第22回プロレスごっこ王アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 牛山ひろかず
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/15〜10/17

●本文

 プロレスごっこ──それは、素人によるプロレスの真似事でしかないが、ここにはそれを魅せる域にまで昇華した番組があった。基本レスラーに扮する芸人が、様々な物や者を相手にプロレスをしているかのように見せて笑いを誘う。ただそれだけのことなのだが、小物を使ったボケをベースとする、一人芝居あり、一発芸ありの、お笑いの基本要素の散りばめられた、芸人のワンダーランドなのである。

 TOMITVのある会議室に、芸人プロレスごっこ王選手権のスタッフが集められていた。その前に、プロレスごっこの一番えらい人が姿を現す。
「さて、無事に『じょ』を乗り切ったわけで、今回のポイントは、1溝、1穣、1垓となるな。問題はないな?」
「2位と3位の間に『じょ』があるわけで、まだ乗り切ったわけでは‥‥いえ、乗り切りました!」
 えらい人の鉄パイプを持つ手がピクと動いたため、慌ててイエスマンと化すスタッフ。
「しかし、単位なら『こう』と読むわけだが、字だけ見れば『みぞ』とか『どぶ』とかとも読めるわけだ。というわけで、今回のテーマは『溝(読み方、解釈自由)』だ!」
「専制君主による恐怖政治にドブ板選挙も何も‥‥いえ、何も言っておりません!」
 思わずボヤいてしまうスタッフだったが、えらい人の鉄パイプを見た途端に黙り込む。まさに、見事な恐怖政治っぷりである。
「たとえばvsドブさらい、たとえばvsドブネズミのような自分、たとえばvsどぶろく特区‥‥」
「‥‥あの、どぶろくは『濁酒』と書くので、溝は関係ないので‥‥ぐぼはっ!」
「バカヤロウ!」
 ここまで凌いでおきながら、結局鉄パイプ制裁を受けるスタッフ。
「なんのために、読み方、解釈自由って付け足していたと思ってんだ! 『どぶ』が入っていればなんの問題もなかろうが!」
「サー、イエッサー!」
 こうして、相変わらずゆるいテーマ縛りを設けつつも、通算41回目のプロレスごっこ王選手権がはじまるのであった。

参考例:
・軟体レスラーvsボストンバッグ:身体の柔らかい芸人が、固め技という設定でボストンバッグの中に入っていき、ファスナーを内から閉めたところで、レフェリーストップ、ボストンバッグの勝ち。

注意:
・対戦相手が『溝』から連想できるものでなければなりません。が、屁理屈でどうとでもなります。
・ポイントはプロレスごっこの一番えらい人の独断と偏見によってのみ与えられます。すばらしい、おもしろい、えろい、えらい人に媚びる、視聴率が取れる等、一切関係ありません。
・ランキングによるプロレスごっこ王は、ポイントで不可思議(10の64乗)を超える人が現れたくらいで決定の予定です(年内決着予定)。
・毎回上位総入れ替えのインフレですが、そういうバラエティのノリに怒らない人募集。
・プロレスごっこは安全第一です。死亡、怪我、流血は極力避けましょう。

ランキング(上位5名、第19回プロレスごっこ王分まで)
 1位 伊集院帝(fa0376) 1京2pt
 2位 サトル・エンフィールド(fa2824) 1兆513pt
 3位 タケシ本郷(fa1790)1兆pt
 4位 阿野次のもじ(fa3092) 1億pt
 4位 鶸檜皮(fa2614) 1億pt

過去の放送のスケジュール(最近5回分)
・第17回 09月12日 07:00〜
・第18回 09月21日 07:00〜
・第19回 09月26日 07:00〜
・第20回 10月05日 07:00〜
・第21回 10月09日 07:00〜

●今回の参加者

 fa1790 タケシ本郷(40歳・♂・虎)
 fa2824 サトル・エンフィールド(12歳・♂・狐)
 fa3306 武越ゆか(16歳・♀・兎)
 fa3577 ヨシュア・ルーン(14歳・♂・小鳥)
 fa3739 レイリン・ホンフゥ(15歳・♀・猿)
 fa4300 因幡 眠兎(18歳・♀・兎)
 fa4421 工口本屋(30歳・♂・パンダ)
 fa4713 グリモア(29歳・♂・豹)

