江の島DEデートアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 有天
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/16〜08/18

●本文

「あぅ〜ぅ、歌が浮かばないよぉ〜」
 スランプである。
 叫んでいるのはアルカラル・ナイトのリーダー、クラブ・クラウンである。
 ばったり机に伏して頭を掻きむしる。
 あんまり恋人には見せられない姿である。
「こう言う時は気分転換やろう?」
 うー、うー、唸っているクラウンにアイスティーを出すエース。
 江ノ島近く、マネージャーの母校である中学校を借りて合宿中である。
 ホテルではないのは、それなりに知名度が合ったり、態度がデカくても、所詮は3月末にデビュー仕立ての新人だからである。お寺とも考えたが、お盆と重なる為に断られたのである。
 学生達が部活練習に来る時間に併せて、門を開けたり、戸締まりを確認する事と、登校日に当る17日にサプライズ演奏をする事を条件に格安で借りている。
 尚、クラウンが唸っている分は、8月下旬に出る新曲である。
「駄目だぁ〜!! パティの言うように気分転換して来る!」
 椅子から立ち上がると水着の入った袋を持って出て行こうとするクラウン。
 徒歩で15分も歩けば、海水場に辿り着く距離である。
「あ、ズルい。俺も行きたい!」
「ウチも!!」
「‥‥‥幸い‥にも‥‥マネージャー‥事務所‥です‥‥生徒も‥‥今日は‥来ない‥です‥」
 斯くして、皆で海へと遊びに出かける事になった。

●今回の参加者

 fa0491 ハディアック・ノウル(23歳・♂・鴉)
 fa0826 雨堂 零慈(20歳・♂・竜)
 fa1704 神代タテハ(13歳・♀・猫)
 fa1851 紗綾(18歳・♀・兎)
 fa2850 琥竜(26歳・♂・トカゲ)
 fa3596 Tyrantess(14歳・♀・竜)
 fa3887 千音鈴(22歳・♀・犬)
 fa5316 希蝶(22歳・♂・鴉)

●リプレイ本文

「遊びに来たよー! 夏で海と言ったら、スイカ割り! お土産だよ!」
 希蝶(fa5316)がモービルスパイクWからゴロゴロとスイカ12個を取り出す。
「‥‥スイカ農家の手伝いでもしているの?」
「嫌だなぁ、ちゃんと買ったんだよ。勿論値切ったけど」と相変らずしっかりしている。
 あ、勿論冷えたスイカも持って来たよ。とタッパーを開く。
「何個買ったんだよ‥‥」
「1ダース♪ 2個おまけしてもらった!」

「届け物を預かって千音鈴便、ただいま参上! やっほー皆、お元気♪」
 3番目にやって来たのは千音鈴(fa3887)。
「ちー?」
「届けものよ。届けもの♪ マ‥‥ンゴーアイスの差し入れでしょう。って鮪じゃないから安心して頂戴な」
「マンゴーか‥‥鮪じゃなくって良かった‥‥」
 ちーの兄が差し入れた鮪の刺身が混ぜ込まれたナイスなアイスを思い出し、一同汗を掻く。
「鮪ってなんだ?」というのは、蝶のカットスイカを食べていたTyrantess(fa3596)。
 何処から仕入れたのか怪しい噂。
『日本の学校では夜中、人体模型が高笑いしながら走って追いかけてくる』というのを確認するのを楽しみに来たのだという。
「人体模型並に一夏の冒険にはもってこいなアイスやね」
 エースの言葉に首を捻るタイ。
「これから出かける所だったの?」
「うん、ビーチに行こうかってね」
「俺はマイクロビキニか、ストリングス‥‥にしたかったが、そこは自重して俺にしちゃおとなしめのビキニにしてみたぜ」とタイ。
「‥‥タイなら‥両方‥似合い‥そうです♪」
「ちーも一緒にどう?」
「勿論、一緒に行くわよ!」

「皆、花火大会ぶり♪」
 ビーチの駐車場で紗綾(fa1851)がメンバー達を見つけて声をかける。
「クラウンさんのスランプって酷いんですか?」
 今、全然ギター握っていないの? とさーやが心配そうに聞く。
「ああ‥‥まーねー」と苦笑いをするクラウン。

