家族DEデートアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 有天
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/15〜08/17

●本文

 その日、山田 浩介(41)は苦悩していた。
 アテにしていた妻(妙子)が急遽遠縁の法事に出席する事になったのだ。
「‥‥‥俺も一緒に行った方が良くないか?」
「駄目よ。愛は、浩介君と一緒に海に行くのを楽しみにしていたんだから」
 そう浩介の泣きどころの愛娘、山田 愛(12)。
 浩介が破魔矢の営業マンを辞めて、ライブハウスの雇われ店長を始めてから(反抗期なのか口を聞いてくれない)すれ違いがずっと続いていたが、学習塾の休みと「7」の休みが重なったので一緒に海に誘ってみたのだった。
「どうかな? 親父さんや留美(兎:親父さんの末孫娘、愛の同級生)ちゃんも一緒だし?」
 無視をされるか、ウザいと断れるかと思っていたが珍しくOKしたのだった。
「親父さんや留美ちゃんも一緒だし、どうせ遠縁の娘の婿なんだから浩介君は明日の御葬式で平気よ」
 と、喪服に着替えた妙子が浩介に言う。
「愛もそうだが、妙子さん、君とも久しぶりにゆっくりできると思ったのに‥‥最近、二人とも寝顔か朝、食事の時しか会えないからな」
 妙子を抱き寄せ、右手に取り口付けをする浩介。
「はい、そこ! ウザキモい! 二人ともいい歳したおじさんとおばさんなんだからイチャイチャしない!」
 ソファーに座ってTVを見ていた愛が怒る。

『で、なんで電話を掛けて来るのかな?』
「まあ、バーベキューの材料が余るだろうというのもあるが、元々娘がライブハウスの仕事を誤解しているようなんでな。皆に仕事を紹介してもらったり、一緒に遊んでもらえば芸能人についての誤解も減るだろうとおもってな」と浩介。
 親父さんと愛は仲はいいんだが‥‥俺と二人っきりになった時は、喋ってくれないんだよ。と電話口の相手に苦笑する。

●今回の参加者

 fa0597 仁和 環(27歳・♂・蝙蝠)
 fa1339 亜真音ひろみ(24歳・♀・狼)
 fa1521 美森翡翠(11歳・♀・ハムスター)
 fa2539 マリアーノ・ファリアス(11歳・♂・猿)
 fa3861 蓮 圭都(22歳・♀・猫)
 fa4028 佐武 真人(32歳・♂・一角獣)
 fa4181 南央(17歳・♀・ハムスター)
 fa5669 藤緒(39歳・♀・狼)

●リプレイ本文

「年頃の子供が親とまともに話してくれないなんて、珍しくもないと思うが? ‥‥ほら、その辺に同類が」
 開口、仁和 環(fa0597)にそう言われ、砂浜に倒れこむ浩介と親父さん+α。
 中年子持ちのハートを抉る一言である。
「確かに‥娘が父親に冷たいのは今に始まったことじゃない‥‥。うちも若い時の子で育てる為にひたすら働いた結果、ちと寂しい状態だが、子供は親を見てるもんだ。ま、んなこた俺よりさらに先輩がいるこったし、敢えて言う事でもないだろうが‥‥」
 ヨロヨロとしながらも立ち直る2児の父、佐武 真人(fa4028)は、親父さんを見るが‥‥。
 当の親父さんは、車のボンネットの上で死んでいる。
 そう、親父さんの娘、晴海とは最近ようやく和解気味だが、どちらかと言えば親父さんと仲が悪い。
 簡単に言ってしまえば親父さんの道楽で始めたライブハウスのせいで借金が嵩み、その苦労のせいで母親が死んだと近年まで親父さんを恨んでいた。
 それでも親父さんが怪我をしてからは一緒に同居し、直った後も引き続き同居しているのは、なんやかんや言いつつも家族だからであるが‥‥ここでこうしている時点で気がついているものもいるだろう。
 親父さんが計画していた家族旅行は、見事玉砕したのである。
「‥‥年頃の娘が父親と仲良い方が珍しいだろ。会話のネタも互いに難しいのだよ‥‥私なぞ、娘に母親扱いさえして貰えんぞ‥‥」
 バツ1娘1の藤緒(fa5669)、パタパタと青いアロハシャツに着いた砂を叩き落とす。
 思春期の子供を持つ親は大体誰でも似たり寄ったり、皆それなりに苦労しているものである。
「皆、簡単に言ってくれるなぁ‥‥去年の夏、うちの家族は町内会のお祭りでベストファミリー賞を取るほど仲が良かったんだぞ‥‥少なくとも母親に失礼な言葉は使わなかった」
 浩介がブツブツと文句を言う。
「愛ちゃんは浩介さんがライブハウスの店長になって忙しくて一緒にいられない時間が増えたから、それで拗ねてわざとそっけない態度を取っているんじゃないかな?」と亜真音ひろみ(fa1339)。
「一緒にいられる時間は、営業の時よりも増えた気がするが‥‥」
 ライブハウスの雇われ店長になる前は、楽器の販売とメンテナンスの営業を20年近くしてきた浩介、顧客には夜間営業の飲食店も多い。
 イベントの時は1週間帰って来れない等ザラだったが、今は全て参加している。
「かえっていつもいて『鬱陶しい』とか?」
 ずーん、と突き刺さる言葉に立ち直れない浩介。
「まあ、今日一日一緒によく遊び、よく食べ、充実したらちょっと仲良くなれるかもね♪」と蓮 圭都(fa3861)が浩介の背中と景気よく叩く。