●リプレイ本文

 リングは無人で、レフェリーのタケシ本郷(fa1790)もまだ上がっていない。放送席も無人で、サトル・エンフィールド(fa2824)とヨシュア・ルーン(fa3577)のオープニングコントもこれからだ。そしてもちろん、観客などいるハズがない。
 だが、今日はやけに人の気配がする。それもそのはず、コンダクターの工口本屋(fa4421)が楽団を呼ばせていたのである。しかも、無意味にフルオーケストラ。コンダクター間違いでツアーコンダクターになって海外ロケとかの方がよかったのにとか思われていたが、そんなことを気にしていてはコンダクターは務まらないとばかりに、放送席でくつろいでしまっている。
 そこへ、まずは実況のサトルが入ってくる。工口が慌てて立ち上がると、指揮をはじめる。工口が選んだBGMは、ワルキューレの騎行をベースにした、勇壮にして威圧的な曲だった。
 選手の入場ならまだしも、単に放送席に座るだけでこんな演奏をされてはいい迷惑なのだが、サトルは嫌な顔一つせずにさわやかな笑顔で着席する。
 すると、工口の指揮するBGMがR&Bに変わる。今度は解説のヨシュアの入場だ。バックに流れるはR&Bだが、これからはじまるのはサトルとのオープニングのショートコントである。
「さて、前回から投入されたお題制度ですが、これがプロレスごっこにいかなる変化をもたらすのでしょうか? そうです。秘密主義が進み、かぶりが激しくなるのです!」
 チラリとサトルを見るヨシュア。もちろん、他意はある。もっとも、子どもで荒々しい持ち物というのもどうかと思うが。
 一応、サトルは黙って様子を見ているので、ヨシュアはなおもつづける。BGMはオーケストラによるR&Bのままで。
「しかし重要なのは、ネタの完成度を極限まで高めること。そうすれば、後発だろうが先行者だろうが、まったく関係ありません。プロレスごっこには打たれすぎ芸人が多いですが、かぶり芸人も多いという事実。まあ、サトルくんはお子ちゃまだから、常にかぶり芸を‥‥ぐはっ!」
 それまで黙って聞いていたサトルだが、ついに手にしたブローパイプから高速でシャボン玉が乱射されていた。
『エアのみの風、炭を使った火、ならば次は水でしょう! というわけで、シャボンカッター!』
 シャボン玉だけではヨシュアが悲鳴を上げることはないハズだが、シャボンカッターらしさを出すために固形の石けんが混ぜられているので、とっても痛いのである。しかし、本物のカッターの刃を入れなかったのは、サトルにまだ人の心が残っているからであろうか。
「い、痛いよ、サトルくん! テンプルを狙わないでよ!」
 ヨシュアが何と言おうと、サトルは手を緩めない。おかげでヨシュアはかぶり芸の方ではなく、打たれすぎの方へ一直線であった。
 というわけでオープニングコントが終わったところで、BGMが演歌風のレゲエとかいう珍妙なものに変わる。工口が勝手に作った本郷レフェリーの入場テーマだ。
「俺のテンションは、スラム時代のそれに戻っているッ! 冷酷ッ! 残忍ッ! この俺がレフェリングをするぜッ!」
 BGMのせいか、本郷はすっかりおかしなテンションになっていた。
 そこへ、いかにも中国四千年ですという感じの銅鑼がゴワーンと鳴る。となれば、レイリン・ホンフゥ(fa3739)が入ってくるしかない。
「はいはいはーい♪ 戦う料理人だから、麻婆豆腐と戦うのヨ〜」
 豆腐を入れたタライを持って、元気よくリングインのレイリン。
『〜ッ!? 『溝』との関連がまったく分かりませんが‥‥これが新世代の解釈というものなのでしょうか? それとも、中国四千年の歴史の重みというものなのでしょうか?』
 サトルが驚愕の声を上げる中、BGMはなぜか工口によるギターソロに移っていた。
「お題を無視するその心意気やよし! だが、ネタになっているかは俺の筋肉が裁くッ! 食らえッ! ドロップキッ‥‥ぐぼはっ!」
 意味不明のジャッジをし出す本郷だったが、その顔面にレイリンの豆腐が炸裂していた。
「目を凝らして、よく見るネ!」
『よく見るも何も、近づけすぎてぶつかってますが‥‥』
 サトルがもっともなコトを言うが、まったく気にせずレイリンが言葉をつづける。