「ここにゃ〜♪」
 ドルフィン浮き輪を抱えた神代タテハ(fa1704)が改札口で待つエースの姿を見つけて手を振る。
「タテハちゃん、迷わへんかった?」
「‥‥しかし、大荷物だな」
「なんだか大荷物になったのにゃ」
 タンクトップを捲って青と白のストライプのタンキニを見せるタテ。
「何、入っているんだ?」
「皆で食べるオヤツにビーチボールにお風呂と洗面セットに、夏休みの宿題にパジャマ‥‥それにビーチフラッグの旗にゃ♪」
「ん? 宿題にパジャマ?」
「タテも皆と一緒に学校にお泊まりにゃ〜♪ お泊まりなら花火をしても、朝からバーベキューしてもOKなのにゃ♪」
 それに皆に教えてもらえば、英語はきっとばっちりなのにゃ♪ とタテが言う。

 パラソルの下でぼんやりと女の子をみているのは、黄色にパイナップル模様のど派手アロハに膝丈の長め海パン、に濃いサングラスをかけた琥竜(fa2850)。
 いつも首から下げているママとのプリクラが貼ってある携帯電話を無意識に手で探す。
 本日は、ママ大好き男こたにとっては3日ぶりの里帰りであった。
『まま、ただいま〜♪』と帰ってみたが、実家でママは冷たかった。
『仕事もしないで、フラフラばかり!』
 思い出しても溜息ばかり出る。
 気分転換にビーチにやって来たこただが、1人なのは自分くらいのようである。
 隣に座ったグループはワイワイと楽しそうで羨ましい。
「‥‥ナンパしようかな?」
 かなり丁寧に日焼け止めを塗ったが、塗る所も無くなり暇になってしまったのである。
 キョロキョロと辺りを見回すこたの目に大きな荷物を抱えた女の子が目に止まる。
「お、じょーさん♪ 荷物、大変そうじゃん♪ おいらが手伝ってやろうか? って‥‥」
「「あー!」」
 事もあろうにエースをナンパしたこた。
 そのこたの頭に何処からか飛んできたサンダルがヒットする。
 砂に倒れ込むこた。
「‥‥‥パティ‥に‥‥手を‥‥出すの‥‥100万年‥早い‥‥です」
「ゆ、ユリアちゃん、こたさんです!!」
「あ、本当だ」とさーや。
 ちっ。と舌打ちをするクイーン。
「‥‥どこの‥身の程‥‥知らず‥と‥思い‥ましたが‥‥‥‥このまま‥砂で‥‥証拠隠滅‥‥」
「勝手に殺なすんじゃーの!!」
 がばりと復活するこた。
「琥竜さんも皆と一緒に遊ぼー♪」とさーや。
「いーの、おいらも一緒で?」
「大人数の方が花梨ちゃんも喜ぶよって」

 こたのパラソルの隣に大きなパラソルを2つ立てたメンバー達。
 パラソルの間に照り返し避けに薄い蚊帳のような物を張り、その中にお姫さま宜しくクイーンが座る。
「クーラーもあるし、ビーチハウスの方が良かったんじゃねぇ?」
 タイがジュースを差し出し、クイーンの隣に座る。
「日差し浴びすぎると倒れちゃいそうよね‥‥はい☆ 私の帽子、貸してあげる。あげるのは、こっちの方」
 兄貴から預かって来たからと『パンダ団扇』を差し出すちー。
「‥‥‥これは? これを届ける為にワザワザ?」
 受取って貰えないとデカイのがウロウロして落ち着かなくて鬱陶しいのよ‥‥と苦笑する。
「しかし番犬にもならねぇな。浜辺にこんな美少女が一人でいたらナンパとかされたらどーすんだよ」
 ガーガーといびきを掻いているこたを見て呟くタイ。
「折角‥海に‥‥来て‥‥ビーチハウスで‥‥1人で‥留守番は‥‥寂しいです。暑いのは‥‥たしかに‥‥大変‥ですが‥‥海に‥入れなく‥ても‥‥一緒に‥‥いたい‥です」
「クイーンって意外と甘えん坊?」
「‥内緒‥です‥‥」

「ここで重大発表があります! 実は‥‥俺、泳げない。誰か泳ぐの教えて!」と蝶が言う。
「なに?!」
「でも浮き輪もバッチリ持参!」
「にゃー♪ タテも一緒なのにゃ!」
 じゃーん! と小脇に抱えたドルフィン浮き輪を掲げる蝶とタテ。
「イルカ‥‥チャレンジャーやね」
「輪にしろよ、輪!」と突っ込みを入れるメンバー達。
 結局、蝶にはナイト、タテにはエースが教える事になる。