 そんな大人達とは関係ない未成年組。
「マリアーノ・ファリアスだヨ。今日はよろしクネ?」
 マリアーノ・ファリアス(fa2539)が人懐っこい笑顔で笑う。
「あたしは美森翡翠。今日は一緒に楽しんでくれたら嬉しいな♪」と美森翡翠(fa1521)が笑う。
「私は南央。一応役者とかモデルとかしているのよ。よろしくね」と南央(fa4181)。
「私は、山田 愛。よろしく」
「あたしは小野田 留美! よろしくね!」
 うわーっ、本物の芸能人だぁ。とはしゃぐ留美に対して、冷めた態度の愛。
 ある意味、ミラクルな超有名人が来ても態度を変えない浩介に似ているのかもしれない。
「なんか大人達はガーガー言っているけど、今日は思いっきり楽しもう♪」
「「「「おーっ!」」」

 ***

 ビーチバレーにスイカ割り、波間を浮き輪でゆらゆら遊んだり、夏の海は遊ぶものが一杯。
「きゃ?!」
 ドルフィン浮き輪に掴まっていた圭に水しぶきが掛かってくる。
 子供達がしている水のかけっこの余りが飛んできたのだ。
「バァ!!」
「うひゃ〜!」
 マリスが浮き輪に座って漂っていたナオの前に潜水したまま近付き、飛び出したのである。
 バランスを崩して海に落ちるナオ。
 明るい笑い声が起る。
「皆、元気だな‥‥」と藤。
「全く‥‥」と真人。
 ビーチパラソルの下でのんびりと荷物番をする2人。
「うごっ! あ、足攣ったっ!?」とまき。
 がぼがぼっ‥。
 ジタジタと暴れるまきの首根っこを捕まえ、岸に引っ張って行く親父さん。
「ふ、ふふふ‥‥深かったら溺れるところだった‥‥」
「馬鹿野郎、ちゃんと準備運動しないからだ!」


「おーい、ぼちぼち一度海から皆、上がれ。体が冷えるぞ」
 時計を見ていた浩介が皆に声をかける。
「どうせなら体が温まるようにビーチバレーしない?」
 貸しパラソルに混じって、ビーチバレーの文字。
「そうだな。全員で12人いるから3人4チームでトーナメントとかいいんじゃないか?」とひろみ。
「あ、面白そう♪」
「やろう、やろう♪」
「ふ‥‥運動オンチではないが、顔面レシーブもビーチバレーならどんと来い!!」とまき。
「普通に受けろ‥‥っていうか、マリスが『プロレスごっこ王』としての対抗意識を燃やしたらどうする?」と親父さん。
「えー? 大丈夫、しないよ。マジ本気でスパイクとかするだけだから」とマリス。
「一番負けたチームはバーベキューの後片付けって事で♪」
 そういう訳でビーチバレーのコートを借りてゲームを始める。
 ただ、コートと言ってもフェンスが張られている訳ではない。
 波打ち際にネットが張られ、ラインのザイルがアンカーで浜辺に打込まれているだけである。