「ワタシの使う豆腐は木綿ヨー。絹ごしじゃないから、溝はしっかりあるネ! というわけで、豆腐の角すら生ぬるいネ。豆腐の真っ平らな側面に頭ぶつけて死ぬよろし‥‥」
 すでにかなり前にぶつけた後だったが、そう言い放つレイリン。
「ふっ‥‥その強引な解釈、サイコーだったぜ。おまえら、男だ‥‥ガクッ」
 そして、なぜか息絶える本郷。だが、男気を認定されても、女性であるレイリンはどうしていいか分からない。ので、試合を開始するのみである。
「‥‥納得してもらったトコロで、調理開始ヨー。まずこのMY包丁で豆腐をダイス切りー♪」
 豆腐を空中に放り投げると、中華包丁の二刀流でさいの目切りにしていく。さらには、落ちてくる前にザルでキャッチと、アクロバティックに攻め立てるレイリン。
『一見するとスゴイが、実は何の役にも立っていないの極致のような‥‥』
 サトルの言い分ももっともだが、BGMからして雑技団っぽいものではなく、工口による超絶ギターテク披露がつづいている。無意味なテク披露合戦なのである。
「‥‥で、時間がかかるので、最後に味の調整する前の段階のがこれネ!」
『うわ、本当に意味がなかった‥‥』
 あらかじめ作っておいた麻婆豆腐の入った中華鍋を取り出すレイリン。そして、さらに取り出したるはハバネロ。
「ん〜、誰か試食してくれる人いないカ〜?」
「試食だとう? 俺のホットな筋肉が、ヌルいと叫んでいるぜ!」
 豆腐の側面で絶命したはずの本郷が蘇生すると、何やら赤黒いドロりとした液体の入った瓶を取り出す。
『そう、プロレスごっこで辛さを持ち出す場合、最低でもデスソースと決まっています。無論、最高ではブレアシリーズの限定品が待って‥‥って、なぜかコチラに向かってきている気がしてなりませんが‥‥』
 いつの間にかガスマスクをしたレイリンと本郷が、明らかにヤバいオーラを放つ麻婆豆腐を持って放送席にやって来ていた。
『ヨシュアくーん、石けんをテンプルに食らったくらいで倒れたままなのはいけないなぁ‥‥って、いねえ!』
 サトルがヨシュアに声をかけようとしたら、すでにヨシュアはリングを挟んで反対側の遥か遠くまで逃げていた。
「逃げるんだよォーッ!」
『うわーん、やっぱりそうだったァァン〜‥‥って言ってる場合じゃねぇ‥‥』
 思わずヨシュアにノッかってしまったが、危機はサトルの目前に迫っている。
「ご飯か? ご飯でサラサラいくつもりなのかッ!?」
 いつしかBGMは止まっていて、工口がサトルの横に来て勝手なことを言っていた。
『‥‥逃げるんだよォーッ!』
 ヨシュアのかぶり芸であろうとも気にせず、工口を置いて逃げるサトル。
 となれば、見敵必殺モードのレイリンのターゲットは工口である。いや、おいしい料理を食べてもらいたいだけで、殺そうと思っているわけではない。その割には、本郷が渾身の力で工口を羽交い絞めにし、ムリヤリ口を開けさせているが。
「BGMばかりで、試合をしないのはいけないな。というわけで‥‥ようこそ、こちら側の世界へ‥‥」
「うぎゃース!」
 工口の悲鳴がBGMになるという斬新な演出で、レイリン組の激勝である。レイリンと麻婆豆腐が戦っていた気がしたが、強敵と書いてともと読むのだからこういうこともある。
 と、軽快で明るいBGMが流れはじめる。武越ゆか(fa3306)の入場だ。しかし、工口という指揮者を失って、むしろ伸び伸び演奏している気がしないでもないが、曲調のせいということにしておこう。
「は〜い☆ 秋の新番組もはじまって、萌え煩悩真っ盛り! そろそろ冬のオタク祭りの心配もしなくちゃね! というわけで、ゆかは秋のイベントにもBL本をガンガン作っちゃうわよっ♪ え? BLって何かって? British Library、大英図書館のことよ! カタギ向けには、そう言っておくものよ‥‥」
 武越はベレー帽にペンという、やはり一般人向けに分かりやすくしたマンガを描くスタイルである。
「原稿を描く上での注意よ! 漫画で本の小口までコマが描いてあるトコがあるわよね? これをタチキリっていうんだけど、原稿用紙のココまで絵を描かないと綺麗にならないの。ここをね『ドブ』っていうのよ☆ なんでこれがあるのかっていうと、製本の都合ね! 名前からして、工口本屋さんが詳しいと思うわ!」