「向こうは大変ね」
 クラウンと遊泳地域のはしっこ迄競争する事になったちーは、えっちらおっちら準備体操をしている。
「念入りだな」
「私が溺れたら恋人が哀しむから大事!」
 おーっ! 感心したように拍手をするクラウン。
「そう言う、そっちはどうなの?」
「レイジ? ‥‥奥手で‥時々、江戸か明治の男じゃないかと思う時がある」
 今度、あたしから押し倒さなきゃ駄目なのかなぁ。と溜息を吐く。
 さり気なく偶然を装って登場を計画していた雨堂 零慈(fa0826)はパラソルの影で茹蛸のように赤面していた。
『おっと‥‥そんなにはしゃいでいると足元を掬われるぞ‥‥』
 台詞もばっちり、にっこり爽やかに登場‥‥だが、クラウンの水着に見とれていた為、出番を失い。
「ママーっ、このおにいちゃんまっかぁ!」
 園児らしい子供に指差され、気を取り直す。
(「さりげなく、さりげなく‥‥」)
「‥‥そんなに‥‥」

「ね、ね。君達、暇そうにしているけど一緒に遊ばない?」
 高校生らしいグループが休憩に戻って来たタイとクイーンに声を掛ける。
「悪いが、暇じゃない」
「女の子二人じゃつまらないでしょ?」
「俺の彼女だ、文句あるか?」
「またまた〜っ」
 タイの言葉を笑う少年達。
「なに? 絡まれてんの?」
 スイカ割りをぼちぼちしようと海から上がって来た他のメンバー達が合流する。
 1、2人の美少女なら外国人風だろうと夏の火遊びという事で根性を入れて手出しもしようが、7人も美少女と美女が揃えば壮観である。
 普通の男ならビビって手が出せないだろう。
「‥‥話しならば、拙者が聞くが?」
 後ろから出て来たレイジにジロリと睨まれ、すごすごとナンパ男達は退散する。
 一方バツの悪そうなタイ。
「‥‥なんか、格好悪いな」
「そんな‥事‥ない‥‥です‥ありがとう‥‥タイ‥守って‥‥くれて‥嬉しい‥です」
 タイの頬に優しくキスをするクイーン。

「上手く叩けなかった人には、墨で顔にペケだよ!」とさーやが墨汁と筆を片手ににっこりと笑う。
 1人1個のノルマ? その為のスイカ(仕込み)なのか?! と一斉に蝶を見る。
「嫌だなぁ、偶然だよ」と笑う蝶。
「‥‥っていうか全部食い切れるかよ。割る用は1つにしようぜ」
「しょうがないなぁ。これは『貸し』にして置いてあげよう」
「なんだよ。『貸し』って」
 明るい笑い声がビーチに響く中、スイカ割りが始まる。
 割ったスイカは案の定、余ってしまい近くに座っている客にも配られた。

「次は、ラヴい感じでひっそり棒倒し!! 今回はこれを大きくして紅白戦にしようと思いまーす!」
 1m近く積み上げられた砂の山にタテの持って来た旗が立てられる。
「どうせなら負けた方が奢るってのはどう?」
「いーわね。組分けは平等にアミダでGO!」
「勝利チームは海の家で好きな物を奢って貰えるの〜♪」
 全員普段、TVで見せる大人の顔と違い、童心に帰ってはしゃぐ。