「稲妻スパイク!!!」
 マリスのスパイクが綺麗にコートに決まる。
「いいぞ、この調子で目一杯、若人らしく頑張れ」と藤。
 イェーイ! とハイタッチを決めるマリスとまき。
「あ、ズルい。ジャンプ禁止でしょ!」と圭。
「身長差、身長差♪」
 アタッカーは157cmと小柄なマリスである。
「ちゃんと『壁』しなきゃ駄目じゃない!」と圭が189cmの真人に文句を言う。
「大体、圭が身長差のハンディをくれって、『ジャンプ禁止』にしたんだろうが」
「だって、一緒のチームになるとは思わなかったんだもの」
「あー‥‥じゃあ、翡翠をだっこして俺がちょっと背伸びをする『鉄壁ブロック』とかどうだ?」
 側で呆れる135cmのヒスイ。
 一応、身長と体力、年齢、格闘力の平均を出しての組分けである。

「ねえ、あれって‥‥」
「ね、ね? 写メ、写メ、携帯どこ?」
 海水浴客達がマリス達に気がつき騒ぎ出す。
 海水浴場でできる変装等は、たかが知れている。
 考えてみれば、今の今迄よくも持った方であろう。
 さっき迄、にこにこと笑っていた愛の表情が曇る。
「あー‥‥ごめん。今日、プライベートなんだ。カメラは止してくれないかな?」
「芸能人じゃない小さなお友達も一緒なんです‥‥」
 圭やひろみが、カメラを向ける人達を制止するが、お構いなしである。


 ようやく陽が斜めに傾き始めると、いよいよお待ちかねのバーベキューである。
 ビーチからバーベキュー設備のある隣の公園へペタペタと荷物を持って移動する。
 炊飯等の本格的な竈とバーベキューができるエリアが離れているのが欠点だが、火と上下水道の関係なのでしょうがない所である。
「『揚げ豆腐』?」
 肉と魚に海老、野菜に混じって揚げ豆腐が焼かれている。
「それ、俺‥‥結構イケるぞ?」とまき。
「葱と鰹節が欲しい所だな」と浩介。
 ナオはパタパタと風を起こしている。
 皆で野菜を切ったり、炭の上に串を並べたりしている。
「愛ちゃんは『芸能人』が嫌いみたいだけど、芸能人って別に特別でもない。愛ちゃんと同じように怒って笑って‥‥見ての通り?」とまきが愛に質問する。
「私自身はあまり意識した事はないな。私達も何ら愛さんと変わりは無いと思うのだが‥‥‥食事のメニューに悩んだり、商店街の福引がハズレで切なかったりな」と藤。
「でもビーチバレーの時みたいに、勝手に写真を取られたり、握手を求められたり‥‥こっちが疲れていても何をしたくない時でもやってくるよ。皆、自分勝手で何々をして下さい。って。皆の事なんて何にも考えていないじゃない!」と愛。
 実際、親父さんや浩介達が一喝するまで無神経に写真や握手を求めて来るものが絶えなかった。
「見てると華やかで派手なだけに見えちゃうこともあるからかもしれないなあ。『芸能人は夢を売る』とも言いますもんね」とナオ。
「『芸能人が嫌い』な訳じゃないわよ。私が嫌いなのは、ライブハウスに来る人達だもん」
 プイっと横を向く愛。

「チャラチャラしてて、あまり健全でないようなイメージなんですかね?」とナオ。
「ライブハウスに来る人か‥‥ライブハウスはね、人との繋がりが出来る場だと俺は思う。出演者に限らずお客さんとかね。俺はそういう場を提供してくれるお父さんには感謝、かな」とまき。
「ライブハウスは娘の活動範囲が、娘曰くTVやCDでは味わえないファンとの距離感が良いと言っていた。その辺は歌劇場も変わらんと思うぞ」と藤。
「歌劇場? 何、それ?」
「仕事っつーか、実際ステージに立つやつを見てると優雅に見えるかもしれんが、そいつだって、そこに至るまで必死で積み重ねてきたモンがあるしな。俺にとっちゃライブハウスでそのステージに立てるなんて、そんなに嬉しい事はない。山といるそういう連中の面倒見たり、応援したり、親父も山田もデカイ人間だと思う。芸能人も他と変わらんさ。人と繋がって、努力して、向かってくしかない」
「誉めてくれるのは有り難いが‥‥真人、仕事を語るのなら、小学生に分りやすい言葉にしてくれ」
 うちの娘はまだ6年生なんだから。と浩介。
「‥‥皆でパパの肩を持つんだ‥‥」
 むーっと唇をとがらし、むくれる愛。
「私、ヒスイちゃんを手伝って来る!」
 そう言ってヒスイがいる鉄板の方に走って行く愛。

