすほどだが、その程度なら獣化している俺にもできるコトだ。えらい人は幻覚を使う。だが俺には護月耐幻がある! 幻覚の類は効かねぇ。そうだ、俺に負ける要素は一つもねぇ‥‥やってやるゼ! 獣人として授かった全能力を駆使して‥‥)
「‥‥はっ!?」
えらい人の背後から膝カックンして、その隙に鉄パイプを奪っているハズが、気づけば膝から崩れ落ちていたのは群青の方だった。
「バ、バカな‥‥催眠術だとか、超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃねぇっていうのか!?」
こうして佐渡川の安否と共にナゾはナゾのまま、永遠のナゾとして番組終了時間を迎えるのであった。