 砂だらけになった体をビーチハウスで落し、ブラブラと海岸線を散歩する。
 相模湾に沈み行く夕日が美しい。
 多少和らいだ陽射しの中、パラソルと下から出て来たクイーンが足に掛かる冷たい並の感触を楽しみ乍ら、さーやとちー達と貝殻を拾っている。
「クイーンにズバリ直球で聞くわ。うちの兄貴の事どう思う?」
 唐突に質問されて面喰らうクイーン。
「兄想いの優しい妹としては、兄貴がクイーンの事気になってるのが‥‥面白くて」
 大丈夫! 返事は絶対本人には教えず、私が楽しむだけだから!
 ぽんぽん! と肩を叩くちー。
「好き‥です‥よ。良い人‥です‥‥‥優しいし‥‥背が‥高く‥‥女装や‥ジョークが‥好きで‥‥アーティスト‥として‥‥見習‥う‥べき‥所‥あり‥面倒‥見が‥よく‥‥‥‥私の‥事‥面倒‥‥だと‥思わ‥ない‥‥なんで‥‥私を‥‥構ってくれるのか‥‥気に‥なって‥いました‥‥‥」
 服に隠れた傷を上から指でなぞるクイーン。
「私の父‥‥父が‥心を‥‥‥壊して‥し‥まった時、母は‥弟を‥‥連れて‥‥逃げ‥ました。
 私は‥‥置いて‥‥行く‥事は‥‥出来なかった。それが‥最終‥的に‥父‥を‥死なす‥‥ことに‥なりましたが‥‥‥。
 私は‥‥恐い‥です。父と‥同じ‥ように‥‥好きに‥‥なった‥人‥に‥‥酷い事を‥して‥しまうかも‥‥と。だから‥‥私が‥『タイを好きになった』のは、本気‥じゃない‥と‥キースは‥‥言い‥ます。
『私が成りたかった私の姿』を‥‥求めて‥いる‥のだと‥‥。
 私に‥は‥自信が‥‥ありま‥せん。私が‥‥誰を‥‥本‥当に‥好き‥なのか‥‥‥‥‥‥」
 貝殻に混じってクイーンが拾い上げたそれは、角が並で取れ丸くなったガラス。
 それをちーに渡すクイーン。
「だから‥‥誰にも‥言わないで‥下さい‥‥」

「‥‥面白い‥です‥」
 このクイーンの一言で身柄拘束された‥もとい、ロープでぐるぐる巻きにされたトランペッター(ハディアック・ノウル(fa0491))は不幸であった。
 まだ日中の暑さが残る夕刻、夕日をバックに黒ずくめのスーツでペットを吹く奴は珍しい。余程の暇人か変わった奴だ。と捕まえられたのである。
 本人はたまたま練習の為に来ていただけである。
「可哀想‥ですが、一緒に‥遊んで‥‥もらい‥‥ます」
「あ、遊ぶ? 遊ぶならOK!!」
 美少年と美少女達に埒られ、怪しい所に売られて行くのではないかと一瞬焦ったハディだったが『遊び』と聞いて安堵する。

「車から花火をとってきたよ〜♪」と花火が入った袋を見せるさーや。
「ほみゅ? 新しい遊びですか?」とミノ虫状態のハディに質問する。
「なんていうか‥‥」
「足りるかな?」
 その言葉に反応するハディ。
「は、花火、好きです。わたくしが買って来ます!」
 逃げないから離して下さい。とハディ。
 国道を渡って近くのコンビニに花火を買い、いそいそとビーチに戻る‥‥途中、鬼のような顔をしたマネージャーにとっ捕まる。
「あ! マネージャー!! べ、別に遊んでいた訳じゃ‥これには深い訳が‥‥」
 反論の余地を与えられず黒づくめのハディは、やはり黒づくめのマネージャーに襟首を捕まえられ、どこかに引きずられて行ってしまった。
「遅いねぇ‥‥逃げたかな?」
「ねー、花火拾ったよ〜! 得しちゃった♪」と道路脇にコンビニ袋ごと落ちていた(ハディが買った)花火を拾った蝶が嬉しそうに言う。

 打ち上げ花火が景気よく打上がる側で線香花火をするさーやとクラウン、隣にレイジが並ぶ。
「今日は気分転換になった?」
 その言葉に苦笑するクラウン。
「うん、皆に元気を分けてもらった」
「歌詞を作るのって大変だよね。あたしもいつも弟に心配されながら作ってるの‥‥でも出来た歌を喜んで貰えると頑張って良かったなって思うんだ‥‥」
 パチパチと爆ぜる火花を優しく見つめるさーや。
「綺麗なもの沢山見て、楽しい思い出・宝物を沢山増やしていれば、いつかは辛い事も糧となる日がくると思うの‥‥‥‥‥新曲楽しみにしてるね」
「うん‥‥‥」
 あ、落ちちゃった。新しいの貰って来るね。そう言ってクラウンの側を離れるさーや。
 線香花火を並んで見つめるレイジとクラウン。
「曲作りで切迫詰まって大変だろうが‥‥そんなに急いで作っもいい曲はできないと思う‥‥例え時間が掛かっても自分が納得いく曲ならばファンはいいと思うはずだ‥‥無論、拙者も‥‥な‥‥」
 ぽつりと言うレイジ。
「‥‥うん、そうだね。でも‥‥‥」
 でも‥‥‥夏は短いよね。

 そう、クラウンは呟いた――。