「愛さんは、お父さんとお母さんが嫌いなんですか?」
 肉の代りに卵、烏賊天カス、キャベツにもやし入りの美森家特製の焼そばを作るべく、材料を鉄板を炒めているヒスイが愛に聞く。
「嫌いって訳じゃないけど‥‥なんか良い歳して何時もイチャイチャしているし‥‥馬鹿みたい。ヒスイちゃんの家はどう?」
 ぼそぼそと答える愛。
「あたしのお父さんとお母さん? 44と32、綺麗でラブラブなの。いい歳? いがみあっているよりいいじゃない」とヒスイが言う。
「確かにそうなんだけど‥‥」
 む〜んと言う愛。
「それに‥‥お父さんやお母さんに対して『口悪い』のは良くないと思うですの‥‥言う方も聞く方も気分が悪くなります」
 愛より年下に見えてもしっかりお姉さんのヒスイ。
 愛にとってTVの第一線で活躍する同年代のヒスイは『格好良い存在』である。
「うん‥‥そうだね。気をつける」
「そうだね。喧嘩出来る家族がいるって良い事だネ」
 俺って親の顔、知らないし‥‥。寂しそうに言うマリスにびっくりした目を向ける愛。
「マリス君、ゴメンなさい!」
 慌てて頭を下げる愛。
「私、知らなかったの。ゴメンなさい!」
 両親が揃って、家族で暮す。という事は、当たり前のようだが、幸せなのである。
 愛の反応に逆にびっくりするマリス。
「あ、ううん。師匠が親代わりで家族みたいだし‥‥」
「怒ってない?」
「怒ってない。マリスってば、師匠譲りの世の中『楽しませたもの勝ち』だから」
「えー? 何それ?」
 キャハハと笑い声が上がる。
「歌でもお芝居でもお笑いでも、それで誰かを楽しませられたら嬉しいよネ」とマリスが言う。
「‥‥‥うん、そうだね」
 子供達のやり取りを見ていた圭が言う。
「ライブハウスって好きよ、私。一つのお祭りかしら、準備段階は地味よ〜」と笑う。
「あ、それは芝居はそうかも、おっきな学芸会。格闘技の場合は、それだけじゃない部分もあるけど」とマリス。
「私達、芸能人を見る人はTVを通してが多いけど‥‥ライブハウスは、音と私と皆が一体になってく感じ」
 好きになれとは言わないけど、知ってみると案外興味わくかもね。と圭がウィンクする。
「難しいお話はここ迄です。いよいよフィニッシュです。じゃーん! 紅生薑は、お母さんが漬けた物でーす♪」とヒスイ。
「えー? 紅生薑って作れるの?」
「本当?」
「確かに‥‥分類は漬け物だな」
 何時の間にか後ろにやって着たひろみが言う。
「デザートの『ライスプリン』の試食がしたい人はいるか?」
「はい、はい! 食べる!」
「私も!」
「ただし、リゾットを運ぶのを手伝うように」
 ひろみが竈の上に置かれたダッチオーブンからバーベキューの側にある机を指を動かし、指し示す。
「「「「はーい!」」」」
「よし、良い返事だ」
 どうやらギスギスしていた愛の心も歳が近いヒスイやマリス達と話す事で和らいだようである。

 ***

「それじゃ、また遊ぼウネ〜♪」とマリス。
「うん、今日はありがとう!」
 マリスと握手をする愛。
「今度は『7』に遊びに行けば良いのよ。楽しいわよ」と圭。
「その時一緒になれたら何でも弾くよ? お嬢様」とまきが愛の頭をぽんぽんと叩く。
「うん♪」
「あたしも一緒で良いかな?」
 ねー、いいでしょう? と留美が、親父さんと浩介を振り返る。
「‥‥‥昼のライブならな」
「おーい、(記念写真)準備が出来たぞ」
 真人が防波壁の上にカメラを置き、タイマーをセットする。
 こうして愛のアルバムに1枚新しい写真が加わったのである。

「‥‥しかし、愛はなんで怒っていたんだろう?」
『子の心、親知らず』
 焼き増しされた写真を片手に呟く浩介にとって、最後迄それだけが謎であった。