 工口をカタカナにしてしまうのはいいとしても、本屋をモトヤではなくホンヤと読んだとしても、普通は本を小売りするところであって印刷するところを言わないと思うが、工口が倒れているのをいいことに好き勝手言っている。
「それじゃ、ゆかの実践をよ〜く見ててね☆ 題材は‥‥ヨシュア×サトルの下克上ショタ! 二人をじっくりねっちょり視姦‥‥もとい観察しながら、煩悩ぱぅわぁで描き殴ってくわ☆」
 冒頭のBLこそ濁したものの、すでに専門用語バリバリでカタギは置いてけぼりである。
 サトルとヨシュアは幸か不幸か麻婆豆腐から逃げていたままだったので、ここは武越の妄想力だけが頼りである。まあどちらにしろ、描いている途中のものは消しもモザイクも入る前なので、そんなものは放送しようがないのだが。
 そんなわけで武越が原稿作成に入ってしまったので、BGMが不協和音と協和音を取り混ぜた、不気味にしてミステリアスなものに変わる。チューリップハットにボサボサ頭、よれよれの和服に下駄姿というグリモア(fa4713)が、頭をポリポリかきながら入ってくる。
「俺は‥‥じっちゃんの名の人だ」
 しかし、これのどこが『溝』と関係あるのか? 探偵小説で有名な『溝』という文字が名前に入る作家の、一番有名なシリーズの主人公として登場、というわけである。
「そうだ、菌大地抗助だ!」
 しかも、そのまんまではなく、菌大地抗助としての登場だ。『溝』から大分遠くなっている気がしてならないが、むしろ本郷はその力技に感涙している始末である。
『‥‥マット中央に畳が運び込まれましたが‥‥これは一体?』
 気づけば、サトルが実況に戻ってきていた。リング上で作画に励む武越の視線が絡みつくが、なんとか気にしないようにしている。
 グリモアが、その立てられた畳に手をつく。まさか館長による模範演武のように、畳をつかんで手を突っ込み、貫通させるのか? いや、ごっこの世界でそんなマジメなコトをやるハズがない。
 そう、彼は菌大地抗助‥‥菌に抗う男なのである。
「畳のダニを、プチプチ潰す‥‥」
 が、対戦相手はダニのようだ。ダニは菌ではない気がしてはならないが、レフェリーの本郷が止めようとしない以上は、誰にも止められない。
「四角いリング、四角い畳という密室で行われる、連続殺人‥‥殺ダニ事件!?」
 畳に手をついているのがグリモアだけの時点で犯人が確定しそうなものだが、そこは密室殺人の神秘ということでスルーである。
「‥‥謎はすべて解けた!!」
 どちらかというと自称孫の方だろそれという叫びを上げるグリモア。
「この事件を仕組んだのはあなただ!! えらい人、その血塗れの鉄パイプが何よりの証拠!!」
「I’m えらい人ーッ! 今回も独断と偏見でポイントによるランキングがつくゼ!」
 そこへ、都合よくポイント発表にえらい人が現れる。
 1位 レイリン・ホンフゥ 1溝
 2位 武越ゆか 1穣
 3位 グリモア 1垓
「目指せ、プロレスごっ‥‥ぐはっ!」
 えらい人が帰ろうと振り向いたところへ、本郷のラリアットが炸裂する。一回転し、マットに叩きつけられるえらい人。
「ムム、えらい人が殺されている‥‥迷宮入りだっ!」
 少なくともえらい人殺人事件の方の犯人は本郷しかないと思うのだが、強引に迷宮入りにしてしまうグリモア。
「できたっ!」
 武越の叫びで、全員の目がそちらに向く。その隙にえらい人の遺体が消え、代わりに本郷が遺体になっていたが、誰も気づかない。
「できたけど、猥褻物は領布禁止よ! 局部はかぶり芸人並みでも、モザイク芸人みたいに消すの!」
「ううっ‥‥」
 逃亡生活を送っていたハズのヨシュアが、気づけばアシとして仕上げをやらされていた。自分をモデルとした絵にモザイクトーンを貼らされる、恥辱プレイ状態である。
「あら? モザイクトーンが足りないわ! こうなったら、画面にモザイクをかけさせるしかないわね。というわけで、脱ぎなさい!」
 ヨシュアを脱がせてそこにモザイクをかけさせ、それを利用しようとする武越。普通に原稿をカメラに映せばモザイクをかけざるをえないのだが、それには半ばわざと気づいていない。
『朝の爽やかな目覚めのために、美しいプロレスごっこ‥‥はムリのようです。迷宮入りのまま、ごきげんよう、さようなら‥‥』
 番組そのものが迷宮化というかカオス化した中、問答無用でブチ切られるのであった。